羞恥ゲーム
〜自分の保全と欲望と〜
小早川:作

■ 第二章20

貴子は、光には気付かなかったが、大声にビックリして、体を隠しながらアイマスクを外し、ベンチの後ろに隠れた。西側から声を上げて出てきたのは、麻衣、美紀、美香の3人だ。美紀、美香は、鈴木を追いかけていき、麻衣は、貴子の方に走ってきた。
麻衣「貴子? 大丈夫?」
貴子は、ベンチの裏で小さく丸まりながら体を震わせていた。手には、アイマスクとおもちゃをしっかりと握りしめている。ベンチの上には、メモ紙があり、
『ベンチに座って、9→5→4→6→8。練習の成果を見てあげるわね。』と書いてある。
麻衣は、そのメモ紙と貴子の姿を見て噴出しそうになったが、堪えてそっと貴子の肩を抱いた。
麻衣「貴子? 大丈夫? 犯人が現れたわよ。絶対捕まえるから、貴子はここで待ってて。もしくは、家に帰って待ってて。」
そういうと、貴子から離れようとした。が、貴子は、おもちゃを持っている右手で、麻衣の袖を握りしめている。麻衣は、それを見て――きたねぇ〜なぁ〜――と思いながらも、
麻衣「貴子、辛いかもしれないけど、犯人を捕まえるチャンスだよ。今を逃すと今度は、何時になるか分からないし、逃げられたら、今まで以上に酷い事が起きるかもしれないの。分かって?!」
麻衣は、貴子を優しく抱きしめながら耳元でささやいた。貴子の手を制しながらゆっくりと立ち上がり、鈴木が逃げて行った北側正面入口に走っていった。また、貴子1人になってしまった。まだ、体の震えは収まらない。

正面入口手前には、晴美と美香、美紀、そして足元に鈴木が倒れている。麻衣も駆けつけ、鈴木をゆっくりと脇の木立に引きずっていく。通路から見えない位置で木にもたれさせ、鈴木のデジカメのメモリーを抜き取った。携帯のアドレスを控え、財布やカバンの中の物をすべて撒き散らした。
晴美は、恵美の様子を伺いに東門に向かう。

東門手前では、恵美と美穂、典子の姿が見えた。しかし、男の姿は何処にも無かった。
晴美「そっちはどうだった?」
美穂「逃げられた。くそっ!」
典子「でも、めちゃくちゃ足が速くて、でも、そうとう慌てたみたい。カバンを忘れていったわ。」
恵美が、忘れ物のカバンを持って中を漁っている。カバンから生徒手帳が出てきた。見ると、同じ学校の生徒だった。
恵美「2年3組、石田……。」
美穂「同じ学校のヤツか。もしかしたら、貴子の事を知ってるヤツかもしれないなぁ。」
典子「やばいかもね。早紀に相談しよう。」
美穂達4人は、早紀の下へ向かう。

早紀は、貴子が動き出すまで、ジッと待っている。そこに美穂達4人が合流した。
恵美「早紀、まずい事になった。さっきの男を取り逃がしたんだけど、どうも同じ学校の人間みたい。どうする?」
早紀「えっ?! そりゃあ、まずいわね。」
晴美「でも、身元は割れてるから今から乗り込んでヤキでも入れてやる?」
そういって落としていった生徒手帳を渡した。
早紀「それこそやばいよ。う〜ん、でもなんとかなるでしょ。これを使って。」
早紀は、生徒手帳をヒラヒラさせながら、ウィンクをして見せた。
早紀「まぁ、それは後で何とかするとして、今は、貴子の方。」

貴子は、ジッと動けないでいる。少し体の震えも落ち着き、手に持っているアイマスクと濡れて光っているおもちゃをポケットにしまい、シャツのボタンをはめながら辺りを見渡した。誰もいないようだ。ゆっくり立ち上がり、出口に歩いていく。正面入口は、犯人の逃亡した方で、さすがに近づくのは危険と感じたのだろう。薄暗い道を小走りで西門に向かった。
麻衣達も合流し、早紀達は、公園の中を通って南門に向かう。
貴子が西門に着いた時、携帯が鳴った。
メール「よくもやってくれたな。どうなるか分かってるだろうな?! 今すぐ、1分以内に南門まで来い。」
貴子は、足が震え出した。
――どうしよう。どうしよう。。どうしよう。。。――
貴子は、迷っていられない。1分以内に行かなければ、最悪の事になるかもしれない。
『今までの写真が校内や近所に張り出される』そんな事をされたら、もう生きていけない。急いで南門に向かった。走りながら、麻衣に電話をかける。しかし、出ない。南門に着いた貴子は、まだ、麻衣に電話をかけている。しかし、出ない。切ったとたんに、メールが来た。
メール「勝手に電話を使うな! 公園の中にトイレが見えるだろ。その裏に大きな木がある。そこに椅子があるから、アイマスクをはめて座れ。」
明らかに、今までと口調が違うかなり怒っていると貴子は、思い、指示に従う。公園に入りトイレの裏に回る。そこは、道路からも公園からも見えない死角の場所だった。大きな木の前に木を背にしてデッキチェアが置いてある。貴子は、椅子に近づきながらポケットからアイマスクを取り出した。椅子の前まで来た。辺りを見渡すが、犯人が何処にいるのか分からない。諦めて、アイマスクをはめ座った。貴子は、体を硬直させながらこれから何が起こるのか分からないまま、両手を胸の前で交差させてジッとしている。今は、ただ、これ以上、犯人を怒らせないようにしないと、という気持ちが強いのだろう。

5分ほど座っていたが、何も起こらない。アイマスクをつけたまま、首を左右に動かして、辺りを窺った。その時、突然、両手を押さえつけられ、口にタオルを押し付けられた。急な事で、暴れて大声を上げようとしたが、座ったまま押さえつけられては思うように動けない。しばらく暴れていると、体から力が抜けていく。意識も朦朧としてきた。貴子は、何が起きたのか分からないまま、深い眠りに落ちていった。

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