organizational behavior with paranormal being
「はいそこまで! 書くもの置いて、後ろからテスト用紙集めてくださいね〜。はい荻原くん、もうテスト時間終了ですよ〜、それ以上書いたら0点ですよ〜」
 歴史の林田先生に言われるままに、閃は立ち上がってテスト用紙を集めていく。園亞も同じように、立ち上がってテスト用紙を回収していった。
 この学校の前に通っていたのが小学校である閃は、中間と期末の二回に分け、集中的に科目ごとにテストを行うというやり方に最初は馴染めなかったのだが、さすがに二度目になればもう慣れた。中間では改めて勉強するということをまったくしなかったのだが、今回はちゃんと園亞たちと一緒にテスト勉強をしたし。
 期末テストもこれで終わり。これから数日間テスト休暇があって、それから終業式。そしてその後に、夏休みが控えている。
 夏休み――もはや遠い思い出しか残っていない学校行事。四物学園にも当然それはあり、学生たちからもこぞって楽しみにされている。
 自分と園亞のクラスメイトである面々もそれぞれに休暇を楽しみにしており、自分たちもあれこれと遊びに誘われている。自分だけを誘われたならば仕事があると簡単に断れるのだが、園亞が行きたいと言ったならば、護衛である閃としてはそれについていかないわけにはいかない。
 休暇といっても、単に授業が行われず、学校に来る必要がなくなるというだけのことであり、自分と煌にとっては元に戻るだけにすぎない。だから別に喜ぶことでもないし、はしゃぐ気持ちなども微塵もない。それは間違いないことではあるのだが――
「ね、ね、園亞、今日帰りにさ、みんなで駅前のカフェ寄ってこ? キャンプの計画詳しく決めちゃおーよ」
「それにあたしら部活学校外でやるからさ、しばらくガッコ来れないもん、あそこのケーキ分夏休みの間保つくらい補充しときたいしー」
「あ、うん、わかった、いいよ! 今日は私も部活ないし。えっと、閃くんも、いいよね?」
「……ああ」
「なーに仏頂面してんだよ閃ー! お前だってあそこのケーキ嫌いじゃねーくせにさー!」
「……そういう問題じゃ」
「あ、つかよつかよ、草薙って家事趣味とか言ってたよな? お菓子とか自分で作れんの?」
「は? ……まぁ、作れないことはないけど」
「うぉすげぇ! え、でもならさ、わざわざ食いに行く必要とかなくね?」
「いや、自分で作るのとプロの作ったものは全然違うし……」
「だよね! やっぱり作るのうまい人の作ったものの方がずっとおいしいし!」
「あー、園亞あんたそーいうこと言ってていいの? 将来草薙くんにご飯作る時草薙くんの方が作るのうまいからーって任せっきりにしとくとか普通に嫌われ案件だよー?」
「え、そーなのっ!? わ、わ、どーしよ……閃くんっ、どうしたらいいっ!?」
「いや……俺に聞かれても……」
「真面目に相手に聞くとこじゃないからそこ」
 自分の周りの人々はこれほどに、当たり前のようにはしゃぐ。今が人生でなにより大切な時であるかのように、思いきり。
 だからといって自分のやることは変わらない。ひたすらに鍛錬を積み重ね、技と心を磨き、妖怪たちに立ち向かえるほどの力を身に着ける。それ以外の道を進む気はやはり毛頭ない。
 だが、それでも、そう告げているのに。
「じゃ、閃くん、行こっか! 長田さんたちには私から連絡しとくからね!」
 園亞は、こんな風に、笑顔で自分に手を差し伸べてくるのだ。自分が何度拒絶しても、きっぱり拒否の言葉を伝えても。
 もちろん、それで自分の進む道を違えたりはしないけれど――
「……俺からしておく。園亞に任せると、したつもりがすっかり忘れてた、っていうことになる可能性が高いし」
「えー! 私そんなに何度もうっかり忘れしてる!?」
「むしろそーいう言葉が出てくるとこがすげーよ」
「あたしたちの間でも園亞のそーいうとこはよーく知れ渡ってんのに、一緒に暮らしてたらねぇ……」
 今この瞬間は、一緒に隣を歩くのが、たぶん自分のするべきことなのだろう。――共に在りたいと思う気持ちがまったくないと言ってしまうと、嘘かもしれないと思うのも確かだし。

 だが、当然ながら、自分の仕事を怠る気はないし、怠ることが許されないのが仕事というものだ。閃はその事実を噛み締めながら、試験休みも最後になったある日に午後、迷い悩む気持ちを抑えて、園亞の部屋の扉をノックした。
 こん、こん、と数度ノックしたが、返事はない。あれ、今日は部活動のある日でもないし、外に出ていないのも確認したし、そもそも気配があるのに、と思いながらも何度もノックを繰り返したが、まったく返事はない。
 しばし逡巡したものの、はぁ、と小さく息をついて、「園亞。入るぞ」と言って扉を開ける。予想していた通り、園亞はやたら広い自室の一角にでんと据えられたベッドの上で、大きく口を開けながら昼寝していた。
「…………」
