同じ釜の飯を食う友情
「……九ちゃん。いくらなんでも八畳間に九人はきつすぎると思わないか?」
「だいじょぶだいじょぶ。この部屋どっかで異空間と繋がってるから」
「そういう問題なのか……?」
 などと言いつつ、皆守はこれまでにも何度か入ったことのある九龍の部屋の中に足を踏み入れた。
 時は日曜日のお昼時。九龍の遺跡潜り仲間である男子生徒、皆守、取手、黒塚、朱堂、肥後、真里野、墨木+夕薙の合計八人は男子寮の九龍の部屋へとやってきた。
 昨日九龍から『明日メシをしこたま食らわせてやるから腹を空かせて十二時に俺の部屋にくるよーに!』というメールがあったためである。
 天香学園では朝・夜は毎日寮で食事が出るが昼は日曜日でも自費負担。なにかと物入りな高校生としては一食分とはいえ食費が浮くのはありがたい。
 まあこいつらは全員九ちゃんに骨抜きになってるから九ちゃんの呼び出しとあらばたとえ意に染まない用事でも喜んで飛んでくるだろうがな、と皆守は自分を棚に上げて思った。
「はっちゃん……お招きありがとう」
「九龍博士、僕の好きなものを作ってくれるんだろうね?」
「九ちゃ〜ん、アタシにご馳走してくれるんですって? アタシはも・ち・ろ・ん九ちゃんが食べたい、というかむしろアタシを食べてッ!」
「鉄人〜、ボク言われた通りお腹すかせてきたでしゅよ〜……早くご飯食べさせてくれでしゅ」
「師匠、拙者は常に腹八分目を心がけているのだが」
「隊長ッ、自分は本当に食糧を用意しなくてよかったのでしょうカッ!? せめて自分の分だけでも用意するべきだったのでハト……」
 それぞれてんでに言葉をかける仲間たちに、九龍はにかーっと大きく笑って彼らを中に迎え入れる。
「みんな来てくれてサンキュなー! さ、入って入って。今日はしこたま食ってってくれよー」
「……葉佩。俺も一緒でよかったのか?」
 一番最後に入ってきた夕薙がじっと九龍を見つめながら言う。なにを考えているんだか、と内心渋い顔をする皆守をよそに、九龍は楽しそーなガキっぽい笑顔を夕薙ににっこりこんと向けた。
「なんでダメだと思うんだ? 俺とナギはお友達だろ? 俺は友達を誘ったんだからナギも一緒でいーんだよ」
「……君がそれでいいと言うならいいがな」
「……ナギは俺のこと、友達だと思ってくれてない、とか?」
「いや、そういうわけじゃ――」
 一転して捨てられた子供のような寂しそうな顔になった九龍に夕薙が慌てて手を振って否定する。たちまち夕薙に集中した殺気に近い非難の視線を避けるためというのもあるだろうが、それより先に反射的に否定してしまったという感じだ。
 ああもストレートかつ思いっきりに『悲しい』と顔に表情を乗っけられると、たいていの人間は気圧されて慰めたくなってしまう。
「そっか! じゃーやっぱり俺とナギは友達なんだなー! へへへ、うーれしぃ♪」
 しかも慰めれば嬉しそーにぱあっと満面の笑みを浮かべてくれるとくるのだから、普通の人間はこれにやられてしまうのだ。この『悲→喜表情変え落とし』で九龍に落とされた人間は数多い。他にも九龍は『愛連打落とし』だの『友好の笑顔落とし』だのという得意技を持っているのだが(それで数多の男女を九龍に靡かせているのだが)。
「……甲太郎。葉佩のあれはわざとなのか?」
「一応相手にどー見られるかはわかってはいるらしい。けど『普通ああいう時はああいう反応するだろ』とか言ってたから本人はごく普通の対応をしてると思ってるらしいな」
 数分後。ぬいぐるみやら胸像やら鍋やらでごたごたしている九龍の部屋の中に、なんとか九人の男子生徒が収まった。
