2003.6.29.

過ぎた好奇心
ボクらの秘密シリーズ
03
木暮香瑠



■ 過ぎた好奇心3

 ボクたちの考えた作戦はこうだ。

 ボクが高校生に捕まる。高校生は、ボクにナイフを突きつけ、ボクを助けたければ服を脱ぐように姉の理沙に迫る。高校生役は、背の高い亮太がやる。でも、亮太は気が小さいし、声も子供っぽい。声は、実が引き受ける。電話で、いつもおやじと間違えられている実の声なら高校生に思えるだろう。

 サングラスと服は、一樹が用意する。亮太の持っている服は、いかにも子供っぽい。図体はでかくても、所詮は子供だ。一樹のお父さんはトラックの運転手だから、サングラスや一見ヤンキーに見える服を沢山持っている。サングラスで目を隠し、一樹のお父さんの派手な服を着ればガラの悪い高校生くらいには見えるだろう。

 筋書きを考えるのは武彦の役目だ。ませていて悪賢いことを考えるのは、武彦ならピッタリだ。クラス会議でも、女子の正論に反対できるのは、武彦ぐらいだ。ボクたち男子に不利な提案が女子から出るたびに、武彦一人が反論する。ボクたちは、『そうだ! そうだ!』と武彦の援護射撃をするだけだ。いちゃもん、屁理屈と言われてもしょうがない論理で女子に対抗する。それができるのが武彦なんだ。

 ボクたちは、ボクと亮太以外が隠れることができ、そして覗き見できる場所を探さなければならなかった。誰にも見つからないことも重要だ。色々考えた末、校庭の隅にあるプレハブで出来た用具倉庫に決めた。昔はそこに体育館があってその横に用具倉庫があった。体育館は校庭の反対側に新築されたけど、用具倉庫だけはそこに残された。

 今は、跳び箱の授業も高飛びの授業も体育館でするので、プレハブの用具倉庫は使われていない。運動会の時の看板や玉転がしの大玉、障害物競走の障害物などが仕舞ってある。鍵が掛ったままになっているが、その南京錠が壊れていることもボクらは知っていた。錆付いた南京錠は、強く引っ張ればすぐ外れる。運動会でしか使わない用具がしまってあり、隠れる場所も沢山ある。男子対女子のかくれんぼをする時の、絶好の隠れ場所なんだ。校舎の陰にもなっていて、人目にもつかない。絶好の場所だ。

 土曜日の朝、ボクは実るの家に向かった。家を出ると、外はやけに明るかった。いつもと同じ風景のはずなのに妙に眩しい。罪悪感がそう感じさせるのだろうか。ボクは顔を伏せ、人目につかないように実の家に急いだ。

 実るの家に着くと、集合時間前だというのに武彦と亮太はすでに来ていた。気持ちが落ち着かなく、20分も前に着いたそうだ。いつもは遅刻の常習犯のボクでさえ、10分前に着いてしまった。しばらくすると、一樹が大きな紙袋を持ってやってきた。その中には、変装用の衣装が入っていた。

「大丈夫だったか? 勝手に持ち出しておやじさんに怒られないか?」
「大丈夫。父ちゃん、長距離で明日まで帰ってこないんだ」
 ボクたちは、一樹が持ってきた衣装を袋から取り出した。
「すげー服だな。おまえの父ちゃん、いつもこんな派手な服着てるのか?」
「休みの時は、大体こんな感じだな。悪趣味だろ。ヘヘへ……」
 ボクたちは、取り出した服をしめじめと眺めた。
「おまえのおやじ、元ヤンキ−?」
「趣味悪いなー。ホントかよ」
 ボクたちは、一樹の持ってきた服を取り出し言いたい放題だ。
「おれが言うのはいいけど、おまえたちに言われたくないな」
 一樹は、少しむくれっ面で言った。

「こんなことしてる暇ないぞ! 亮太、早く着替えろよ」
 武彦は、こんな時でも冷静だ。ボクたちが、手に取り品評している服を取り上げ亮太に手渡した。

「ハハハ……、似合ってるぞ、亮太。ホント、恐えな」
「似合ってなんかいねえよ」
 亮太は否定するが、着替え終わった亮太を見て、ボクらは思わず笑ってしまった。いつもは子供っぽい亮太の変身が可笑しかった。しかも、サングラスを掛けると、かなり危ない人間に見える。

