2004.09.25.

虜囚にされたOL
02
木暮香瑠



■ 罠に嵌ったOL2

 時刻はすでに、約束の七時を過ぎている。しかしまだ、亮輔からの連絡は入ってこない。麻希は、この日のために買っていた衣装に着替え化粧も終え、不安な気持ちを抱きながら亮輔からの連絡を待っていた。

 携帯の着メロが鳴った。
「亮輔さんからだわ」
 麻希に、やっと笑顔が戻った。ディスプレーに表示された相手を確認することも忘れ、慌てて電話に出た。
「亮輔さん?……」
《 もしもし、太田産業の太田です 》
「えっ?!」
 電話は、太田産業社長・太田幸造からのものだったことに驚きの声を上げた。
《 麻希さんは、今日が誕生日だそうで……、おめでとうございます。小林さんは、私どもとの会議が長引いていましてね……、もうしばらく時間が掛りそうなんですよ。電話にも出れそうにないんで、私が代わりに電話した次第でして…… 》
 太田社長が携帯に電話を掛けてきたことに、麻希は疑問を感じた。しかし、太田産業で会議をしてることも事実だし、麻希の誕生日であることも知っている。休憩の間にでも自分の事が話題になったのかな? と思う。
「そ、そうなんですか……」
 麻希は、曖昧な返事をした。

《 お二人の大切な時間を犠牲にさせてしまったお詫びに、私に誕生日のお祝いをさせていただけないですか? 小林さんにも了解を頂きました。つきましては、バー・ヘブンまでおいでください 》
 二人だけで祝うはずの誕生日だったのに、どうして? という疑問が麻希を落ち込ませる。それも、あまり好きになれないタイプの太田社長と一緒なんて……。麻希に思案する暇を与えず、太田は携帯の向こうで喋ってくる。
《 小林さんも会議が終わり次第こちらに来られることになってますから。その後、三人でお食事でも……、有名なレストランに予約を入れておきましたから…… 》
「あっ、そうですか……。はい、判りました。すぐ、そちらに向かいます」
 麻希は、太田幸造から待ち合わせ場所に指定された店の場所を教えてもらった。亮輔から連絡が入ってこない以上、行ってみるしかない。それに、太田社長は二人が誕生日を祝うという亮輔との約束を知っていた。麻希は、亮輔が来る事に疑いを持たず、指定された場所に出掛けていった。

 店は、繁華街から一本裏に入った路地の外れにあった。一見すると、高級バーのような落ち着いたイメージの看板が、大人の雰囲気を醸し出している。分厚いドアを開け、中に入る。入り口は照明で照らされてるが、店内は照明が落とされ薄暗い。カウンターやソファーのあるテーブルにだけが、淡い間接照明で照らされている。これでは、隣に座った人の顔でさえ判らない感じの店だ。

 クラブやスナックには行ったことのない麻希には、初めて感じる緊張感だった。
(これが大人の雰囲気なのかしら……)
 緊張感を漂わせ、中をキョロキョロと見渡しながら歩を進めた。

 入り口を照らす照明に、ワンピース姿の麻希は浮かび上がる。普段は大人し目の服を好んで着る麻希だったが、今日は特別の日と、大人っぽいノースリーブのワンピースを着ていた。腰の絞込みが印象的な、肢体の線がはっきり判る衣装だ。胸元の抉りも大きめで、麻希を大人っぽく見せている。スカート丈こそ膝上10センチ程あったが、お尻から太股にピッタリとフィットし麻希の吊り上った相臀とスラリと伸びた脚の形がはっきり判る。
「麻希さん、こちらですよ」
 カウンターから太田社長の声がする。少し明るいカウンターを背に、大柄な男性のシルエットが浮かび上がっている。

(会社での清楚な制服姿もいいが、今日は一段と色っぽいぜ。俺の為にそんなにお洒落してきたのか? フフフ……)
 幸造は、いやらしく口元を歪めながら鋭い視線を麻希に投げかけた。しかしカウンターを背に座る幸造の表情は影になり、麻希からは窺い知ることは出来なかった。

 横に座った麻希を横目でちらちらと盗み見しながら、太田は会話を始めた。
「小林さんが来られるまで、ここで少しお酒でも呑んでしょう。フランス料理のお店を予約してるんですよ。小林さんが来られたら、一緒にそちらに向かいましょう」
 太田が告げたフランス料理店は、おいしいと評判の高級店だった。麻希も一度は行ってみたいと思っていた店である。太田が一緒の食事に気が進まなかった麻希も、なぜか少し嬉しくなってしまう。