 一番背の低い黒塚でも百七十はあるし、取手と夕薙は揃って百八十八cm、肥後は横の大きさで三人分近いスペースを取るのだから普通に考えたら入るわけがないのだが、なぜかあっちこっち行ったり来たりしているうちにそれぞれ適当に収まってしまった。本気でこの部屋異空間に繋がってるかもな、と皆守はこっそり一人ごちる。
「……で、今日はいったいどういう風の吹き回しなんだ?」
 全員落ち着いたのを見計らって、皆守が口を開く。
「風の吹き回しはないだろ。俺がみんなにメシ食わせようと思うのってそんなに変か?」
「変とはいわないけどな。けど、わざわざ全員集めるなんてことは今までなかっただろ。なんか妙な魂胆がありそうで不気味だ」
「不気味だはひどいぞ、むかむかぷー!」
「擬音語を発するな気色悪い」
「あらッ、皆守甲太郎。わかってないわねー、九ちゃんはこの男前な中に見せるおこちゃまなところがイイんじゃない! 男っぽさと子供っぽさのギャップとコラボが色っぽさを作ってるのよーv」
「サンキュ、すどりん。すどりんのそーいう優しい観察眼好きだよv」
「あらン、ンもうやだわ九ちゃんったら! 茂美照れちゃうゥ!」
「気色悪い会話をするな! 裏があるのかないのかさっさと話せ!」
「あ、うん、裏はあるんだけど」
 あっさり白状した九龍に、思わず全員目をむいた。
「はっちゃん……う、裏、ってなに……?」
「ああうん、実は食神の魂を愛用するようになってからというもの異様に食材がたまってさー。俺普段昼はマミーズだし遺跡用の料理に使うにしてももう通った区画を進む分にはなかなか傷負わないし、使う分よりも溜まる方が圧倒的に多くて困ってたんだよな。基本的に道具置き場は異空間に繋がってるから腐ることはないにしても、なんか食材を溜めとくのって精神衛生上よろしくなくてさー」
「ちょっと待てなんか今不穏なことを言わなかったかお前」
「(無視)そんでいっちょ料理をしこたま作ってぱーっと消費しちゃったら楽しかろーとみんなを呼んだわけ。みんな、悪いんだけど俺の道具欄の余裕のために協力してくださいな。お願いっ!」
 ぱん、と手を合わせて頭を下げる九龍に、部屋の中の空気は緩んだ。面倒見よく仲間のフォローをよくする九龍は、またねだり上手でもあるのだ。
「そうねェ、アタシダイエット中なんだけど少しだったらOKよ?」
「僕、大食いには自信がないんだけど、それでよかったら……」
「まあ部員が困ってるんだったら助けないわけにはいかないしね」
「鉄人のご飯だったらいつでも大歓迎でしゅ!」
「一度評判の君の料理を食べてみたいと思ってたんだ。嬉しいよ、なあ甲太郎?」
「……カレーはあるんだろうな?」
 皆守の言葉に、九龍は嬉しげに笑って親指を立てた。
「あたりきよ! みんなの好物はたいてい用意したからな!」
 そう言うと九龍は立ち上がり、背後の冷蔵庫を開けると料理を取り出した。
「……ちょっと待て」
「なんだ?」
「なんでせいぜい1m四方の冷蔵庫からこうも次から次へと料理が出てくるんだ? しかもなんでどれもほかほかと湯気を立てているんだ冷蔵庫から出したのに」
「あーそれはほら、俺ってサバイバーだから」
「なんの答えにもなってないと思うんだが」
 皆守の言葉を笑って無視し、九龍は次から次へと料理を出してあるいは渡しあるいは空いている場所に置く。馬刺し、イクラ丼、おにぎり、カニすき、牡丹鍋、桜鍋、ホットドッグに猪やわらか煮――
「……葉佩。俺の好物はビフテキなんだが?」
「だしゃあぁぁぁ!」
 ぽぐっ。九龍のちょっとだけ本気パンチが夕薙の顎に炸裂した。
「ぬわにをたわけたこと言うとるかこんだらずが! いいか霜降り肉はレア食材なんだぞ! 神産巣日は一回のハントで一度しか出ないんだ、しかも至人部長を連れてかなきゃ必ずアイテムを落としてくれるわけでもないし霜降り肉を落としてくれる確率はそんなに高くない! 出てくれば万歳三唱してスタミナ定食か土鍋カレーに調合する、そんな食材を気軽に使えると……」
