2009.11.21.

夢  魔
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■ 第22章 教師1

 7月も半ばに近付いた有る放課後、校長室の窓から1人の男が外を見ている。
 その後ろの応接セットに5人の男性が座り、話を交わしている。
 応接セットに座っている5人の内、3人は白いワイシャツに黒い学生ズボンをはいた生徒で、残りの2人はサマースーツを身に纏っていた。
 窓の外を見ているのは、この学校の校長、佐藤修(さとう しゅう)。
 応接セットに座る2人の男は、教頭の鈴木貴史(すずき たかし)と教育指導主任の伊藤大志(いとう たいし)。
 学生服の3人は柳井稔(やない みのる)、垣内庵(かきうち いおり)、工藤純(くどう じゅん)だった。
「そうですか…。とうとう、始まりますか…」
 校長は窓から外を見ながら、ポツリと嬉しそうに呟いた。

 教頭が身を乗り出して
「今度は、この間のような肩透かしは無いんだろうね…」
 稔に詰め寄る。
「ああ…あんた達が、ちゃんと俺達に隠し事しなきゃ、やらせてやるよ」
 狂が教頭に向かって、薄笑いを浮かべ茶化すように言った。
「お、お前! 教頭に向かって、何て口をきくんだ!」
 指導主任が目を向いて、食って掛かると
「あんたらは、タダの協力者だ…、俺達の方が立場は上だぜ…」
 庵がジロリと睨み付け、指導主任を黙らせる。

 指導主任は庵の迫力に押され、身体をソファーに戻し、モゴモゴと口ごもった。
「それによ…ちゃんと言い含められてるだろ[俺らの邪魔はするな][俺らの指示に従え]ってな。お偉い爺さんによ」
 狂はケタケタと笑いながら、2人の怒りを煽る。
 真っ赤な顔をして、狂を睨む2人に
「狂止めなさい…。お二人とも、引いて下さい…。僕達も貴男方の力が必要なんです。ですから、ここはお互い理解し合って、話しをしましょう…」
 稔が仲裁に入り、場を納めた。
 稔の言葉に従って、お互い言い合いを止めると、稔が口を開く。
「これから先は、隠し事は無しでお願いします。これからは、かなりデリケートな作業が伴いますので、我々の意志の齟齬があるだけで、失敗する事も充分考えられます。僕達はそれぞれ、その道のスペシャリストを自負しています。ですから、主導はどうしても僕達に渡して頂き、協力をお願いしたいんです」
 稔が説明すると、頭を下げる。

 教頭と指導主任が口ごもっていると、校長が窓際から戻って来て
「約束しよう。我々も何も、君達の能力に文句が有る訳ではない。この間の事も、元は我々の方に否があったんだ。今後、お互いが信頼し合って、大きな計画を成功させようじゃないか」
 稔に同意をした。
「有り難う御座います…。では、生徒会の役員を一新して頂いて、生徒の統括全権利を生徒会に委任する、この校則を交付して下さい。それと、この12名を集めて頂きたいんです。この方達と、御3方が教師サイドのキーマンに成ります」
 校長は稔の差し出したリストを見て、無言で頷きニヤリと笑う。
「そうか…そう言う事か…成る程…あの人員整理の意味が、やっと解ったよ…」
 校長は稔を見詰め、納得して言った。

 校長がそのリストを、横に座る教頭達に見せると
「こ、これは、守旧派の先生達…それに、ここに書いている事は…こ、これは本当なのか?」
 2人の教師は、目を剥いて驚いている。
「ええ、僕のリサーチの結果、間違い無いです。ですから、今現在この学校に、在籍されて居るんです」
 稔が静かに教頭達の質問に答えた。
「ええ! あ、あの化学の小室君や、社会の京本君…それに、英語の黒澤君まで…。人は見かけに因らない…」
 指導主任が驚きながら、ボソリと呟いた。
 そこに記された教師達は、殆どが主任教師の位置に居た。
 経歴的にも、有り得ない人事がなされた理由を、初めて3人は理解したのだった。

