2004.10.01.

体罰
03
ドロップアウター



■ 2

 ホームルームが終わってから、私は荷物をまとめ始めました。
「早苗、部活一緒に行こう!」
 いつの間にか、蒼井さんが私のそばに来ていました。
「うん・・・」
 私は、すぐに顔を上げることができませんでした。今顔を上げたら、私が憂うつな気分になっていることが、蒼井さんに分かってしまいます。憂うつなのがばれて、その理由を聞かれたら、何て答えたらいいのか分かりません。
「ごめんね・・・」
 私は何とか笑顔を作りました。
「あたし、ちょっと家庭科の先生に呼ばれてるから・・・家庭科室に・・・行かなきゃいけないの」
「そうなんだ。だったらあたしも一緒に・・・」
「ううん・・・すぐ終わるみたいだし・・・すぐ行けるから・・・蒼井さん先に行ってて」
 蒼井さんは少し怪訝そうな顔をしたのですが、「うん、分かった」とうなずいて教室を出て行きました。
 嘘をついてまで一人で部活動に行くことにしたのに、蒼井さんがいなくなると、急に心細くなりました。
 私は無言のまま、教科書やノートをリュックに詰め込みました。手が、少しだけ震えています。
 準備がすむと、私はリュックを背負って教室を出ました。
 恐怖も不安も全部、胸の奥底に無理やりに押し込んで・・・。


 茶道部は、空き教室に畳を敷き詰めた部屋で活動しています。部員は、一年生が私も入れて六人、二年生が九人の計十五人です。三年生は九月ですでに引退しています。
 廊下を上履きで歩くコツコツという自分の足音が、いつもより耳に響きました。部室へと向かう一歩一歩は、私が辛い体験をする場所に確実に近づいているということを思うと、とても怖くなりました。
 部室に入ると、私以外の部員はすでにみんな来ていて、準備を始めていました。
「こんにちは・・・遅くなりました」
 いつものようにあいさつをすると、「こんにちは」の返事が、いつものようにあちこちから返ってきます。
 私はリュックを置いて、上履きを脱いで畳の上に上がりました。
 いつものように、他の部員と一緒に部活動の準備をしました。もっとも、私がいつもの表情だったかは自信がありません。
 堀江先輩も当然いたのですが、なるべく目を合わせないようにしました。
 やがて、部活動の準備が全て整った、その時でした。
 部室のドアが開いて、佐伯先生が入ってきたのです。
 その瞬間、私は胸元が急にずきんと痛みました。
(いよいよ・・・なんだ・・・)
 罰が与えられる時は、もうすぐそこまで迫っていました。
(覚悟・・・しなきゃ・・・)
 私達はきちんと並んで、気をつけの姿勢で「こんにちは。よろしくお願いします」と一斉にあいさつをしました。
「こんにちは」
 佐伯先生はそう言うと・・・私の方を、ジロリと睨みました。
 そして、静かに口を開いたのです。
「蓮沼さん・・・前の方に来なさい」
 その瞬間、私はつばをごくんと飲みました。そして、全員の視線が集まる中、ゆっくりと前の方に進み出たのです。


「他のみんなは、腰を下ろしなさい」
 佐伯先生は、無表情のままで言いました。
「蓮沼さん、どうして呼ばれたか、分かってるわね?」
「・・・はい」
 心臓が「ドクン、ドクン」と鳴っているのが聞こえるような気がしました。
「どうして呼ばれたのか、他のみんなにも説明しなさい」
「・・・はい」
 とても息苦しくて、声を出すのがやっとでした。
 部員のみんながいる方を振り返って、私は、何とか声を絞り出しました。
「あたしは・・・あたしは・・・部活動に必要なものを・・・テキストも、ノートも、小道具セットも全部・・・忘れてきてしまったんです・・・」
 部員達の間からざわめきが起こりました。
 みんなの方を見ているのはすごく辛かったです。でも我慢して、顔を上げるようにしました。
「皆さんに・・・迷惑をかけてしまって・・・本当に・・・本当にすみませんでした!」
 私は深く頭を下げて詫びました。
 頭を下げてから、私はなかなか顔を上げることができませんでした。少しでもみんなの顔が見えなくなって、ほっとしてしまったのです。
「蓮沼さん、顔を上げなさい」
「はい・・・」
 先生に言われて、私はようやく頭を上げました。
「自分がしたこと、心から反省しているわね?」
「はい」
「これから、どんな罰でも、受ける覚悟はできているわね」
「・・・はい」
 少し声がかすれたけれど、私はきっぱりと返事しました。
 佐伯先生はかすかに笑みを浮かべて、言いました。
「それじゃあ、早速これから罰を受けてもらいます」
 その時私はもう一度、つばをごくんと飲みました。


