優華の性癖
あきよし:作

■ 第一章 優華3

「2年2組が私のクラスだった。
友達もたくさんいて、楽しい学校生活だった。
途中までは………。
6月にある事件が起こったの。
放課後に好きだった男の子に呼び出されて、体育倉庫にいったんだ。
−告白されたらどうしよう。
なんて馬鹿な事を考えて倉庫に向かったわ。
この日はちょうどバスケ部の練習も休みで、体育館には誰一人としていなかった。
体育館から回って倉庫の前に着くと、誰かの話し声が聞こえた。
『おい!!! 早く脱げよ!!』
−えっ? なんだろ。
好奇心の強い私は少し扉を開けて中の様子を覗った。
そこには男子3人に対して女子が2人いた。
男の子の一人は私を呼び出した佐伯 忠文(さえき ただふみ)君だった。
いつもはクールで冷静な佐伯君が声を荒げていた。
 他の二人は、いつも佐伯君と一緒にいる、金堂 亮太(こんごう りょうた)君と中谷 達也(なかたに たつや)君だ。
正直この二人は前々から変わり者だと思っていた。
『も、もう許してください。』
弱々しく許しを請う声がした。
後輩の上村 亜美(かみむら あい)さんだ。
彼女は私と同じ水泳部に所属している。
いつもスクール水着の姿を見ていたが、相当胸が大きい事が水着越しにわかる。
それが同じ女性から見ると羨ましい限りである。
だが、当の本人は、胸のでかさをコンプレックスに感じているようだ。
実際に部活が終わった後に、何回も相談されている。
私から見たら羨ましい事を相談されると、妙に憎たらしく感じる時があった。
その上、童顔な顔立ちが小悪魔を連想させる。
裏で男を手玉にとって悪さをしてそうな、そんな気がしてならなかった。
外見で判断すると、間違いなく私にとって気に入らない存在になる。
しかし、いざ話してみると繊細で先輩である私を頼りにしてくれているのが誇らしく思う。
人は外見で判断するものではない。
と言うのは亜美にぴったりの言葉だ。
その亜美の隣にいるのが、同じく水泳部に所属している先輩で水泳部キャプテンの東 奈津美(あずま なつみ)さんだ。
先輩は、後輩の私から見ても面倒見が良く、誰からも慕われているように思う。
現に、先生からも信頼されており、生徒会も任されている。
男女問わず人気が高い事も、先輩なら納得できる。 誤解される言い方だけど、私も先輩が大好きな女の子の一人である。
ルックスの話でいくと、先輩はスタイルはいいのだが、胸が小さいため、細いウエストが引き立っていない。
顔もほっそりとしていて、モデルのような顔立ちをしている。
聞いた話だと、街を歩いていてスカウトされた経験があるとかないとか。
本当なら、スカウトされるほどに大人びていて、美しい顔立ちをしているのだろう。
そのとおりである。
何度先輩と変わりたいと思った事か。
先輩のような顔があれば怖いものなしであろうと、私は考えていた。
もちろん彼氏もいるし、水泳の試合の応援にも必ず来ている。
ラブラブな彼氏がいるのは正直羨ましかった。
でも、私は気になる男の子には自分から話しかける事が出来ないシャイな性格なので、話しかけてくれないかといつも待っている。
相手はもちろんその事を知らないのだから、話しかけてくれるはずもないのだが……。
−私も彼氏ほしい。
そう本気で考えていた矢先、例の約束が交わされたのだ。
体育倉庫。
期待に胸を膨らまして来た体育倉庫でのこの光景。
 私はどうしていいのかわからなかった。
『うるせぇ。こんなでけぇおっぱいしやがって。揉んでほしいのか?』
亜美と佐伯君が言い争っている。
いや、一方的に佐伯君が怒鳴っている。
立ち場は佐伯君の方が、断然有利の状況だ。
−一体何があったんだろう?
私はこの状況が指す意味を、理解しきれていなかった。
体育倉庫には、マットが4枚敷かれていて、その側には跳び箱や、バスケットボール等の入ったボール入れが置かれている。
この独特の臭いが、私は大嫌いだ。
マットの上に、亜美と先輩が座り込んでいる。
やばそうな雰囲気が肌にピリピリ伝わって来る。
−助けなきゃ。でも、どうしよう。このまま出て行ってもどうせ何にも出来ない。
私はただ、その様子を覗くことしか出来なかった。
 勇気がなかった。
私には、二人を助ける勇気がなかった。
これが私の人生を大きく変える悲劇の幕開けだったのかも知れない。

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