売られた姉妹
横尾茂明:作

■ 裸にされて叩かれて…1

安倍川堤の桜が散り、木々の緑が一際鮮やかになった日曜の昼過ぎに佐伯は少女の家を訪れた。

「お嬢さん、いくらなんでもひどいじゃありませんか、年が開けたら必ず返済を開始しますと言いながら…もう5月ですよ」
「せめて金利だけでも入れてさえ頂ければ家にまで押しかけたりはしません!」

「ごめんなさい…私のお給料では妹と食べるのがやっとで…」

「だったら何で約束したんだ! あんた最初から踏み倒すつもりだったんだろう、おぉ!」

この佐伯の手のひらを返した豹変ぶりに少女は青くなってたじろいだ。
あの優しいオジサンの顔はもうそこにはなかった…。

「てめー借金がいくらになってんだか知ってんのか! 300万だぜ」
「元金と利子を合わせて300万、返済期日はとっくに過ぎてんだよ! 今すぐ耳揃えて返してもらおーじゃねーか!」

「そ…そんな大金…急に言われましても…無理…です…」

「コノヤローちょっと甘い顔してりゃー図に乗りやがって、オメー1円でも返そうつー気は有るんかい!」

「返すつもりは有ります…でも…300万だなんて、私は200万も借りてません…どうして300万にもなるのでしょうか」

「この野郎! テメー延滞金利つーのを知らんのか、おぉーその金利が積もり積もって300万なんだよー、借用書と契約書はちゃんと読んだのかー!」

「ごめんなさい…ごめんなさい…そんなつもりじゃ…」
「もう少しだけ待って下さい…もう少しだけ…必ず何とかしますから」

「必ずだとー…テメーにそんなあてでもあるんかー!」

「……店長さんになんとかお借りして…」

「ばかやろー! 誰がてめーみてーなガキに300万も貸してくれる、テキトーなこといってんじゃねーぞ」

「……………」

「おお、延滞金利は毎日増えてくつーのに! どうやって返すんだ!」
「家具もろくすっぽねーし…金目のものもなーんもねーときていやがる…」
「おい! 貧乏人! オメーに残ってるもんは体だけなんだよー、内臓売ってでも金は返してもらうからなー」

佐伯はここまで一気にまくし立て、少女が怯え半べそをかきはじめたのを見計らい声のトーンを和らげた、そして少女の首に手をまわし引き寄せ…頬を撫でた。

「お嬢さん、オメー幸い綺麗だ、なっ…他に手がいろいろと有るだろう」
「この柔らかそうな体で…幾らでも稼げるだろう、コンビニの店員なんぞやってて300万もの金がそうたやすく作れるわけねーのに、ちょっとは頭を使ってみたらどうよ」

「妹だってこれから中学高校と金がかかるよなー、おめーがちゃんと稼がんと二人とも飢え死にしちまうぜ」
「なっ! 悪いこと言わんから俺の言うとおりしちゃーどうよ」

「………………」

「おい! 黙ってないで何とか言わんかい!」

「佐伯さん…やっぱり…私を最初から騙すつもりだったんですよね…」
「だってそーじゃないですか! 佐伯さんいま言ったでしょ、私みたいなガキに誰がお金を貸すんだって…私が払えないのを初めから分かってて高利なお金を…」

「コラー…テメー誰に口きいとんじゃ…、ガキが聡いこといいやがって!」
佐伯は少女の髪を掴んで前後に揺すった。
「そうだよーオメーの言う通りよー、それがどうした!」
「文句が有るんなら今すぐ全額返してもらおーじゃねーか!」

少女は髪を掴まれた恐怖も相まって、さめざめと泣き始めた。

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