 予想通りの現状に、閃はしばし園亞を見下ろしながら逡巡する。一応朝食前に約束をしていたとはいえ、『もしかしたら話をしに行くかも』『時間は少しずれるかも』程度の約束なので、昼寝されていても怒る気にはなれないし、叩き起こすのも雇われている側としてはどうか、とも思う。だが今日、午前中いっぱいを使った交渉の結果降ってきた仕事は、とっとと園亞に話を通しておくべきものだし、園亞が拒否をしたならばその旨をさっさと伝えなければまずいほどには切迫した話でもある。
 どうするか、と迷っていると、煌がにやにや笑った顔が目に見えるような声で言ってくる。
『なぁにぐずぐずしてんだよお前はよ。てめぇに惚れた女が目の前で寝てんだぞ? 寝込みを襲わねぇでどうするってんだよ』
「なっ………馬鹿なこと言うなっ! 俺は別に、園亞をそういう、その、そういう風にどうこうしたいわけじゃ」
『じゃあどういう風にどうこうしたいってんだよ。あれか? メスガキどもが夢見てるみてぇに白馬の王子さま役演じたいってか? 阿呆かそんなもんどんな能天気な女だろーと一発ぶちこみゃあっさり霧散するっつーの』
「なっ、な、なに言ってんだよお前はぁっ! だからそーいうことを簡単にどうこうするのがそもそもの間違いで」
「――ちょっと。園亞が寝ている横で、ぎゃあぎゃあ騒がないでくれるかしら?」
 床からひょいっ、と跳び上がり、ベッドサイドテーブルに優雅な動きで着地して、銀色の毛並みの美しい子猫――ツリンが声をかけてきた。その声音は鬱陶しげというか、心底面倒くさそうだ。この前の生徒会長の一件で園亞に呼び出してもらって以来、彼女のこちらに対する扱いは雑駁というか、どんどん適当になってきている。
「そもそも女の子の寝顔を気軽に見ること自体失礼だってことにどうして気づかないのかしらね。デリカシーのない男って本当、そばにいられるだけで鬱陶しいわ」
「あっ……ご、ごめん。悪かった、気づかなくって……」
「悪いと思ってるならとっとと行動に反映させなさい。口でどうこう言うだけで償いになると思うほどおめでたくはないでしょうあなたも?」
『……おい閃。俺を外に出しやがれ。このクソうざってぇクソ猫に一発思い知らせてやらにゃあ気が済まねぇ』
「……それ聞いて俺がお前を外に出すと思ってるのか?」
『決まってんだろ? これも俺のお前への愛情の一環なんだからよ』
「そうだな、決まってるな。出すわけないだろ馬鹿、お前の気持ちはちゃんと受け取るけどそれが人間社会でいつでも通用するわけじゃないって何度も言ってるだろ!」
『あぁん? 笑かしてくれんじゃねぇかおい、俺が人間社会に遠慮してやる必要がどこにあるって? まぁ俺の生贄兼食料兼相棒が我が身を差し出して伏して拝むってんなら考えてやらなくもねぇけどよ』
「ぬぐぐっ……」
「んぅ………なぁにぃ……?」
 園亞が寝ぼけた声を上げ、むにゅむにゅ言いながら起き上がりかける。閃は慌てて「ごめん、起こしちゃったな」と頭を下げた――のだが、園亞はそんな閃をしばしぼーっとしながら眺めやり、突然ぱちっと目を開いて叫んだ。
「せ、閃くんっ!? なんでいるのっ!?」
「あ、うん、だから起こしちゃってごめん。部屋のドアをノックしても返事がないから、様子を見るためにも合鍵で入らせてもらったんだけど……」
「っ………」
 数瞬絶句するような気配があってから、反応がまるでないので、閃は怪訝に思って顔を上げる――や、顔を真っ赤にして恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない、という表情を必死に掌で隠しているその後目が合った。
「え、と、園亞……? なにか、俺、変なこと……」
「あ、あのねっ、ごめんねっ、閃くんは別にその、全然悪いことしてないんだけどっ……」
「充分以上にしているでしょう。女の子が、同じ年頃の男に寝顔を見られるなんて、それこそ裸を見られるようなものよ」
「えっ……」
「つ、ツリンー!」
「それを理解もせず気遣うこともせずいつまでも部屋に居座るなんて……男としては問題外よねぇ。本当に、これはきちんと懲罰を与えるなりお返しされるなりしなくちゃ、示しがつかないわよ、園亞?」
「べ、別に私その、閃くんにそういう、いろいろしてほしいとかないしっ……」
「あら、相手になんの欲求も持たないようじゃ、愛というのは長続きしないわよ? 人間関係というのは相互に与えるものがあって初めて成立」
「ごめんっ悪かったっ、お詫びはまた改めてするからっ!」
 叫んで部屋をまろび出て、閉めた扉に息をつきながらよりかかる。はぁぁぁ、と深々と吐息を漏らし、ああもう本当になにをやっているんだ俺は、と自己嫌悪に浸りながら、そもそもこんなことで本気でうろたえ戸惑う自分が馬鹿で馬鹿でしょうがないように思えて頭を抱える閃に、煌はくっくっくっ、と心底楽しそうに笑声を漏らした。

「え、えっとえっと……なんだっけ? あ、そうだよね、なんか、用事があったんだよね、閃くん……?」
「……ああ」
 しばしの後、改めて部屋の中から「入っていいよ」と言われ、中に入り。微妙にこちらから目を逸らしながら問いかける園亞に、閃も(なにをやってるんだ俺はと思いながらも)微妙に視線を逸らしながら答える。
 だがとにかく、閃としては、どれだけ間抜けでみっともなかろうが話をしないわけにはいかなかった。これは間違いなく自分の仕事で、そして園亞を否応なしに巻き込まざるをえない代物なのだ。
