体罰
ドロップアウター:作

■ 4

 自分の教室に戻る前に、私は二年生の教室に向かいました。茶道部の部長の堀江桐子先輩に謝るためです。
 私が忘れ物をしてしまったことを告げると、堀江先輩は口を手で覆いました。
「ウソ・・・早苗ちゃんそれって・・・」
「はい。先輩にご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした」
「いやいや、あたしらはいいけど・・・佐伯先生、こういうこと妙に厳しいから・・・あまり言いたくはないんだけど・・・早苗ちゃん・・・たぶん辛いことに・・・」
「もう・・・先生から聞いてます。自分がどんな罰を受けるかってこと」
 私はきっぱりと言いました。
「恥ずかしいとは思いますけど、悪いのはあたしだから・・・もういいんです」
「でも・・・」
 堀江先輩は、それっきり黙り込んでしまいました。
 私は、そんな先輩の姿を見てさすがに心配になりました。
「あの・・・そんなに、辛いんですか?」
「ん・・・ああ、そこまで辛いってわけじゃ・・・いや、でもそれはあたしらみたいに慣れちゃったらの話で・・・慣れてないと・・・やっぱ・・・」
 先輩は少し慌てているみたいでした。
「でも・・・やっぱり一年生にはかなり辛いと思う。特に早苗ちゃんみたいな性格の子だと・・・」
 堀江先輩は、本当に深刻な表情をしています。
 堀江先輩のことを、私は尊敬しています。厳しい部活で自分も大変なはずなのに、ちゃんと周りの気配りもできる人なんです。
 そんな先輩に心配かけてしまったことを、私は申し訳なく思いました。
「ごめんなさい・・・先輩にまで心配かけちゃって・・・」
 その時、ふっと緊張の糸が切れました。
 急に、涙がどっとあふれてきたのです。
(ウソ・・・なんで泣くの・・・?)
 自分でもびっくりしました。
「早苗ちゃん・・・」
「ひっく・・・先輩・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
 涙が止まらなくなってしまいました。もう、こらえることなんてできません。幼児に戻ったみたいに、私は泣きじゃくりました。
 堀江先輩は、私の肩をポンポンと叩きました。そして、何かを言おうとしているみたいでした。
 でも、先輩の口から言葉が出てくることはありませんでした。
 私はひとまず涙を拭ってから、先輩と別れました。

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