「ぐふ……わかっ、た、葉佩……俺が、悪か、ったから、首を、絞めな、いで、くれ……」
 殺気立ちながら夕薙の胸倉をつかみがっくんがっくん揺らしていた九龍は、夕薙の虚ろな目での白旗宣言ににっこりと笑って料理運びに戻った。
「わかりゃいいんだ。はい、かまちー。地上最強オムレツv」
「ちょっと待てっ! それはビフテキよりレアじゃないのか! 二つもレア食材使ってるぞ!」
 復活して渾身の力でツッコミを入れた夕薙に、九龍は男前な笑顔を浮かべて言う。
「いいんだよ、かまちーは可愛いから」
「は、はっちゃん……」
 照れたような困ったような(だが嬉しそうな)取手の頭を「なーかまちーv」などと言いつつ撫でる九龍に、夕薙は半眼になってぶつぶつと愚痴を呟いた。
「ひいきだ。反則だ。第一俺と同じ百八十八cmの男に可愛いってどうなんだ。ビフテキなんか霜降り肉をニンニクで焼くだけ、一手間しかかからないのに。これは明らかにずるいぞ」
「……俺のもなんの変哲もないレトルトのカレーライスなんだが?」
「甲太郎カレーライス好きだろ?」
 にっこり笑ってそう言う九龍に、皆守は肩をすくめる。
「地上最強カレーとは言わないまでも、一番長くつきあってる人間のためにもう一手間くらい加えようとは思わんもんかね」
「心配すんなよ、そんな甲太郎のために最後にはちゃんとスペシャルなカレーを用意してるからv」
「………ほう」
「みんな行き渡ったかー? そんじゃー……」
『いただきまーす!』
 号令と共に全員いっせいに料理を口へ運んだ。
「……おいしい!」
 思わず声を上げたのは取手だ。
「はっちゃん、すごくおいしいよ! こんなオムレツ初めて食べた……!」
「そーだろーそーだろーv 生活スキルSSの人間が腕によりをかけて作ったんだからなv」
「うん、確かにおいしい。遺跡から見つけた謎の卵のうから作ったとは思えない出来だね」
 がふがふんむんむ、がつがつもぐもぐ。
「ほーらタイゾー、まだまだ料理は山ほどあるから落ち着いて食えよー。ちゃんと噛んで食べないと消化に悪いぞ?」
「ビフテキ……」
「未練がましいぞ大和」
「砲介、ホットドッグの味はどうだ? ソーセージってなかなか手に入らないから作んの久しぶりで、実はちょっと心配だったりすんだけど……砲介?」
 九龍に声をかけられて、墨木はほとんど飛び上がるようにして立ち上がり敬礼した。
「ハイッ! なんでありますでしょうカ隊長ッ!」
「…………」
 しばし墨木のガスマスクに覆われた顔を見あげて、九龍はちょっと困ったような笑みを浮かべる。
「食ってないな。どうしたんだ?」
「………………ハ、その………………」
 墨木は百七十八cmの体を小さく縮こまらせ、それでも敬礼の形を崩さないまま小声で答えた。
「……情けない話なのでありマスガ……怖くなってしまったので、ありマス……」
「なにが?」
「……食べているところを見られるのが……こんな多くの方とこんな至近距離で食事をするのは初めてなので、自分のみっともないところを見られて注目を浴びてしまうのでは、と怖くなってしまったのでありマス……」
「自意識過剰だな」
 きっぱりと皆守が言うと、墨木はさらに小さくなった。
「その通りでありマス……隊長に体をもって規範を示していただいたというノニ……自分は本当に、至らないでありマス……」
 小さなくぐもった声で言ってから、墨木はやおら立ち上がる。
「お騒がせして申し訳ないでありマスッ! 自分はせめてものお詫びに、食糧の消費に精一杯寄与させていただくでありマスッ!」
 言うやガスマスクをわずかにずらして見えないように口を出し、ホットドッグにかぶりつこうとする――その手を、九龍が止めた。
「た……隊長……?」