「警視庁警備部特殊状況対策課……通称妖怪課、っていうところから、連絡があって」
「へ?」
「俺に、妖怪退治の助っ人に来てくれないか、っていう……それなりによくある依頼なんだけど、今回はそれに加えて、園亞も一緒に来てくれないか、って言われたんだ」
「へ、え、へ? え、え、ごめん閃くん、私どーいうことかよくわかんないんだけど……」
 そうだろうな、と内心でうなずく。実際園亞にとっては意味の分からない話だろう。
「……まず、この妖怪課っていうのが、どういうところなのか説明が必要だよな」
「え、う、うん……なに屋さんなの、それって?」
「いや、なに屋じゃなくて、警察の一部署なんだけど。妖怪の存在が国の上層部で公認されるようになってから設立された、人間に害を与える妖怪について対策する部署なんだ。ただ、さすがにそれを公言するわけにもいかないからこんなもってまわった奥歯にものの挟まったような名前になってるんだけど」
「え、それって……えーっと、閃くんにとってはそこって、どういうところなの?」
「別に上下関係があるわけじゃない。賞金稼ぎ協会の基部は国連に属してるから、日本国政府の警察機関には命令される筋合いも顎で使える権利もない。……ただ、当然ながら向こうは警察権力を使えるから、それなりに誼を通じておくと賞金稼ぎの活動がやりやすいっていうのはあるんだ。警察情報をこっちに流してもらったり、大規模な被害が出かねない時の警察動員がスムーズになったり」
「ふぅん……つまり、えっと……お友達ってこと?」
「と……もだち、っていうのはさすがにちょっと違うけど。まぁ、ご同輩というか、同業者というか……少なくとも喧嘩したくはない相手ではある、かな」
「そっかー、警察の人とそういう関係になるって、なんか面白いね。あ、でも閃くんは正義の味方だから普通なのかな? ヒーローものには時々ヒーローを助ける警察の協力者って出てくるもんね」
「そ、そういうのとも少し違う……んじゃないかと思うけど。ええと、とにかく。そこに妖怪退治の助っ人を頼まれたんだ。賞金稼ぎ協会に問い合わせれば賞金稼ぎの能力と居場所はだいたいわかるようになってるから、こういう依頼はまぁ、わりとよくあるんだよ。向こうは基本的に普通の人間しかいないから、妖怪退治に動員できるような人員はごくわずかしかいない」
「え? ごくわずかしかいないってことは……ちょっとはいるの?」
「え、うん」
 うなずくと、園亞はなぜか瞳をキラキラさせて、感嘆に満ちた顔で握り締めた手を合わせ問うてきた。
「うわぁ、すっごーい! 警察の中にそんな達人さんたちがいっぱいいるなんて、なんだかすごいじじつはしょーせつよりきなりって感じ! あれだよね、やっぱりいっしそーでんのあんさつけんのけいしょーしゃとか、神さまからはじゃけんしょーの力をもらった人とか、あっあとやっぱり日本の組織なんだからおんみょーじとかいるんでしょ!?」
「え、えぇ……?」
 なぜ園亞が興奮しているのかさっぱりわからず、気圧されながら困惑する閃――の耳に、くすくすという女性の美しい笑い声と入り混じり、猫が喉奥で鳴く声が聞こえた。
「普段は園亞に人間社会の常識を教わっているのだから、そのお返しくらいはしてくれるかと期待したのだけれど。こちらの世界の常識もまともに説明できない辺り、やっぱり人を遠ざけてきた弊害が出ているわね」
「……っ、あんたにそんな偉そうなことを言われる筋合いはないぞ。そもそもそういうあんたこそちゃんとこっちの常識わかってるのかよ。園亞が生まれた頃からずっとこの家で子猫やってたんだろ」
 足元にととと、と近寄ってきてこちらを見上げ馬鹿にしたように尾を振る子猫に、うまく話を通じさせられなかった苛立ちのままに険悪な声を出すと、ツリンは猫の顔でいかにも心外、という表情を作ってみせる。
「あら、面白いことを言うのね。私がもの知らずだ、と? この私が?」
「……この私もなにも、俺はあんたがどういう妖怪なのかろくに知らないからな。知ってるのは園亞の魔術の師匠でエジプト出身だってことくらいだ」
 それこそその底知れなさの一端でも知れるかも、という想いの元に(まぁ半ば以上は感情のままに口から出てきた言葉そのままなのだが)言葉を返すと、ツリンはふふん、といかにも馬鹿にしたような表情を作ってみせる(猫の顔なのに正直イラっとした)。
「まぁ、いいでしょう。挑発に乗せられてあげるわ。あなたの言葉と常識の足りなさのフォローをして差し上げましょう」
「……っ……」
「園亞。少し、講義をしましょうか。あなたは、人間が妖怪を倒す方法って、なんだかわかる?」
「え? 妖怪って、妖怪にしか倒せないんじゃないの? 閃くんみたいなすっごい強い人とかは別としてだけど……」
 首を傾げる園亞に、ツリンは気を持たせるようにゆっくりと首を横に振る(猫の姿だとひどく奇妙に見えた)。
「必ずしも、そういうわけではないのよ。まぁ、強い$l間でなければ、相手が若い妖怪でも倒せないだろうというのは確かではあるけれど」
「えっと……どういうこと?」
「人間が妖怪を倒す方法には、大きく分けて三つあるの。まずは、その科学力、軍事力をもって倒す方法」
