さまよう魂

 バコタ・イリージアンは物心つく前から盗賊ギルドに拾われて育てられてきた孤児だ。盗賊ギルドにはそういう孤児が何人もいて、娼婦として娼館に売られたり貴族の幼女となって政略結婚に使われたり、あるいは盗賊の技術を仕込まれて盗賊となったりしていたが、そういった者たちとバコタが違っていたところは、バコタは暗殺者としての教育を受けていたということだった。
 暗殺者。それは盗賊ギルドの中でも特別視される存在だ。王侯貴族の命を受け政敵を、あるいは他国の高官を、富裕な商人の依頼で邪魔な人間を殺す職業的な人殺し。
 だが最も多く標的になるのは同じ盗賊だ。ギルドの掟を破った者、命令を出したギルド幹部にとって邪魔な政敵や部下。そういった普通の盗賊なら仲間≠ニ呼ばれる存在を消すのが、暗殺者の一番多い仕事なのだ。
 なので暗殺者は同じ盗賊仲間からも嫌われる。世間の鼻つまみ者である盗賊のさらに嫌われ者である同族食い。仲間、味方、そういった存在が誰一人いない、ギルド上層部の命令に従ってただ人を殺すための道具、そういった存在であり続ける素質がある、とバコタは子供の頃に判断されたわけだ。
 実際、バコタはその判断が正しいことを証明してきた。ただのギルド上層部の道具としてずっと人を殺し続けてきたのだ。
 二十五歳の時、あの少女に出会うまでは。

「いやー、しかしあんたなかなかやるなぁ」
 アリアハンの王城、兵士の修練場。ユーリーとの手合わせを終え、ユーリーが兵士たちに挨拶をするのを壁に背をもたせ掛けて観察しているバコタに兵士の一人が近寄って声をかけてきた。年の頃は二十代前半、腰に差した剣は使い込まれている。おそらくは小隊長級、それなりの強さの持ち主だろう、ということを軽く視線を走らせて観察してからバコタは無愛想な声で答えた。
「それはどうも」
「いや、マジな話だぜ。ユーリーってあれでも俺とやって三本のうち一本取るくらいの腕はしてるんだ。練習熱心だし、才能もあるしな。体が細いから当たりには弱いけど、その分目端が利くしすばしっこいし」
「へー。そーは見えないけどねー」
 自分と同じく勇者の仲間≠ニいうことになっている魔法使い、アルノリドがどうでもよさそうに言うと、その男はむっとした顔で言い返す。
「そう思うなら一戦交えてみればいい。あんたくらいなら呪文唱える前に秒殺してくれるぜ」
「だが、だからといって魔王はおろか、強い魔物に一人で対抗できるほどの腕を持っているわけではないな」
 バコタが静かに言うと、男ははぁ、とため息をついた。
「まぁな……正直、今のあいつの腕じゃロマリア近辺を一人で歩くのだって厳しいと思う」
「そんなんでよくまー魔王征伐なんてもんに送り出す気になったよなー国王ヘイカは。ま、ハナっから俺らが魔王倒してくれるなんて期待してねーんだろーけどさ」
「……おい」
「なんだよ。あんただってそー思ってんじゃねーの? あの勇者クンの魔王征伐の旅なんざどーせ国王ヘイカの酔狂だろ? オルテガの息子だっつーだけで決められたさ。国家としてバックアップするわけでも他国に働きかけるわけでもねーし。それに付き合わされる俺らもいい面の皮だよなー」
「…………」
 男は顔をしかめつつも口を閉じる。バコタは無言で肩をすくめ、隣に立っていたもう一人の勇者の仲間<iターリヤは微笑みを崩さないながらも困ったように眉尻を下げた。
 そう、酔狂。まさにそう言い表すのがふさわしい話だった。
 勇者オルテガ。世界最強の勇者の名をダーマより正式に冠された、人間離れした強さの勇者。
 バコタも会ったことがあるわけではないが、バコタが子供の頃から世界に名を轟かせていたオルテガだ、魔物の軍勢一万を相手取って一歩も引かなかっただの呪文ひとつで山を砕いただの逸話ならいくらでも知っている。話半分に聞いておくにしても、彼が魔王の軍勢を一人で相手取り、勝利することができると各国首脳陣に確信されるほどの強さを持っていたのは確かなことだ。
