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もちろん、男の経験なんかゾロにはない。 なのに何故か、ゾロはサンジに抱かれたいと思ってしまう。 想いを告げあったあの時は、可愛いと口にしてしまった動揺と、予想外なサンジの態度に、この恋を絶望しなくてもいいのかもと期待してしまって、それどころではなかった。 しかし、互いにこっそり想いを寄せていたことを打ち明けあい、きちんと恋人としておつきあいをはじめて、浮つきまくった気持ちにひと段落ついた後、ゾロは元々サンジにそう望んでいたことを思い出したのである。 自慰にサンジを使うことに嫌悪感を覚えるくらいにゾロはサンジに惚れきっていたが、夢にサンジがでてくるのまでは、自分ではどうにもできなかった。 そしてその夢の中では、何がどうなっているのかはよく判らなかったが、とりあえずゾロはサンジに愛され、かわいがられていた筈だった。 抱かれてえなあ、と思う。 けれどもこの、やたらと甘ったれてくるようになったサンジを見ていると、自分がゾロを抱く側になるなどとは、全く考えもしていないように見える。 そして多分誰に聞いても、ゾロがサンジを抱く側だと答えるような気がする。 ゾロ自身も、その方がふさわしいと思ってしまう。 それでもやっぱりゾロは、サンジに抱かれたい。 どうすればいいのかとゾロが困っていると、キスに集中していないのを不満に感じてか、サンジに唇を軽く噛まれた。 「クソマリモ、何考えてんだよ……。」 拗ねたサンジの頭を、がしがしと撫でる。細くて柔らかい金の髪は、どんなに撫でても全く飽きない。 「てめえと……、おれのことしか考えてねえから安心しろ。」 「べ、別に……、そんなんじゃねえもん。」 サンジはまた、せわしなく指先をあわせ始めた。 頬を染めて、唇をちょっと尖らせているのが、どうしようもなく可愛い。 やたらと素早く動きまくる指に全身をいじくられたいとか、可愛い唇にあちこちへキスをされたいとか、そんなことを考えてしまうのは、おかしいからだめだと、ゾロは自分の心に蓋をした。 「な、なあ、ゾロ。」 「なんだ。」 妙にどぎまぎした様子でゾロのピアスをひっぱるサンジが、あまりにも可愛いから、ゾロの返事もらしくもなく優しくなる。 「あのさ、今朝ナミさんが、もうすぐ次の島に着くって云ってたじゃん。んで、ロビンちゃんがさ、わりと大きい島の筈だって。だからさ、ログに余裕があったら……、宿、一緒にとらねえ?」 ひたすらもじもじしているサンジの言葉の意味が、ゾロにも判らない筈はなく、一気に緊張する。 「……いいのか。」 「ん、やっぱほら、最初はベッドがいいっつーかさ、声とか誰か来ねえかとか、余計なことに気ぃ散らしたくねえし……、落ち着いてふたりっきりになりてえしさ……。」 真っ赤になって恥じらうサンジは、悶絶したくなるくらいに可愛く、そして、とてもいとおしい。 ゾロの胸はきゅんきゅん高鳴りまくっていて、その衝動のままに、ぎゅうっとサンジを抱きしめた。 サンジもゾロのことを好きでいてくれて、ゾロの腕の中にすっぽり埋まって、可愛らしい表情と仕草を存分に見せてくれているのだ。それ以上に、何を望むことがあるというのか。 為せば成る。為さねばならぬ、何事も。である。 自分のおかしい欲求はかくして、大事なサンジとまっとうに愛し合おうと、ゾロは全力で決意を固めたのだった。
航海も、二人の計画も、予定通りに進んで。 ゾロとサンジは、二人きりで宿にいた。 サンジが選んできた宿は、大きなベッドがどんっと一つだけある、いかにも愛し合うための部屋だった。 「一緒だと、部屋選ぶの恥ずかしいし……、それに、ほら、いろいろ……、必要な物の買い物とかもあるしさ。」 そんなことを云って、サンジは昼間はゾロを同行させてくれなかったが、その分も含めて、サンジの健気な心使いに応えられなくては男ではない。 男らしくサンジと愛し合おう。ゾロは一生懸命そう意気込んでいた。 そして、順番に風呂に入って、普段ならゾロは腰にタオルだけ巻いて出てくるようなところだが、きちんとバスローブを着込んでサンジを待っていた。 ゾロもいつもよりは長く入って体を洗っていたが、元々長風呂のサンジは、全身磨きたてているのかなかなか出てこない。 けれども急かすのもいけないだろうと思いつつ、長く続く緊張に疲れたゾロは、何となく部屋を見回していた。 そして、ベッドサイドのテーブルに置かれた紙袋から、どうしても目が反らせなくなる。 これが多分、サンジが買ってきてくれたのだろう、必要なもの、とやらだ。 色事に関しては、女好きのサンジの方がくわしいのは当然だったが、でもこれから使うものだし、いざとなって焦るのは困る、と、ゾロはそう決めて、どきどきとその袋を開けた。 中に入っていたのは、予想通り、ローションだ。 どきどきしながら手にとって、一生懸命、使用説明を読んでいると。 「ゾロ。何見てんの。」 「うわっ、い、いや……。」 ゾロは慌てて、ローションの瓶をテーブルに置く。 風呂から出てきたサンジは、ゾロと同じバスロープ姿だ。