優華の性癖
あきよし:作

■ 第一章 優華4

『あんまり俺らをなめんなよ!?』
佐伯君がさらに声を荒げ怒鳴り散らす。
亜美はそんな佐伯君におびえていた。
−私がここに来る前にいったい何があったの?
私はその異様な光景を目の当たりにして後輩と先輩が危険な状況であると察した。
ここで止めに入るべきなのか。
それとももう少し様子を見るべきなのか。
止めに行ったとしても私には何も出来ない。
そんな事を考える暇を与えないように、佐伯君が亜美の顔に平手打ちをした。
パチン
亜美の顔が左方向に動く。
『いたぃ。』
亜美の瞳から薄っすらと、透明な粒がこぼれた。
後輩のそんな姿を見てさすがに耐え切れなくなった私は体育倉庫の中に足を踏み入れた。
『ちょっと何してんのよ!!』
勢いよく飛び出したはいいが、完全に場違いの空気が流れていた。
『おや? やっと来たか。待ってましたよ。遅いじゃないですか。優華さんに言われたとおりやってますよ。』
−えっ? どういう事? ま、まさか……
私は完璧にはめられたのだ。
ちらっと亜美と先輩の表情を覗った。
見る必要はなかった。
当然のように私を軽蔑の目で見ている。
この時の私は、ここにいる人達の中で、唯一孤独だった事を知らなかった。
−誤解を解かなくちゃ。
そう思ってみたはいいけど、言葉が見つからない。
 佐伯君や金堂君、中谷君の方を向くと、3人とも口元が緩んでいた。
−もう終わりだ。
私は絶望感を覚えた。
水泳部にはもう行けない。
あんなに楽しかった部活を続ける事は出来ない。
厳しい練習の後の楽しい一時はもう永遠に来ないんだ。
もはや弁解の余地なしの状態だった。
『よし、帰ろうぜ。』
佐伯君の掛け声を中心にして、3人組が倉庫を出て行った。
残された3人の間には気まずい雰囲気が漂っていた。
『優華。私達をどうしようとしたの?』
私は無言のまま下を向いていた。
−ここで下手なこと言うと言い訳に聞こえないかな?
私は余計な事を気にしすぎてしまっていた。
それが逆効果になり、二人をイライラさせていたらしい。
『もう、何かいいなさいよ!!』
びくっ
いつもは優しくしてくれている先輩の怒鳴り声にビックリした。
『ふぅ。もういいから明日の朝練ちゃんと来なさいよ?』
先輩の態度の変わり様に驚いたが、いつもの優しい声に安心した。
『はい!!(^o^)』
私は笑顔で返事をした。

その日は、起こったこと全てを忘れたかった。
先輩は優しく言ってくれたが、内心では怒っているに違いない。
それも当然の事。
私は覚悟を決めていた。
色々と考えながら帰宅途中の道を歩いていた。
−!!!
誰かに後をつけられていた。
私は、過去にあった恐怖を思い出していた。
ストーカーの恐ろしさは私自身が一番よく知っているつもり。

中学に入りたてだった私は制服を着て、クラス発表のある○○中学校の校舎に向かっていた。
私の家から○○中学までは約15分かかる。
小学校を卒業してすぐにこの地域に転校してきたので、友達もいなかった。
見慣れない町に見慣れない人たち。
私の前にいた所とは違い、かなりの田舎町だった。
 中学校生活に期待を不安を抱えながらの登校だった。
こんな田舎町でストーカーされるなんて思ってもいなかった。
たった15分の短い時間。
しかし、後ろからは足音が聞こえる。
トコトコトコ
−何なのよ。ついて来ないで。
ついて来る足音を振り払うために、通学路とは違う
道に走って行った。
当然の如く知らない道に出る。
それでもまだ足音がついて来る。
段々足音が私に追いついてくる。
−もう駄目だ。
私はあきらめて足を止めた。
深呼吸をして、一気に後ろを振り返った。
−あれ??
しかし、そこには誰の姿もなかった。
−よかった〜。
ほっとして来た道を戻りその日は無事に学校に着いた。
クラス発表も終わり、新たな友達を作るべく私は果敢にクラスメイトに声をかけていた。
友達も何人か出来、いよいよ学校が楽しくなり始めた矢先の登校途中。
またもや足音がする。
−何なの?
私は二度目の恐怖に泣き出しそうだった。

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