売られた姉妹
横尾茂明:作

■ 売られて3

丸ビルの下でタクシーを拾い深川方面に向かう…藤井が所有する高層マンションの一つに向かったのだ。

大通りからマンションの入り口まで薔薇アーチの回廊が続いていた。
三人はタクシーを降りる…そしてマンションの玄関前に立ったとき佐伯はその豪勢な造りに舌を巻くがさらにエントランスに踏み込んで愕然とする…。
広く贅をこらした空間といい、幾点も並べられた高価そうな彫塑・絵画の素晴らしさには目を見張った、佐伯はセキュリティーセンターまで歩きながら藤井の凄さに改めて震える想いがした…。

(藤井のオヤジの凄さは充分知っているつもりだったが…これほどのものだとは…)
(こんなマンションを都内に幾つも所有し、全国の主要都市にはビジネスホテルを展開している…)
(そんな男に田舎育ちの少女を売りに行くのか…)

先程来までの佐伯の自信は…一歩ごと萎えていった、今なら引き返せるとも思ったが、姉妹に見透かされそうな想いがして歩調を強めた。

何とか藤井が使っている部屋の前まで辿り着くが、さすがにチャイムを押す指が震えるのは止められなかった…。

「ガチャ」重い音がして玄関のドアが開けられる…。
「おぉぉ佐伯くん!、遅いじゃないか…途中で心変わりでもして帰ったんじゃないかと心配しておったよ」
「まー上がってくれたまえ、さっ中へ…」

藤井は満面の笑みを浮かべて佐伯を歓待した…佐伯は先程までの取越し苦労に、崩れそうな疲労に堪えて玄関を上がり…瀟洒なリビングに足を向けた。

部屋に入ったところで佐伯の背中に隠れるように佇む姉妹を紹介した…。
「藤井さん、この子たちですわ…どうですベッピンな子達でしょう…」
姉妹は佐伯の後ろから正面に出て…少し怯えを見せながらも軽く藤井に会釈した。

「………………」

藤井は絶句した…。
どうせ静岡の田舎娘…佐伯が借金の形に押さえた貧乏臭い娘だろうとばかり思っていたが、目の前に現れた少女達を見たとき…その目映いばかりの美しさに一瞬目を疑った。

「さ…佐伯君…こりゃ一体どうしたんだ、まー…ち、ちょっと隣りの部屋に来てくれんか」
藤井は興奮を隠さず、佐伯を促して隣の部屋に移動する…。

「おい…あの子ら…すごいじゃないか、お前あんな上玉…一体何処で拾って来たんだ」
「藤井さん…犬猫じゃあるまいし、拾ってきたちゅう言い方は勘弁してくださいや」
「なーにね…借金が返せんよーになったから、がっつり頂いたんですわ、クククッ」

「それにね、あの子らの親は二人とも死んじまいましてね、身よりは全くいないんですよ」
佐伯は興信所の調査も併せて藤井に喋った…。

「と言うことは…あの子らは天涯孤独つーことやな…んーいい! いいじゃないか」
「佐伯くん、いただくよ…いくらだ、んん…いくら払えばいいんだ!」

「おやっさん、まーそんなに慌てるもんじゃありませんよ、まずは中身を見てからでも遅くはありませんから…」

「そ…そうだよな、いかん、完全に血が登っちまいやがった…ムフフ」

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