「えっ!? そ、そーいうやり方で、妖怪って倒せるの!?」
「普通の妖怪ならね。特別な方法を使わなければ死なない妖怪というのでなければ。まぁそういう妖怪はそれなりにいるけれど……とにかく、軍隊を動員して、的確な作戦のもとに現代の銃器、兵器を使用して攻撃すれば……具体的に言うと一小隊に機関銃の一斉射でもされれば、普通の妖怪は死ぬわ。まぁ、中にはそこの少年の中に隠れている火神のように、戦車だの戦闘機だのを持ち出されても互角に戦えるような化け物もいるけれど、それは本当に少数派よ」
「そうなの? なんか妖怪って、妖怪じゃないと倒せないのかって思ってたんだけどなぁ、私。閃くんの刀はそういう、専門の鍛冶屋さんが鍛えた霊刀とかで」
「いや、違うから……普通に市販されてる日本刀だから」
「そうなんだぁ……でも煌さんってすごいね、戦車とか戦闘機と戦っても勝っちゃうんだ。やっぱりそーいう現代科学と真っ向から戦って勝っちゃう妖怪もいるんだねぇ」
「例外中の例外、レベルだけれどね。……でも、どちらにしても、そういう現代科学に基づく討伐法は、めったに行われることはないの」
「え、そうなの?」
 園亞の言葉にうなずいて、ツリンはぴっ、と長い尻尾を指を立てるように立ててみせる。
「まずは、コストパフォーマンスの悪さ。軍隊というのはね、維持するだけでもお金がかかるけど、動かすとさらにその数倍はお金がかかるの。それに、妖怪も当然ながら殺されそうになれば必死に抵抗するわ。そして攻撃妖術の一発でも喰らえば普通人は死ぬから、被害なしで片付けられることはまずない。よっぽど大量に人を殺し続ける妖怪でも出なければ、割りに合わないのよ」
「そ、そうなんだ」
「ええ。そして、戦闘までもっていくことの困難さ。そもそも妖怪というのは闇に隠れるもの。人間に化けてしまえば正体を知られでもしない限り、人間には妖怪だとはわからないのよ。正体を知られても別の姿を得ることもできるしね。そもそも、妖怪が行った悪事が妖怪のしたことだと人間に知られることはまずないし――人間には理解できない事象だったり、痕跡をごまかしたりされてね――、人間が妖怪のしたことの手がかりをつかむのは極めて困難だわ。妖怪は妖怪と引き合うという性質を持っているから、こうも当然のように事件に当たれるのよ」
「あ、私そういうの聞いたことある、そういう特別な力持ってる相手同士で引き合う、みたいなの」
「ええ、そういう現象が実際にあるから、さまざまな分野でその手の話題が取りざたされてきたというのもあるでしょうね。……人が妖怪を倒す方法の二つ目は、その妖怪が本来持っている、倒される$ォ質を使って倒す方法」
「倒される性質………?」
「そう。妖怪の多くは伝承の類から生まれるわ。そしてその伝承の中には、妖怪に対して対処する方法が描かれているものも多い。つまり、多くの妖怪には存在の根本から、『この方法を使えば/この弱点を衝けば』『簡単に倒されてしまう』という性質が備わっているのよ。それを利用するわけ。妖怪退治譚としてはもっともポピュラーな方法と言えるかもしれないけれど……それにも限界はあるわ」
「限界? って?」
「たいていの妖怪にとっては、自身の生まれから来る倒す方法≠ヘある程度の弱み、弱点にしかならないの。自身の体を護る、皮膚や鱗や鎧や結界の類を無効化して攻撃の威力を増強させたり、妖怪の存在を縛って動きをある程度封じたり、妖術を無効化したりといったことはできても、『それだけで無条件に妖怪を倒せる』ということはまずない。伝承知識によって妖怪の弱点、倒される方法を知ってすら、人間が妖怪を倒すには相当な幸運と技術と体力が必要だわ。むしろどちらかというと、この手は妖怪が妖怪を倒す時に使うことが多いくらいよ。人間にしか倒せないという妖怪はそうそういないですからね」
「なるほどぉ……」
 園亞はこっくりとうなずく。実際、閃としてもそういった方法はよく使うところではあったので(衝ける弱点は全力で衝かねば太刀打ちすらできないのが人と妖怪の戦いというものだ)、ツリンの説明にはうなずけた――のだが、園亞は立て板に水の勢いで流れるように言葉を並べ立てるツリンの説明を、よく一度で完全に理解できるものだ。顔つきからしてよくわからないけれど流している、というわけでもなさそうだし、夢の中での魔法の修行の中で似たような講義をされているのが園亞にとっても身に馴染んでいるのかもしれない。
「そして、三つ目。おそらくは人が妖怪を倒すもっとも一般的な方法は、妖怪に属する力を使って倒すやり方ね」
「妖怪に属する……力? え、妖怪さんに頼んで悪い妖怪さんを倒してもらう……とかじゃなくて?」
「もちろん。妖怪に頼って妖怪を倒してもらうのではなく、妖怪の持つ力をなんらかの形で人間が活用して倒す。そういうやり方のことね」
「んー……どーいう意味かよくわかんないんだけど……それって、どんな風に違うの?」
 ツリンは笑顔で(猫の姿なのでしかとはわからないのだが、たぶん口の端を引き上げているから笑顔なんじゃないかと思う)うなずいて、楽しげに尻尾を振る。
「じゃあ、ひとつひとつ説明していきましょう。まずは……妖具かしらね」
