ゾロに、ひとりえっちの最中に踏み込まれた。 それが全ての発端であったとサンジは思う。 狭い船内での集団生活、それぞれの激しくプライベートな時にうっかり踏み込んでしまったり、そうでなくても何となく察したりするところまでは、サンジだってよくあることだ。 確かにダイニングなどでしているサンジにも多少の非はなくもないが、深夜のキッチン&ダイニングは、半ばサンジの場所のようなもの。普通ならば、こっそりと気配を消すなり、見なかった振りをするなりして、その場から急いで立ち去るのがエチケットだと思う。 「……どっか行けよ。」 なのにゾロは、視線を逸らすこともしない不心得者だから、サンジは邪魔をされた不愉快さを全く隠すこともせずに低い声を出した。 「お楽しみ中か。」 しかしゾロは、ずかずかと中まで踏み込んで来さえする。 そして、ソファの上に広げたままのサンジの雑誌をちらりと見て、憎たらしいほど表現豊かにふんと鼻を鳴らした。 「おれのジェニーちゃんに文句あるのかよ!」 「くだらねえな。」 ゾロは勝手に雑誌を閉じて放り投げると、それがあった場所、サンジのすぐ隣に、ソファが大きく揺れるほどの勢いで、どっかと腰掛けた。 「な、なんだよっ!」 「手伝ってやる。」 「ぎゃあああああああ!!!!」 伸びてきた手にむんずと自身をつかまれ、サンジは絶叫した。 ゾロに見られて幾分元気をなくしていたサンジのものは、ゾロにそこを握られたショックと、他人に扱かれる快感を差し引きした結果、ぐいっと大きく頭をもたげた。 「……ふーん。」 「て、てめ、何のつもり……、や、あっ、待てっ。」 不本意ながらも感じてしまいつつ、サンジはじたばたと抵抗した。ゾロの腕をつかんで爪を立てる、が、仕返しのように濡れ始めた先端に爪を立て返されて、力を緩めるしかない。 「人の親切は素直に受けとっておけ。」 「何が、親切……、んんっ。」 自慰にもずいぶん飽きてきていたところだし、人の手の感触が、技術に関係なく気持ちいいのは確かだが、それ以上のなんかやばいことをされてしまうのではないか、――――ぶっちゃけこのまま犯されてしまったらどうしようという不安で、サンジは素直に快感に浸れない。 そんなサンジの肩を、ゾロがぐいっと引き寄せた。 「力抜けよ、コック。……気持ちいいだろ。」 耳にかすかに唇がかすめる、そんな距離で、吐息のような声を吹き込まれた。 同性の声だというのに、耳を震わせる声がひどく官能的に響く。 「…んっ、あ、ああ…っ。」 サンジは全身を大きく震わせ、ゾロの手の中に放ってしまった。 口惜しいことに、大変気持ちがよかった。 「手ぇ洗ってこいよ。」 サンジは肩で大きく息をつき、てのひらをまじまじと見ているゾロに云う。 「……てめえにもしてやった方がいいのか。」 そして、不本意ながらも、不届きなことをされるよりは多少はましと、お礼の提供を申し出たのだったが。 「今日はいい。次、頼む。」 ゾロはあっさり答えると、すっと立ち上がって、ダイニングを出て行ってしまった。 ちらりと見た様子では、どうもゾロは前を膨らませていたように思うのだが。 サンジも引き留めてまでしてやりたいとは思わないので、何も気づかなかったことにしておく。 今のは何だったんだろう。ゾロはどういうつもりたったのだろうと、サンジは頭をかきむしって、ぎゃーと叫んだのだった。
「するか?」 一日あいた、波の穏やかな静かな夜。 明日の仕込みをするサンジのところにやってきたゾロは、キッチンの方に入り込んできたかと思うと、ぐいとサンジの肩を抱き寄せ、ささやいた。 「えっと……、抜き合い?」 心臓をばくばくさせ、冷や汗を垂らしながらも、サンジは一応確認しておく。 扱き合うところまでなら、サンジもまあいいかなあと思う。圧倒的に男の多い船乗りの世界では、よく聞く話でもあるし、とにかくサンジは気持ちのいいことには弱い。 けどやっぱり、そのままゾロに押し倒されて、あんなところにあんなものを突っ込まれるなんてまっぴらだ。 