羞恥ゲーム
〜自分の保全と欲望と〜
小早川:作

■ 第二章33

★犯人と対決

5月に入り、ゴールデンウィークの中日、カレンダーでは黒字で書かれた日が二日ある。
貴子は、この休みにあった出来事で学校に行きたくはなかった。しかし、休むわけにはいかない。そう脅迫者から約束させられている。しかも、その脅迫者の1人があの鈴木だった。もう2度と会いたくない、見たくない人物だ。警察に訴えようか悩んで麻衣達に相談したが『今度、学校で鈴木を問いただすから、それまで待った方がいいよ。まだ、写真を取り返していないからね』と言われ、今日を迎えた。しぶしぶ用意をして学校に向かう。途中、麻衣からメールが来た。
麻衣「今日の放課後、屋上に来て。鈴木を懲らしめてやるから。必ず着てね。」
麻衣達のおかげで、もう、こんな生活から抜け出せると、感謝のメールを返す。

教室には、まだ鈴木の姿は無かった。麻衣達も来ていない。貴子は自分の席に着いて今日の用意をしていると、後ろから奈々が声をかけてきた。久しぶりに会う奈々。休み中、何度もメールや電話をくれた、貴子の親友だ。奈々は、貴子の顔が昔みたいに爽やかになっているのを見て安心したのか、休み中にあった事を楽しそうに話している。貴子は、横で笑顔で聞いてあげていた。貴子は、今日で決着がつくと安堵な気持ちだったのだろう、自然と笑顔を出せるようになっていた。
始業ベルが鳴ると同時に鈴木が姿を現した。貴子の方をチラッと見るだけで、背を向けて自分の席に着く。普通に授業が始まる。1時間目が終わり休み時間になって麻衣達が教室に入ってきた。貴子にウィンクを見せ、美紀はガッツポーズまで見せてくれた。貴子は、クスッと笑ってしまった。貴子にすれば、最悪の1ヵ月だったけど麻衣達のおかげで今日まで頑張れたのと、心強さに改めて感謝した。一方、鈴木は、常に背を向けている。
午前中の授業も終わり、奈々と一緒に昼食を摂って、気分転換に2人で教室を出て行った。午後の授業が始まる5分前に教室に戻ると、教室の前の方、鈴木の席で麻衣達が鈴木に話をしていた。気になりながらも、いつもの貴子の席で奈々と話をしている。が、貴子は教室の前で鈴木と麻衣達の様子が気になって奈々の話が耳に入ってこない。午後の授業の開始ベルがなると、麻衣達も自分達の席に戻って行く。
鈴木とは、朝に目が合って以来、顔の表情すら見えないでいた。貴子は、見たくはないが気になってしまう。出来る事なら、このまま2度と見たくないと思っている。しかし、写真を返してもらわないといけない。ジッとガマンをして、時折、麻衣達に目を向ける。その度に、麻衣は笑顔を見せてくれる。頼もしかった。
午後の授業も終わり、いよいよこれから勝負が始まるのだと、貴子は緊張した面持ちで教科書などをカバンに仕舞っていた。ふと、顔を上げると鈴木の姿が見当たらない。まさか逃げたとか、そう思いながら麻衣に目を向けると、3人とも教室にいない。貴子は、強張った顔で奈々に“さよなら”を告げると教室を出て行く。周りでは、楽しく話をしながら帰る人やクラブに行く為にジャージで部室に向かう人達の間を、ゆっくり・ゆっくりな足取りで、貴子は屋上を目指す。
階段の最上段に上がり、屋上への扉を開ける。突然、扉が大きく開き貴子の体が前に押し出された。強い春風に扉が煽られたのだった。咄嗟の出来事でスカートが舞い上がってしまった。慌てて押さえた。貴子が顔を上げると、前方で鈴木が金網にもたれかかり、周りを麻衣、美紀、美香が囲んでいた。しかし、4人共、貴子の方を見ていた。貴子は、恥ずかしくなって顔を赤くしながら俯き加減で皆の方に歩いていく。

