2007.11.22.

アルバイトリンド
03
一月二十日



■ 2

「しかし本当ならショックだなぁ…」
「私だってショックだったよ。八木先生にはいろいろさ、ゼミやテストの時親身に教えてもらってるしさ。信じられないよ。…あんな男達に八木先生盗られるの…なんか癪…」
ミミはいらだった様にテーブルに爪を立てていた。
爪のコーティングがキラキラ光って波打った。
「お前、まさかヤキモチ焼いてるんじゃないか?」
「え? なんでよ。」
ミミは少しふくれた。しかし一瞬慌てていた。
「うそうそ。だけどなんか今の本気っぽかった。」
「これは肉親の愛に近いの!」
ミミはさらにふくれた。
「あぁ、分かったよ。…と、ところでなんの話がしたいんだい?」
「え? …あぁ、そうそう、ねぇリンちゃん? バイトしない?」
「え? なんの?」
「私のお話のアルバイトよ。」
「え? 何それ?」
まったくチンプンカンプンだった。

「一年後…」
ミミは食べかけのチーズバーガーを剥きながら呟く。
細く白い指先。
綺麗なピンク色の爪がチーズの油に濡れて光っている。
今度はいたずらにちぎり始めた。
ちぎったものを口に入れる。
閉じた唇の合わせ目にミミの唾液が沁み出している。
「え? なんだよ。一年後って。」
「リンちゃんの裸。」
「え?」
「ホウラ、約束してるでしょ?」
「あぁ、セックス?」

「セックス」の所だけ声をひそめた。

「その前にさ、リンちゃんの裸だけ見たいんだ。」
「えー?」
「それがバイトよ。」
「なんだよ、僕の裸の絵でも描くの? それともヌード写真かい?」
「まぁ、近いかな? でも違う。」
「じゃ、裸になって何するの?」
「ただね、仰向けに寝て…」
「仰向け? …で? 何すんの?」
「顔隠してね。」
「えー?」
「うーん、もう一人ね、裸の人がいるの。」
「僕以外にかい?」
「うん、そう。」
「それって誰だよ?」
「うーん…」
「もったいぶるなよ。」
「先生かも知れない。」
「せんせい?」
「うーん、八木先生。」
「えー?!」

また八木先生の顔が浮かんだ。
あの時の驚いた顔…

「驚愕と目?」
「はい、驚愕と目の関係。」
「驚いたら目が見開くってことねぇ…」
「えぇ。」
「それをどう考えるの?」
「先生…」
「はい?」

しかし本当にまったりした女の人だ。
その話し方といい身体といい。

「先生は真剣に聞いてくれるんですね?」
「え?」
「いや、こんな突拍子もない質問に怒りもせず。」
「でも土林君は真面目に聞いてるんでしょ?」
「いいえ、自分自身が質問の意味分かりませんよ。」
「え? え?」

質問…それは質問をきっかけとした告白への質問だった。

「実は僕、先生とこうして二人きりになりたかった。」
「え? どういうこと? よく分からないわ。」
「いやただ…先生とこうしてただ向き合って話したかったんです。ごめんなさい。」
「困ったな…」

先生は困惑した表情で唇を噛んだ。

「どうしていいか分からないわ。ねぇ土林君、先生どうしたらいいんだろう?」

なんてまったりした質問だろう? 質問したこっちが困ってしまう。

「え? こっちも困っちゃった。」
「え? 困っちゃったの?」
「うん、困っちゃった…」
「ふたりとも困っちゃったね?」
「本当だ。」

思わず笑ってしまった。途端に力が萎えた。ここで終わりだと思った。ところが先生はここが始まりだった。
次の瞬間、先生の真剣な目が視界に入った。真剣? それとも好奇だろうか? でもなんか怯えている様でもある。

「ねぇ土林君?」
「はい。」
「今日はびっくりしたからこれでお終いにするけど、この次場所を変えて考えましょう。」
「え?」

先生はそれだけ言って
「ごめんね、次の講義に行かなきゃならないから。」
と言って足早に教室を出て行った。
それ以来まだ会っていない。

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「土林君にさ、告白されたような感じなの…」
「え? リンちゃんに? …ですか?」
「うん…あ…あぁ…そこはダメって言ったのにぃ…」
「そう言われるから責めたくなるの…それになんか癪。」
「そんな…あ…」
「先生綺麗よ…」
「ミミちゃんの舌って長いのね…」
「またお豆舐めようか?」
「あ! いや…でも…少ししたらして…ちょっと息したい。」
「先生は好きなの?」
「え? 何を?」
「リンちゃん。」
「分からない。ただ驚いただけ。」
「分からないなんて…ミミを好きなんでしょ?」
「違うわ。ミミは同性。彼は異性だから。」
「先生は異性が怖いって言ったじゃない。だからミミがこうして…」
「あ…まだダメよ…そこはダメだってば!」

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「リンちゃんは先生と寝たいと思わない?」
また唐突にミミは言う。
「正直言うと…そうだな。」
「だったらこのバイト黙って受けて。」
「なぁミミ。」
「え?」
コーラを飲みかけていたミミは手を止めた。
「ミミもやっぱり先生好きなんじゃないのか?」
「しつこいなぁ。私は悔しいの。」
「何がさ?」
「先生をあんな安っぽい男の子達に渡すくらいならさ、リンちゃんと寝かせたいのよ。リンちゃんもその方がいいでしょ?」
「しかしあんまり話が飛躍してないか? なんか焦ってるみたいに思えるぞ、ミミ。」
「焦って…」
ミミは急に言葉を切って斜め下を見た。瞬きが激しい。
そのままその一点を見つめている。何かをこらえている様な感じがする。
「あ、いやごめん。うん、たしかに先生と寝られたら嬉しい。」
「じゃ…」
ミミは顔を上げた。
「じゃ、私の創作に付き合ってくれる?」
「あぁ、いいよ。なんかよく分からないけど付き合うよ。」

目の前には被せられたハンカチの柄。
ちょっと寒いなぁ…
いつまでこんな格好で仰向けに寝てなきゃなんないんだ?
ちょっと恥ずかしい。素っ裸だもんなぁ…それに手も足もハンカチで縛られてる。
僕のあそこはどっち向いて垂れてるんだろう?
ミミ…なにしてんだよぅ…



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