「ほうすけぇー……」
 九龍はなぜか潤んだ瞳で墨木をじっと見つめると、やおらがばっと墨木に抱きつく。
「! ! ! た、隊長ッ!?」
「あーもう砲介、お前はほんっとに可愛いなぁー! んもう可愛い可愛い可愛い可愛い、ガスマスクなかったらチューしてやりたいっ!」
「……なッ!」
「あらちょっとなによそれは聞き捨てならないわッ! 九ちゃんアタシの前で他の男に手を出すつもりッ!?」
「たわけたことを申すな朱堂! 師匠はただ親愛の情を表しているだけであろうが……ッ!」
 にわかに騒然となった部屋の中の状態など知らぬげに、九龍はぽんぽんと墨木の頭を叩いた。
「いーよ無理しなくて。お前視線が集中してたのに頑張って食おうとしてくれただろ? 俺たちのために頑張って辛いの克服しようとしてくれただろ? それだけでもー俺は充分。お腹一杯なくらい幸せだよ」
「……隊長ッ……し、シカシッ……」
「ちょっとずつでいーよ。いきなり無理しなくていーから。砲介も最終的に幸せになるために頑張るんだから、辛すぎるのはよくないって。それにあんまり力入れると外した時痛いぞ? 一緒にちょっとずつ頑張っていこ、な?」
「……隊長ッ……なんと優しいお言葉ッ……!」
 ためらいためらいながら抱き返そうというのかゆっくり墨木の腕が上がっていく――そこに皆守が一発軽くではあったが上段蹴りをかました。
「おっ……と。いきなりなんだよ甲太郎?」
「やかましい。いいからとっととメシを食え」
「九ちゃんッ、いくらなんでもアタシの前でベタベタしすぎよッ!」
「はっちゃん、早く食べないと冷めるよ。ほら」
 方々から言われ九龍は肩をすくめると、食事に戻った。
 ……とりあえず最初に渡されたものがだいたい消費された頃、九龍は再び冷蔵庫を開ける。
「さーて、今回はこっからが本番だぞー」
「えぇ? アタシさっきの馬刺しでお昼ご飯の分は終わりにしようと思ってたのに〜」
「ま、ま。いーからちょっと聞いてくれよ。えー、今回は新たな調合レパートリーを生み出すべく頑張ってみました。さっき出したやつみたいに基本は押さえておくとして、新メニューをいろいろと」
「新メニューでしゅか? 楽しみでしゅ!」
「なんか微妙に不安だな……」
「あと一食ぐらいなら入りそうだけど……おいしい料理にしておくれよ」
「ふっふっふ、まー感想は食ってから言ってくれ。なんか新メニューを作ってたらハマっちゃってさ、けっこうな量あるんだ。なにも全部食えとは言わないから、好きなのを一品ぐらいは食ってみてくれよ」
 じゃんっ! と口で効果音を言いながら九龍は皿を差し出した。
「まず一品目! なんでこれがデフォルトでなかったのか!? オムレツ+白米でオムライス!」
「うわ、いい匂い……卵がすごく柔らかそう」
「二品目! 和の心意気で作ってみました、甲羅+白米でカニ炊き込みご飯!」
「ほう、ショウガの香りがぷんとして……食欲をそそるな」
「三品目! 冬の季節にあわせて、根菜+スープで風呂吹き大根!」
「あったまりそうでありマス!」
 次から次へ出てくる新メニュー。そのどれもが実にうまそうな匂いを放っているが、とりあえずカレーを一食分食了して食欲が落ち着いている皆守には食指が動くものはなかった。肥後は皿が増えるたびに目をきらめかせていたが。
「そんでラスト、甲太郎専用メニュー! 唐辛子+カレーライスで激辛カレー!」
「!」
 ぷんと漂ってくる強烈なチリパウダーの香りに、皆守は表情を変えた。
 この香りは――半端な辛さのカレーじゃない。
「うわ……すごい匂いだね」
「目が! 目が痛いでしゅ!」
「いやーこれには苦労したんだー。唐辛子とカレーをどう合わせるか。それもこれも甲ちゃんにうまいカレーを食べてもらわんがため! というわけで甲ちゃん、食べて食べてv」
