羞恥ゲーム
〜自分の保全と欲望と〜
小早川:作

■ 第一章7

早紀「次の場所は、1階の下駄箱よ。そうそう、胸を張って堂々と歩いて行くのよ。手で水着を隠したりしたら駄目よ。私達は、あなたを監視しているからそのつもりでね。じゃ、5分後ね。」
電話が切れる。貴子は、犯人が複数いて常に私を監視している事に気付く。周到に考え練られた計画的であることに、恐怖を感じた。
貴子は、犯人の言い付けに従い、両手を下げ、胸を少し張って1階の下駄箱に向かった。下駄箱はA棟とB棟を繋げる渡り廊下の中間にある。普通に歩いて行けば5分もかからない。だが、今の貴子の格好では、廊下を歩くのも階段を下りるのも普通には行かない。
なんとか1階まで降りたものの廊下に出られない。授業中とはいえ、4階とは違い、1階では誰かに会う危険性がある。今居る階段の所から渡り廊下まで教室が3つあるが、どれも空室である。とはいえ、いつ空き教師や事務員が通るかもしれないという恐怖が足を踏み止まらせている。5分まで残り20秒程しかない。貴子は、意を決して一歩踏み出し一気に走った。廊下を曲がって渡り廊下に入る。渡り廊下は、腰ぐらいから上は前面ガラス張りで、A棟の廊下側からも丸見えだ。貴子は、止まる事も無く走って一番近くの下駄箱に身を隠すようにしゃがみこんだ。同時に携帯が鳴る。
貴子「もしもし」
早紀「間に合ったね。」
貴子「写真は、何処?」
早紀「あら〜、私に命令出来るようになったんだぁ。じゃあ、自分で写真を探す? 授業時間が終わって皆に今の水着姿を披露するのかなぁ。」
貴子「すいませんでした。写真は、何処にありますか? 教えてください。お願いします。」
早紀「そうそう、最初からそう聞けばよかったのにね。お仕置きだね。」
貴子「そんな、ごめんなさい。許してください。お願いします。」
―― こんな格好までしたのに、これ以上何をしろって言うのよ! ――
早紀「じゃあ、今回は<貸し>にしといてあげる。」
貴子「ありがとうございます」
―― あまり逆らわないようにしないと、こんな格好じゃどうしようもない ――
早紀「あなたって、2組よね。2組で、一番好きな男子と一番嫌いな男子は誰?」
貴子「えっ?   いないです。そんな男子。」
早紀「そっ、じゃあこのゲームは終わりだね。ゲームオーバー、じゃあねぇ。」
貴子「ちょっと待ってください、答えますから。」
早紀「あらっ? いるんじゃない。嘘つき。また、お仕置きだね。でも、時間がないから<貸しA>って事にしとくわ。で、誰と誰?」
貴子「 ……… 」
早紀「知らないよ、授業が終わっても。写真を見つけるまで制服は返さないから。」
―― そうだ! 制服がないんだ。こんな格好じゃ帰れない。 ――
貴子「好きな男子は、木村君です。」
顔を真っ赤にした。貴子は、この学校に入学したその日に、たまたま隣に座っていた木村に一目惚れをしていた。背が高く、爽やかな笑顔・髪型。そして肩幅もガッチリしている。後で分かった事だが、バスケ部で鍛えていたのだ。貴子は、まだ2・3度しか話した事がないが、学校に来る楽しみの一つが木村に会える事だった。
貴子「嫌な男子は、鈴木君です。」
鈴木は、背が低く、少し小太りで、休憩時間でもいつも一人で机に座って何か書いている。よく視線を感じて振向くと、鈴木が目を逸らす様子をよく見る。もし仮に、私に好意を持っているのだとしても、そう思われているだけで背筋がゾクッとしてしまう。正直、そう思われているだけでも迷惑だと感じていた。
早紀「ふぅ〜ん、じゃあ、さっき入ってきた所にマジックがあるから、それを持って鈴木の下駄箱の前まで行きなさい。」
貴子は、入り口を見た。小さな棚の上にマジックが置いてある。周りを見渡して誰も居ないことを確認し、それを取って鈴木の下駄箱の前まで行った。
貴子「前まで着ました。」
早紀「じゃ、鈴木の下駄箱を開けてドアに『鈴木君 好き!』て書きなさい。」
―― なにが楽しいのよ、バカじゃないの。こんな事して。 ――
貴子「書きました。」
早紀「名前も書いた? 『貴子』て。」
貴子「それは、許してください。そんな事書けない。」
そんな事を書いてしまったら、いくら強制されて書いたとはいえ、鈴木が勘違いをしてもおかしくない。変にちょっかいや、ストーカーにでもなられたら……
早紀「仕方が無いわね。じゃあ、イニシャルだけ書きなさい。それならいいでしょ。」
渋々、小さく『T』と書いた。
早紀「じゃあ、次に木村の下駄箱に行きなさい。」
貴子「まだあるんですか? もう、写真を返して下さい。お願いします。」
早紀「写真の場所に案内しているんだけど。いらないならいいわよ。」