 だから彼が死亡したとの報が入った時、人類の、ことにアリアハン国民の絶望は深かった。むろん彼以外にも魔王対策はいくつも考えられ実行されていたとはいえ、個人レベルの支援で世界の脅威たる魔王を倒すことができるというならばこれほど割のいいことはなかったというのに、オルテガという人外の強さを誇る勇者がいなくなった以上、自分たちでなんとか魔王を倒さねばならなくなってしまったからだ。
 そして絶望に沈んだ人類は国という枠組みを越えて足並みを揃える≠ニいうことができず、各国首脳陣はさんざん合議を繰り返した末魔王討伐軍を派遣することすらできず自国の防備を調えるに留まることになった。
 魔王がネクロゴンドを滅ぼしたのち各国に布告を出した通りに世界を滅ぼそうとしているのならばそのような手ぬるい対処でよいはずはない、というくらいのことは子供でもわかる。が、人間というのはえてしてそういった現実を無視するのが好きだ。魔王軍に勝てないかもしれないという現実を冷静に見つめながら面倒くささをこらえて軍を編成するより、とりあえず自国の防備を調えて自分たちはやるべきことをやっていると思い込んで満足し、不安を日常に埋没させた方が楽なのだ。
 幸いどういうわけか魔王軍は、ネクロゴンドを落としてから動きらしい動きを見せない。魔物たちの活動は激しくなり、結界を張った街の外に一歩出れば命の保証はできないような状態になってはいるが、軍として動いたという情報は入っていない。
 それをいいことに、各国の国民は日々の生活や噂話に一喜一憂することで恐怖をごまかし、首脳陣は自国の防備を増強しむやみに祭やらなにやらを開くことでそれを加速させ、自らの心を安定させた。自分たちはするべきことをしているのだから、なんとかなるだろう。なんとかならなければおかしい。そう思い込もうとしているのだ。
 そしてそういったアリアハン王の気慰めのひとつが、あの少年――ユーリー・ドゥブロヴィンを勇者として魔王征伐に向かわせることだった。オルテガの息子であるまだ十六にしかならない少年が、魔王征伐の旅に出立する。そんな美談に、彼の情報を逐一仕入れて父のように見守っているような気分になることで酔いしれ、不安を少しでも忘れようとしてきたのだ。
 だから旅立ってしまえば彼は基本的にはお役御免。死亡の報が入らないでいさえすればユーリーが魔王を倒してくれる(かもしれない)と思い込んでいることができる。なので国家としてのバックアップどころか、個人的な支援すら行わない。勇者として強くなるために必要な試練だ、と自分に思い込ませて。兵もつけなければ金も渡さない。方々から『死んでもかまわない』とされている人間たちをかき集めて仲間につけて。
 馬鹿馬鹿しい話だ。
「ま、いーけどね。俺もいー加減アリアハンも居辛くなってたとこだし。どっか別の国で食わせてくれる女でも見っけるまでくらいなら、国王の酔狂に付き合ってやるさ」
 アルノリドはそう言ってふふん、と鼻を鳴らすが、男は肩をすくめて首を振った。
「そりゃ、無理だな」
 アルノリドは怪訝そうに眉を寄せる。
「なんでだよ。まさかこんな馬鹿馬鹿しい旅にいちいち監視つける気じゃねーだろ、国王ヘイカだってさ」
「ああ、監視の類はつかないし報告の義務もない。だけどな、ユーリーはお前が抜けるのをきっと許さないよ」
「は? なんで。あいつだってどーせどっか他の国で働き口でも見つける気なんだろ?」
 男はは、と小さく息を吐いて、また首を振った。
「いいや。――あいつは、本気で魔王を倒す気でいるんだ」
「………っはぁ!? なんだよそれ、あいつ馬鹿か!? 自分がどーいう立場にいんのかわかってねーのかよ、本気で国王が自分に期待してるとか思ってんのか!?」
 男はさらに首を振る。
「いいや。あいつは自分の立場はわかりすぎるくらいわかってるよ。陛下の気慰めで旅立たされるんだってことも、旅立ったあとのことなんて自分には誰も期待してないっていうことも――旅立ったら、本当に魔王を倒さなけりゃ、もうアリアハンでは生きられないだろうってことも」
