たぶん好意の筈なのである。 もしかしたら、実はゾロは、男が大好きだったとかいう可能性もなくはないのだが。 「しゃぶってやる。」 ゾロは驚くほど積極的で、サンジが引く勢いで、あれやこれやをしてくれる。 この時も、一度出しただけでは足りずにもう一回をねだったサンジの足の間にいきなりうずくまったかと思うと、何の躊躇もなくサンジのものをくわえたのである。 快感と驚きにじたばたしてしまったのは、最初に手を出された時とおんなじだった。 そしてうろたえつつも、その快感にはまってしまったのも。 何でゾロはこんなことまでしてくれるんだろう。……やっぱりもしかしてホモ? と、サンジの心には何度も疑惑が走っていたが、それを質問してうなずかれてしまうのも怖い。 ゾロは熱心にサンジのものを舐めしゃぶり、そして、サンジが吐き出してしまったものを、ごくりと音を鳴らして飲み込んだ。 ただでさえ、人にそこを舐められる快感は強いというのに、ゾロは刀をくわえて剣を振るえてしまうような、強靱な顎の力を持つ男である。サンジが達するまで微塵も疲れを見せない力強い舌の動きと、吸引力の心地よさと云ったらない。 技術としてはたいしたことはないのだが、あったらあったでそれは嫌だ。ゾロは時折えづいたり咳き込んだりするくらいにサンジのものを深く頬張り、一生懸命に奉仕してくれる。 「……なあ、おれも、クソマリモの、舐めてやった方がいいの……?」 それはもう、一方的にされているのが申し訳なくなるほどだったので、サンジはおそるおそる、ゾロにそう聞いてみた。 「てめえの手は器用だからな。したいんならしてくれてもいいけど、無理はしねえでいい。」 うなずかれたらどうしようとびくびくしていたサンジだが、ゾロがそう云ってくれたので、遠慮なくお言葉に甘えて、口ではしないことにした。 それに。 「おれの手、気持ちいい?」 褒められたのに気をよくするサンジに、ゾロはこくんとうなずく。 「おれは右手とは、たまに合う知人程度なもんだけどな。てめえとてめえの右手は、いつでもべったりの大親友なんだろ。かないっこねえよ。」 「…………それは一体、どういう意味かな〜?」 褒められたと思ったのは、大変な誤解だったようだ。 なんだかものすごく失礼なことを云われたような気がして、こめかみをぴくつかせるサンジに、ゾロは無言でにやりと笑って返した。 「てめえ、このやろうー!」 「はははははは。」 思わず出る足をゾロは大笑いしながら避けて、もう一回サンジのものをくわえてくれた。 ので、何となくうやむやになったりしたのだった。
仮説としては、大きく二つに分かれるのだが。 ゾロがどっちなのかと気になりつつも、きっぱり聞いてしまえないのは、うかつに聞いて、せっかく手軽に楽しめる関係を無くしたらやだなあと、勿体ない気持ちが沸いてしまっているからだ。 けれども、頼めばゾロは、何でも聞いてくれるような気がとてもする。 「手とか口も気持ちいいんだけどさー、やっぱりたまには、穴に入れたいよなー。」 なのでサンジは、できる限り軽い口調で、ゾロにそう云ってみた。 「いいぞ。」 案の定ゾロは、サンジの方がうろたえるくらいにきっぱりあっさりと、脚を開いてくれたのだった。 こうも簡単にそこを許してくれるとなると、やはりゾロは男に慣れているのだろうか。 けれどもここで余計なことを云って、ゾロにやっぱり嫌だと云われたくないという、そのくらいの計算はとっさに働いた。 そしてサンジはいそいそと、ゾロに挑んだのだったが。
こんなにあっさりOKするのだから、少なくても確実に、経験者だとは思っていたのだ。 「ちょっと、なあ、ゾロ……、おまえ、初めてなんじゃ……。」 なのに、ゾロに急かされるままに、中と自身にクリームを塗り付け押し入った奥は、ひどく狭くて固かったのだ。 苦痛に表情を歪め、全身を強ばらせるゾロの中はぎちぎちにサンジのものを締め付けてきて、これでは正直サンジだって、痛いし動きようがない。 なのにゾロは、必死に苦痛を噛み殺し、懸命に呼吸を整えようとさえしている。 今までサンジは、余計なことは云うまい云うまいとしていたのだが、こればかりは飲み込み切れずに、そう口に出してしまった。 「……うるせえ。」 ゾロは額にびっしりと汗を浮かべ、眉間にくっきりしわを寄せ、そして、前のものを萎えさせてしまっている。 前を扱かれている時には高熱を発する体も、今は妙にべたべたして冷たい。 「けどよ、……んんっ。」 やめようと、そう云おうとしたサンジの頭をゾロはぐいと引き寄せ、唇をくっつけてきた。 