羞恥ゲーム
〜自分の保全と欲望と〜
小早川:作

■ 第二章1

★ 登校

智子「貴子! あんたいつまで学校休むつもり?」
貴子「だって、体の調子が優れないんだもん。」
智子「もう、しらない! 勝手にして!」
智子は、貴子の部屋のドアを“バタンッ”と勢いよく閉め、階段を下りて行った。
只今、午前6時。外は、雨が降っている。智子は、朝練の為、学校に向かった。3日後からのゴールデンウィークにバスケットボール部の地区大会が始まるからだ。この学校は、比較的スポーツが得意な学校である。特に、陸上部とサッカー部、女子バスケットボール部は、県大会でも、毎回、ベスト上位に入賞している。智子は、バスケットボール部に所属していて、副部長をしている。実力が低いから副部長という訳ではない。たまたま、ジャンケンで負けたからである。実力は、智子が一番ある事は、部員全員が認めているが、智子本人があまり率先して先頭に立ちたがらないからである。しかし、試合になると、普段の智子からは想像が出来ないほど、リーダーシップを発揮して大勝へと導いてくれている。どんなに緊迫した試合展開でも、冷静に観察し適切に指示を出す、精神的に強いからなのであろう。そんな智子でも、妹の貴子に対しては、ついつい怒鳴ってしまう。幼い頃からお父さんがいないので、必然的に智子が父親代わりになってしまう。
智子(貴子は、どうしたんだろう? 部屋に引篭もってもう5日。好きな子が出来て振られちゃったのかなぁ、それとも、いじめにあっているんじゃ…。ま・まさかね。よし、今日、貴子のクラスに行って奈々ちゃんに聞いてみようかな)
その頃、貴子は、
貴子(お姉ちゃんも怒るよなぁ。でも、あんな破廉恥な事してもう学校に行けないよう。学校に犯人がいるんだよ。今度は、どんな事をさせられるか…学校辞めたい。。。)
そんなことばかり考えていると、携帯が鳴った。貴子は、時計を見た。9時30分過ぎ。丁度、1時間目が終わったぐらいだ。きっと、奈々ちゃんからだろう。貴子が休むようになって、毎日何度か電話をくれる。最初の頃は、誰とも話をしたくなかったので、電話にも出なかったが、毎日、朝とも、昼とも、夜でも何度も掛けてきてくれる奈々ちゃんが今の貴子にとっては、とても嬉しくて、親友の有難みを感じていた。貴子は、携帯に出た。
貴子「もしもし」
早紀「あんた、いつまで休むつもり?」
その声を聞いて、貴子の背筋が凍りつきそうな程、ビクッとした。
貴子「………」
早紀「あんた、今から出てきなさい。言う事聞かなかったら、分かってるでしょうね? あの写真、クラスの子に配るから、まず、木村君と鈴木君にあげようかな」
貴子「………。許してください。私が何をしたんですか? 謝りますから、許してください。お願いします。写真を返してください。お願いします。」
早紀「いいわよ。じゃあ、トイレの写真、今日返してあげる。その代わり、今日は、ノーパン・ノーブラで登校しなさい、いいわね。」
貴子「そんな…。」
貴子が話しかけた時、電話は切れた。
学校に行かないといけない。それも、ノーパン・ノーブラで。たしか今日は、水曜日。今から行ったら丁度3時間目の体育の時間だ。こんな格好では、着替えなんて出来ない。でも、さすがに休み明けで登校して体育に出なくても先生は許してくれるだろう。見学をしよう。
そんな事を考えながら、貴子は、渋々着替えを始めた。ノーブラである為、ブラウスの下に1枚Tシャツを着ることにした。スカートも予備に買ってあった、丈の長さを直していない、標準サイズの長めのスカートを選んだ。このスカートでも、やはり下に何も穿かないのは心細い。

貴子は、学校に向かった。傘を差しながら歩いて行くことにする。シトシトと雨が降る中、足取りの重い貴子は、闇の脅迫者のいる学校へ向かった。遠く校舎が見えてきた。一旦立ち止まり、大きなため息をついた。
校舎に入って、自分の下駄箱を空けると、メモが入っていた。嫌な予感はしたが、見ない訳にはいかないだろう。メモに目を通した貴子は、少し涙ぐんだ表情でメモを握りしめ、一番近くのトイレに入った。
メモには、こう書かれていた。
―― ちゃんとノーブラ・ノーパンで来たのか証拠を見せなさい。写メでいいわよ ――
貴子は、今着ているTシャツを脱いでからブラウスを着直した。そして自分で自分の恥ずかしい姿を写真に撮りメールで送った。もう一度、Tシャツを着直して制服を正してから教室に向かった。教室では、2時限目の数学の授業が行われていた。入るのを躊躇っていたら、ちょうど終業のベルが鳴り響いた。暫くすると、教室のドアが開き数学の先生が出てきた。貴子は、教室の後ろ側のドアから教室に入った。
奈々「貴子! もう大丈夫なの?」
親友の奈々が真っ先に貴子の下へ駆け寄ってきて心配そうに、顔を覗き込んできた。
貴子「ごめんね。心配かけちゃって。もう大丈夫だから。ありがと。」
奈々「無理しちゃ駄目だよ。でも、よかった。」
クラス中の皆が貴子を見ている。その中に、4人だけ皆と違う目が向けられていた。麻衣・美香・美紀は、3人かたまって笑いながら携帯をいじくっている。おそらく早紀先輩にメールで知らせを入れているのだろう。そしてもう一人は、背が低く、少し小太りで、いつも一人でいる鈴木だった。鈴木は、ニヤニヤと下品な笑顔を貴子に向けていた。鈴木自身、下駄箱に書いてあった『T』とは、きっと貴子さんだろうと決め付けていたからだ。そんな事に気付かず、貴子は奈々と談笑している。
貴子と奈々と、クラス女子は、体育の用意をする為、体育館更衣室に向かう。貴子は、着替えを持たずに行った。更衣室を見ると、5日前の記憶が鮮明に思い出される。この更衣室から悪夢が始まった事を。涙が零れそうなのを必死で抑えて、教官室にいる先生の元に行った。
貴子「失礼します。」
先生「おう、どうした? もう大丈夫なのか?」
貴子「ご心配をお掛けしました。もう大丈夫です。ただ、今日の授業は見学にさせて頂きたいのですが…。」
先生「いきなり無理もさせられないし、仕方が無いな、見学でいいぞ。」
貴子の事を、よく可愛がってくれている先生だったので、貴子が休んでいた事も知っていた。貴子に対して、何かと優しい先生だった。
授業が始まるチャイムがなった。貴子と先生は、一緒に運動場に出た。貴子は、運動場の隅の方で、クラスの女子がテニスの授業をしているのを見学している。男子は、反対側のグラウンドで、サッカーの授業をしていた。
いつの間にか雨も上がり、貴子は雲の隙間からのぞく青空を見上げていた。久々に太陽の光を浴びて気分が落ち込んでいたのが浄化されていくような感覚を得ていた。
貴子の頭に何かが当たった。貴子は、後ろを振向いた。目の前に紙飛行機が落ちていた。(誰だろう、こんな所で紙飛行機なんか飛ばしているのは?」と思いながら、何気なくその紙飛行機を手に取った。何か文字が書かれている。貴子は、辺りを見回した。誰もいない。もう一度、紙飛行機を見る。『…写真…』という文字が見えた。貴子は、ハッと思って、紙飛行機を広げてみた。


貴子へ
今すぐ教室に来なさい。写真の在りかを教えてあげる

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