info_page
患いの恋7
【重要】ホームページビルダーの名前を付けて保存で別名にして保存すると、スタイルシートのリンク構成が変更されることがありますので、フォルダ内でpage.htmlをコピーしてください。(ウインドウズの基本操作ですね)
かなりよくない兆候だと、百瀬は資料を読む振りをして視線をデスクに落とす。
現場配属されていくらか経った新入社員に対するフォロー研修に出ながらも、百瀬は研修の内容が全く頭に入ってこない事態に危機感を募らせていた。
香芝に愚痴を言ってから1週間が経ち、相変わらずその間に蓮沼からの連絡はない。
毎日毎日頻繁に携帯電話の着信を気にしては、メールも着信もないことに精神が疲弊していく。
せめて一言、なんでも良いから声をかけて欲しい。
不安と恐怖は募り、食事もままならなくなった。
体重はこの数週間で落ち、ただでさえ重くはない百瀬の身体は一段と軽くなった。
反比例するかのように、精神は重く澱んでいく。
それでも唯一求められている肉体を損ないたくはなくて、食事は取れないのにトレーニングに割く時間は増えた。
結果として、ただ仕事をしてジムに寄る。
それだけの生活に疲れ切っていた。
連絡をしないだけで、百瀬を思い出すことはあるのだろうか。
期待するには現実はあまりに虚しすぎた。
ただ一瞬だけでもいい。
蓮沼が百瀬のことを思い出してくれているとわかるだけでも幸せなのに現実は非情だ。
いや、もしかしたらこの恋愛が無情なだけなのかもしれない。
それでも好きなのだ。
辛いからというだけで忘れられるならとっくに忘れている。
だが、失うには触れる温もりは残酷なほどに愛しくて、名前を呼ばれただけで生まれてきたことを肯定できてしまうほどに幸せだ。
自らの存在に罪悪感を抱いている百瀬からすれば、蓮沼がいなければ到底己の人生に意味など見いだせない。
それほどまでに蓮沼は百瀬にとって大きな存在だった。
初めて蓮沼に声をかけてもらえた夜のことを思い出し、胸が締めつけられる。
会いたい。
身体を繋げなくてもいい。会話などなくてもいい。
ただ一目だけでも姿を見たかった。
それだけであといくつかは夜を越えられるだろう。
「それでは各自、来週木曜までに指導者の指示のもと業務振り返り表を提出してください」
入社時から研修を担当している社員の言葉に意識が引き戻される。
室内から堅苦しい緊張が消えていく。
物音があちこちで起こり始め、すぐにそれはざわざわと大きくなった。
時計を見やればもう間もなく昼休みになるが、一度部署に戻る時間はありそうだ。
手にしている資料と筆記用具を置いてから昼にしようと席を立てば、隣に座っていた同期も腰を上げた。
「心ここに在らずだな」
呟きに、歩きながら声の主を見上げる。
「……そんなことはない」
隠したところ筒抜けだろう。
だが、こんな人の多い場所で晒せるわけもない。
そんな百瀬の気持ちなど、ただの同期ではない高峰はわかっているのだろう。
会議室を出てからもしばらくなにを言うこともなかった。
大学も同じで、偶然ではあるが就職先まで同じで、あろうことか肉体関係なんてものもある男は流石に察しがよかった。
ここならもういいだろうと百瀬が思ったタイミングで高峰は話を切り出してきた。

      

Page Top



この改行は必要→