「カローラ」 第六章「二人の道」 2



「夕歩、あたしもつき合うよ」
「え?」
「天地学園。受けるんでしょ?」

いつものように二人きりの稽古が終わった後、順はなるべく落ち着いた声で切り出した。

「本当にいいの?」

順の言葉に、夕歩は戸惑ったような顔で聞き返してくる。

本当にいいんだろうか。そう思う気持ちは順の中にもまだあった。
だけど今になって思うと、結局こうなるだろうことは分かっていたような気さえする。

「いいよ。別に中学なんてどこでもいいしねー。夕歩も一人じゃ寂しいだろうし、やっぱあたしがついていくしかないっしょ」

夕歩の身体はもちろん心配だ。だけど夕歩がそんなに天地学園に行きたいというのなら、やはりその願いを叶えてあげたい。病気の身体を抱えてまで、夕歩が希望した道なのだ。

「それにあたし以外の人に、夕歩の刃友なんてつとまるわけないじゃん?」

言いながら安心させるように微笑むと夕歩は複雑な表情を浮かべたが、すぐに同じように笑みを返した。

「そうだね……順、ありがとう」

『剣技特待生』というものがどれくらいのレベルなのかは分からない。だけど自分ができることといったら、夕歩の側について無理をさせないように気を配る、もうそれくらいしか残ってないのだ。
幸い剣なら自信がある。「二人一組」という剣技特待生の決まりも都合がいい。

(危険な相手とはなるべく当たらないようにあたしが注意して、無難な対戦だけでやり過ごして、それでなんとか卒業まで……)

そこまで考え、順はふと思った。
――夕歩は、何のために天地に行くのだろう。
前に少し言っていた、「天地でやりたいこと」とは何なのだろう。
自分がこんな消極的なことを考えていると知ったら、夕歩はどう思うだろうか。

「順?」
「あ、ごめん、何かぼーっとしちゃった」

順はわざとらしく頭を掻きながら苦笑して見せた。

「でもさ、まだ入れるって決まったわけじゃないんだよ? 夕歩、何かもう受かったつもりでいない?」
「そんなことないよ。順こそ、もっと稽古に身を入れてよね」
「分かってる分かってる。だから夕歩も、一人で無茶な稽古とかしないで」
「うん……気をつける」

夕歩は少し不満そうな顔をしたが、それでも頷いてくれた。
これだけは譲れない。
夕歩は思いっきりやりたいのかもしれないが、行き過ぎないように注意するのが自分の役目なのだと、順は改めて自分に言い聞かせた。



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