「じゃ、じゃあ、なんで」
 男はふい、と視線をユーリーと兵士たちの方に向けた。相当親しかったのだろう、兵士たちにじゃれつかれたり頭を撫でられたりして、そのたびに顔を真っ赤にして怒鳴るユーリーに、兵士たちはみな笑い声を立てている。
「俺は、あいつのこと、あいつが道場に初めて来た時から知ってる」
「は? な、なんだよ急に」
 男はアルノリドの困惑の声に答えず続けた。
「あいつは確か、十歳か十一歳か、そのくらいだったな。おっそろしく元気なガキでさ。甲高い声できゃんきゃん喚いて、年上だろうと師範だろうと礼儀もへったくれもなく稽古をつけてもらいたがって。生意気だって何度もこてんぱんにされたけど、ちっともめげないでまた挑みかかってきて、同じ年頃のガキどもとにぎやかにふざけあってた」
「おい、だからなんだよ急に」
「黙って聞け。……剣術の道場だからな。そういう元気なガキってのはけっこう可愛がられるんだ。オルテガの息子ってことは知られてたけど、あいつがあんまり普通のガキなんで、俺らもいつの間にかオルテガだの勇者だのってのは忘れちまって……あいつは、道場の奴みんなから弟分みたいに扱われてた」
「…………」
 アルノリドは納得いかないという顔をしていたが、口を閉じた。とりあえず最後まで聞く気になったらしい。
「だけど、あいつが十二になって半年ぐらい経った頃かな……あいつ、急に壁を張り出したんだよ」
「壁? って、なんだよ」
「心の壁。周囲の奴らを警戒……っつか、一歩置いて接するようになってさ。ちょっとずつ年上に敬語使うようになって。たぶん……自分の立場ってもんを知るようになったんじゃないかな。自分は国王陛下の酔狂で、アリアハンから追い出されるんだってことを。そういう自分の置かれてる立場の理不尽さを、必死に受け容れようとして、みんなとこれまで通りにやってちゃ駄目だ、って考えるようになったんだと思う」
「…………」
「だけどさ……あいつ、ドジなんだよなぁ」
「は?」
 くっくとおかしそうに笑い声を漏らしながらの言葉に、アルノリドはぽかんと口を開けた。
「ドジ……って、なんだよ」
「だからさ、壁が張りきれてねーっつうか。張った端から崩れてくっつーか。必死に猫かぶろうとしてんだけどさ、ぶち切れたり面白いことがあったり悲しいことあったりするたびに、怒鳴ったり喚いたり吹き出したり泣きじゃくったりすんだよ。そーでなくてもあいつおっちょこちょいで、しょっちゅうヘマするし。ぼろが出まくりっつーか。ちょっとしか会わない奴とかならともかく、親しい奴とかには全然本性隠せなくてさ」
「…………」
「だからさ。あいつ、俺らくらいに親しい奴には、なに考えてるかまるわかりなんだよな」
 その言葉を、男は半分誇らしげに、もう半分はわずかに悲しげに言った。
「……なに考えてるってんだよ」
「あいつは、自分の立場をわかってはいるけど、受け容れられてなんてない。『しょうがない』って諦められてなんて全然ない。当たり前だ、あいつまだ十六の成人したてのガキなんだから。自分の立場が嫌で、苦しくて、悔しくて、くそったれなんで俺がこんなことしなきゃなんねぇんだ、って思ってる」
「そりゃ……普通は、そう思うだろうけど」
 戸惑ったように言うアルノリドの方を見ずに、男は続ける。
「だけど、あいつ、根性はあるんだ。負けず嫌いだし」
「……は?」
「これまで道場でどんな無茶な課題出されたって、なにくそって踏ん張ってぶっ倒れるまで課題こなしてきた。負けるもんかって意地張って、どんな奴にだって挑みかかってきた。だから」
 くるり、とここでようやく自分たち三人の方を向いて。
「魔王にだって、きっと挑む気でいる」
「な……」
 アルノリドがぽかん、と口を開ける。ナターリヤが初めて口を開き、静かに答えた。