 つい嬉しくなった自分を恥じながら、それを悟られまいと麻希は話題を変えた。
「会議の方は大丈夫なんですか? 社長さんが居なくて……」
「大丈夫ですよ、副社長がしっかりやってくれてますから。副社長って言っても、私の息子ですがね、ハハハッ……」
 取引が停止するかもしれない会議だと思っていた麻希には、太田幸造の脳天気さに驚かされる。太田の態度に疑問を感じながらも、麻希は太田との会話に相槌を打っていた。

「何になさいますか?」
 間接照明に照らされたお酒のボトルがずらっと並んだ棚を背に、マスターが麻希に声を掛けた。笑顔は作っているが、幅の薄い眼鏡の奥で鋭い光を放つ細い目が威圧感を与える。細い体をしているが、何か危ない雰囲気をもっている。
「わたし……、お酒はあまり強くないんで……」
「私はいつものヤツを……。彼女には、何か軽いカクテルを貰えないか?」
 何を頼めばいいか判らない麻希の様子を見て、幸造がマスターに注文をした。

 麻希の前に出されたカクテルは、細長いグラスに淡いピンク色をしたお酒が入ったものだった。ピンクのバラを思わせるお酒の中を、気泡が揺れながら上がっていく。麻希はその発泡酒を一口、舌の上に転がした。
「おいしい!」
 麻希の顔がほころんだ。酸味とグレープフルーツのような苦味、甘味がブレンドされ、炭酸が舌の上で弾けさわやかな口当たりだ。ジュースより大人っぽくビールほど苦くもない、お酒が苦手な麻希でも楽しめる物だった。

「美味しかったですか? それは良かった。それは『ピンク・ヘブン』と言って、マスターのオリジナルなんだよ。女性には一番のお勧めのものなんですよ」
 幸造は、麻希がカクテルを気に入ったこと喜び笑顔を見せた。
「もう一杯どうかね?」
「ハイ」
 麻希はカクテルのあまりの口当たりのよさに、お酒の弱いのも忘れ二杯目を口にした。

 麻希の目元がほんのりと紅く染まった。身体が熱い。
(酔ったのかしら? このカクテル、意外とお酒強いのかな?)
 何気ない会話を太田としていた麻希も、自分が酔ってきたことを自覚し始めていた。

 幸造は、麻希の様子を窺いながら会話を続けた。
「麻希さん、お酒に酔った顔も色っぽいね。それに、その大きな胸も素敵だよ。小林君に揉んでもらって大きくなったのかな?」
 幸造は、形よく盛り上がったワンピースの胸元に視線を這わせ卑猥な会話を始めた。

 麻希は突然のHな質問に、ムッとした表情で答える。
「ち、違います!! そんなことしてません!」
 しかし、太田幸造はニヤニヤと笑っているだけだ。それどころか、さらに卑猥な質問を麻希に投げかけた。
「じゃあこのお尻はどうなんだ? 小林のチ○ポを咥え込んでフリフリして大きくなったんじゃないのかね?」
 幸造の掌が麻希のお尻に宛がわれる。触れたという生易しいものではない。掌全体をお尻に強く押し付け、指を柔肉に食い込ませて揉んでいる。
「キャッ!! 何するんですか!」
 カッとした麻希は、幸造の頬に平手を食らわせ席を立った。
「しっ、失礼です!! いくら取引先の社長さんでも……。わたし、帰ります!!」
 出口に向かって急ごうと、席を立った麻希の脚が縺れた。脚に力は入らず、麻希は膝から崩れてしまった。それに、平手をした掌が異常に熱くなっている。身体全体が奥からカッカ、カッカと熱くなってくるのが判る。
(えっ!! こんなに酔ってるの? わたし……。二杯しか飲んでないのに……)
 麻希は、正座をするように床にしゃがみ込んでしまった。

 幸造には、悪い事をした罪悪感など無いようだ。麻希が見上げると、何事も無かったように幸造が笑みを浮かべている。
「気の強い女だね、麻希さんは……。気の強い女は、私は嫌いじゃないがね。フフフ……」
 幸造は、床にしゃがみ込んだ麻希を見下ろしながら不敵な笑いを投げかけた。



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