|
ウソップが、また、ゾロを見ている。 その視線を、ゾロは痛いくらいに意識していた。 熱に浮かされたようなぼーっとした顔をして、ウソップはゾロを見ている。 ゾロが寄っていくと逃げるくせに、少し離れたところから鼻を覗かせて、ウソップはまたゾロを見るのだ。 その顔は真っ赤で、目が合うとはにかんだ笑顔を浮かべる。 時には小さく手を振ってくれることもある。 照れて笑う表情があまりにも可愛いので、ついふらふらとそちらに行こうとすると、またウソップは逃げていってしまうのだが。 昨日からずっと、ウソップはそんな調子だ。 一昨日の晩。 これ以上胸に秘めていられなくなった気持ちを、ゾロはウソップに打ち明けた。 すぐに答えを求めなかったのは、真剣に考えて欲しかったからだ。 今までにもそれとなくアピールはしてきたつもりだったが、ウソップがまるで判っていないことはゾロも理解していたし、せめてきちんと、そういう対象として意識をして欲しかった。 昨日の朝に顔を合わせる時にはさすがに緊張したものだったが、ウソップの様子を見て、嫌悪感さえないようならば、真剣に口説いていくつもりだったのだ。 しかし。 ウソップのあんな態度を見て、期待せずにいるというのは無理だ。 ゾロが告白するまで、本当にこれっぽっちも髪一筋ほども意識してくれていなかったのだろうと思うと情けなくもなるが、向けられる可愛らしい笑顔に、ゾロはとても嬉しくなる。 しばらくは待つつもりだったが、ウソップがあんな態度を取ってくれては我慢が効かない。 何度も逃げ出されつつも、ゾロはウソップを追いかけて、返事を要求するタイミングを狙っていた。
「返事をくれ、ウソップ。」 船の柵に追い詰め、ウソップを両腕の間に置いて柵をつかんでしまえば、当座の逃げ道はとりあえずふさげる。 「ごめん、もうちょっと待ってくれ。」 ようやくウソップを捕まえたゾロだったが、返ってきたのはそんな答えだった。 真っ赤になって、もじもじと自分の指を弄んで、ちらりとゾロを見ては嬉しそうに笑って。 そんな態度を取っておきながら、どうして返事をはぐらかそうとするのか。 惚れた弱みと俗に云うが、まさに今自分はその状態で、ウソップにからかわれているのではないのか。 胸によぎった疑惑に、ゾロの視線はきつくなってしまったようだ。 ウソップがうろたえるのを感じ、ゾロは懸命に気配を和らげようとする。 ここで怖がらせてしまってどうするというのか。 しかしウソップは、身を引こうとするのではなく、逆にゾロへちょっと寄り添ってきた。 少しうつむいた長い鼻先が、ゾロの肩にちょこんとふれる。
「おれも、ルフィの返事待ちなんだ。だから、もうちょっとだけ待っててくれ。」 思わず抱きしめようとしてしまっていたゾロだが、意味不明のウソップの言葉に、動きを止めた。 「……何の返事だ。」 「えー、だから、この船では、船員同士の恋愛はOKですかって……。」 「………………。」 ゾロは言葉を失った。
「どうせあれだろ、お前、そんなとこまで考えてないだろ。だからおれが、ルフィに許可取りに行ってやったんじゃないか。」 ウソップは真っ赤になりながら、ゾロを睨んだ。 「ルフィもびっくりしてたみたいだからちょっと待ってくれって云われたけど、多分ダメってことはないと思うからさ。ゾロももうちょっと待てよな。」 揉め事の原因になりやすいから、船内恋愛禁止の船も少なくないらしいのは確かだが。 ゾロは思い切り、ウソップを抱きしめていた。 「だああっ!てめえ、待てって云ってる矢先からなんだよ!」 「待てねえよ。」 やばい。嬉しい。 このままウソップを物陰に引きずりこんで、どうにかしてしまいたい衝動を、ゾロは懸命に堪える。 腕の中でウソップがじたばた暴れる感触すらいとおしい。 「ルフィにOK貰ったら、すぐに返事するから!もう少し待てよゾロ!」 「待てねえっつってんだろ。」 ゾロはむぎゅとウソップを抱きしめる。 そして惜しみながら離すと、ウソップの手首をがっしり持って引きずり始めた。 「こ、こらゾロ、どこ行くんだっ。」 「ルフィんとこ。」 ウソップはほとんどゾロにOKを出しているようなもので、ならばルフィの許可が出るのをのんきに待ってなどいられない。 ゾロからも直談判すべく、急いでルフィを探しに行き、許可をとりつけようとしたのだ。
船の中をぐるぐる歩き回り、アクアリウムバーで生け簀の水槽を眺めているルフィをようやく見つけた。 「ルフィ、話がある!」 「おう、何だ、ゾロ。」 ルフィはぺたんと床に座って、珍しく何か考えているらしい雰囲気だったが、ゾロにそれを気にしている余裕はない。
「おれとウソップの、船内恋愛の許可を寄こせ。」 「ぎゃあああああ!」 堂々と云い放つゾロに、ウソップは真っ赤になって大声を上げた。 盛大に照れるウソップも可愛いとゾロは思いつつ、とにかくルフィに詰め寄る。 「んー……。」 しかしルフィの反応がはかばかしくない。 ルフィらしくないためらうような表情に、ゾロはむっとし、そしてウソップは心配そうな顔になった。 「なあ……どうしたんだよ、ルフィ。だめか?そういうの、嫌か?」 ウソップはルフィの隣に座り込む。 「……気持ち悪い、か?」 「んなことねえ!」 不安そうなウソップに、ルフィは強く否定した。 そのままぎゅっと、ルフィはウソップにしがみつく。 ルフィがスキンシップ過剰なのはいつものことなので、ウソップも自然にルフィを抱きしめ返したのだが。
「おれも、ウソップのこと好きなんだ。」 「…………ええっ。」 ルフィの言葉に、ウソップは声をひっくり返し、ゾロは思わず刀に手をかけてしまった。
|
2008/10/17 |
|