セレブ欲情調教
影山有在義:作

■ 餌食1

金木犀の香りも終わりに近づいてきた。
のり佳は、庭で朝顔の種を収穫し、残りのつるや根を始末していた。
春に植えた種は、初夏から花をつけ始め秋にかけて次々と咲いた。
朝の清清しい空気の中で軟らかな花をつけるが、日差しを受けるとたちどころに、萎れてしまう。
しかし、次の日には、何事も無かったように、新たな花をかならず咲かせた。

のり佳は、朝顔を片づけながら、夏の終わりを感じていた。そして、暑かった今年の夏に起こった忌まわしい出来事を思いだし、この朝顔の残骸と共に捨てられたらどんなに幸せだろうと考えていた。

「奥さま」
突然の呼びかけで、のり佳はあたりがすっかり暗くなっていることに気がついた。
秋の夕べは、あっという間に暗くなって行く。
のり佳の前に横を向いたままの源蔵が立っていた。
「今度の土曜日の午後に私の小屋でお待ちしています」
源蔵は、ぼそぼそと横を向いたまま、こちらを見ずに話しをした。今度の土曜日は、夫は、泊りがけのゴルフに出かけ、帰ってくるのは日曜日の夜の予定だ。
使用人達も土曜から全員休みを取らせている。
夫も誰も居なくなった日に、のり佳を一日かけて、嬲り尽くす気でいるのか。
のり佳は、心臓をキュッと握られる恐怖を感じながらも、もう引き下がるものかという怒りがわいてきた。

「源蔵、もう、これっきりにしてください。これ以上、わたくしを辱めるのなら、すべてを旦那様に告白する覚悟です。あなたのおもちゃにされるのは、もう沢山です」
 のり佳は、凛として言い放った。
暗がりに源蔵の横顔のシュルエットが見える。だが、その表情を窺い知ることは、できない。
冷たい風が吹き抜けた。

のり佳は、拳を握りしめ、源蔵の返答を待った。
「よろしいでしょう」
源蔵は、歩きだした。
数歩してから、歩みを止めて、言った。
「では、土曜日お待ちしています」
 のり佳は、その姿が消えるまで見つめていた。
体からわなわなと力が抜けて行くのを感じた。

 その日の朝、のり佳の心は、むしろ晴れ晴れとしていた。
源蔵が、のり佳の申し出をあっけなく呑み、今日さえ我慢して乗り切れば、源蔵との事は無かったこととなる。
源蔵が約束を違えた場合は、最初に考えた通りに、夫にすべてを告白し警察に届をだすつもりだ。
のり佳は、昼食を摂った後、軽くシャワーを浴びていた。相手が源蔵といえ、体臭を残した体を触られるのは嫌だった。

シャワーを体に当てたとき、ふいにかつて、このシャワールームで源蔵に貫かれたことを思い出した。
バスタブの淵に足をかけた格好で尻から刺し貫かれたことを。
たしか、あの時が始めて源蔵と繋がったときだった。

のり佳の体の血が熱くなってきた。
乳首が固く勃った。バギナが蠢いている。
思わず、手が股間にのびる。
源蔵にされた様に、シャワーの放射水を開いた股間に直接当てたい欲求にかられた。
 何と言うことだろう、私の体は。犯される前に欲情するなど。
 のり佳は、掌を下腹部にあてたまま、嵐が行きすぎるのをじっと堪えていた。

 誰も居ない屋敷だが、のり佳は、あたりを見まわしながらゆっくりと源蔵の作業小屋に向かって歩いた。
寝巻き代わりのスエットを着て、化粧もいっさいしていなかった。

すっかり秋が深まり、日差しはあるのに、ひんやりとした空気が、漂っていた。
作業小屋の前にやってきたが、誰もいる様子がない。
扉が閉ざされたままだ。
しばらく扉の前に佇んでいたが、思いきって引き戸に手をかけた。
何度か引っかかりながら、半分ほど開けることができた。

薄暗い小屋の中には誰もおらず、あの地下に続く床の一部が開けられていた。
かすかな明かりと共にもやのようなホコリが立ち上っていた。
のり佳は、入ってきた引き戸を閉めた。そして、地下へと続く穴の中を覗きこんだ。
梯子がななめに下りていて、部屋まで覗くことができない。

「自分で下りてくるのじゃ」
突然、源蔵の声がしてのり佳は、ビクリとした。
「天窓を忘れずにしめるのじゃぞ」
のり佳は、恐る恐る梯子を降り、片手で天窓の紐を引いた。
パタン と音を立てて天窓が閉まった。
梯子をゆっくりと下まで降りていった。

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