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ゾロがウソップを誘ったのは、多分、一番手頃であり、無難だったからなのではないかと思う。 気心は知れているし、安心できる相手だし、仲も良い。 好奇心は強いから口ではどうこう云っても、強く押せば乗ってくるのではないかと思った。 そして事実そうなった。 元々器用な奴だったから指遣いはかなり上手だったし、いちいち恥ずかしがる様子も気に入っていた。 もちろんゾロは自分だけが満足するつもりもなかったから、ウソップのことも充分に良くしてやっていたつもりだったし、大事にしていたつもりだったし、仲良く楽しんでいたつもりだった。 とはいっても、娼婦相手とはいえ経験はあったゾロなので、扱くだけではすぐに物足りなくなりもしたが、更に押したら最後までやらせてくれたので嬉しかった。 ウソップが怖くないよう、痛くないように、日数をかけて慣らしてやったし、ウソップもすぐに後ろで感じることを覚えて気持ち良さそうにしていたから、ゾロはとても満足していたのに。 なのに突然、ウソップにやめたいと云われて、ゾロはあっけにとられていた。 仲間としてだけではなく、好きになってきてしまったと。 だから今のうちにやめたいのだと、そう云われたのだ。 ガキでごめん、と、ウソップは泣きそうな顔をして、ゾロに謝っていた。 ゾロにはよく判らない。 ウソップの気持ちも、そもそも恋愛とやらについても、ゾロにはあまり理解できない。 ただ、嫌だというのに、無理強いするのは嫌だったから。 ゾロがどんなに押しても、ウソップが引かないということだけは、試すまでもなくその目を見たら判ってしまったので。 やめたいというウソップの申し出を、ゾロは仕方なく呑んだのだったが。
それから数日。 ゾロはやたらと、苛々していた。 修行をしていてもなかなか集中できずにいるのが、また苛立たしい。 たまっているのかと、考えた。 それほど長い期間ではないとはいえ、ウソップと存分に処理し合っていたので、数日程度でもイラつくようになってしまったのだろうか。 その前までのように、運動で発散するか、適当に自分で処理するかしておけばいいと思ったのだが、それでもどうにも静まらない。 精神修養の足りない証拠だ。 どうにも苛々してしまって、ナミには顔が怖いと嫌がられるし、サンジとの喧嘩もかなり増えていた。 そうするとどこかしら船を壊してしまうので、フランキーとウソップが怒る。 「ほんっとにこりねーな、ゾロもサンジも! 喧嘩するのはいいけど、サニーを壊すんじゃねぇ!」 ウソップに怒られて、ちょっと気持ちが落ち着いた。 ウソップはあれ以来、全然ゾロに近付いてこない。 けれどウソップは、フランキーを熱心に手伝って2人で真剣に修理をし始めてしまったので、ゾロは思わずサンジを見た。 「もうやらねーよ。レディ達に茶ぁ入れねーと。」 なのに何のつもりか、鼻で笑ってキッチンへと戻ってしまう。 ゾロの苛々は増すばかりだ。
最近、ゾロがまともにウソップの顔を見れるのは、食事の時くらいだった。 そのことに、何だかひどく違和感を感じる。 今までは、当たり前のようにいつも、ゾロの視界の端に長い鼻が揺れていた筈だ。 それなのに、昼寝から起きると近くにいたとか、串団子を振っていると側に来て数えていたとか、そういうことが突然なくなってしまえば、いかにゾロでも違和感を感じるのは当然なのかもしれない。 ルフィやチョッパーと騒ぎながら、船上を駆け回っている声が聞こえる時も、通りすがりにゾロをつついたりすることも、きっぱりとなくなった。 ウソップの好きそうなおやつが出たので、半分分けてやろうかと思っても、もうそれはきっと、ウソップはいらないのだと気付く。 もちろん、ウソップからねだってくることも、料理に混ざったきのこを食べて欲しいと、すがるような眼で見つめられることももうない。 用があれば普通に声をかけてくるけれど、ふざけてくっついてくることもウソップはしなくなった。 ウソップは全然ゾロに近付いてこなくなったし、ゾロが近付くとさりげなくかわす。 確かにウソップは、ゾロと距離を空けたいとは云っていたけれど、しかしこれでは空けすぎだ。 大体どうして、ウソップがゾロを好きになったからと云って、離れなくてはならないのか。 それがゾロには理解できない。 好きでいればいいのに。側にいればいいのに。 なのにウソップはゾロに近付こうともしない、ろくに顔すら見せないから、だから、ゾロは苛々するのだ。 苛々するだけじゃなくて、多分、ゾロは淋しいのだ。 ウソップが、ゾロの側にいないから。
――――――って、ちょっと待て。
らしくもなく色々と考えていたゾロは、自然に浮かんできた気持ちに、愕然とした。 もしかして。これはつまり。
好きになっているのは、ウソップじゃなくて、おれの方なのではないのか!? ……と。 ゾロは突然、思い当ってしまったのである。 あまりの衝撃にしばし呆然としてしまったが、しかしゾロは、不必要なところで非常に潔かった。 気付いてしまったのならば仕方がない。 自分はウソップに惚れていたのだと、それを受け止めたのである。 けれどそれならば、自分とウソップは両想いではないか。 ……と思ったが、良く考えたら違った。 ウソップはあくまでも、「好きになりかけている」と云ったのである。 ウソップは内省の激しい奴だから、踏み込み過ぎないうちに自分の心に気付いて、早めに歯止めをかけたのだろう。 しかし、ウソップが離れるまで、自分の心の内側など見ようとする筈もなかったゾロは、もう手遅れだ。 「だーっ!!」 ゾロは思わず声を上げ、頭をかきむしった。 自分がいつから、ウソップに惚れていたのかは判らない。 けれど今それは、然程重要なことではない。 大切なのは、ゾロがウソップに惚れているという事実だけだ。 そんなことより、急がないと、ウソップがゾロを好きなのをやめてしまう。 それでは、ウソップにゾロへ惚れてもらうには、どうしたらいいのか。 そこでゾロはまた、髪をかきむしり、それでは足りなくて思い切り頭を抱え込んでしまう。 恋愛なんてしたことがないから判らない。 この船で恋愛と云えばサンジだが、あれに相談するのはゾロは嫌だし、そもそもその相談をしている時間さえも惜しい。 今この瞬間も、ウソップの気持ちがゾロから離れていっているのならば、一刻を争う事態なのだ。 「…………そうだ。」 散々唸って、ゾロはふと気付いた。 ウソップはゾロと肌を合わせているうちに、好きになってきたと云ったのだ。 だから、これ以上好きにならないように、体の関係を持つのをやめたいのだと。 ならば、つまり。 もっとたくさんすれば、ウソップはゾロのことを好きになる筈だ。 ウソップがゾロと同じくらいの気持ちを持ってくれるようになるまで、好きになりかけではなくしっかりと惚れてくれるまで、存分にやればいいのだ。 「よし!」 名案を思い付いたゾロは、一人大きくうなずくと、早速ウソップを探し始めた。
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2008/11/01 |
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