優等生の秘密
アサト:作

■ 26

「楽しそうなことしてんじゃねーか。勉強会、ねぇ。」
 ふいに教室内に響き渡った声に、その場にいた全員が身体を強張らせた。声のしたほうを向くと、俊樹が教室の入り口に立って、にやにやと笑っていた。
「勉強会、ってのは口実で、乱交パーティーなんじゃねーの? 優等生さんたち。」
 俊樹の言葉に、京介だけが動揺していなかった。
「性欲というのは、使いようによってはもっとも素晴らしい武器になるんだよ。落ちこぼれ君。」
 京介の挑発に、俊樹の眉が不機嫌そうにぴくりと動いた。先程までの不敵な笑みは引きつってしまっている。
「実際、これは罰ゲームの一環だ。この勉強会で行ったテストの成績上位の者が、絶対的な権力を持つ。」
「面倒なことしてやがるな。俺だったら、成績が一番だった奴をぶん殴って、服従させるね。」
 言い終わるのとほぼ同時に、俊樹は京介に殴りかかっていた。だが、その腕は京介に軽くいなされて、俊樹はバランスを崩してその場に倒れこんでしまった。
「く……そ!!」
 立ち上がりながら、俊樹は再び京介に殴りかかった。だが、それも流れるような動きで上手くかわす。そして、俊樹が入ってきて、そのまま開きっぱなしになっていた教室のドアを閉めた。
「なめやがって!!」
 俊樹の手に、きらりと光るものが握られていた。ナイフだ。その研ぎ澄まされた先端が、京介に襲い掛かる。だが、京介はそれすらかわして、俊樹を床へねじ伏せる。そして、手からナイフを奪うと、床に仰向けに倒れている俊樹に覆いかぶさった。
「ふん、脅すためにしか使った事がないんだろう? ナイフはな、こうやって使うんだよ!」
 次の瞬間、俊樹の頬を、鋭利な金属が掠めていた。俊樹の頬に紅いラインを描いたナイフは、教室の床に深々と突き刺さっていた。あまりの恐怖に、俊樹の膝はがくがくと震えている。
「これで分かったろ? お前は負け犬だ。この場に存在する価値すらない。消えろ。」
 京介は吐き捨てるようにそう言って、床に刺さったナイフを引き抜いた。俊樹は腰が抜けたのか、四つん這いになってやっとの思いで教室から出て行った。
「とんだ邪魔が入って、白けたな。今日はお開きだ。」
 その言葉に反論するものは誰もいなかった。皆、乱れた服装を正すと、そそくさと帰り支度を始めた。そして、次々に教室を後にした。だが、京介だけはその場にたたずんで、何か考え込んでいるようだった。
「京介?」
「あぁ、先に帰っていてくれないか。来週、編入試験で監督官の補佐を頼まれていたのをすっかり忘れていた。」
「え、じゃあ、来週の勉強会は……」
 聡子は、今日の勉強会で貢太に負けたことが引っかかっていた。もし、来週、貢太が自分の成績を上回ってしまったら、貢太の行動を止める者は誰もいない。
「大丈夫だ。今日はたまたま、そうだろう?」
「ええ……」
「それに、いざとなれば、どの問題を出すかあらかじめ決めておけばいい。」
「そう……ね。じゃあ、私は帰るわ。」
 聡子はそう言って、教室を後にした。その姿が見えなくなってから、京介は床に出来たナイフの傷をじっと見つめ、その顔に不敵な笑みを浮かべた。

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