2003.02.10.

青春の陽炎
02
横尾茂明



■ 片思いの少女1

 教室に戻る途中、他の教室の廊下に面した窓から、敏夫が手招きしていた。
敏夫はマサルの幼稚園時代からの幼なじみである。マサルより頭が一つ分大きく大人顔だから、私服を着ると高校生とは全く見えず、粗暴さが顔に出るのか街のヤクザそのものであった。

 敏夫は昔から乱暴者で、友人と呼べる学友はいないが、マサルにだけは何故か例外であり、こちらは遠慮したいのに、まるでマサルを弟に対する接し方なのである。

 敏夫のマサルへの対応は少々エキセントリックでもあった。
敏夫はマサルの思春期のモヤモヤを、マサルには到底手に入らないエロ雑誌や、裏ビデオを家に呼んで見せたり、マサルが中学1年の時、泣き顔の少女が、腹の出た禿げおやじに足を思い切り広げられ、どす黒くヌラヌラ光るペニスを差し込まれている写真を見せ、ショックで息も継げないマサルに、
「いいこと教えてやると」
と言って、嫌がるマサルのズボンを脱がせ、いきなりマサルのペニスを揉み始めた事が有った。

 マサルがその時にめくるめく快感を得、また精液が3mも飛ぶところを見、これがオナニーなのかと、痺れる思いで己の体の神秘、且つ淫靡な部分を知った。

 それ以来敏夫はマサルにエロ雑誌を見せながら、互いに陰茎を握り合うのを強要し、相互オナニーに耽った狂おしい日々を、今でも鮮明に思い出される。

 敏夫が高校2年の時、父親が富山の某銀行の支店長として赴任し、敏夫も一緒に富山に行く予定であったが、3年前に死別した母と……、父との確執が敏夫を頑なにしたのか、敏夫は富山行きを頑として拒んだ。

 父親には当時、再婚の話しが進んでおり蜜月に不良息子は邪魔と感じたのか、敏夫の自由に任せた形となったのである。
敏夫はそれ以来タガが外れたように悪くなっていき、次第にマサルは敬遠するようになっていった。


 マサルは遠慮気味に敏夫に近づいた。
この学校の番長でもある敏夫の廻りにはいつも学校の不良連中が取り巻いており、敏夫の親友と言われているマサルは、この不良達には一目置かれる存在でもあった。

 「マサル、放課後あいてるか」 と、いつものぶっきらぼうな物言いである。
「塾は休みだから特に何も無いけど」 と言ってから
(しまった!)
と思ったが手遅れである。
「だったら7時に俺んちに来い!」
「絶対だぞ!」
ニヤニヤ笑いながらいい物見せてやると、何かいわく有りげな口調で目配せした。

 放課後、マサルは今朝の由紀先生の言葉を反芻し、日曜が待ちこがれる思いで家路についた。
家に着くと母親はまだパート仕事から帰っておらず、秋の薄日の射した居間は寂しい雰囲気を醸し出していた。

 もう秋か……、受験の日まではもう僅か、由紀先生に夢中な自分……、由紀先生を想いオナニーに明け暮れる自分……に、マサルは言い知れぬ嫌悪感を感じた。

 マサルは自分の部屋に入ると鞄をベットに放り出し、どうしたものかと思案する……。
敏夫に…、きょう会うことが、もし母親にバレたら、ただでは済まない、行かなければこれもまた危険……。敏夫は幼稚園のころからの幼馴染みではあるがどこか危険な雰囲気を持つ奴であり、現に今までに数度の補導歴が有った。

 マサルの母親は敏夫とは絶対に遊んではならぬと、今まで何度となくマサルに言い聞かせたものではある……。が、マサルはこの敏夫の危なさが妙に気になるというか自分には無い「男」を感じるのである。が、最近はその粗暴さがいずれか自分にも向けられるのではという危うさをも同時に感じていた。

 物思いに耽りながらマサルはいつしか眠ってしまった。
何かの物音で目が覚め、時計を見ながら
(行くか…)
諦めたように自身でうなずいた。
マサルは私服に着替え、階下に降りて行った。

 台所には、いつしか帰っていた母親が冷蔵庫を開け、買ってきた物を詰めている。
マサルはとっさの言い訳も見つからず、思わず、
「亨君ちで宿題をやってくる」
と母親の背中に声を投げ掛けた。

 亨は学校きっての秀才で東大を目指している。マサルの母は亨と仲良くなっていくマサルには目を細めて喜ぶところが有った。

 母はマサルに、
「亨さんとこ、この時間にお邪魔したら迷惑じゃないの」
「亨は今日一人だから、数学を付き合ってやるんだ」
とマサルは出任せを言った。
案の定、母は
「それじゃあ亨さんにはちゃんとお勉強を教えてもらいなさいよ!」
とニコニコしながら財布から3千円を出し、これでお弁当でも買って亨君と食べなさいと言った。

 マサルは玄関を出た時、心に微かな痛みを感じたが、咄嗟に出た嘘が効果的だった為、痛みを相殺した形に思わず自転車に飛び乗った。

 外は晩秋の様相を見せ、並木の銀杏は今を盛りと黄金のカーテンで飾り立てていた。
家路に着く人々が夕暮れの街を思い思いの方向に急いでいる。

 マサルは時計を見ながら、7時を少し回っているのに気付き思わずペダルを漕ぐ足に力を入れた。

 敏夫の家に着いたのは、約束の時間を40分も回っていた。
敏夫んちの玄関は明かりは消え、人気は全く感じられなかった。

 玄関横の盆栽も手入れの無い、荒れた様相を呈している。
マサルは何故か急に不安な思いになり、帰ろうと思った…。しかし敏夫がもし帰っていたなら、後日どんなイジメに遭うかを恐れ躊躇しながらそっと戸に手を掛けた。

 戸は静かに開いた……。鍵は掛かっていない……。
中は暗く、人の気配は感じられない…やっぱり留守かと思い踵を返すその刹那、くぐもった若い女の声が奥から聞こえた。
マサルは一瞬躊躇したが、一人ぼっちの敏夫の家に、いるはずもない女の声……!

 マサルはその声で去年の夏の狂おしい出来事を思い出した。



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