「蓮沼さん・・・」
 佐伯先生は、怖い顔になって言いました。
「罰として、ここで服を脱いでもらいます」
(やっぱり・・・いや・・・恥ずかしい・・・)
 予想通りとはいえ、先生の言葉に私は声を上げそうになりました。
 胸がドキドキするのが、急に激しくなりました。心臓の「ドクドクドクドク」という音が、周りにも聞こえてしまいそうな気がしました。
 でも、私は悲鳴を上げるのを必死でこらえました。
(しっかりしなきゃ・・・悪いのは・・・あたしなんだから・・・もう・・・どんな罰でも受けるって・・・決めたんだから・・・)
 佐伯先生は、今度は具体的な指示を出しました。
「ここで、パンティだけの格好になりなさい。靴下も、ブラジャーも、全部脱ぎなさい」
 先生の声は、私を威圧しているようでした。
 辺りは完全に静まりかえっています。私にはもう、逃げ場はありませんでした。
「・・・はい」
 佐伯先生の言葉に、私はこれから自分がすることを自分に言い聞かせるために、きっぱりと返事しました。
 さすがに、手が震えました。手だけじゃなく、膝もがくがくいっています。
(いや・・・パンツ一枚なんて・・・ほとんど・・・裸じゃない・・・)
 でも、私は唇をきゅっとかみしめてこらえました。ここできちんと罰を受けることが、迷惑をかけてしまった部員のみんなに対する、せめてもの償いだと思うようにしたのです。
 私は、最初にブレザーを取って足元におきました。続けてネクタイも外して、脱いだブレザーの上に重ねました。
 足を片方ずつ上げて靴下も脱ぐと、足の裏に畳の感触が伝わってきます。
 素足になった時、私は急に寒さを感じました。
(裸になったら、きっと寒くて風邪ひいちゃいそうだなぁ・・・)
 私はつい、場違いなことを考えてしまいました。
 そして、私はゆっくりとブラウスのボタンに指をかけました。
「いや!」
 ブラウスの一番上のボタンが外れた時、同じ一年生の子が耐えかねて悲鳴を上げました。
 その子は今にも泣きそうな顔をしています。でも、私にはどうすることもできません。
 そのまま、ブラウスのボタンを一つ一つ外していきました。シーンとした部屋の中で、ボタンが外れる「プツン、プツン」という音だけが小さく聞こえました。
 ボタンを全部外し終えると、私は思いきって、ブラウスの前をばっと開きました。
 白いシミーズが人前に晒されて、さすがに恥ずかしさを覚えました。でも、動作を止めずに、両腕から袖を抜き去って、ブラウスもブレザーに重ねました。
 ブラウスを取った勢いで、私はスカートも脱ぎにかかりました。ジッパーを下げて止め金を外すと、スカートはあっけなく、私の足元にふわっと落ちました。
 スカートを足元から抜いてブラウスの上に重ねると、シミーズの裾から、私の白いパンツがのぞいているのが分かりました。
 その時、私は初めてみんなの視線を意識してしまいました。
(みんな・・・あたしが・・・脱ぐところ・・・見てるんだよね・・・)
 無意識のうちに、私の目は蒼井さんを探していました。
 蒼井さんは、少し悲しそうな目で私を見ていました。
 勢いで服を脱げたのは、もうここまででした。ここから先は、本当に恥ずかしいところをみんなに見られることになるのです。
(やだ・・・やっぱり・・・やだ・・・やだよぉ・・・恥ずかしいよぉ・・・あたしの・・・パンツも・・・胸も・・・見られちゃうなんて・・・)
 私の手は、すっかり止まってしまいました。
「何してるの?」
 佐伯先生がすかさず言いました。
「パンティ一枚って言ったでしょう。ちゃんと最後まで脱ぎなさい!」
 先生の剣幕に、私はビクッとしました。
「は・・・はい・・・ごめんなさい・・・」
 私はもう一度、自分に言い聞かせました。
(そうだよ・・・あたし・・・がんばらなきゃ・・・だって・・・忘れ物して・・・みんなに迷惑かけてるし・・・ちゃんと・・・責任・・・取らないと・・・)
 私は何とか自分を落ち着かせて、もう一度脱衣の動作を始めました。
 ごくんとつばを飲んでから、私は思いきってシミーズを脱ぎ去りました。
 私はとうとう、ブラジャーとパンツだけの格好になってしまいました。
(いやっ・・・恥ずかしい・・・)
 急に恥ずかしさが強くなりました。