「妖具?」
「そう、妖怪の力を使って創られた、一種妖怪の分身ともいえる道具」
「あ、知ってる! そういうのけっこうよく見る! そういうのってやっぱり、実際にもあるんだ?」
 えっ、どこで見たんだ、とぎょっとしかけてから、園亞の言葉からそうかフィクションでか、と気づく。恥ずかしくなって姿勢を正し少しそっぽを向いたが、その直前にツリンは嫌味たっぷりの笑顔をこちらに向けてきた(こちらに背を向けているのにしっかり気づいたらしい、閃は思わずぐぬぬと歯噛みした)。
「……ええ。妖怪の中にはそういった、妖しの力を持つ道具を創るのに特化した存在もいるのよ。もちろん、そうそういる代物ではないから、基本的に妖具というのは妖怪の間でも相当な貴重品として知られているわ」
「へぇー……」
「妖具は武器や鎧、鏡などのように、形も持っている力も様々だけれど、強い力を込めて創られた妖具はそれこそ歴戦の妖怪にも匹敵する力を発揮するの。……ただまぁ、そこまでの力を持つ妖具を創るのは妖怪にとっても並大抵のことではないから、普通の妖具はもっと力の弱い、せいぜいが生まれたての妖怪が使える程度の妖術が使えるようになる、程度のものでしかないのだけれど。まぁそれでも普通の人間には倒せない妖怪に対処しうる力にはなるでしょうね。もちろん所詮は道具だから力の応用は効かないし、扱いに熟達しても力が増すわけでもない。妖具さえ持っていればなんて考えるのは浅はかにもほどがある、と言うべきでしょうけれど。……むしろ人間が手に入れたら、それを使って悪事を働かれることを心配するべきでしょうね」
「そっかぁ、なるほどなるほど。っていうことは、他にも方法ってあるんだ?」
「ええ、私の知っている限りでは二つ。まず、これはめったにないことだけど、人間の肉体そのものを妖化する方法、というものもこの世には存在するわ」
「えっ……それって、つまり、人間を妖怪にしちゃう、ってこと?」
「そうとも言えなくもないわね。実際、人間が本当に想いの強さから妖怪と化してしまった、という話も聞いたことはあるのだけれど……私自身はそれを実際に見たわけでもないし、証拠らしいものもなかったから、きちんと確かめたわけではないわ」
「あ、じゃあ、本当に妖怪にしちゃうっていうわけでもないんだ」
「ええ。いうなれば、人間を妖怪に似た力を使えるように改造するのよ。それはほとんどの場合、妖怪の力によるものなのだけれどね。妖怪と比べると効率が悪いけれど、普通の人間とは比べ物にならない耐久力を肉体に持たせることもできるし、妖術の類を使えるようにすることもできる。神との対戦のすぐ後には、妖怪と出会って不幸な目に遭った人々を集めて、その想い≠歪め肉体を妖化させ、妖怪ハンターとして利用した輩もいたそうよ」
 その話は閃も知っていた。賞金稼ぎ協会による講習会で習ったのだ。万が一にもそんな誘惑に乗ることのないように、とのことだったが、煌は当然のように『んな無駄なやり方で強ぇ妖怪に勝てるかよ』と言い捨てていたので、そのぞんざいな態度から本当に効率が悪いんだな、と閃としては納得していたのだ。煌としては自分に死んでほしくないのだから、そうした方が自分が生き残れる確率が高くなるというなら、一応考慮はするだろうし。
「利用……ってことは、本当は悪い目的のためにそんなことしたんだ……うー、やっぱり悪い妖怪さんって、いい妖怪さんと同じようにいっぱいいるんだね」
「そうね。そして最後にあるのが、たぶんこれがもっとも一般的な人間が妖怪を倒す方法でしょうけれど――妖怪に、妖怪を倒してもらう、というやり方なの」
「………? ? ? え、なに、どういう意味? 妖怪の人に頼んで倒してもらう……んじゃ、ないんだよね?」
「ええ。妖怪の中には、その性質の中に、人間に使われることを組み込まれている者が存在するのよ。園亞にわかりやすいところで言うならば、ゴーレムや使い魔、式神の類ね。魔術によってそういうものを創り出す方法もあるのだけれど、それとは別に、魔法という神秘や、それによる伝承に対する種々の想いといったものから生まれた妖怪というのも存在するの。その中にはまれに、妖怪として生まれた者に普通最初からある程度備わっている自由意思が根本的に欠けている……人に扱われる者≠ニして生まれる存在もいる」
「え、ええとそれってつまり、妖怪さんなのに、そういうゴーレムみたいに、ご主人様に使い放題にされちゃっても文句も言えない人がいる、ってこと?」
「そういうことよ」
「ええー……で、でも、それって……なんていうか、あの、ひどくない? だって、なんか、えっと……昔の奴隷とかみたい、っていうか……」
「そうね。自由意思や人格そのものを持たない妖怪のみならず、自由意思を持ちながら人に従わされている妖怪も存在するし。でも、多くの場合……人に使われている妖怪は、使っている人がいなければ生きてはいけないの」
「え! そうなの!?」
「ええ。人間に使われている妖怪の多くは、そもそも妖怪として不完全で、独立して存在することができない。というより、そういった妖怪の多くは、人間側の能力から生まれた存在なのよ」
「え……え? 能力………?」