「世界最強の勇者オルテガでさえかなわなかった魔王征伐。それをユーリーさまは成そうとしていらっしゃるのですね。酔狂を押し付けて自分の故郷を奪おうとしている、国王陛下やその周囲の人々に負けないために」
「ああ。たぶんそれがあいつの意地なんだと思う。なんで自分がやんなくちゃなんないんだって、逃げ出したいって思ってるけど、でもあいつはたぶん、死んでも逃げたりはしない」
「…………」
「だから……」
 ここで男はぐしゃっと顔をしかめ、頭を下げた。深々と。
「頼む。あんたたちにはきっと、迷惑なことだと思う。とっとと他の国に行って働き口を見つける方がずっと現実的でまともだっていうのもわかってる。だけど、頼む。あいつを……ユーリーを、見捨てないでほしい」
「み……見捨てるなっつわれたってさ。まさかお前本気で俺らが魔王倒せるとか思ってるわけじゃねーだろ? まさかあいつの道連れに特攻しろとか言わねーだろーな」
「そういうことじゃない。ただ、あいつを見捨てないで、最後まで付き合ってやってほしいんだ。どういう結果に終わるにしろ。あいつが魔王倒すの諦めるにしろ、魔王倒すために他国の軍を動かす地位に昇るにしろ、自分だけで魔王倒せるぐらい強くなろうとするにしろ、最後まで、あいつと繋がっていてほしい」
「繋がって、って」
「ずっと一緒にいろとかあいつのために命を懸けろとかいうんじゃない。ただ……なんていうか、あいつの味方でいてやってほしいんだ。かたがつくまで。あいつが馬鹿なこと考えたら怒鳴りつけて軌道修正して、くよくよ落ち込んでたら励ましてやってほしい。あいつ意地っ張りだけど、強いわけじゃないんだ。俺たちには、もうそういうこともできなくなるから……だから、頼む。あんたたちがしなくちゃならないことを見つけるまででいい、頼む……」
『………………』
 しばし自分たち三人の間で視線が交わされた。バコタは壁から身を起こして言う。
「そこまで言うほどあいつが大切なら、なぜ自分で守らない。あんたの方がそういったことにははるかに上手だろうと思うが?」
 男は顔を上げた。そして厳しい顔で首を振る。
「俺たちには、しなきゃならないことがあるんだ」
「それはなんだ」
「軍を動かして、魔王を倒すことだ」
 思わず目を見開いた。男は真剣この上ない顔でこちらを見つめ続ける。
「今、軍の若手が中心になって方々の貴族や高官に働きかけてる。再度魔王討伐の気運を高め、国の垣根を越えた魔王討伐軍を編成するために。まだ状況は厳しいが、応えてくれる人たちもいる。時間はかかるだろうが……三年あればアリアハンの軍と文官の意思を統一できる、と俺たちは踏んでる」
 男の真剣な顔を見ながら思い出す。軍の若手の間で魔王討伐すべしと訴えかけている者たちがいるという情報は確かにあった。よくある理想しか見えていない若者たちの独りよがりな暴走だと思っていたが――
「あんた……まさか、レヴォリ・トルベツコイか?」
「え、なんで知ってるんだ」
「………。なぜそんなことをしようとしている。軍の上層部に睨まれるのはわかりきってるだろうに。成功した時の英雄の名がほしかったか?」
 レヴォリは苦笑した。そういう顔をすると鍛えられた兵士としてより人のいい青年としての顔があらわになる。
「そういうわけじゃないさ。……軍が魔王を倒せば、もう勇者なんてものにならなくちゃならない人間はいなくなるだろ?」
「……あの少年のためだ、と?」
「全部そうってわけじゃない。だけどあいつの存在がきっかけではあった。あんな普通のドジで元気なガキが、国家元首の気休めのために故郷から追い出される世界なんておかしいだろ? だから反抗してやろうってさ。道場仲間たちで集まって、決めたんだ。あいつが城の修練場に来るようになってから、けっこう仲間増えたんだぜ。古株の人たちも手伝ってくれるようになったしさ」
『…………』
