「カローラ」 第五章「夕歩の決意」 2



重い気持ちで家にたどり着いた。濡れているので、裏から回ろうと庭の方へ足を向ける。以前なら稽古の後はすっきりした気持ちになっていたが、最近の順は一日中沈んだ気分でいることが多かった。
雨はもう大分前にやんでいて、玄関先に植えられた草木は小さな滴を緑の葉に乗せている。

「順!」
「あ、夕歩」

庭を横切ろうとすると、順が帰ってきたのを認めて夕歩が走り寄ってきた。

「夕歩、来てたんだ。起きてて大丈夫なの?」
「雨もやんだし、ちょっとぐらいなら出ててもいいって。それより順、ずぶ濡れだよ」

服までびしょ濡れの順に、夕歩が心配げに手をのばす。

「手だってこんなに冷た――」
「さわっちゃダメっ!」

夕歩の温かな手が、自分の冷たい手に触れた。その瞬間、順は弾かれるように夕歩の手を振り払った。
強張った表情で手を引っ込めた順に、夕歩が驚きに目を見開く。

「順……どうしたの?」
「あ……え、と……」

今の反応が大げさすぎたことが自分でも分かり、順は焦った。

「大分汚れてるし、それに夕歩まで濡れちゃったら大変じゃん? 風邪引いちゃうかもしんないし」
「それ、こっちのセリフだよ」

夕歩は不満げに唇を尖らせている。

「とりあえずあたし、お風呂入ってくるわ。すぐ出るから部屋で待ってて」
「うん……」

順はとっさに笑顔で誤魔化すと、まだ何か言いたげな夕歩に背中を向けて走り出した。



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