優等生の秘密
アサト:作

■ 19

 昼食を終えて、貢太は夏美の家まで来ていた。勉強道具の入ったカバンを手にしているのは、口うるさい母親を言いくるめるための材料でしかなかった。隣家というのは近くて便利だが、母親がストーカーのように自分を監視できる距離でもある。必要以上に周囲を気にしながら、貢太は夏美の家の呼び鈴を鳴らした。
「はーい。」
 出てきたのは夏美だった。上はキャミソールに薄手のニットカーディガンを羽織っただけで、下はホットパンツにニーソックスという、なんともラフな服装である。細くて、すらりと伸びた脚の魅力を存分に引き出している格好だが、思春期真っ只中の貢太を欲情させるには、十分すぎるほど刺激的な格好でもあった。
 夏美の姿に思わず見惚れてしまっていると、夏美が困ったように微笑んだ。
「ちょっと、中、入んないの?」
「あ、あぁ、お邪魔します。」
 夏美の家族は外出しているのか、家の中には誰もいなかった。
「おばさんたちは?」
「父さんと母さんなら、久々のデート。夜まで帰ってこないし、兄さんなら、一人暮らししてるし。」
「あ、そっか。ていうか、おじさんとおばさん、デート? 仲いいね。」
「普通、そうなんじゃない? 好きで結婚してるんだから。」
 夏美の言葉に、貢太は言葉を失った。物心ついたときから、自分の両親の仲は険悪だった。仕事にしか興味のない父親と、息子の学歴にしか興味のない母親。まるで、息子を学校に通わせる資金を得る為だけの結婚だったのではないかと思うほど、両親の仲は悪かった。
「そこの辺座ってて。オレンジジュースでいい?」
「ああ、うん。」
 貢太は夏美の部屋の座布団に腰掛けた。かわいらしいパッチワークの座布団カバーは、夏美が作ったのだろうか。よく見ると、縫い目が雑だ。
 中学校に入った頃から、特定の異性と仲良くすると受験に響くと、母親から妙な理由をつけられて、夏美の部屋へ来ることを禁止されていた。その為、記憶にある彼女の部屋とは随分と印象が異なっていた。本棚には漫画よりファッション誌が目立つようになっていたし、棚の上のものもぬいぐるみよりガラス細工の小物など、少し大人びたものが目立つようになっている。
「おまたせ。私の部屋、そんなに珍しい?」
 よほどきょろきょろと部屋を見回していたのだろう。夏美の言葉に、貢太は思わず頬を赤らめてしまった。ごまかすように、目の前に置かれたジュースを飲み干す。
「そんなに慌てて飲まなくてもいいのに。」
「そ、そうだよな。あ、それよりさ、今日俺をここに呼んだ理由って何?」
「……一つは、あの二人について、何か知らないかって事。」
 予想通りの言葉に、貢太は表情を強張らせた。
「悪い、昨日電話で言おうとしたんだけどさ、クラスでトップを争ってる二人って事しか知らない。」
「そ……っか。」
 夏美はそう言うと、うつむき、少しだけジュースを飲んだ。昨日の出来事もあるせいで、夏美の少し暗い表情というのは、貢太の胸を容赦なく締め付ける。
「な、なぁ、もう一つの理由は?」
「貢太に、抱いて欲しいの。」
 重苦しい空気を吹き飛ばそうとした質問が、さらに場の空気を重くした。夏美は感情の読み取れない瞳で、貢太をじっと見つめていた。
「な、なんで……」
「あんな風にじゃなくて、ちゃんと抱いて。そしたら……貢太のことは、諦めるから。」
 言いながら、夏美は流れるような動作で衣服を脱ぎ始めた。目の前で、あっという間に夏美は一糸纏わぬ姿になってしまった。貢太は、ズボンがどんどん窮屈になってゆくのを感じていた。

「やっぱり、私、魅力ないよね……胸だって小さいし、お尻もそんなに大きくないし……」
「そんなこと、ない……けど……」
「だったら、抱いてよ。」
 言いながら、夏美は貢太の肩に手を掛け、唇を奪う。夏美の方から舌を絡ませて、指は貢太のズボンのジッパーを下ろしていた。
「夏美……こんなのダメだって……」
「じゃあ、なんで、昨日あんな事したのよ……なんで!?」
「それは……」
 何も、言えなかった。涙を流す夏美を、ただ抱きしめていることしかできなかった。
「……悔しいの。貢太が、抱いた女が、たまたま私だっただけっていうのが……」
「夏美、何言って……」
「貢太は、私を抱いた時、私を見てなかった……目の前の女を見ていただけ。だから……」
 夏美は顔を上げて、貢太の目をじっと見つめた。
「だから、今日、一度だけでいいから、私を抱いて。私のことをちゃんと見て、抱いて……」
「夏美……」
 貢太に選択の余地は無かった。壊れるほどに強く夏美を抱きしめると、その唇に自らの唇を重ね、歯の間に舌を割り入れた。
「ん……っ!」
 夏美が軽く呻くが、侵入してきた貢太の舌と、自らの舌を激しく絡め合わせた。貢太は夏美をベッドに押し倒すと、服を脱ぎ捨てた。少年特有の、細いが、しっかりと筋肉のついた身体に、夏美は思わず見惚れてしまう。そして、降ろしたトランクスの中から現れる、その繊細な身体とは対照的なグロテスクな造形に、思わず息を飲んでしまった。
 これが、昨日、自分の処女を奪ったのか。恐る恐る手を伸ばし、指先で触れてみる。予想外にすべすべとした触感と、本当に中に骨が入っていないのかと疑ってしまう硬さに、夏美は妙な感覚を覚えていた。
「これが、昨日私の中に入ってたんだ……」
 感嘆したように呟いて、夏美は雁の部分に口付けをした。特にフェラチオに関する知識があるわけではなかったが、ごく自然に夏美はそうしていたのだった。
「夏美……その、そんなとこにキスされると……」
「困る?」
 上目遣いで貢太を見つめながら、小首を傾げるその仕草は、この上なく可愛く、魅力的だった。
「困らない……けど、すごく、気持ちイイ……」
「じゃあ、もっとキスしてあげる。」
 言いながら、夏美は怒張全体に柔らかなキスの雨を降らせ始めた。聡子の慣れたフェラチオよりも、こちらのキスのほうが心が満たされるような心地よさがある事に、貢太は少し戸惑っていた。

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