売られた姉妹
横尾茂明:作

■ 売られて1

(鬼頭の野郎…足元みやがって、4割8分とほざきやがったか…)
(しかし…しかたがねーか、このまま握ってても…俺の力じゃ取り立ても限界だしな…)

佐伯は取立て困難な不良債権を地元の金融筋に売り払った帰りだった。
2ヶ月前から携帯ローンの手仕舞いに掛かり…残ったどうしようもない債権は涙を呑んで二束三文で引き取って貰ったのだ。

(しかし…まーこれで3億近くは手元に残ったわけだから…よしとせねば…)
(後はあのマンションさえ売れれば静岡からもおさらばか…)
(寂しい気もするが…こんな田舎暮らしも飽き飽きしたし…やっぱ東京がいいよな…)
(さてと…この元手に何をするかだ…金融は懲りたし、水商売しかねーのかなー)

佐伯は姉妹のことを想った…あの姉妹さえ現れなかったら、この商売をやめようとは考えもしなかっただろうと。

(しかしあの姉妹…)
(藤井のエロオヤジに売るには勿体ないが…しかたがないか…)

佐伯には分かっていた…あの姉妹を東京に連れて行き、自分の手元に置いたとしても…一年は持つまいと思ったのだ、あれほどの美少女を世間が放っておくはずもないし、彼女らも己の価値にすぐに気付くはず…たかが300万の借金で縛れるのはせいぜい半年程度と感じていたからだ。

(さて…藤井のオヤジにどう売るかだな…)
(オヤジもあの姉妹を見たら…俺と同じ感覚を抱くはず…それをどう目眩ましして売り抜けるかだ…)
(あの姉妹を着飾って化粧させりゃ…大抵の男どもは涎を垂らして群がるはず…まっ、そこが付け目…それのみに賭けるしかねーよな…)

(しかしあの姉妹の親は…いったいどこから静岡に流れてきたんだろう…)
数週間前…佐伯は後難を憂慮して、いつも使っている個人の興信所に姉妹の家系を調べさせた。
2週間後にその回答は来たが…一切不明とのことだった…。
佐伯は訝しみ興信所の後藤に「不明なんてことがあるんかい」と問うたが…後藤も首を捻って…「私も初めての経験なんですわ…」と洩らした。

調査によると…あの姉妹の父親は米国系ハーフで呉の出、母親は北海道利尻の出とまでは分かったが、地元に問い合わせるとその痕跡は無かった…。
後藤は「ひょっとするとあの親たち…戸籍を買ったのかもしれないですぜ」と言った…。
佐伯はその答えに何となく犯罪めいた臭いを感じたが…その真意は両親がいない今となっては闇の中であった…。

(まっ、いずれにしろあの姉妹は天涯孤独の身の上…この世から消えたとしても、誰からも文句なんぞ出ないつーことだよな…)

佐伯はここまで考えて携帯電話をポケットから出した。

「あっ、藤井のおやっさんですか、佐伯です、お久しぶりです、どうですか商売の方は…」

「またー…へー…そうですかい、いやね私も東京にそろそろ戻ろうと思いましてね……」

「いやいや……ほんの些細な元手ですわ…クククッ……」
ここまで取り留めのない話をしてから佐伯は本題を切り出した…。

「おやっさん…実を言いますとね、ええ子を見つけたんですわ…そう…おやさん好みののそりゃもうウブい子なんですわ………」
「はい…はい…まっ、今度の土曜日に東京に連れて行きますから見てやてくださいや…」「へぇ……そりゃもう後腐れのない身の上の子達でね…煮るなと焼くなとおやっさんのやりたい放題ですぜ、クククッ……」
「とんでもない…そりゃちょこっとは触りましたがね…そりゃもーおやっさんのための調教だと思って下さいや…」

佐伯は愛想笑いで電話を締めくくった。

(はーっ…いざ手放すとなるとほんとに惜しいよなー…)
佐伯は少女姉妹と恥戯に明け暮れた日々を思い出す…あれほどの美少女を自由に出来ることはもう一生涯あり得ないことは佐伯には分かっていた…。

(まさかおやっさん、二人とも欲しいとは…言わねーよなー)
(どちらか…少しの間でも俺の手元に置くことができたらなー…)

佐伯は逡巡に顔が曇る…そしてフッとあきらめ顔になり舌打ちしてハンドルを握った。


夜九時…雅美はドアの鍵穴から中を覗いた…今日もオジサンは来ていない…。

ドアを開け何食わぬ顔で部屋に入る…姉の夕紀が顔も見ずに静かに「お帰り」とだけ言ったが…雅美はそれに応えず黙って奥の部屋に入り、音を立てて襖を閉めた…。

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