羞恥ゲーム
〜自分の保全と欲望と〜
小早川:作

■ 第二章25

その頃、母の加奈子は、ジャケットを着たまま長いスカート姿でベットの上でうつ伏せになっていた。加奈子は、昨日の事を思い出して、股間を濡らしていた。

〜〜昨日、加奈子は仕事に行こうと玄関で靴を履いている。ふと、目の前の玄関ドアの下に1枚の封筒が落ちていた。加奈子は、何かと思い拾い上げ、差出人を見るが何処にも書いていない。唯一、宛先欄に『加奈子様へ』と書いてあった。加奈子は、首をかしげながらも封を開けた。中から、1枚の写真と1枚の便箋、1枚のDVDが入っていた。加奈子は、何気に写真を手に取り見る。最初、何が写っているのか分からなかったが、よく見ると、鏡の前で自分でおっぱいを持ち上げポーズをとっている写真だった。加奈子は『きゃっ!』と思わず写真を放り投げた。しかし、加奈子の脳にしっかりとインプットされている。加奈子は、口に手を当てて、床に落ちている写真を見つめながら考えた。
――何これ? 嫌がらせ?   でも、どこかで見たことのある場所。――
加奈子は、写真を拾い上げもう1度よく見る。加奈子は、ハッと気付いた。この鏡は、家の脱衣所にある鏡で、このポーズをとっているのが加奈子自身である事に!
加奈子は、慌てて封筒の中の便箋を取り出す。
便箋「加奈子様、はじめまして。私は、あなたの秘密を知ってしまいました。」
――秘密? 何のこと?。。。もしかして?。。。まさか。そんなはずは無いわ。――
加奈子には、1つだけ大きな秘密がある。娘にも話していない。そう、私と彼だけしか知らない秘密“不倫”である。彼とは、今勤めている病院の外科医・鎌田主任の事である。40歳、結婚10年目。この病院で、副医院長にもっとも近い実力を持った有能な医師である。加奈子は、42歳、夫は6年前に海外で事故にあい亡くなっていた。海外に出張中、“ドーン”という音とともにビルが崩れ、必死に逃げたが間に合わず、瓦礫の下敷きになってしまった。加奈子は、これをニュースで知り、急いで海外に飛んだが、時すでに遅く、搬送先の病院で無言の対面をする。世界中でこのニュースが流れ、日本でも連日、報道されていた。しかし、人の関心も時が経てば薄れていくもので、テレビをつけても、最近では全く話題に無い。
夫の七回忌にあたる今年だが、加奈子の心の中に夫と別の人物がいた。6年という月日が、まだまだ若い加奈子の心まで薄れさせていたのだろうか。
鎌田主任と不倫をするようになって2年ほどになる。加奈子は、結婚して家庭に入り家事に子育てにと楽しい生活を満喫していたが、突然の夫の死で、人生が暗闇につつまれてしまう。保険金と僅かな慰謝料で家等の借金を返済したが、子供はまだ小さい。今後の生活の為に働く事にする。幸い結婚する前、看護士の資格を持っており、病院で働いていた経験を生かし、地元の総合病院で契約看護士をする事が出来た。貴子が中学2年生の時になった年、契約終了が言い渡された。加奈子は、医院長に頼み込んで、深夜の専属として雇ってもらえるようになる。家族を支えるプレッシャーと慣れない時間帯での労働で疲れ果てていたそんな時、鎌田主任が管理職候補で赴任してきた。鎌田主任は、よく深夜帯まで勤務しており、時折見かける加奈子に優しく声をかけて励ましてくれる。加奈子は、そんな鎌田主任に惹かれていった。いつしか、鎌田主任と食事に出かけた時、ついに男と女の一線を越えてしまった。それからは、週に1度ペースでお互いを求め合うようになった。
しかし、1年が過ぎた頃から間が空くようになり、ここ最近では月に1度有るか無いかになっている。確かに今は、副医院長になるチャンスの時であまり変な噂は命取りになりかねない。加奈子は分かっていたが、女を取り戻したこの体は、我慢の限界に来ていた。

加奈子は、この脅迫者が何をどこまで知っているのか? そして、何を求めているのか?何を考えているのか?全く分からないでいる。封筒をカバンに仕舞って、とにかく会社に行く。鎌田主任に相談しようか悩んでいたが、まず、このDVDをチェックしてからにした。
会社では、深夜0時までバタバタと忙しかった。0時を過ぎると、当直の先生と看護士数名を残してスタッフは帰っていく。今からは、救急患者が無ければ然程忙しくなる事も無い。仮眠を取るスタッフもいる。加奈子は、1人になると例のDVDを持って休憩室の隅にあるテレビに近づく。誰もいないのを確認して、DVDをセットしボリュームを聞き取れる最小限まで小さくして再生した。

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