「健、姉ちゃんに電話掛けろよ」
 武彦は、実にメモを渡しながらボクに言った。メモには、武彦が考えた姉ちゃんへの脅迫の台詞が書かれている。

「ふうぅー」
 ボクは、はやる気持ちを落ち着かせようと一息ついた。姉ちゃんの携帯の番号を押す指が、小さく震えている。寝坊の姉ちゃんは、今ごろちょうど起きたばかりの筈だ。きっと一人で、パジャマ姿のまま自分の部屋のテレビを眠気眼で見てる筈だ。呼び出し音が聞こえたのを確認し、僕は電話を実に渡した。

 数回呼び出し音が聞こえた後、電話から姉ちゃんの声が洩れてきた。
《もしもし……》
「こ、近藤理沙だな。おまえのお、弟の健を預かった。無事に帰して欲しかったら、小学校の北側の用具倉庫に来い。もし、このことを誰かにしゃっ、喋ったら、健は無事だと思うな! いっ、いいな……、すっ、すぐ来るんだ!」
 実の声がいつもより高い。あんなに練習したのに、所々詰まっている。実も、やっぱり緊張しているんだ。
《だれ? だれなの? なに? 何なの? 健?……》
 姉ちゃんの声には、全て疑問符が付いている。いたずらかもと疑っているみたいだ。これも、ボクたちは予定のことだ。ボクはありったけの演技をし、電話に向かって叫んだ。
「ね、姉ちゃん!! 助けて、助けて……」
《健! 健なのね、無事なの?……》
「いいか! 誰にも喋らず来るんだぞ! さもないと……」
 実は、念を押すように早口で喋りたてた。そして、電話を切った。
「はあ、はあ、はあ、これでよかったか?」
 緊張からか、実の息が荒い。
「上出来、上出来! さあ、急ご。時間はねえぞ!」
 ボクたちは学校の倉庫に急いだ。姉ちゃんが来るまでは、20分くらいしか時間がない。

 ボクらは、いつもの倍くらいの速さで走った。学校に着いた時には、みんな息が上がっていた。倉庫の軋む扉を開け中に入る。湿り気を帯びた空気がボクらを包み、そこだけが空気が薄いかのように息苦しい。はあ、はあ、はあ、と息を切らしたボクらは、呼吸を整えるのも惜しんで準備に取り掛かった。隠れる場所や縄などは、昨日のうちに準備しておいた。

 ボクは、天井から伸びた縄に両手を頭の上で結ばれた。縄は、昨日のうちに天井の梁に結んでおいた。姉ちゃんが服を脱ぎやすいよう、床にはマットも敷いておいた。亮太は、ボクの横に立っている。ナイフを手に落ち着きが無い。
「おい、本当にすぐ解けるんだろうな」
 ボクは、姉ちゃんにばれた時、すぐ逃げられることを確認する。
「大丈夫だ。結び目は蝶々結びになってるから、この端を引っ張ればすぐ解けるさ。亮太、脱げる時はここ、引っ張って解いてやってくれ。いいな」
 武彦が亮太に説明する。でも、ボクらが姉ちゃんから逃げきれたとしても、ボクは姉ちゃんと同じ家に帰ることに気付いていなかった。その場を逃げることしか考える余裕が無かった。

「みんな、動くなよ! 音を立てるとばれちゃうからな。さあ、隠れよう」
 ボクと亮太を残して、他の三人は予め決めていた場所に身を隠した。実と武彦は、亮太の後ろ、運動会用の看板の陰に隠れた。一樹は、ボクと亮太を挟んだ反対側の看板の後ろだ。看板には昨日のうちに、黒い文字の部分に覗けるように5mmくらいの穴を開けておいた。これで準備は全て整った。後は姉ちゃんが来るのを待つばかりだ。

 姉ちゃんを待つ時間が凄く長く感じる。亮太は、ボクの横でナイフを手にそわそわしている。頭の上で両手を縛られているボクには、作戦がうまくいくことを祈ることしかできない。唯一の不安は、姉がボクを助ける為に服を脱ぐだろうかと言うことだ。いやっ、絶対ボクを助けてくれる、助ける為に服を脱いでくれると信じるしかなかった。



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