「…………」
 にこにこと嬉しそうに笑う九龍を、皆守はちらりと睨みつけた。
 苦労したのも当然だろう。皆守には香りでわかる。これはカレーと唐辛子をただ合わせただけの単純なカレーじゃない。
 おそらくは市販のルーではなくカレー粉からルーを作り、香辛料は当然のごとくどばどばと、生の唐辛子をペーストにしたものもたっぷりと使われているはずだ。煮込んでいる途中でも唐辛子を山ほど投入したに違いない、湯気を嗅ぐだけで強烈な刺激臭が目と鼻を刺す。
 激辛カレー店の最高レベル激辛カレーにも勝るこの匂い。味の方も推して知るべしだ。
 その強烈な刺激臭に気圧されてか、皆守と九龍以外の全員も黙ってこちらの方を見つめてくる。コレを本気で食べるかどうか見ているのだろう。九龍は嬉しそうにニコニコ笑いながらこっちを見ている。
 普通なら俺を乗せようったってそうはいかん、と一蹴するところだが、問題がカレーなら話は別だ。
 逃げるわけにはいかない。皆守は悟りを開いた坊主のように澄みきった心持でスプーンを取り上げると、ふつふつと皿の上で煮立っているカレーをライスごとすくって、口に入れた。
「………………」
 なぜか全員に注視されながらゆっくりとすくったカレーライスを咀嚼する。「ホントに食べてるなぁ……」と黒塚が小声で呟いた。
 刺激臭の漂う中、皆守はうまずたゆまずカレーを口に運び、五分強で完食した。
「………………どうだった?」
 息詰まるような静寂の中聞く九龍に、皆守は肩をすくめて答える。
「まあまあだな。だが、俺なら煮込む唐辛子の量を減らして、その分香辛料を多くする。その方がこのベースとなっているペーストにも合うはずだ。調理の過程はほぼ申し分ないと言ってよさそうだが、俺ならこのカレーにはにんじんは摩り下ろして合わせるな。あとはまあ合格点といったところか」
 ゆっくりとアロマパイプを咥え、立ち上がる。
「なるほどー。さすがカレーレンジャー、カレーの道の奥の深さを誰よりもよく知ってるなー」
「まあな。まあとりあえず来ただけの甲斐はあったぜ。一応褒めておいてやるよ」
 そう言うと皆守は後ろを振り返ることなく九龍の部屋を出た。
 すたすたすた。最初はゆっくりと歩く。
 徐々にその進みが早くなってくる。歩きから小走りへ、そして全力疾走へ。
 最後には超特急で自分の部屋へ駆け込んで鍵を閉め、ベッドに顔を突っこんで腹の底から叫んだ。
「辛――――――――――――――ッ!!!!」

「……あそこまで無理してカッコつけなくてもいいのになぁ」
 九龍はくすりと笑ってそう言うと、皆守の部屋の方から聞こえてきた叫び声にうっしと小さくガッツポーズを取った。
「よっし叫ばせた。俺の勝ち」
「……勝負してたのか?」
 訊ねる夕薙に、にっと笑う。
「甲ちゃんはカレーに関してだけはチャレンジ精神に溢れまくってるから。親友としては常に予想を上回るカレーを出せるよう苦労しなければならないわけですよ、わかるかなナギ之介くん」
「君の他の人間に対する友情と甲太郎に対するものとは大きくすれ違ってる気がしてならないな。甲太郎には他の奴らみたいに可愛がってやろうという気にはならんのか?」
 九龍は柔らかく、優しく、暖かい、皆守に言わせれば最高にタチの悪い笑みを浮かべて言った。
「なに言ってんだよ、俺の友情はみんな同じだけどそれぞれ違うの。みんなその人一人だけに捧げられたオーダーメイドのフレンドシップなんだぜぃ」
 そして夕薙を上目遣いに見上げ。
「ナギに対しての友情もナギ専用のスペシャルだぞ?」
「………そういうことは口に出して言うもんじゃないぞ」
 夕薙は軽く九龍の顔を押しやったが、その顔にはわずかに朱が散らされていた。

戻る   次へ
九龍妖魔学園紀 topへ