体罰
ドロップアウター:作

■ 22

佐伯先生は、部員のみんなの方を振り向いて言いました。
「堀江さん」
「・・・はい」
 急に呼ばれたせいか、堀江先輩は少し戸惑ったように返事しました。
「手伝ってほしいの。後ろの戸棚から、バスタオルを二枚持ってきてちょうだい」
「はい」
 たぶん、液で畳が汚れてしまわないようにだと私は思いました。
 堀江先輩は言われたとおり、バスタオルを二枚持って私と先生のところに来ました。
 先輩がそばに来ると、私はものすごく恥ずかしい気持ちになりました。
 今の私は、全裸で、乳首がたって、股間も濡れて、これ以上ないくらいはしたない姿です。それを、尊敬する堀江先輩に見られてしまうなんて・・・。
 堀江先輩は、裸の胸を隠す素振りは少しも見せませんでした。それどころか、目に泣いた痕もありません。冷たい人だなんて思いません。ただ、やっぱり強い人なんだなって思いました。
「堀江さん、この子のおしりの下に、バスタオルを半分に畳んで敷いてあげて」
「はい。早苗ちゃん、ちょっと腰を上げてくれる?」
 先輩は、素直に言われたとおりのことをしました。私も先輩の指示に従って腰を浮かせ、下にバスタオルを敷いてもらいました。
「早苗ちゃん・・・」
 先輩は、私の耳元でそっとささやきました。
 先輩は意外なことを口にしました。
「みんなのことはそんなに気にしなくていいよ。今早苗ちゃんがされてること、実は初めてじゃないんだから」
 私はさすがに驚きました。
「えっ・・・そうなんですか?」
「そうだよ。だってほら、今は誰も泣いたり悲鳴上げたりはしてないでしょ?」
 先輩の言うとおりでした。いつも間にか、部屋の空気が変わっていたのです。
 さっきまで泣き声を上げていた一年生は、今は少し顔を赤くしているだけで、わりと普通の状態に戻っています。二年生に至っては、何だか興味津々でこちらを見ているような感じさえしたのです。
 私は、もうみんなが泣き叫ぶところを見ずにすんで、ほっとしました。
 ただ、二年生に好奇心に満ちた目を向けられるのは、それはそれで恥ずかしかったです。
「だからもう・・・変に力まなくていいんだよ。ほら・・・休み時間、あたしらは長くやってて慣れてるって言ったじゃない」
「あ・・・」
「だから・・・少し変な声出したくらいでは誰も何とも思わないから、安心していいよ」
 私は先輩の言葉に赤面しました。
「そんな・・・変な声って・・・」
 でも、先輩はそれっきり、私には何も言いませんでした。
「蓮沼さん」
「えっ・・・」
 不意に佐伯先生から声をかけられて、私ははっとしました。
「その正座みたいな姿勢じゃ、苦しいでしょ? 足を前に伸ばして、楽にしなさい」
「えっ・・・でも・・・」
 先生の指示に、私はためらいました。
(いや・・・足を伸ばしたら・・・みんなに・・・アソコが丸見えになっちゃう・・・)
 私が動けないでいると、先生は私を叩いていた時みたいに、怖い顔になりました。
「さっさとなさい!」
 先生の剣幕に、私は一瞬ビクッとしました。
「早苗ちゃん・・・がんばって」
 そばで、堀江先輩が励ますように言いました。
 私は悟りました。今の自分には、全てを受け入れることしか許されていないのです。逆らうことなんて、できるはずがないのです。
 私は、正座の足を崩して、両足を前の方に伸ばしました。女の子として一番恥ずかしい部分が露わになってしまうことを承知の上で。
(しょうがないよね・・・もとはといえば・・・全部私が招いたことなんだから・・・これも・・・私への「罰」なんだから・・・)
 悪夢としか言いようのない今の状況を、私はこんなふうに理由づけるしかありませんでした。
 私は思い直しました。
(これで・・・自分のしたことを全部清算できるんだったら・・・素直に受け入れても・・・いいよね・・・)
「・・・じゃあ、堀江さんは胸の方をお願いね。やり方は・・・分かってるわね?」
「はい」
「あたしは・・・性器の方をやるから・・・」
 堀江先輩と佐伯先生の話す声が、遠くで聞こえたような気がしました。
(やだ・・・先輩にも胸揉まれるんだ・・・それに性器って・・・アソコまで触られるの?)
 深刻なことを考えているわりに、私はぼんやりしていました。
 気持ちを張っているのも、疲れました。
(これも・・・体罰なんだよね・・・先生とか先輩がどう思ってるか分からないけど・・・あたしが・・・反省できたら・・・それでいいんだよね・・・)
 私は、全てを受け入れる覚悟を決めました。
「・・・そろそろ、いくわよ」
 佐伯先生が声をかけるのに気づいて、私はこくんとうなずきました。
 私は二人に、心の中で言いました。
(あたしのこと・・・どうにでもしちゃっていいですよ・・・二人のすること・・・全部・・・受け止めますから・・・)
 そう思うと、何だかまた涙が出てきました。
 そのうち、二人の手が私の体に触れたのを感じて、私はまたビクッとしました。

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