「ええ。人間の中には……多くの場合、妖怪の血を引くことが理由なのだけれど……そういった、しもべ遣いの能力を持つ者がいるの。前に妖術や妖力を使える人間についても説明したでしょう? あの一種だと思ってくれればいいわ。妖怪の中にもしもべ遣いは存在するし。もちろん、人間の身で妖怪を操るのは並大抵のことではないわ。強い妖怪を操ることができるほど、莫大な存在する力≠ェ魂の根本から奪い取られている。……まぁ、それもその人間の才能の一種、と好意的に解釈することもできるけれどね」
「えー、と………うんと……よ、よくわかんないんだけど、つまりその、しもべ遣い? さんは、いいことしてるの? 悪いことしてるの?」
「行為自体の善し悪しはその人間によるでしょうけれど、能力自体の善し悪しは、気分的にいいものではないけれど一概に否定はできない、というところね。まぁ中には妖怪を術や血による契約で縛って働かせる人間もいるけれど、それはどうとでも解除のしようのあるものだし」
「へえぇぇ……」
「……まぁ、そういうものとは逆に、妖怪自身が望んで人間と深く、強く結びついている場合もあるのだけれど。ねぇ?」
 こちらを向いて優雅な(猫の顔なのに)笑みを浮かべるツリンに、閃はうろたえた。別に閃がやましいことをしているわけでもなんでもないのに、なぜか妙なプレッシャーを感じる。
「え? ど、どーいうこと?」
「まれなことではあるのだけれど、妖怪と人間が、妖怪自身が望むことによって――というのは不正確ね、妖怪自身は望んでいなかったとしても、運命のいたずらや感情の行き来、あるいは妖怪の業による宿命によって、妖的な深い繋がりを得ることがあるの。その場合、妖怪はその人間から力を得たり、その人間にうまく使ってもらったりすることで、そのポテンシャルを十二分に発揮できるようになる。……逆に言えば、人間との繋がりがなければ、力を十全に発揮することもできないのだけれどね」
「ん? んんー……それって、なんか、どっかで……あっ、閃くんと煌さん!?」
「そういうこと。この二人のように、人間と妖怪が深く繋がることで力を発揮するという場合もあるわ。しもべ使いとの違いは、主となるのが人間ではなく、妖怪の方だということ。妖怪の方から関係を繋げているから、人間の方は関係を維持するのに労力がまったく必要なくなる。その代わり、妖怪の方が関係を繋げる≠ニいう妖力に力を注ぎこむ必要があるのだけれどね」
「そっかー、閃くんと煌さんって、そういう関係なんだー!」
「そう。妖怪の方がめろめろに惚れ込んでなんでもはいはいと言うことを聞いているわけよ。餌付けされた動物のようにね」
「………………」
 閃は気配を殺し、空気とできる限り一体化して話をこっちに振られないよう全力を尽くした(少なくともこういう話を園亞(とツリン)としたいとは一ミリグラムも思わない)。のだが、体の中で炎が、そんなことなど知ったこっちゃないとばかりに燃え盛ってきやがる。
『……おい閃。ちっと尻出せ』
(んなことできるわけないだろこの状況下で)
『そこのクソ猫ブチ焼いてやるだけだ、いいからとっとと尻出せってんだよ』
(無茶言うな、そんなことされても困るしこの状況で尻出せるわけないし、そもそもこんな話した後に煌が暴れたりしたらっ……)
『したら?』
(俺たちがめちゃくちゃ恥ずかしがってるみたいじゃないかっ! そんなこと思われるのそれこそめちゃくちゃ恥ずかしいだろっ!)
『………、お前な……』
 そんな会話を交わしている横で、ツリンと園亞はどんどんと話を進めていく。
「そういう風に、妖怪を使える人間、妖怪と深く繋がっている人間は、妖怪の力を駆使して妖怪を倒すことができるというわけ。賞金稼ぎ協会に登録している人間というのは、ほとんどがそのどちらかになるわね。まぁ閃のように前線で妖怪と斬ったはったをするようなのがいないわけじゃないけど、少数派だわ。戦車や戦闘機と格闘戦する妖怪ほど珍しいわけじゃないけど」
「なるほどー……」
「で、そのどちらに属するにせよ、妖怪を従えることができるというのはとても特別な才能と言えるわ。使いようによってはいくらでもおいしい思いができる。賞金稼ぎとしてやっていくにしても、公僕としての給与よりはよほど割のいい稼ぎになるでしょう。そして公僕の一人になるということは、組織の一員になり、組織の上層部の命令に服従しなければならないということ。少しでも目端の利く人間ならば、自分をそんな状況下に置いて、上層部のいいようにこき使われて一生を終える、なんて可能性を生じさせることはしないでしょうね」
「えぇ!? そ、それって、もしかして……警察の偉い人たちが、そういう、ひどいことをしてるってことっ!?」
