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患いの恋2
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いつの間にか降り始めていた雨の音が、まるでテレビの砂嵐のように絶え間なく部屋に流れ込んでくる。
一瞬だけ視線を向けた薄っぺらい窓ガラスには、今日ついたものではない雨のあとが白くこびりついていた。
狭く古いシティホテルの一室。
入り組んだ裏道にあるここがいまの百瀬にとって最も意味のある、特別な場所だ。
カーペットが敷かれた床に跪いたままに火照った舌を動かすと、頭上から微かな吐息が落ちてきた。
とくんと鼓動が跳ね、百瀬はますます行為に酔いしれる。
恋人との逢瀬。
そんな言い方をすれば聞こえは良いが、実際はセックスをするだけだ。
それもかなり一方的なもの。
ただそのためだけに百瀬は呼びだされる。
だが、そんな扱いに不満はない。
頻繁に呼んでもらえるわけではないからそれだけでも充分に幸せで嬉しかった。
顔を見られるだけで嬉しい。
会話ができるだけで胸が苦しくなり、触れられたならば泣きたくなる。
身体を求められ抱かれる。
これ以上ないほどに百瀬は幸せだった。
幸せな感情だけではないというだけで、幸せなことには変わりはない。
どんなカップルであれ、大なり小なり悩みはあるだろう。
それだけのことだと百瀬は認識していた。
こうして二人の時間が得られるならばそんなことは瑣末な問題で、百瀬にはもっとほかに考えねばならぬことがあった。
「蓮沼さん、気持ちいいですか?」
指先で先端の割れ目をなぞり、括れを横から咥えながら問いかける。
社会人になったばかりの百瀬よりもいくつも年上の男は気持ちよさそうに目を細めながら口元に笑みを浮かべた。
そんなちょっとした姿にすら心臓が壊れたように乱される。
この人が好きだと狂おしいほどに実感し、また深く熱を喉奥まで咥え込んだ。
口の中で膨らむ性器が愛おしくて夢中で奉仕を続けながらも身体は疼いていく。
快楽を知っている身体だからではない。
愛する人と繋がりたいのだ。
この男の前では百瀬は冷静ではいられない。
いままでずっとあらゆる人間と身体だけの割り切った付き合いをしてきたというのに、この男の前では自分自身を気持ち悪く思うほどに生娘のような反応をしてしまう。
誰かに愛されることはあっても誰かを愛せた試しがない百瀬がした初めての恋。
それがたとえ人から見ればあまりに滑稽で惨めなものだとしても、いまの百瀬にはこの恋が全てだった。
このために生きているのだと言って差し支えないほどに、みっともないくらいこの恋に溺れている。
「もっと喉奥を使え」
掠れた声に操られるかのように言われるままに更に深く性器を呑み込む。
禄でもない経験から得た術をもって男を満足させようと舌を絡める。
そこまで長さがあるわけではないから苦しさもさほどではなく、その分だけ意識して快楽を与えることができる。
絡めた舌で性器を包む柔らかな皮膚をゆっくりと下ろし、露出した雄芯を食むように刺激する。
そのまま喉奥の粘膜を押し当てるように咥え、意識的に喉を狭めると男が呻いた。
同時に口の中の性器が跳ね、勢いよく独特な味がする体液が叩きつけられる。
苦しさに思わず眉を寄せた百瀬の頭を掴んだ男が乱暴に髪を引っ張った。
ぬるっと抜けた性器から断続的に吐き出される白濁が顔を汚すと満足げに男が笑う。
「お似合いだ」
ほぼ毎回、彼は顔にかけてくる。
汚れた百瀬を蔑むことが好きだったし、もとよりどこか人を見下したところがある。
人当たりはよく表面上は穏やかで、容姿も悪いわけではない。
だが、知れば知るほどにその性格は歪んでいる。
外面はいいが、実際はなかなかに癖があり、打算的で、酷い男だと思う。
尤も、そんな人が知れば忌避しそうな人格でさえ百瀬にとっては問題ではなかった。
百瀬も彼とは方向性は違うが健全ではなかったからそれが嫌だと思ったことはなく、むしろそんな部分さえ愛しく思う。
外面が良すぎるくせに百瀬には取り繕ったりしないのだと思えば恋する愚かな心はそれにすら歓喜する。
あばたもえくぼというよりは、百瀬は単に性格が悪いということを気にする質ではないのだ。
加えて、健康的な精神とやらを持っている相手といるよりはこんな性格の人間の方が落ち着ける。
健康で爽やかな人間はみる分には清々しくて好きだが、つきあうとなると難しいだろうから百瀬には蓮沼のような男がしっくりとくる。
いまとなっては好みがどうだとかそんなレベルではなく、蓮沼だけが百瀬の全てだ。
彼以外は欲しくない。
望まれるならばなんでもする。
それだけが百瀬の存在理由だ。
ようやく手に入れることができた生まれてきた理由だとすら思えてしまう。

      

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