体罰
ドロップアウター:作

■ 10

 佐伯先生の怒鳴り声に、私も石野先輩も、それから他のみんなもビクッとして、部屋の中は静まりかえりました。
「石野さん、活動に集中しないで蓮沼さんにちょっかいを出すなんて、あなた一体どういうつもり?」
「別にあたしちょっかいなんて・・・早苗ちゃんが苦しそうだったから、少し慰めてあげようと・・・」
「言い訳はいらないわ! 蓮沼さんは自業自得よ。彼女は自分の責任で罰を受けているの。あなたも二年近く茶道部にいるんだから、うちの指導方針くらい分かるでしょ!」
「でも・・・」
「まだ言う気? 活動中は集中して取り組むというのは、うちの最低限の決まり事でしょう。それを先輩が守らないなんて、言語道断よ!」
 石野先輩は先生の剣幕に負けて、うなだれました。
(石野先輩・・・ごめんなさい・・・)
 私は、心の中で先輩に謝りました。
「石野さんだけじゃないわ。今日の活動はひどすぎるわよ! みんなそわそわして落ち着きなくて・・・こんな態度で茶道ができるとでも思ってんの?」
 部員のみんなは無言のまま、下をうつむいていました。
 その時、ふと、佐伯先生は口元に笑みを浮かべました。
「いいわ。部員の一人が裸で座ってるから集中できないって言うんなら、集中できるようにしてあげる」
(えっ・・・)
 私は不安になって、佐伯先生の顔を見つめました。
 佐伯先生は、怖い顔になって口を開きました。
「全員、蓮沼さんと同じ格好になりなさい!」
 私は一瞬、頭の中が真っ白になりました。


 佐伯先生の言葉に、部員のみんなは明らかに動揺していました。堀江先輩や石野先輩でさえ、どうしたらいいのか分からずオロオロしていました。
 私と同じ一年生の中には、すでに泣いてしまっている子もいます。蒼井さんも目を赤く腫らして、今にも泣き出しそうでした。
 私は慌てました。
(私と同じ格好って・・・パンツ一枚ってこと・・・?)
 こうなったのは、私のせいです。私のせいでみんな落ち着けなくて、そのせいで、先生から罰を与えられることになってしまったのです。
(そんな・・・やだよ・・・全部あたしが悪いのに・・・あたしのせいで・・・他のみんなまで・・・裸に・・・されるなんて・・・!)
 佐伯先生は容赦のない言葉を発し続けています。
「ほら、どうしたの? 蓮沼さんと同じくパンティ一枚になりなさいって言ってるのよ? みんな同じ格好なら集中できるでしょ? さっさと脱ぎなさいよ!」
 堀江先輩は、一瞬石野先輩と目を見合わせました。そして、制服を脱ぎにかかったのです。
(そんな・・・先輩やめてください・・・!)
 部長の堀江先輩が脱ぎ始めると、他の部員もそれに習い始めました。
(やだ・・・やめてよ・・・!)
 胸の動悸が激しくなってきて、息苦しくなってきました。
 自分のせいで、他のみんなが辛い目にあう。そう考えると、気が狂いそうになりました。
 そして、私の動揺が頂点に達したその時でした。
「やめて下さい!」
 私は、自分でもびっくりするほどの大きな声で、叫んでいたのです。


 私はいつの間にか、泣いていました。ずっとこらえていた涙が、おなかや正座した膝元に後から後からしたたり落ちてきました。
「先生・・・お願いだからやめてください・・・他のみんなは何も悪くないんです・・・あたしが・・・あたしがバカなことをしたから・・・だから・・・みんな集中できなかったんです・・・」
 私は必死になって叫びました。
「全部・・・あたしが悪いんです・・・だから・・・みんなを許してあげてください・・・お願いです・・・先生・・・!」
 佐伯先生は、しばらく無言のままでした。
 部員のみんなも、何も言わずにただ私の方を見つめていました。
 やがて、佐伯先生は静かに口を開きました。
「なるほどね、あなたの言いたいことはよく分かったわ。あなたはつまり、石野さんがちょっかいを出してきたのも、みんなが落ち着きがなかったのも、全部自分のせいだって言いたいのね?」
「はい」
 私はきっぱりと答えました。
「ふふ・・・おとなしそうな顔して、あなたってけっこう度胸あるわね。そう、それなら、あなたの意志を尊重しましょう・・・でも・・・」
 佐伯先生は、ここでまた私を睨みました。
「あなた、自分で何を言ったのか、分かってるわね? 他のみんなの責任を背負うっていうのは、みんなが受けるべき罰も背負うっていうことなのよ。それ、分かって言っているの?」
「早苗!」
 蒼井さんが声を上げて、私を心配そうに見つめています。
 私は、さすがに少しためらいました。
(やっぱり・・・怖い・・・今でさえ苦しいのに・・・これからもっと罰を加えられるなんて・・・)
 でも、よく考えてみると、やっぱり全て自分が招いたことなのです。答えはもう、決まっていました。
「はい」
 私は、覚悟を決めて返事しました。
 その時の私は、不思議な境地に達していました。心配そうに見つめる蒼井さんに向かって、私は自然に微笑みかけていたのです。
「よく、分かったわ」
 佐伯先生は、口元に不気味な笑みを浮かべました。

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