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邪恋7
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「……あの……あのさ。なんで、こんなことに……?」
理解できないとばかりに瞬く瞳にはまだ涙が残る。
ショックを受けていそうな香芝が身体を起こし、ベッドヘッドに凭れかかる。
もしかしたら薬が残っているのかもしれない。
どこか舌足らずな言葉は不安げに揺れていた。
「静貴」
張り付いた髪を撫で上げると黒いまっすぐな瞳に見上げられる。
混じりっ気のないその色に見入ったままに頬を撫でると、
香芝が恥ずかしそうに顔を赤らめた。
ベッドの上に落ちた手がシーツを握りしめる。
何度もそうして触れ合っていると蕩けたように先ほどとは違う涙で瞳が潤み始める。
キスをねだるかのようにうっすらと色づいた唇が開かれたその瞬間、
忌々しい闖入者が香芝を抱き寄せた。
「シズ……」
「……ノア。どうしてあんなことをしたんだ」
なんのつもりか殊勝な声を出したノアに香芝が一層赤くなった。
どうやら存在を忘れていたらしい。
従順に神近に囚われてしまっていた香芝は気まずそうに、それでも理由が
知りたいのかノアに問いかけた。
それにノアが姑息にも答えた。
真実とは程遠いまやかしをいけしゃあしゃあと形のいい唇から垂れ流し始める。
「ごめんね、シズ。あんなこと、するつもりではなかったんだけど……でも……」
「でも?なんだ?」
ここのところお人好しに拍車がかかっている香芝の手が優しくノアの頭を撫でる。
芝居全開のノアは起き上がり、勢いよく香芝に抱きついた。
香芝に見えないように、ノアの挑戦的な視線がこちらをみて笑う。
そのままぐりぐりと香芝の首筋に顔を埋めるように、保身にまわった男はのたまった。
「シズは僕にそんなことをされるのは嫌がるから……だから、しろって……
ごめんね、嫌な思いさせて……」
「え!?……俊明さん、まさか……ノアを巻き込んだのか……?」
やはり薬で頭はまわっていないようだ。
訂正することも阿呆らしくなり溜息のひとつでも吐きたい気分になった。
心を許した相手には簡単に騙される人のよさ。ここまでくると重症な無防備さだ。
答えずにいるとノアが香芝に抱きついたまま舌を出していた。
それを冷ややかに見下ろすと、なにを誤解したのか香芝が焦った。
「俊明さん、ノアをいじめたら駄目だ。ノアは繊細で傷つきやすいんだから。
人一倍怖がりだし。それに……あんな店を任せているとはいえ、
俺とさせるなんてノアが可哀想だ」
変態的な男を前にしておきながら、全くそんな下心に気がつかないままに
香芝の手は宥めるようにノアの背を撫でる。
その手を掴むとぴくんと香芝が動きを止め、ノアを気にしているのか
落ち着かない様子で視線を彷徨わせた。
白い首筋がほんのりとまた色づき、恥ずかしそうに視線が落ちる。
それでも柔らかく握り締め返してくる指先に幸福が伝い、満たしてやりたくなる。
それには恋人にくっついている男が大層邪魔だ。
「こんなものをいじめてなにが楽しい?そんな時間があるならお前に時間を使う」
「俊明さん!ノアの前で何を言って……。ごめんな、ノア。巻き込んじゃって」
「気にしないで。お邪魔しているのは僕だしね。だからもういくよ。明日またね」
「明日?」
まだくっつく気かとうんざりする。
ベッドから降りたノアが軽く頷いた。
「明日はシズと買い物に行くんです。……だからくれぐれも、無理は
させないでくださいね」
すれ違いざまに小さく付け加えられ、視線が絡む。
発言は聞こえていなかったらしい香芝が不穏な空気だけは察知して
戸惑ったように様子をうかがっていた。
「それじゃ、明日また迎えにくるね」
「わかった。本当にごめんな」
「シズのせいではないよ」
優しげに微笑んだノアは計算通りに香芝に誤解を植え付けて部屋から去っていった。
扉の向こうから物音が聞こえなくなった瞬間、香芝がぱたりと力なくシーツに
突っ伏した。

      

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