優等生の秘密
アサト:作

■ 10

「……そういえば、この勉強会のルールを説明していなかったな。」
「ルール?」
「あぁ、そうだ。この勉強会では、結果が絶対的な力を持つ。つまり、ここの出来が一番いい奴が、最強だということだ。」
 京介は言いながら、自分の頭を指差した。聡子はその傍らで楽しげに微笑んでいる。
「つまり、成績の悪い子には罰ゲームが用意されてるの。それも、屈辱的な……ね。」
 意味ありげに言って、聡子は貢太の目をじっと見つめた。貢太の瞳には明らかに動揺の色が現れていた。夏美は状況が理解できない、と言った様子で貢太、京介、聡子の3人を見つめることしかできなかった。
「まぁ……実際に体験してみなければ分からないだろうな……」
 言いながら、ゆっくりと京介が夏美に近づいた。
「お前、特進クラスに入りたいって言ってたな。」
「あ、うん……」
「幼馴染なら知ってると思うが、今日、最下位のこいつより上の成績を取れないなら、諦めた方がいい。」
「……貴方、貢太の本当の実力知らないからそういうセリフが言えるのよ。」
「ほぅ……?」
 京介はそう呟いて、にやりと笑った。自分の言葉、そして貢太を信じて疑わない夏美は、真っ直ぐに京介を見つめていた。

「遅くなったな。」
 教室のドアが開き、現れたのは加藤だった。広い肩幅に厚い胸板、太い首に支えられた顔は逞しく、少し強面という印象も与える。その表情が、貢太を見て不機嫌そうに歪んだ。
「おい、何で特進クラスの面汚しがいるんだ?」
「仲原君の所為で、うちのクラスは歴代で最悪の平均点なのよ?」
 言って、貢太の表情をちらりと伺う。だが、もともとやる気のない貢太の表情に変化は見られなかった。聡子は少し悔しそうに表情を曇らせた。
「なるほど……な。こっちの女は?」
 夏美をちらりと見る加藤の目は、先ほどと少し違っていた。服の上から、その身体を値踏みしているかのような、卑しいものだった。夏美はその目線に不快感を露わに、加藤を睨みつけた。
「仲原の幼馴染の倉敷夏美といって、このクラスに編入志望らしい。」
「ほぉ……なかなか好みだな。」
「そう思って、呼んだのよ。」
 聡子は、加藤の好みのタイプを知っていた。加藤は、見るからに女といった感じではなく、髪が短かったり、脂肪があまりついていない、ボーイッシュな女が好みだった。ショートヘアで、痩せ型で、手足がすらりと伸びた夏美は、まさにそのタイプであった。
「加藤、倉敷が言うには、仲原は、実力はあるそうだ。そこでだ……」
 京介はそう言って、夏美を見つめ、冷たく笑った。その笑みには、どこか背筋が凍りつくほどの恐ろしさがあった。
「もし、仲原がお前に勝てなかったら、好きにしていいぞ。」
「なっ……ちょっと待ってよ!! なんでアンタが決めんのよ!?」
「あら、さっき言ったでしょ? この勉強会のルール……」
 聡子の声は、あまりにも冷たかった。そして、貢太の方をちらりと見た。先ほどとは違い、動揺しているようだった。
「さて、はじめるか……」
 京介の冷たい声が、教室内に響いた。

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