「……妖怪の存在が国家の上層部に知れ渡るようになってから、四半世紀も経ってはいないわ。妖怪の力を組織の中に組み込もうとする動きが生まれてからの時間は、それよりさらに短い。二十一世紀になってすぐに大戦があったとはいえ、その情報がすぐに国家指導者たちの間に周知されたわけではないの。つまり、政治家たちにとっても、組織の上層部の人間たちにとっても、妖怪という存在をどう扱えばいいのか決めかねているところがあるのよ。人というのは臆病なものですからね、基本的には理性的に妖怪とできるだけ協調姿勢を取ろうとしていても、時には暴走して自分の支配下にある駒を酷使して妖怪を皆殺しにしようなんて意見が優勢になることもありうる。そして、そんな暴走した命令によって使い潰されてしまうのが、公僕という立場にある存在なのよ。組織の一員として好き勝手に命令できる存在の中に、人を超えた力を持つ者がいる。なら自分の思う通りに使ってやろうという誘惑に負ける人間が必ず出てくることは想像に難くない。……このくらいのことは、少しでも世間を知っている妖怪なら常識のように語られることだから、まともな判断ができるのなら、妖怪も人間も公僕になりたがる者はまずいないわね」
「うぅー……そうなのかぁ……ちょっとがっかりっていうか、妖怪さんたちごめんなさいって気持ちになっちゃうなぁ……」
 そうしゅんとする園亞に、やっぱり園亞の中では自分は当然のように人間なんだな、と閃はこっそり苦笑する。それと同時に、微笑ましいような嬉しいような感慨も覚えた。園亞が、初めて会った時から、成長はしても変化はせず、変わらぬ園亞でいることが不思議に嬉しかったのだ。
 そんな閃を、ツリンはちろりと見やってくすくすぐるるぅ、と喉の奥で猫と人の声が入り混じったような笑声をこぼす。
「まぁ、だから閃のような、『過大な妖力を持つ妖怪を操ることができる』と組織上層部に信じられているような人間は、いいように使いたがられがちなわけよ。ま、彼の場合は本当にいいように使われそうになったらどこやらの火神が沸騰するでしょうし、他の人間の場合も本当にいいように使おうとしたなら普通は離反されるなり距離を置かれるなりするだろうから、基本的には奥の手扱いにされているだろうけど」
「あ、そうなの?」
「えぇ――まぁ、警察組織……具体的にはその妖怪課の中に、妖怪を使える人間がいないわけじゃないけれど。そうでしょう、妖怪課と親しい賞金稼ぎさん?」
「え、そうなのっ、閃くん!」
「………まぁ、そうだな。その人は、警察が使ってる拳銃の付喪神の主なんだよ。主っていうか……さっきツリンが言ってた、妖怪側から人間を求めることで成立する、深い協力関係っていうやつ」
「つくもがみ? って、なんだっけ」
「妖怪の一種で、無機物……特に、人の使う道具や、人形みたいな造形物に想いが籠って生まれた存在のことだよ。基本的にその道具とかに愛情を込めたことで生まれることが多いから、人間に好意的な妖怪が生まれることが多いんだ。藤乃さん……その妖怪も、川田さん、こっちはその妖怪の主みたいな人なんだけど、その人が警察官になって初めてもらった拳銃を、心を込めて整備したり磨いたりしてたから命を吹き込まれたんだよ」
「へぇぇ……なるほどー」
「ただ、本来付喪神っていうのは、長い長い時間……それこそつくもの名の通り、百年以上いろんな人に愛情をこめて使われ続けることで生まれるものだからな。たぶん妖怪が生まれやすくなったせいなんだろうけど、藤乃さんの場合は川田さんに使われ始めてからまだ十年も経ってない。だから藤乃さんも、そこまで強力な妖怪ってわけじゃないんだよ。年経た妖怪相手にはたぶん、まず勝てない。川田さんの場合はもともと警察官だったのが妖怪の主になったせいで妖怪課に出向させられることになったわけだけど、そんな人がそう都合よくいるわけないし、そもそも人間が妖怪とそこまで深い絆を結ぶっていうのがかなり珍しいケースだからな。戦力としては、悪事を働く妖怪と真正面から戦うのは厳しいんだ、妖怪課は」
「え、珍しいの、そういう人?」
「……まぁな。そもそも妖怪が人間に使われたがるってことが普通ないし、妖怪が求めたとしても人間が拒否する場合も多い。愛情を込めた道具が付喪神になったとしても、自分の道具が妖怪という自分の未知の存在になってしまったことや、生命として成立して一個の人格を得てしまったことに耐えられない人っていうのは多いんだよ」
「そうなんだぁ……閃くん、よく知ってるね?」
「まぁ、聞いた話だけどな。賞金稼ぎの中には、妖怪もいないわけじゃないし。……とにかく、そういうわけで妖怪課は、悪事を働く妖怪を特定して、いざ逮捕しようっていう時には戦力を外注することが多いんだ。それで俺も声をかけられることがそれなりにあった」
「うん」
「それで……なんで園亞も一緒に来るように言われたか、ってことなんだけど」
「あっ! そーだったそーだった、そーいう話だったよね!? なんでなんでっ、私そーいうお巡りさんとかとぜんぜん仲良くなったことないんだけど!」
「……仲良くっていうか、前に、園亞のことを賞金稼ぎ協会への報告書に書いていいか、って聞いただろ?」
「へ?」
 園亞はきょっとーんとした顔になって首を傾げた。そんなことがあったことなどまったく覚えていない顔だ。まぁそうだと思ったけど、と肩をすくめ、ツリンの方に顔を向ける。
「ツリン、あんたは――」
「正直こんなデリカシーのない男に協力したくはないのだけれど、残念ながら事実よ、園亞。園亞とこれが和解した後に聞いてきたわ。これまでは園亞を個人的に受けた護衛の仕事の対象と考えてきたから自分が個人的に礼をするしかなかったけれど、園亞が妖怪でこれからも自分に協力してくれるのなら、正式に協力者として協会に登録して報酬を分けることができるから、と」
