2013.11.30.

ボクとアイツと俺
002
木暮香瑠



■ 幼馴染から恋人へ2

 土曜日の午後、圭一は志穂にショッピングにつき合わされていた。
「昨日はゴメン。今日はボクが奢るよ」
 昨日、あんなに落ち込んでいた志穂だったが、今日はいつもの元気を取り戻していた。ショッピングというのは口実で、二人の初体験を自分の臆病が原因で台無しにしたお詫びをしたかったのだろう。

 ボーイッシュな志穂だが、カワイイ小物が落ちてあるファンシーショップや、洋服を見て廻った。カワイイ服を見つけては目を輝かせるが、『これはボクには似合わないな』と、やっぱりボーイッシュな服を手に取る。圭一は、幼い頃の志穂を思い出していた。十歳くらいの頃までは、カワイイ服を好んできていた頃の志穂を……。カワイイ服を、『きっと志穂に似合うよ』って言おうとして思い止まる。以前そう言ったら、志穂が泣きそうな顔でむきになって否定したからだ。それ以来、志穂のファッションについては口を出さないでいる。

「午前中は練習だったんだろ? 今年は優勝できそう?」
 もうすぐ始まるサッカーの県大会の話題を志穂が振る。ここ数年、圭一と志穂の通う繰古東高校は優勝を逃している。ここ三年は連続してライバル校・繰古西工業高校が全国大会に進んでいるのだ。校内では今年もダメかなという空気が流れている。そのような中、今年こそと練習に励んでいる圭一を連れ歩いてることに志穂は、少し罪悪感を感じていた。
「今年も西工との争いになるだろうな」
「やっぱり西工が強いの?」
 志穂は心配そうに圭一を見上げた。
「中学時代からの優秀な選手を集めてるからなあ、あそこは……。でもチャンスはあるよ、うちのチームはチームワークがいいから……」
 志穂の罪悪感を感じた感じた圭一は、心配を払拭するように言った。

「圭一、なかだし……ほ」
 志穂のお勧めスイーツを食べ、帰ろうと大通り歩いていると、後から二人に掛ける声がした。振り返った二人の目に180cmを超える大きな男が映る。176cmの圭一より一回り大きな男だ。
「ん? 宗佑」
「えっ? バカ佑……」
 声を掛けてきたのは、小学校・中学と同級生だった後藤宗佑だ。宗佑は二人の小学校からの幼馴染で、圭一と宗佑は中学時代、サッカー部で活躍した仲だ。圭一がミッドフィルダーで宗佑がフォワード、圭一がパスを出し宗佑がシュートを決める、そうして県の中学ベストイレブンに選ばれた関係だ。

 圭一は進学校でありながらサッカーの名門校の繰古東高校に志穂と共に進学し、宗佑はサッカーで県下一の呼び名の高い繰古西工業高校に進んだ。

「久しぶりだな、志穂。また胸が大きくなったんじゃないか?」
 宗佑は、頭を下げ志穂の胸に視線を這わす。
「うるさい! ボクに話しかけるな」
 小学校時代に悪戯ばかりされた宗佑に敵意のある言葉を投げ掛け、顔をプイッと背ける。スカートを捲くられ、胸を触られ、何度泣かされただろう。ましてや、『なかだし、ほ』というとんでもないあだ名をつけたのも宗佑なのだ。
「おーーー恐、相変わらず俺には冷たいな」
 宗佑は、志穂の敵意など意に介さず悪戯っぽい笑顔を返す。
「志穂、もっと女の子らしい格好したらどうだ? お前、顔もスタイルもいいんだから、そうしたらもっともてるぜ」
 志穂の格好といえば、生足はさ晒しているもののショートのチノパンツに露出の少ない大きめのざっくりとした上着はボーイスカウトの少年といってもいい様なものだ。宗佑は、志穂の頭から足元までを嘗め回し言う。
「バカ佑には関係ないだろ! ボクはこの服が好きなんだ! それに、ボクには圭一がいるから、もてる必用なんてない!」
 志穂は、相変わらず視線を背けたまま答える。
「ほうーーー、お熱いことで……」
 宗佑は、志穂にはお手上げだとばかりに手を広げおどけた顔を圭一に向けた。