ちらりとそれを見て、ベッドにあがってくると、布団の上にちょこんと座って、いつもの指先を合わせる仕草を始めた。 「初めて、だし……、大事な相手とするなら高くてもいいやつ使った方がいいって……。乾きにくくてお勧めなんだって、それ。あと、ゾロ、匂いつきのってやだろ。ちゃんと無香料のにしたし……。」 サンジが恥ずかしい気持ちは判る、が、あんまり説明されるとゾロも恥ずかしくなってしまって、えい、と心の中でかけ声をかけ、サンジを抱き寄せた。 「ありがとな。」 ささやいて、キスをする。 サンジの腕がゾロの首に回ってる。 唇をついばみあうようなキスをしたあと、サンジの舌が、ゾロの口腔にするりと忍び込んできた。 ぬるつく舌が、ゾロの口の中を熱心になめる。 懸命に追いかけると、絡め取られたり吸われたり、ぞくぞく震えて、頭がぼうっとしてしまうようなキスを、サンジは濃厚にしかけてきた。 サンジのキスは激しくて、情熱的で、ついうっとりしていたゾロは、サンジが体重をかけてくるままに、ベッドにぱったり倒れてしまった。 「ゾロ、好き……。」 サンジは甘ったれた声でささやいて、ゾロの両頬を手で挟み、ちゅっちゅっと音を立てて顔中にキスしてくる。 緩んだ、嬉しそうな顔をしているサンジがとても可愛くて、ゾロも胸を甘く高鳴らせながら、のしかかってくるサンジの体をそっと抱きしめ、髪にふれた。 サンジ一人くらいに乗られても、ゾロにとっては何でもない。むしろその重みが心地よく、金髪からうなじ、背へと指を滑らせると、サンジの手も、ゾロの体をまさぐり始めた。 首や肩を撫でた手が、ぐい、と、バスローブの合わせを広げた。 あれ、と一瞬思ったが、耳にふれてくる唇のくすぐったさに気を取られる。 「大好き、好き、ゾロ。すごく好き……。」 サンジはゾロの耳朶を甘噛しながら、熱っぽくささやいた。興奮のせいなのか、どことなく舌ったらずに感じる睦言に、ゾロの胸がきゅんとなる。 その胸元を這っていたサンジの手が、ゾロの乳首を摘まんだ。 「うわっ!? ちょ、ちょっと待てコック…っ。」 何かおかしい、と、明確に気づいたゾロは、サンジの肩を押し戻した。 「何だよお、……どしたの、ゾロ。今更いやなんて云わせねえよ?」 「やじゃねえけど……けど……、なんか変じゃねえか?」 「何が?」 サンジはきょとんとしているが、明らかにおかしいところが確かにあった。 「おまえ……、まさか、もしかして、おれを、抱く気、か?」 ゾロの変な期待のせいでもなく、単にサンジが積極的なだけでもなく。 ゾロはサンジのそういう意志を、感じたような気がした。 「そうだよ?」 そしてサンジは、ゾロが何を焦っているのか、全く判らないというような顔をして答えた。 そんな様子もとても可愛かったが、ときめきまくっている場合ではなかった。 「え、なんで? ゾロって、おれに抱かれたいんだろ? なんでそんなこと云うの?」 サンジは疑問符を発しまくりだったが、ゾロは、真っ赤になって真っ青になって、もう一回真っ赤になった。 「え、待って、ゾロ、おれを抱くつもりだった? でもゾロ、おれに抱かれたいよね? おれに抱いてほしいんだよね?」 「……そんなに連呼するな……。」 ゾロはうろたえきって、顔は熱いのに指先が冷たくなって、とにかく動揺しまくっていたのだが、サンジが図星をついた言葉を何度も云ってくるものだから、恥ずかしくてどうしようもない。 きょとんと目をまんまるくしているサンジはとても可愛い筈だから、ゾロはそれを見たかったのだけれども、今はどうしても顔が上げられなかった。 うつむいてしまったゾロを、サンジはぎゅうっと抱きしめ、こめかみのあたりに頬をこすりつけてくる。 「云えよ、ゾロ。おれに抱かれたいって。」 「……何で、知ってる。」 「何でって。」 えー、と、サンジは、驚いたような不満なような声を出した。 「だってゾロ、おれに抱かれたくてたまんねえって目ぇしてたもん。」 「し、してねえ……。」 反論の言葉を、はっきり口にできなかった。 「してたよ。おれに抱かれたいって目が云ってた。ううん、目だけじゃなくて、全身でおれを欲しがってた。」 サンジはゾロの髪を引っ張って顔を上げさせ、強引に視線を合わせてきた。
ゾロの本当の気持ちを暴いていたその視線に、心の奥底までをさらに見据えられているような、そんなしびれがゾロを襲う。 「おれも、ゾロを可愛がりたかった。大好きだよ、ゾロ。抱かせて。ゾロも、おれを欲しいって云って。」 ささやく声は甘ったるくて、ゾロを見つめる表情だって、いつものようにとっても可愛らしくて鼓動が跳ね上がるのに。 表情とは裏腹に、サンジは雄の目をしていて、ゾロは息を詰まらせ、激しく全身を震わせる。 「コック、……好きだ。おれは、てめえに、抱かれてえ……。」 体だけでなく、心までしびれるような興奮と喜びとともに、ゾロはサンジに促され、正直にそう打ち明けたのだった。
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2010/10/24 |
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