貴子は、木村の下駄箱に移動した。ドアをそっと開ける。そこから、ひらひらと足元に紙が落ちた。貴子は、はっ! として拾い上げて見る。捜し求めていた写真だった。
早紀「おめでとう。やっと1枚ゲット出来たね」
貴子は、クシャクシャに丸めて、握り拳の中に持った。
早紀「じゃあ、写真とあなたの持ち物と交換してね。」
貴子「えっ?」
早紀「写真をあなたにあげるんだから、代わりに何か頂戴ね。要するに物々交換よ。嫌だったら、写真はそこに置いといてね。その写真は、まだ、私の物なんだから。」
貴子「そんな………。私、何も持ってないんです。後で、後で払いますから。お願いします。」
早紀「今、欲しいのよ。それにあんた持ってるものあるじゃない。私がプレゼントした水着が♪」
貴子「!!」
―― 始めからそのつもりだったんだ ――
貴子は、それだけは許して貰おうと何度もお願いした。しかし、答えは、No! 今の貴子には、どうする事も出来なかった。
早紀「くれないのだったら、もういいよ。写真はその下駄箱の中に入れといてね。私から、木村君にプレゼントするから。」
貴子「やめて! お願いします。写真は、頂きます。変わりに、水着をあげますから。」
どうする事も出来ない。こんな写真を木村君に見られるぐらいなら、誰も見られないで済む、ここで水着を取る方を選んだ。とは云ったものの、いざ脱ぐとなると手が止まってしまう。
早紀「ありがと♪ じゃ、早く脱いでくれる? 早くしないと授業が終わるまでに写真をすべて見つけて、制服に着替える時間が無くなるわよ。」
貴子は、ハッ!とその事に気付き、決心をした。手を背中に廻し紐を解く。左手でバストを隠して、水着のトップを外した。右手にぶら下がる水着を、木村君の下駄箱に入れ扉を閉めた。
早紀「はい、ありがと。じゃあ、次は、体育館横の広場に行きなさい。制限時間は、10分よ。」
ここから体育館までは、隣のB棟を通り抜け渡り廊下約20メートルを進んだ所にある。
体育館の東側にある広場は、コンクリートの床でミニバスケットコートがあり、その先に各クラブの部室が並んでいる。部室の裏が運動場になっている。
―― 10分あれば余裕だわ。 ――
早紀「但し、途中で体育館に入って、バスケットボールを持ってくるのよ。」
電話が切れると、貴子は、急いで体育館に向かった。両手でバストを隠しながら…
体育館の入口をゆっくり開けて中に入り、用具室に向かう。用具室には、鍵が掛かっており体育やクラブ活動の時しか開かない。鍵は、体育教官室の中にしかない。貴子は、顔が真っ青になった。教官室に行って鍵を取って来ないといけないからだ。一旦、体育館を出て、教官室に向かう。そーッと、中を覗きこむ。誰も居ない。教官室の入口に向かい、ドアに手をかけた。
開かない。鍵が掛かっている。何とか開けようと試みたが、やっぱり開かない。そうこうしている内に制限時間になって携帯がなった。

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