ゾロにキスをされたという衝撃に、サンジは言葉をなくす。 「余計なことばっか、うるせえ口は、塞ぐぞ。」 切れ切れに紡がれる声はひどく苦しそうで、にらんでくる瞳だって、苦痛に涙をにじませている。 「……ゾロ、てめえ、もしかして…。」 「黙れ。」 また、キス。 「ごちゃごちゃ云ってんだったら、も、いいから、動け。」 ゾロは冷たい汗にまみれた体を、サンジに押しつけてくる。 どうしてゾロは、こんなに苦しんでまで、サンジに体を開くのか。 考えられる理由はただひとつ。 性欲解消の為の振りをして、それすらもサンジばかりを優先してきた理由なんか、ひとつしか思いつかない。 サンジはあえて、それを考えないようにし、余計なことも云わないように努めてきたけれども。 正直、ショックではあったが、それ以上に胸が熱くなってきて、サンジはゾロの髪をそっと撫でた。 緑の髪は汗を吸って湿っていたけれども、思いの外さわり心地はよかった。 「動くぞ、ゾロ。……つかまってろ。」 サンジはゾロの手を引いて、自分の背に導く。 ほとんど閉じてしまっていたゾロの目が、ぱっと開いた。 じっとサンジを見つめて、潜めた呼吸を静かに吐き出していた唇の両端が、わずかに上がる。 サンジはゾロの頭を腕に抱え込むように包んで、その額に、自分の額を擦りつけた。 ゾロの力が少し抜けたのと、サンジの体温でクリームが溶けてきたのとで、きつくて狭くても、どうにか動けそうだ。 精一杯にゾロを気遣いながら、サンジはゆっくりと、抽挿をはじめた。
仮説その1。ゾロは男が好き。 仮説その2。ゾロはサンジが好き。 正解は後者だと、明確に証明されてしまった。 あいつはおれが好きなんだなあ、と、一度自覚をしてしまったサンジは、ゾロが気になって仕方ない。 いや、今までも充分気にしてはいたような気もするが。こんなにも親密に肌を寄せ合ったりしていれば、情が沸いてくるのはとても自然なことだと思うし。 初めての交合は、ゾロにとっては痛くて苦しいだけの行為にしか過ぎなかった筈なのに、翌日などは随分と歩き辛そうにさえしていたくせに、ゾロはすぐにまたあっさりと、サンジに跨って来た。 「あの、でもよ……、ケツ平気?」 もじもじしながら聞くサンジのネクタイがひっぱられ、また、唇が重なる。 「いいから黙ってさっさとやれ。」 あれ以来、ゾロはサンジが何か云いかけるたびに、キスで塞いでくるようになった。 ゾロはキスがしたいのかな、と思うと、ついサンジはそのために、それまでは飲み込んでいた言葉を口に出し、あえて隙を作って待ちかまえてしまう。ただ唇が重なるだけの、拙いキスなのだけれど。 一度気付いて認めてしまうと、ゾロはひどく判りやすい。 こんながっしりした図体と偉そうな態度のくせに、いじらしいじゃねえかと思うと、前戯からきっちりしてやりたくなるのだが、それはゾロに拒まれる。 「互いに発散してるだけだろ。ちゃっちゃとやって、ちゃっちゃと出せばいいんだ。余計なことはすんな。」 確かに名目としては抜き仲間、やるようになったから、今はセフレか。 けれども、それじゃ淋しいじゃん……と、サンジはひどく不満になる 何度かしているうちに、ゾロはサンジに入れられていても、手でしてやれば達することができるようになったし、ゾロの中もサンジに馴染んできて、快感が増してきたけれども。 でも。 「ったくなあ、あのクソぼけマリモ……。」 サンジは昼間からも、ゾロのことを考えるようになり、そしてそのたびに、ため息が止まらなくなってきた。人に見咎められないよう、煙草をくわえて、かわりに煙を深々と吐き出す。 ゾロの奴。あのばか。おれが好きなら好きと云ってくればいいのに。 サンジはゾロと過ごした夜を、何度でも反芻してしまう。 懸命にサンジのものを頬張り、ひたむきに奉仕する時の顔。体内にサンジを受け入れて、しがみついてくる腕の熱さ。サンジを見つめる瞳と、わずかに上がって緩む口角。黙れと云いながら、サンジが何か云わないかと、待ちかまえるような唇。 サンジがこんなにゾロのことばっかり考えてしまう理由なんてただひとつだ。 サンジは完全に、ゾロにほだされてしまった。 体だけじゃなくて、心も、ゾロとつながりたい。 こうなったら仕方ない。待っていてもゾロからは何も云ってこないだろうから、サンジの方から気持ちを伝えてやるしかない。 サンジはそう決意した。 善は急げである。
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