2006.06.09.

雨 宿 り
03
横尾茂明



■ 黍稈細工1

淑子の母は一郎の家に女中として午後より通いで来ていた、その女中が初めて淑子を家に連れてきたのは一郎が小学4年のときだった。
この年は五月に五・一五事件が有り、総理大臣・犬養毅が殺害された年であったため…一郎もよく覚えていた。

「奥様済みません…出かけにこの子がぐずるものですから…ご迷惑とは存じましたが連れてきてしまいました、お庭の片隅にでも遊ばせておきますから今日だけ堪忍して下さいまし…」

「何おっしゃるの! こんな小さな子を一人で留守番させるなんて可哀想に、一人でお留守番出来るようになるまでは毎日連れて来てもいいのよ」

一郎が学校から帰ると可愛い少女が庭で遊んでいた。

少女は一郎を見ると立ち上がってペコリと可愛くお辞儀し…すぐにしゃがんで庭の砂を盛り上げることに熱中し始める…。

一郎は少女の仕草が可愛く…つい近寄って何をしているのか見た。

少女は庭に穴を掘り、どこから持ってきたのか縁が欠けた透明ガラスをその穴の上にかぶせその回りをリング状に砂を盛り上げ固めている…。

一郎は怪訝に思いリング中央に見えるガラスを透かして中を見た、中で何かが動いている。

「何が入っているの?」

「コオロギ」

「コオロギのお家を造ってるんだね!」

「違うもん…センスイカンだよ」

「これが潜水艦?…」

「お父さんが言ってた…センスイカンは上に水が有るんだって!」

(そうか…水の中に潜るから上に水が有るってことだな…)

「ガラスの上の小池に水を入れればコオロギさんのセンスイカンだよ!」
「でも…水がすぐ中に入っちゃって…コオロギさんが溺れちゃうの…」

「でも今度はしっかり作ったから大丈夫!」

「………………」

一郎は呆れた…女の子の遊びとは思えぬ残酷な稚戯…。
砂をいくら固めても水はどうしても洩れる…この子にはそこが解らない。

「ダメだよ! コオロギが可哀想じゃないか、やめなさい」

「ヤダ! だって…センスイカン作りたいもん!」

「じゃぁ僕の部屋においで、センスイカン見せてあげるから!」

「ほんと! お兄ちゃん持ってるの」

「うん! だからコオロギさんは逃がしてあげようね」

一郎はガラスを片づけコオロギを放して穴を埋めた。

「そう言えば君は何処の子?」

「佐伯淑子! 一年生だよ」

「あぁー女中さんちの子だね!」
「潜水艦って言っても模型だよ、小さいけど1ヶ月もかかって僕が作ったんだ!」

部屋に行き、本棚の上に飾ってあった潜水艦の模型をそっと降ろし淑子に見せた…。

「これがセンスイカン? …これじゃコオロギさんも乗れないじゃない…」

「だから模型だって言ったじゃないか!」

「モケイ…ってなーに?」

「そうか…模型の意味も分からないのか…」

「それより君はどうして女の子なのに潜水艦なんか作るの?…」

「お父さんが乗ってるの!」

「へーっ水兵さんなんだ! 僕のお父さんは戦車に乗っているんだよ!」

「センシャ…? センシャってなーに?」

「まっ…いいや…ウフフ」

一郎は小学1年生の女の子に…何をむきになって言ってるのかと思わず笑ってしまった。

「戦車のことはお父さんに教えて貰いなさい、それよりこんなに服を汚しちゃって…お母さんに叱られるぞー」

少女は初めて自分の服を見…あぁーて顔をする…。

「仕方のない子…内緒で僕が洗ってあげるからこっちにきて!」

二人はまた庭に向かう…。
母屋からは見えない庭の灯籠の陰に古い散水用の蛇口が有った。
一郎は手ぬぐいを水で濡らして淑子のワンピースに付いた泥を拭き始める…。

「これはとれないや! ちょっと脱いでごらん…ここだけもみ洗いするから」

少女はエッて顔をする…一郎はこんな幼い子でも恥ずかしがるものかと不思議に思う。
少女の顔を見つめる…少し恥じらんでモジモジと身を揉む。
(しかし…なんて可愛い子なんだろう…)

「ハイ! 万歳して」

一郎の有無を言わせぬ言葉につられるように万歳する少女…。

ワンピースの裾辺りを掴み上方にたくし上げて脱がせる…。
少女の裸は幼い少年のよう、しかし体のまろやかさと肌の艶は光り輝いて見えた…。

汚れた部分をもみ洗いし灯籠に掛けた、そして少女に「すぐ乾くから待っててね!」と言い蛇口を閉めようとしゃがんだとき少女のパンツが目に入った。

「わっ…パンツも泥だらけじゃない! …これは拭いたくらいじゃ取れないヨー」
「これも洗うしかないか…」

「さー脱いで!」

「でもー…」
「でも淑子…恥ずかしいもん…」

「何いってるの、こんなドロドロのパンツ履いてたらもっと恥ずかしいでしょう、さっ早く!」

一郎はいやがる少女のパンツに手を掛けて一気に引き降ろした…。

「あっ…」

二人は同時に声を上げた…
少女は恥ずかしさで…一郎は少女の性器を目の前で見たからであった…。



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