Stranger
リバイアサン:作

■ 1

 コツッ、コツッ、コツッ。

暗い道を一人の少女が歩いている。

工藤彩夏、市立中学校三年生。長く美しい髪が印象的な彼女は部活帰りのこのくらい道を独りで歩いている。

「もう、イヤ。何でこんな目に会わなきゃいけないの」

 彩夏は陸上競技部の長距離ランナーだ。その実力は全国でもトップクラスで、常に優勝争いをするうえ、美しい顔立ち、モデル並みのスタイルで陸上界ではとてつもない人気であった。

 しかし、そんな彼女にも唯一弱点があった。その弱点のおかげで、今日も帰りがこんなに遅くなってしまった。その弱点とは…………朝に弱いのである。

 彩夏の通う私立第三中学は陸上が強くて有名である。県大会はもちろん、関東大会、全国大会に出場する選手も数多い。その一番の要因は顧問の松下にある。若い頃はマラソンのオリンピック候補にもなったほどの実力の持ち主で、練習は厳しいが、プライベートでは生徒の相談もよく聞く、人望厚い教師である。

 松下は彩夏の才能も早くから見出し、厳しい練習を課してきた。その結果、彩夏は全国でもトップクラスの実力者になったのである。

 そんな厳しい陸上部だから、当然朝練がある。それは全国トップクラスの彩夏にも課せられていた。しかし、彩夏は朝に弱いため、ほとんど毎日遅刻していた。

そしてとうとう、一週間前、

「工藤! また遅刻か!!!」

「す、すみません」

「まったく、毎日毎日遅刻しやがって。今度遅刻したら放課後みっちりしごいてやる。そのつもりでいろ!!!」

「そんなぁ〜」

ということになってしまったのだ。

 そして一週間後の今日、彩夏にしてはがんばったのだが、とうとうこの日、ちこくをしてしまった。そして約束どおり、みっちりしごかれて終わったのは、全体練習が終わってから一時間後のことだった。

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