セレブ欲情調教
影山有在義:作

■ 夫1

 ベンツから降り立った夫の正樹を見たとき、のり佳はうれしさのあまり大粒の涙をこぼした。
並んだ使用人達は、皆拍手で迎えた。

「これこれ、涙などだしおって。恥ずかしいではないか」
正樹は、のり佳をハグして肩をたたいた。

オレンジがかったワンピースを着たのり佳は、生き生きとした表情が戻っていた。
正樹が、戻ってきたことによって、すべてあの忌まわしい出来事が消し飛んでしまったかのようであった。
もちろん、使用人達の中に源蔵が入っている事は間違い無い事実なのだが。

「少し太った様に、見えるな」
その言葉に、のり佳は、少しギクリとした。

この二ヶ月の淫責によって、のり佳の乳房とヒップは、さらに張りを増し若干太ったよ
うに見えた。
そのことを指摘され 明るく振舞う のり佳の心に影をさした。

「お荷物は、どちらの部屋にお運びいたしますか」
運転手の言葉に、のり佳は再び明るさを取り戻した。
「フロアーに運んで頂戴」

出迎えの使用人達は、それぞれの持ち場に戻りつつあった。
源蔵の姿も見えたが、差ほど気にならなかった。

この一週間、源蔵は、フロアーの滑車の取り外しなど、現状復帰にあわただしかった。今では、すっかり元の屋敷に戻っていた。

使用人達が、つぎつぎと戻って着たときは、まだ少し不安が残り、明るさが取り戻せなっかたが、夫の顔を見てからは、遠い出来事のような気さえしてきた。
なんだか散々悩んだことが、無駄だったかんじであった。

使用人達にてきぱきと荷物の収納場所を指示し、夕食の時間までには、何とか片づいた。

久しぶりに夫とたっべるディナーは、旅先の出来事などで大いに会話が弾んだ。
ワインが空き、コックが、空き皿をひいたときを見計らって、正樹は、
「今夜、いいだろ」
のり佳の耳元でささやいた。
「疲れているんじゃなくて」
のり佳は、悪戯っぽく微笑んでみせた。

 正樹との久しぶりのセックスは、とても優しさを感じさせた。
優しい波に包まれて、のり佳は、安らぎのうちに眠りについた。

 翌日は、家でゆっくり過ごした正樹は、翌々日には、もう会社に出社した。
のり佳は、庭に出て、もう終わりにちかい朝顔を見ていた。
そのとき、背後から近寄ってきた黒い影がささやいた。

「旦那様には可愛がっていただきましたか」

そのまま、さっ、と立ち去った。
片手にざるを抱えた源蔵であった。
そのとたん、のり佳の心臓がぎゅっ、と掴まれたような感じがした。

“俺はお前の秘密を知っているぞ”
そんな事をいいたげな背中であった。のり佳の顔に暗い影がさした。

 それから何事も無く数週間が過ぎた。
日曜日というと出かける正樹も珍しく家にいて本などを読んでいた。
日曜日は、休みの使用人が多かった。

「こんな天気の良い日には、外で読むとするか」
正樹は、デッキチェアを芝生の上に出し木陰で本を読みはじめた。
のり佳は、冷たい麦茶を持って夫の椅子の横のスタンドに置いた。
正樹は、優しく微笑んだ。
のり佳は、ロングスカートを翻して家に戻ろうと踵を返した。

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