最初の戦い
「………弱いな、お前ら」
 最初の戦闘が終わったあと、ゲットは思わず言った。
 敵はスライム二匹、大烏二匹。実戦は初めてだが、どちらの魔物も大して強くはない、とゲットの知識は言っていた。
 実際ゲットはどちらもあっさり斬り倒すことができたのだが――
「三人がかりで俺一人分くらいの攻撃力しかないのか」
「……うっせーな、しょーがねーだろ武器が檜の棒なんだから」
 ルイーダの酒場で仲間にした相手その1、盗賊のヴェイルがムッとしたように言う。手持ちの金ではその程度しか買える武器がなかったのだ。というか買ったのではなく家捜しの最中に手に入れたのだが。
 勇者の特権、取ってもすぐ再構成されるとわかってはいるものの(勇者の能力その5。旅の間に取ったアイテムはすぐに再構成され取っていないのと同様にその場に在り続ける。本人やパーティメンバーには再構成されたアイテムは見つけられず手に入れられない。これにより世界中の勇者がレアアイテムを手に入れることができる)、民家に堂々押し入り家捜しして中に入っていためぼしいものを分捕る、という作業にはいいのかなぁと思ったりもしたのだが、ユィーナがきっぱり宣言したのだ。
「街に入ったらそこら中を家捜ししてアイテムゲット。これは勇者の旅の鉄則です!」
 そして明らかに気の進まなそうな他の仲間たちを強制的に手伝わせ、街中からアイテムを分捕ったのだ。
「お前は盗賊だからある程度わかってたけど、前線要員の武闘家までこんなに弱いとは思ってなかった」
「わーるかったわねぇ弱くて。あたしまだレベル1なのよ? 素手なんだからしょーがないでしょーがあんたより弱いのはっ」
 こちらもムッとした雰囲気ぷんぷんで仲間その2武闘家のディラが言う。別に悪いとは思っていないのだが、とゲットは無言で肩をすくめた。
 この二人を選んだのはユィーナだった。あらかじめルイーダの酒場で名簿を見て目星をつけていたらしい。そのためにルイーダの酒場で働いていたのだと聞かされた時は少し驚いた。
 そんなに俺に選ばれる自信があったのか。なんでそんなに勇者の旅に詳しいんだ遊び人なのに。なんかすごい勇者の旅に熱心な気がするんだがなんでなんだ?
 と、聞きたいことはいろいろあるのだが、いざ聞くとなると面倒くささが先に立つ。まぁこれからずっと一緒なんだし、今でなくてもいいんだけど。
「武闘家はレベルが低いうちは決して強くありませんが、レベルが上がっていけばその力の上がりの早さから主戦力になりえます。特にメタル戦では助けられることも多いはず。今だけを見て戦力外と考えるのは早計です」
 相変わらずのバニースタイルで真面目な顔をしてそう言うユィーナをなんとなく見つめる。ユィーナはいつもなんというか、表情がかなり固くてきつい。
 別に目つきが悪いわけではないのだが、その冷静というか、冷徹と言いたくなるくらい冷たい顔は、たいていの人間なら萎縮してしまうような雰囲気をたたえている。
 だがゲットはそういう細かいことは気づいても気にしないため、言葉にだけ反応して答えた。
「それならなんでわざわざレベル1の奴を選んだんだ?」
「悪かったわねレベル1で」
「お前だってレベル1じゃないかよ」
 即座に二人からブーイングが飛ぶ。ゲットとしては別にそれが悪いと言っているつもりはないのだが。実際自分もレベル1だし。
 だがユィーナは眉も動かさず、言葉を投げつけるようにして答える。
「私とあなたがレベル1である以上、レベルは横並びに揃えた方が得策だと思ったまでです。自分だけレベルが高いことで優越感を抱かれたりしては旅に支障が出ます」
「ふぅん……。じゃあ盗賊と、お前の戦力についてはどうなんだよ」
 ユィーナは寸毫も慌てず、即座に返す。
「盗賊は戦闘ではあくまでサポート。本領を発揮するのは探索です。もう少しメダルを集めて鞭を手に入れれば先手を取っての集団攻撃も可能なはず」
「……お前は?」
「私は遊び人の間は戦力外です」
 ユィーナはきっぱりと言い放った。
「……ダーマまでずっと戦力外なわけか?」
「その分は旅の指針をはじめとする計画行動で補います。ダーマ辺りまでならまだ魔物が弱いですから、私が戦力外でも充分に戦えます。私の計画通りに行動しさえすれば」
「すっげぇ自信……」
 ヴェイルが思わずといったように呟くが、ゲットもまったく同感だ。
「相応の自信を持っているだけです。私はそれだけのことをしてきましたから」
 きっぱり言い切るユィーナに、ゲットは肩をすくめた。まぁこいつがそう言うならそういうことにしておこう。逆らうの面倒だし。
 けど、こうまで言えてしまう自信ってのは実際すごい。戦闘で役立たずなのにどうしてここまで言えるんだろう。
 ゲットはこれまで勇者として力をつけることを第一に考えてきた。教育熱心な母親にしてみれば弱いことは悪だったのだ。
 なのに、勇者の旅に一緒に来ていて、少なくとも戦闘ではこんなに弱いのに、ここまで自信満々でいられるこいつってどういう奴なんだろうな。
 そんなことをゲットは少し考えたが、面倒になったのですぐやめて「行くぞ」と声をかけて歩き始めた。
 のちに、鉄の爪を手に入れたディラに攻撃力で追い抜かれ、ヴェイルに守備力で負け、旅の指針をびしばしと打ち出し薬草毒消し草食料に至るまで必要な量を確保しているユィーナの先を見通す目の確かさに兜を脱ぐことになるのだが、それはまた別の話である。

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