セレブ欲情調教
影山有在義:作

■ 落日1

 源蔵の目の前に立つだけで、足が震えてた。

いよいよ決行の時がやってきたのだ。
源蔵に抱かれるふりをしてナイフで一突きにする計画だ。
夫が部屋に入って、寝静まったのを確認し、源蔵の小屋に来るまでは落ち着いていたはずなのに。
いざ、という時に急に心が弱気になってきてしまった。

のり佳は気持ちを鼓舞して震えをおさえつつ、源蔵に言った。
「抱いて欲しいの」

源蔵は無言でのり佳を見つめた。
のり佳は後ろで止めていた髪のゴムをほどいた。
髪の毛が肩にバサリとかかった。

源蔵を見つめていると、憎悪の気持ちより、弄ばれながらも凄まじい淫楽に落ちて行ったふしだらな生活がいとおしく感じられてしまう。

目を閉じて、深く息をついて心を落ち着かせようとした。
徐々に気持ちが落ち着いてくるにしたがって、なぜか急に体が熱くなってきた。

目を開けると、自分でも目元が潤んでいるのがわかった。
衝動的に源蔵に抱きついていた。
すぐに源蔵のねっとりとした舌が口の中に入りこんできた。
のり佳もその侵入してきた舌に自ら絡ませていった。
二つの舌が違いに捻じれ絡みつき、ぬらぬらとした音をたてた。

源蔵の舌が口蓋をこすり、歯茎をはき、舌の裏側をくすぐった。
のり佳は思わず源蔵の舌を強く吸った。
真っ直ぐに伸びた源蔵の舌が咽の奥を舌先でくすぐっている。
源蔵を掴んでいる手に力がこもる。

このまま、いつもの様に弄ばれる自分を想像して 気持がとろけそうになってゆく。
源蔵に与えられる恥辱の行為に高まる被虐感。
それによって 与えられる最高のエクスタシー。
飛び散る汗、のけ反る体、叫び、泣き、よがり狂ってゆく私。

“私が本当は望んでいるものは…、私の心と体が本当に望んでいるものは!”

深海から自らを引き上げるように、パッチリと目をみひらいた。
そのまま、スラックスの背中の方のベルトに挿し込んだ果物ナイフに手を伸ばした。
逆手に柄を握り、源蔵の背中にゆっくり回した。
そのまま一気に背中から心臓を!

 源蔵が素早くのり佳から離れ、ナイフを握った右腕を掴んだ。
のり佳は必死で振りほどこうともがいた。
のり佳のナイフを握った右手が源蔵に逆をとられた。
あえなくのり佳はナイフをおとしてしまった。
そのままの姿勢で源蔵は笑い始めた。

「まったく、演技がへたくそな奥さまですこと。ひっ、ひっ、ひっ」
そのままのり佳は床に押さえこまれる形になった。

「奥さまが私をお誘いになったときから、このようなことになると思っておりましたわい。さて、いったいどうしてくれましょうか」
源蔵は舌なめずりせんばかりに笑みを浮かべて言った。
「私を殺しなさい! ひとおもいに殺してください」
「何をおっしゃるやら。そんな事できるわけありませぬ。そんな事よりもっと楽しいことを源蔵といたしましょうぞ。ぬおふっ、ふぉっ、ふぉっ」
「もう嫌! たくさんだわ! あなたとそんな事するくらいなら死んだほうがましだわ。早く殺しなさい!」
「わかりました。そんなにお望みなら源蔵が殺してさしあげましょう。源蔵流の殺し方で。ふぉ、ふぉ、ふぉ」


 のり佳は両手を手首の所で縛られ滑車に吊るされていた。
足が床にかろうじて着いていた。
 源蔵が奥の檻から首輪で鎖に繋がれた義男をひっぱてきた。
義男はのり佳を見ると襲いかかろうとした。

 いやああああああーっ!

すさまじいのり佳の絶叫。
源蔵の引く鎖に引張られ、のり佳の寸前で義男の顔が止まった。義男は獣そのもの勢いで舌を出してハアハアしていた。

「奥さま、義男の舌を見てやって下され。奥さまを喜ばせるため、バージョンアップいたいしましたぞ」
「!」
「舌技を極めるために、蛇の舌のように二股に切りましたのじゃ。よおく御覧くだされ。しかも日夜の訓練のおかげで、舌先にて、あずきを摘めるほどに器用に動くようになりましてな。ひっ、ひっ、ひっ」

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