 去年の3月、理事長の肝煎りで大幅な改変が断行される。
 その改変は教師64人中45人が入れ替えられる、大幅な人員入れ替えだった。
 改変で全体の7割の教師が入れ変わり、それによって女性教師が全体の8割強を占めるようになる。
 更に、元々居た若い美人教師に加え、かなりの数の美しい新卒教師を雇用し、美人率は格段に跳ね上がっていた。
 理事長の個人的趣味が噂されたが、学校自体の男女比率から言えば、妥当な物と言える。
 若年教師が増えたため、学校の雰囲気はグッと明るく成り、いつも笑いが絶えないさわやかなムードに変わった。
 改変を断行した理事長の意見は、[以前から有った伝統を守り、規律正しい校風を掲げているのは、現代に於いて重苦しいイメージが有り、それを払拭するため]と言う発表が行われていたが、その実こんな裏が有るとは、3人には思いも寄らなかったのだ。

 校長達3人は稔に向き直ると
「で、この12人を集めて、どうするつもりなんだ?」
 興味津々で問い掛けてきた。
「ええ、もう充分サディストとして目覚めています。それぞれ、危ない方向に行く前に、研修に行って頂こうかと…。もう話は付けています、1週間ほど都内の有る場所で、サディストの技術とマナーを学んで貰います」
 稔が静かに答えると、校長が頷きながら
「合宿をさせるという事だね?」
 問い掛けてくる。
「ええ、そうです。それも早急に、手を打たないと既に何人かは、暴走しています」
 稔はプリントアウトした、写真の束を机の上に拡げる。

 その中には、女生徒に虐待を加える、女性体育教師、衆目の中で女性徒のスカートを捲り上げ、物差しでお尻を打つ女性数学教師、ビシビシと指示棒で打擲する社会科教師、黒板拭きを両手に持ち、女性徒の顔を真っ白にしている美術教師、その他大勢の暴行現場が映し出されていた。
「む〜っ…これは問題だな。で、合宿先は何処なんだ? まさか、SMクラブに行く訳にもいかないだろ」
 指導主任が問い掛けてくると、稔はケロリとした顔で
「いえ、SMクラブですよ」
 指導主任にあっさり答える。
「ば、馬鹿か君は? 良いかね、仮にも教職にある者が大挙してソンな所に、出入りできる訳無いだろ!」
 指導主任は顔を真っ赤にして、怒鳴り始めた。
「いえ、出入りするのは、入る時と出る時だけですし、そこもカモフラージュされています。中に宿泊設備も整っていますし、12人ぐらいは問題ないですよ」
 稔は指導主任に、平然と答えた。

 稔の言葉を聞いて、校長の顔色が変わる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ…柳井君…。その店は、都内に有るんだね…? ヒョッとしてそこは、港区かな?」
 校長は身を乗り出して、稔に問い掛けると、稔は屈託無く笑って
「ええ、そうですよ」
 校長に答えた。
 校長はその答えを聞いて、稔をマジマジと見詰め
「君は何者なんだ? 君の言っている店は、一般人が知る筈の無い店だろ…。どうして、その店に12人も宿泊させる事が出来るのか知りたいんだが、教えて呉れないか?」
 稔に問い掛ける。

 稔は微笑んで
「そこの女性主人とは、アメリカの頃からの知り合いで、日本に来てからも懇意にしていますから。頼んだら、直ぐにOKを呉れましたよ…」
 校長に説明した。
 校長は呆気に取られた顔をして、顔を押さえ溜息を吐きながら、ソファーに深く背を凭せ掛ける。
 教頭が怪訝な顔をして、校長に問い掛けた。
「大丈夫ですか? 一体何の話しなんです?」
 校長は[馬鹿げてる]と何度も呟きながら、顔を押さえ
「今、彼が言った店は確かに存在するらしい。だが、政治家でも1任期2任期程度じゃ、知りもしない…。社長なんかでも、東証の1部クラスの半分より上じゃなきゃ、敷居もまたげない…。そんな店だ…」
 ボソボソと教頭に、呟くように答えた。