内心はびくびく、けれどもそれをゾロに知られるのも癪に障るので、サンジは仕込み中の食材の方にばかり視線を向けながら、精一杯適当にゾロに聞いた。 「てめえの好きなとこまででいいぜ。」 「あー……そう?」 とりあえず、サンジが嫌がれば、それ以上のことはされなさそうだ。 「なら、終わるの待ってる。」 「お、おう、じゃあ酒一本だけ飲んでてもいいぞ。」 「持ってきた。」 ゾロはにやりと笑って、下のアクアリウムバーから、こっそり持ってきていたらしい酒瓶をちらりと見せた。ちゃんと、ゾロが飲んでもいいということにしてある酒だ。 よし、とうなずいて、サンジは冷蔵庫から、つまみになりそうなものをちょっとだけ出してやる。 出してから、これだとこの後のことを楽しみにしているように思われてしまわないかと心配になったが、ゾロは皿を受け取って、テーブルの方に行ってしまう。 この夜は、おそるおそるだったが、サンジもゾロのものにふれてみた。 サンジの手淫に快感を示し、絶頂に達するゾロの姿には、それはもう様々な方面に、サンジに衝撃を与えた。こんな顔をするのか、とか、声聞いちゃったよとか、好奇心は全開だ。 正直なところ、ゾロの手つきは、一回目の驚愕をすぎると、そんなに対したものではなかったけれども。 よりにもよってあのゾロと、こんなことをしあうという刺激的な快感に、サンジはすっかりのめり込んでしまった。
一番の急所でもある箇所を握り合う仲になったせいか、ゾロとの間に、奇妙な馴れ合いや親しさが生まれてきたような気がする。 気軽に性欲が発散できるとなれば、サンジの方からもゾロを誘うようになった。 昼間は今まで通りに、何かとちょこちょこ絡み合っては、ど派手に喧嘩をしあう仲のままだが、夜は仲良く酒を飲んだりもするようにもなった。どちらかがその気になれば、そのまま抜き合いになだれ込むのだが。 「おっぱい揉みたいなー。」 サンジの洩らすこんな言葉だって、ゾロは以前ならば嫌な顔をしてさっさと席を外すか、嫌味のひとつふたつも口にした筈なのに、今は真面目に聞いてくれている。 「揉んでいいぞ。」 ゾロはサンジの手首をつかむと、自分の方にひっぱった。 そしてサンジの手のひらを、ゾロは自分の胸に、ぴったりと押し当てたのだった。 しかももう一方の手もだ。 「……なに。」 サンジの手は、ゾロの手とゾロの胸に挟まれ、上から導くようにぐりぐりと回し押される。 「好きなだけ揉め。ナミやロビンほどは膨らんではねえけど、ぺたんこでもないだろ。」 確かにAカップ、いや、もしかしたらBカップくらいはあるかもしれない、立派に盛り上がった胸筋ではあるけれども。 「胸囲としてはそんなに変わらねえかもな。」 それは確かに、と、サンジは今初めて、自分の眼力が男のスリーサイズも見て取れることを知った。けれども全く嬉しくない。 「えーと……。」 呆然としながらも、ついうっかり、サンジはぐにぐにと無意識に指を動かしていた。 がちがちだと思っていたのだが、厚みたっぷりの胸筋は意外と弾力があり、揉み応えがあって指に力がこもる。 しかしその揉み心地の良さは、レディの胸の揉み心地の良さとは違う種類のものである。 そのうえ、何度も洗われて生地の薄くなってきたシャツは、ゾロの体温やら、その下のちんまりした突起の存在やらを、不必要に克明にサンジの手に伝えてくるのである。 半ば魂を飛ばしながら、ゾロの胸を揉み続けるサンジを見て、よし、とうなずくゾロは、たいへんに満足そうだ。 正確に云えば、サンジを満足させていると思っているゾロは、大変に満足そうだ。 たぶん好意なのだろう。 男の胸を、おっぱいという、甘くもときめく言葉で表現するのは、絶対に間違っているとサンジは断言するけれども。 今更手を離すに離せず、サンジは冷や汗をだらだらと流しながら、ゾロの胸をもみもみし続けたのだった。
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