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患いの恋8
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「お前、最近ひどいぞ」
言われなくても自覚はしているから反論はしなかった。
そんな百瀬に高峰は呆れたようにため息を吐く。
「指導者が出張中で不在だから気が抜けている……なんて理由ではないんだろう?」
「……いなくて良かったと思っているのは事実だけどな。やらかしすぎてる」
「だったらなんとかしたらどうだ。先輩たちがフォローしてくれているからいいものの、発注依頼漏れだの、製造への連絡漏れだの……有り得ない」
この一週間で百瀬がしでかしたミスの一部を指摘しながら、高峰はその原因を知っている。
わかっていて言っているのだ。
だから百瀬は答えられなかった。
答えることで現実を再確認したくはなかったし、高峰の口からきかされたくもなかった。
厚い防火扉に隔てられた人気のない廊下で足を止めると、高峰もまた足を止めた。
「気をつけるつもりだ」
「つもり?」
百瀬とて周りに迷惑をかけたいわけではない。
百瀬などよりよほど人間ができている高峰はフォローと言ったが、それは言葉を選ばなければ尻拭いだ。
あり得ないほどに多忙を極める部署にあって、新入社員であることを差し引いてもくだらないミスで負担をかける。
それがどのくらい愚かなことで会社の損失になっているのか百瀬にもわかっていた。
頭では。
そんな煮え切らない百瀬の態度に高峰が僅かに苛立ったように腰に手を当て百瀬を睨みつけてきた。
「お前、仕事を舐めすぎなんじゃないのか」
「そんなつもりはない」
「あるだろう。恋人に会えない。それだけのことでここまでミスをするか?人に迷惑をかけるか?そんなお前がどう気をつけると?」
「うるさいな。峰には関係ないだろ!」
声を荒らげた百瀬に高峰は驚いたように目を見開いた。
だが、一番驚いているのは百瀬自身だ。
もう何年も声を荒らげるなんてことはしたことがない。
どちらかといえば百瀬は感情の起伏が少ないタイプだ。
要するに、友人相手に怒鳴りつけてしまうほど甘えが出ているし余裕がないということだろう。
「放っておいてくれ。なんとか持ち直すから……このままではいけないことくらい、自分が一番よくわかってんだよ。それでも俺は……俺は、あの人がいないと……」
「裕也……」
「それともなにか?落ち込んでる俺をお前が慰めてくれるのか?」
自棄になって歪に笑った百瀬を、高峰は静かに見下ろしていた。
そして重苦しく息を吐き出すとぽんと頭に手が置かれた。
「二度目はないと言っただろう。好みじゃない」
「お互い様だ。冗談に決まってるだろ」
「悪趣味な冗談を言わないといけないほど余裕がないのか」
百瀬のものよりやや大きい手のひらが頭を撫でる。
まるで子ども扱いだ。
だが、不快だとは思わなかった。
思わないが、泣きたくなるから弱っているときには勘弁して欲しい扱いだ。
「……余裕なんていつもないさ。いつだってあの人のことを考えると苦しくて……なんでこんなに好きなんだろうな。どうしてこんなにも大切なんだろう」
苦しいのに、相反するように幸福に包まれる。
彼のことを考えただけで胸にあたたかいものが灯る。
辛い。幸せ。
そのふたつが瞬間ごとにせめぎ合い、胸を押し潰していく。
壊れると、漠然と思った。
好きだという感情が強すぎて、きっとそう長くかからぬうちに恋に不慣れなこの心は破綻するだろうと、百瀬は溜め息を吐いた。

      

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