「今年はどうだ? まあ、今年も西工が全国大会、行かせて貰うけどな」
 宗佑は、改めて圭一に二人の共通の話題を話しかけた。
「今年はうちも強いぞ」
 繰古西工業高校は個人個人の能力ではダントツに上回っているが、一人一人が個人プレーに走り纏まりに欠けている。宗佑は強がっているが、そこを突けば東高にもチャンスはあると圭一は思っていた。
「県大会でうちが負けるなんて考えられないな。まあ、圭一がうちに来ていれば、もっと楽勝で全国大会へいけるのにな。全国大会でもいいとこ行けるんだけどな」
「それはこっちの台詞だよ。宗佑みたいに点の取れるヤツがいたら、うちが優勝間違い無しって言えるんだけどな」
「俺が東高に入れるわけねえだろ。俺の頭じゃ……」
 そう言って頭を指でトントンとおどけて叩く宗佑。しかし宗佑自身、同じことを考えていた。圭一のようにチームを纏め、周りの選手の長所をうまく使えるリーダーいれば……、自分に絶妙のパスを出してくれる圭一のような選手がいればと思っている。全員が自分が決めてやると思っている西工のサッカー部に嫌気が差していた。宗佑自身、自分が決めてやると一番強く思っている一人なのだが……。しかし、かつてのチームメートにそんな弱気なところは見せたくなかった。
「まあ、今年もうちが全国大会行かせて貰うぜ」
 宗佑はそう言い切った。

「お前たち、付き合って永いよな。もうやったか?」
 宗佑は、圭一の横で二人の会話に面白くなさそうに顔を背けてる志穂に会話を振った。
 圭一と志穂は、一瞬顔を見合わせ、そして同時に真っ赤になった顔を俯かせた。志穂はそういう手前までいき、自分が原因で最後まで出来なかったことを思い出し恥ずかしくて……、圭一は、裸の志穂の姿を思い出し、何も判らず突き進み自分の未熟さが志穂を恐がらせて最後まで出来なかったことを恥ずかしがり……。
「へえーーー、そうなんだ」
 宗佑の顔が一瞬曇る。二人の態度を見て、二人がもう初体験を済ませている関係だと思った。
「どうだった? 圭一のは……」
 宗佑は思いっきりの作り笑顔で冗談っぽく志穂をからかう。
「なっ、なにのこと言ってんだ? バカ佑」
 真っ赤の顔の志穂は、今にも殴りかかりそうな剣幕で知らないとばかりに口を尖らせる。
「おーーー恐。少しは女らしく喋れよ。そんな男女じゃ、圭一に嫌われるぞ」
「圭一はお前と違うんだ。いつでも僕に優しいもん、ふん!」
 宗佑は呆れた顔を作り、言葉を続けた。
「圭一のに満足できなかったら、いつでも俺のところへ来いよ。俺のはでかいぜ。満足させてやるぜ。志穂ならいつでも歓迎するぜ」
「バカ佑、本当に怒るぞ。ボクと圭一は絶対別れないから!!」
「そうですね。さあ、行った行った」
 宗佑は二人を追い払うように手を振った。
「じゃあな、宗佑」
 宗佑と志穂の二人の会話を微笑ましく見ていた圭一。宗佑の口の悪さと悪戯はいつものことで、悪気があるわけではないと知っている。圭一は志穂の手をとって歩き出す。
「決勝で待ってるからな。早々と負けるんじゃねえぞ」
「ああ、お前のところこそ油断するんじゃねえぞ」
 宗佑のエールにそう返し、志穂を連れた圭一は歩いて行った。

 二人と別れた後、宗佑は夕暮れの街を二人並んで去っていく圭一と志穂の後姿を見詰めていた。
「もう済ませたのか……」
 なぜか落ち込んでいた。
「二人が付き合っていたのは知ってるけど……、二人とも幼馴染だから祝福してやらないとな……」
 そう自分に言い聞かせる宗佑だった。

「よっ! 宗佑」
 宗佑に声を掛けてきたのは西工の不良グループの佐々木だ。どこそこの女子高生をレイプしたとか、酒を飲んで繁華街で大喧嘩をしたとか、何かと悪い噂ばかりのグループだ。
 宗佑に何かとちょっかいを出してくるものの、サッカー部を全国大会に送る立役者になるかもしれない宗佑に直接手出しをしてくることはない。サッカー部の連中ばかりが注目を浴びるのは気に入らないが、西工全体を敵に回す気はない。相手が手を出してくればいつでも相手になるつもりだが、様子見の状態が続いている。宗佑自身、ケンカには自身があり負ける気はしないが、それで全国大会をふいにする気はない。お互いが微妙な関係で対立していた。

「ん? あれ、東高サッカー部の小林じゃね? 隣の女は中田志穂じゃん」
 佐々木の取り巻きの棚田が、宗佑の視線の先のカップルを見つけ言う。
「あの隠れ巨乳って有名な?」
「そう、脱いだらすごいって噂だぜ、アイツ」
 同じくグループの大下と楠木が、両手を胸の前で大きくおっぱいの形を作りながら作りながらニヤニヤと卑猥な顔で笑いあっている。
「お前知り合いなの? ああ、中学は同じだよな、あの二人と……」
 佐々木は、圭一と志穂の後姿を見詰めながら言う。
「ああ、でもお前等には関係ないだろ?」
「そうだな。お前と関係なくてもいい女だな、あの志穂って女……。みんな行くぞ」
 佐々木達はそう言い残して裏通りの繁華街の方に歩いて行った。



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