「あいつ、いい奴なんだ。馬鹿だしドジだしうっかりものだけど、俺たちにとっちゃ可愛い後輩なんだよ。だから、頼む。俺たちが魔王を倒すまで、あいつを守ってやってくれ」
 再度深々と頭を下げるレヴォリを数秒見つめて、バコタはふ、と息を吐き出した。
「……もとより俺はそのために死刑を免れさせられたわけだからな」
 レヴォリが顔を上げ、表情を輝かせる。
「それじゃあ!」
「仕事はきっちりやる。――あいつは死なせない。それでいいんだろう」
「ああ……ああ! ありがとう!」
「もちろん、私もあの方もパーティのみなさんも守らせていただきますわ。未熟とはいえ神の僕である僧侶ですもの、そのくらいはさせていただきます」
「……はー。しょーがねーなー……言っとくけど、他にしなきゃなんねーことができたらさっさと降りるからな。それまでっつー条件で、だぞ」
「ああ……それでもありがたい。すまん。恩に着る」
 また深々と頭を下げるレヴォリに、その背後からぶっきらぼうな、男にしては高いハスキーな声がかかった。
「レヴォリ先輩! なに話してんだよ、そいつらと」
「こら、ユーリー。人が話してる時に割り込むなってなんべん言ったらわかるんだお前は」
 レヴォリはさっきまでとはうってかわったからかうような笑顔でやってきたユーリーの頭をぐりぐりといじめる。ユーリーはむぅっと顔をしかめばたばたと暴れた。
「やめろっつってんだろ、こーいうの! ガキ扱いすんなよなっ」
「挨拶もきちんとできない奴はガキ扱いされて当然だ。お前俺たちに挨拶しにここに来たんだろ?」
 ユーリーはうぐ、と言葉に詰まり、顔を赤くしながら「んなこと言われたって急に改まって挨拶しろとか言われたってさ……」とぶちぶち言い始めたが、レヴォリが拳を見せてにっこり笑うとびくりと飛び退り、真剣な顔を作って頭を下げる。
「これまでいろいろお世話になりましたありがとーございましたっ!」
「はい、どういたしまして」
 あっさりと答えるレヴォリに、ユーリーはわずかにむっと口を尖らせた。
「なんだよ、挨拶きちんとしろっつーわりには、そっちの方こそやけにあっさりしてんじゃん」
「これで終わりってわけじゃないからな」
「え……」
「またここに戻ってくるんだろ?」
 にっ、と笑いかけるレヴォリをしばしまじまじと見つめ、ユーリーは一瞬顔をくしゃっと歪めたが、すぐにふんっとばかりに胸を反らせてみせた。表情筋をふるふると震わせながらも、偉そうな顔を作って言い切る。
「とーぜんだろ。魔王なんぞに負けてたまるかっつーの」
「よしよし、その意気だ。俺らに先に魔王倒されないといいな」
「ざっけんなよ! レヴォリ先輩に負けてたまるかよ! っつか、頭ぐしゃぐしゃすんなよ! それやだっつってんだろ何度もっ!」
 じゃれ合うレヴォリとユーリーを見つめながら、バコタは再度ため息をついていた。面倒なことになったものだ。半人前というのも厚かましいほどおっちょこちょいな少年を、健やかに育成しつつ命を守らねばならないわけか。
 だが、一度仕事として受けたのだ、なにがどうなろうとやり通さないわけにはいかないだろう。あそこまで真剣に頼まれたことを袖にするわけにもいかないし。この少年は、放っておいたらなにをするかわからないほど危なっかしいし。
 小さく息を吐き、あの少女のことを思い出す。自分の人生を変えたあの少女。混乱し、死を間近に見据え、それでも意地を張ってこちらを睨みつけてきたあの少女。
 あの少女を殺さなくてはならない仕事よりは、ずいぶんとマシだ。
 それに少なくとも、この仕事が終わるまでは、自分のどこへ行けばいいのかわからない魂を、大地に縛りつけておくことはできる。この少年と、男と、女僧侶の魂が居場所を見つけるまでには、おそらく相当に長い時間がかかることだろうし。
 そう今まで何度もたどった思考を確認し、バコタは背後の壁に背を預けた。

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