 大事なところを隠しているとはいっても、もうほとんど裸に近い格好なのです。私の胸の形も、おしりの大きさも、全部分かってしまうのです。
(お願い・・・あたしを見ないで・・・!)
 私は心の中で叫びました。
 でも、これで終わりではありません。最後に、一番辛い作業がまだ残っています。
 私は、少しだけ前かがみになりました。そして、そっと背中に手を回しました。
 ホックを外そうとしたのですが、手が震えてなかなか外れません。
「さっさとなさい」
 佐伯先生の冷たい声が、どこか遠くから聞こえたような感じでした。
 そのうち、背中でかちっとした感触がして、ようやくブラジャーのホックを外せたことが分かりました。さすがに、ブラジャーはすぐには脱げませんでした。私は胸元を押さえたまま、ゆっくりと膝を曲げていきました。床においてあったシミーズに手を伸ばしました。シミーズで胸を隠しながら、ブラジャーを抜き取ろうと思ったのです。
「あっ!」
 その時、私は思わず声を上げてしまいました。ブラジャーを床に落としてしまったのです。
 私の胸が一瞬露わになって、私は慌てて両腕で隠しました。
 でも、そのままの状態だと下着を拾い上げることができません。床にしゃがみ込んだまま、私は動けなくなってしまいました。
 その時でした。誰かの手が伸びて、私のシミーズとブラジャーと拾い上げました。
 びっくりして顔を上げると、それは堀江先輩でした。
「ごめんなさい・・・」
「ううん・・・しっかりね」
 堀江先輩はかすかに微笑んで、私の右手に下着をつかませてくれました。
 先輩に自分の下着を触られたことは恥ずかしかったけれど、それでも何だか救われたような気持ちになりました。
 私はシミーズで胸を隠しながらブラジャーを抜き取ると、続けてシミーズも床に置きました。
 胸は両腕で見られないようにしっかりと隠して、私は立ち上がりました。
 と、佐伯先生の言葉が私の耳に飛び込んできました。
「腕は体の横に下ろしなさい。背筋を伸ばして、胸を張って・・・正しい姿勢で立ちなさい」
「は、はい・・・」
 私は言われるがまま、両腕を体の横に下げました。
 その瞬間、私の小さな肩も、おへそも、白いパンツも、そして・・・さっきまでブラジャーに包まれていた私の胸のまだ小さな膨らみも、全てがさらけ出されてしまったのです。
 部員のみんなの視線が、とても痛いのです。
(いやっ・・・恥ずかしい・・・!)
 体がすごく熱くて、ひざが激しくがくがくと震え出しました。顔が赤くなっているのが自分でも分かります。
 できることなら、この場で大泣きしてしまいたいです。そしたら、みんな私のこと助けてくれるかもしれません。
 でも・・・私はきちんと罰を受けるということをすでに決めているのです。ここで泣いてしまったら、自分で決めたことに背くことになると思っていました。
 私は、何とか動揺を抑えて、佐伯先生の方を向きました。
「こ、これで・・・いいんですよね?」
 先生は無表情のままで言いました。
「さっき、『痛い思いもしてもらう』って言ったでしょ?」
「あっ・・・」
 私は、昼休みでの佐伯先生との話を思い出しました。
 先生の言う「痛い思い」というのは、たぶん頬の平手打ちが、お尻を竹刀で叩く罰のことだと思います。
(そっか・・・まだ・・・残ってるんだ・・・)
 この苦痛がさらに続くことを予感して、私は暗い気持ちになりました。
 先生は、畳を敷いていない床の部分を指さして言いました。
「今は、畳から出て床で正座してなさい。部活の邪魔になるから。残りの罰は後でするから、それまで反省してなさい」
「はい」
 私は、素足のまま畳から出ました。
 足の裏に、床のひんやりした感触が伝わってきます。
 今は恥ずかしくて体がほてっているから寒さはあまり感じません。でも、慣れてきたらきっと、すごく寒くなるんじゃないかなって思いました。
 余計なことを考えると、ただでさえこんな状況なので、ますます憂うつになってしまいます。
(がんばれ・・・がんばれ・・・)
 私は自分にそう言い聞かせながら、膝を曲げて、冷たい床の上に正座しました。



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