 教頭と指導主任が、ポカンと口を開けていると、校長が何かを思いつき、ガバリと勢い良く身体を起こして、稔にしがみつき
「や、柳井君! そ、その合宿に…引率者は要らないか? な、なあ…必要だろう! 教師が…それも、主任クラスが12人も移動するんだぞ! 学校側として、絶対に引率すべきだと思うんだが? どうだろう…あと…後1人…」
 必死の形相で、懇願を始めた。
 稔は、校長の勢いに押され
「ええ、後1人くらいは、大丈夫だと思いますよ…」
 校長に答えると、校長はソファーから飛び上がり、ガッツポーズをして
「やったーーーーーーっ」
 雄叫びのような声で、感激する。

 ホームランを打ったバッターのように、グルグルと校長室をガッツポーズで回る校長を見て、教頭がそれに気が付く。
「や、柳井君? そこは、あんな風に喜ぶような所なのか? …どうだろう…何とかもう1人…入れないか?」
 教頭が稔の横に擦り寄り、耳元に囁き出す。
「きょ、教頭! 抜け駆けは汚いですよ! や、柳井…い、いや、柳井君! 私も頼むよ」
 指導主任がテーブル越しに、身を乗り出す。
(全く…お遊びで行く訳では、無いんですがね…何を考えて居るんですかね…)
 稔は辟易しながら、携帯電話を取り出し、コールする。

 暫く電話で話した稔が、通話を切り顔を上げると
「増やせるのは、1人までだそうです。…どうしてもと言うなら、1人は除外しなければ成りません…まあ、心当たりが有りますから、その方には外れて貰うとして…それでも、枠は2人分です。それに、学校のトップが3人とも1週間不在は不味いでしょ…」
 教頭と指導主任に告げる。
 2人は、どちらも譲らず、つかみ合いに成りそうになった。
「公平に、ジャンケンで決めたらどうです? お互いしっくり来るでしょう」
 稔の提案に、教頭が校長に
「校長、引率者のジャンケンです。公平に行きましょう」
 どさくさ紛れに、申し出た。

 校長は教頭の言葉を聞いた瞬間
「馬鹿者! 価値も解らん者が行ってどうする! 儂は、そんな物には、断じて参加せん! お前ら2人で、残りの一つを決めんか!」
 烈火の如く怒りだし、顔を真っ赤に染め、ブルブルと震えながら怒鳴った。
 教頭は校長の怒りに怖じ気づき、指導主任の方を向く。
 だが、指導主任は完全に教頭を敵として、臨戦態勢に入っていた。
「さあ! さあ! 決めますよ! 最初はグー!」
 指導主任の気迫溢れるかけ声に、教頭は心の位置を押し込まれる。
「じゃんけん! ほい!」
 指導主任の声に釣られ、差し出したパーは何も握る事が無かった。

 指導主任の高笑いが、教頭の上に降り注ぎ、教頭はガックリと膝を付く。
 全てを見ていた、狂が一言
「あほらしい…俺、帰るわ…。決まった事教えてくれ…」
 呆れ果てて、校長室を後にする。
 庵も立ち上がり
「俺も、道具の調整がありますんで、帰ります…」
 狂に続いて、校長室を後にした。

 残された稔は、ガックリと項垂れた教頭の側に行き。
 教頭の耳元に囁いた。
「勘違いされているかも知れませんが、今回は生徒として合宿するんですよ…恐らく、想像を絶する教育が有ると思います」
 稔の囁きに、教頭は涙を浮かべ
「それでも、行って見たかったんだぁ〜…」
 稔に訴えた。

 稔は苦笑を浮かべ、教頭の耳元に顔を近づけ、小声で囁いた。
「教頭先生には、次はVIP待遇で一週間入れて貰えるよう、頼んでおきますよ…」
 稔の言葉を聞いた教頭は、ガバリと顔を上げ
「ホント? ね、ね? 本当? …い、いつ? いつ頼んでくれる? な、なぁ…いつ?」
 稔の手を握り、真剣な表情で、詰め寄る。
「いつとは言えませんが、必ず…」
 稔がそう答えると、教頭は何度も[有り難う]と頭を下げ、手を握りしめた。

 稔は教頭を見詰め
(こんな人達が、トップ3で最有力の協力者かと思うと…気が滅入りますね…)
 大きく溜息を吐く。
 稔は、この計画の先行きが、不安に成って来た。



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