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セイショウネンと欲塵3
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「人を変えるなんてことは不可能だ。人は自分が変わりたいようにしか変われない。
それが無意識であれ意識的であれな。静貴は自分で変わろうとした。
それなら俺にはもうどうしようもない」
ペットボトルを拾って立ち上がると重坂もカーテンを開く。
「人間は自分勝手にしか変わらない。だけど、願うことくらいはできる」
「願う?あいつにか?」
百瀬の言うことであれば香芝は最大限きこうとするだろうと思えば、いや、と
静かな声が思考を遮る。
振り返るも百瀬は背を向けたままだ。
頼りないほどに薄いその背中がやけに小さく見えた。
「お前にだよ、重坂」
カーテンに遮られていた窓の外はもうすっかり暗くなっていた。
いつもならばそこにあるはずのざわつきもどこからも聞こえてこない。
ただただ静かな百瀬の声だけが重坂の中へと入り込んでくる。
「……お前が将来俺よりもあいつに近づけるのなら…………そのときはあいつを
助けてやってほしい」
カーテンを掴んでいた百瀬の手が落ちる。
ゆっくりと振り返った百瀬は、やはりあまりにも香芝と似すぎていた。
どうしてこうまで似るのかというほどに危うげな影が二人からは消えない。
「静貴は向いていない。強くもない。だからお前が強くなってあいつを
助けてやってくれ。……俺にはそれはできない」
それが香芝と百瀬の違いなのだろう。
孤児である香芝と、守るべき者のいる百瀬。
一線を越えるか否かの違いはそこにある。
だが、解せないこともある。
「何故、俺に?」
それはずっと考えていたことでもあった。
何故百瀬は解放されてからも重坂のもとに来るのだろうと。
似たもの同士の馴れ合いと解釈していたが、それにしてはこれは過ぎた願いだ。
百瀬が困ったように笑った。
「何度も言っているじゃないか。俺はお前のことを嫌っているわけではないし、
むしろ気に入っている。俺なりに大切にしてやっているだろう?セックスは上手いし、
妙な干渉はしない。それに……お前は信じられるんだ。いや、違うな。
裏切られても腹が立たない類の男なんだよ、お前は。少なくとも俺にとってはな」
「理解しがたいな」
「別に理解なんて求めてもいない。俺とお前は分かり合うことが必要な関係でも
ないだろう。でもなにかの縁でこうなったんだ。もし将来のお前にその気が
あったなら、あいつを守ってやってほしい。お前はきっとそれができるだけの男に
なるだろうからな」
「大した信頼のされっぷりだ」
「信用はともかくとして信頼はしているし、お前は大丈夫だろうと想定もしている。
それに、初めての男にくらい期待はしたいじゃないか」
「お前でも初めての男を気にするのか?」
「馬鹿いうなよ」
自分で言っておきながら鼻で笑った百瀬がとんでもなく性悪に目を細めた。
「初めてがお前だったから期待したいんだ。誰が他の男に期待なんてするか」
馬鹿馬鹿しいと笑う百瀬にどう反応をすべきかと思えば、重坂の反応になど
興味がないらしい百瀬はさっさとベッドから離れていってしまう。
考えても仕方がないことだと割り切り、重坂もまたベッドから離れる。
百瀬の言葉通り、理解することが必要な関係ではない。
二人の間にあるのは肉体関係。そして、無関係だ。
矛盾しているが、無関係なのだ。
互いに何を思っていようとどこで何をしていようと気にかけない。何も思わない。
心は通わせない。その距離が一番心地良いことを互いに理解していた。
恐らくは高校を卒業すれば必然と切れていく関係だ。
こんな生まれでなければ友人くらいにはなれただろうかとその薄い背を見遣り、
すぐに愚にもつかないことだと思考を終わらせる。
通常の人間なら眉を寄せるだろう己の出自に不満など一切ない。
それで親しい人間をつくれなかったことに対しても何かを思ったことはない。
百瀬は確かに魅力的な男だ。
些細な挑発に乗って手を出してしまうほどには淫心をそそる存在だ。
そして。
「お前なら似合いそうなのにな」
不在の養護教諭の席に置いてあった鞄に手を伸ばしていた百瀬が言葉に
ゆっくりと振り返った。

      

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