麻衣「貴子、丁度よかったわ。今からはじめるところよ。」
鈴木は、貴子の顔を見ながらニタニタと下衆な笑顔を見せている。
麻衣「で、あんたが犯人なんでしょ?!」
鈴木「……。」
美紀「お前があの公園に居たのは分かってんだからなっ!」
鈴木「………、で?」
美香「テメェ、ふざけんなよ! 写真返せよっ!」
鈴木「………、知らないね。」
貴子は、状況があまり良くない事を感じた。
鈴木「ボクがやったっていう証拠でもあるの?」
鈴木は、強気な態度で麻衣達に噛みつく。
麻衣「それは……、見たんだよ。お前が貴子を襲おうとしてたところを!」
鈴木「じゃあ、警察にでも訴えれば。」
鈴木は、自信満々に言い返した。
鈴木「まぁ、でも、警察もそんな話し取り合わないかな。証拠も無いし。それに貴子ちゃんがそんな恥ずかしいことをしてたって事を公にするの? 今も下着は着けてませんって。」
貴子は、顔を真っ赤にして俯いた。
麻衣「やっぱりあんたがやったんじゃない。写真出しなさいよっ!」
麻衣は、鈴木の胸倉を掴んだ。
鈴木「うっ、うっ、ボクにそんな事していいの? 知らないよ、どうなっても。」
麻衣は、尚力を入れてフェンスに押し付けていく。
貴子「やめて、お願い。」
麻衣は、貴子の方を見て手を緩めた。鈴木は、麻衣の手を振り解き皆から少し離れた所に移動する。
貴子「鈴木君、お願い、返して。私が何をしたの? 許して、お願い。」
鈴木は、目に涙を溜めて訴えかける貴子を見て可愛そうに思えてきた。しかし、ここで貴子ちゃんに同情して味方したら、今度は、ボクがどんな目に会わされるか分からない。それに味方をしたくても、真犯人が誰なのか分からないし、貴子ちゃんの写真は1枚も持っていない。鈴木には、どうする事も出来ない。それよりも真犯人の命令を実行する方のが、鈴木自信は安全だ。鈴木はそう思っている。
日曜日のお昼に、たしかにあの公園で無くした筈の携帯が家のポストにほり込まれていた。中を確認しようと開けて見ると、1通のメールが来ていた。
メール「お疲れ様! どう? 楽しかった? あなたもこれで童貞を捨てる事が出来たね。おめでとう! あなたの童貞を捨てる瞬間も記念に残しておいたから、添付ファイルを見てね。あなたも良い思いが出来たんだから今度は、私の指示に従ってもらいます。ちゃんとできたら、またご褒美をあげますからね。ではまず、今日、××市営体育館でバスケットボールの地区大会が行われているわ。そこで貴子のお姉ちゃん(智子)が試合に出ているの。その大会が夕方の5時頃終わると思うから、その後、貴子のお姉ちゃんの行動を監視して欲しいの。携帯で、写真を撮って随時メールで送って。誰かと一緒だったら、その相手も写真に撮って送って。もし、見失ったり、ちゃんと出来なかったら、分かっているわよね?! 例の写真と公園のトイレでの写真が表に出回るわよ。ちゃんと出来たら、素晴らしいご褒美をあげようかな。じゃあ、しっかり頼みますよ。」
鈴木は、一緒に送られてきた添付ファイルを開いて見る。画像が3枚あり、1枚は、鈴木が後姿で縛られた女性の体を触っている画像。顔が横を向いている為、鈴木と分かる。2枚目は、女性に挿入している鈴木を正面から捉えた画像。3枚目は、グッタリしている縛られた女性の手の縄を解いている鈴木の画像。どの画像も顔は勿論、挿入している所もクッキリと写っている。知らない人が見れば、鈴木が女性をレイプしているようにも見える。鈴木は、事の重大さを今更ながら感じていた。
――写真を撮られていたんだ! どうしよう。貴子のお姉ちゃん? 智子を追跡すれば写真が表に出る事は無いんだよな。。約束守ってくれるよな。。。――
鈴木は、もう後戻りは出来ない。指示に従っていれば、自分の安全は保障されると信じている。いや、信じるしかなかったのだ。
その日の昼過ぎに鈴木は家を飛び出し、××市営体育館に急いだ。そして指示通り写真をメールで何枚も送った。

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