「えぇぇ、そんなこと、あったっけ………? ぜんぜん覚えてない……」
 まぁそうだよな、と小さくため息をつく。半ばは勢いで理屈は後付けとはいえ、自分なりに園亞のためになることをしようと気合を入れた結果発した言葉ではあるのだが、園亞が覚えていてくれるとは全然期待していなかった。
『ま、こいつの場合、お前が愛情だのなんだのその手の感情を込めて言った言葉はそれなりに覚えるだろうが、あれこれなんかのために〜みてぇなこと考えて言ったこたぁ絶対覚えねぇだろうな。どうでもいいから』
(……煌うるさい、黙ってろ)
 ともあれ、忘れられることはわかっていたことではあるのだが、閃としてはそれでも話しておくべきだと思ったことなのだ。
「それだけじゃない。俺としては、園亞が妖怪であることを、国の上層部にも連絡しておくべきだと思ったんだ」
「え、なんで?」
「四物コンツェルンの令嬢が妖怪だっていうことを知った奴の中には、それを利用してコンツェルンからなにかを引き出そうとする奴もいるかもしれないだろ? そうしたら園亞のご両親は、たぶん全力でそいつを叩き潰そうとすると思うから、先に話を通して、別に妖怪の存在を知っている人には秘密でもなんでもないってことを無言のうちに主張しておけば、無駄に被害が出るのを減らせるし……」
「えー、お父さんもお母さんも、私のこと守ってくれるのはもちろんだけど、別にそんなひどいことはしないよ?」
「……それに、園亞にとっても、その方がいいと思ったんだ」
「え、お金もらえるとかじゃなくて?」
「いや園亞にお金ってあんまり得にならないだろ。ないよりはいいぐらいで。そうじゃなくて、園亞が人間から生まれた妖怪で、いろんな魔法が使えるけど、ちゃんとした良識を持っているごく一般的な女の子だってことを、賞金稼ぎ協会や国の上層部に知らせておかないと、園亞に出会った賞金稼ぎや国の人間なんかが、園亞を当たり前の妖怪だとみなす可能性もあるからな。そんなことになったらトラブルのもとだし」
「えぇ? なんで?」
「普通、妖怪っていうのは人間と生まれ方も精神構造も違うから、ごく普通に人間と暮らしている妖怪っていうのはそれなりに年経た存在とみなされることが多いんだよ。つまり、少なくとも成人同様の思考能力を持っているだろうと受け取られるんだ。そういう風に思われるのは、園亞としても負担だろう?」
「え、なん……あ、そっか! 確かに私、大人の人みたいにてきぱききちんとなんでもできるって思われたら困っちゃうね!」
「……それにまぁ、普通の妖怪だと思い込まれるってことは、妖怪同士の倫理や論理をちゃんと理解してるって思いこまれることでもあるからな。園亞は、妖怪独自のそういう考え方を、まだちゃんとわかってるとは言えないだろ?」
「え、うん……そう、だね?」
 よく意味が呑み込めないようでまた首を傾げる園亞に、閃はちょっと苦笑する。まぁ実際園亞にはわからないだろう、というかわかられると正直困る。園亞のような世間知らずでお人好しな少女が、人間とは明確に違う=A人間を獲物とみなしたり強烈に拒絶したりすることも当然存在しえる思考のひとつである妖怪の心理構造など理解させられたら、精神的に負担になることは疑いない。
 園亞のように自分を人間だと考えている妖怪もそれなりに存在するが、その多くは妖怪という存在そのものを拒絶しているそうで、園亞のように『妖怪と人間は違うけれど、いい妖怪とは友達になれる』というように考えている者はほとんどいないらしい。煌に言わせると、その考え方はむしろ極端に『善良』な妖怪に近いそうだ。
 実際園亞が善良すぎるほど善良なのはよくわかっている。最初に自分たち(というか、煌)が妖怪を殺した時にはショックを受けたというか落ち込んだ顔を見せていたので、『妖怪は死んでもいつか復活する』という一面の真実を教えたことで(全面的には嘘ではない、ぐらいの話ではあるのだが)、気分的に復活したという経緯があるくらいなのだ。閃としては、正直園亞にそういう妖怪としての常識を身に着けさせるのはまだまだ早いと思っている。少なくとも人間、というか人格としてきちんと成熟する方が先だろう。
「それに、妖怪だ、っていう理由だけで因縁やいちゃもんをつけてくるような馬鹿な賞金稼ぎや国政関係者がいないとも限らない。そういうトラブルを、上に話を通しておけばかなり避けられると思ったんだ。向こうも四物コンツェルンに配慮して、トラブルが起きないようある程度先回りしてあちこちに話を通してくれるだろうし。……それで、今回一緒に来てもらいたいのは……」
「うんうん」
「まず、妖怪課の人たちに園亞との面通しを済ませておきたいのがひとつ。妖怪課の人たちは、国家機関としては基本的に妖怪関係のトラブルを一手に引き受けているから、厄介事に巻き込まれた時に連絡すれば力にはなってくれるから。それと、園亞の力を向こうに正確に把握しておいてほしい、っていうのも大きいんだ」
「え? 私の力って?」
 またきょとーんと首を傾げた園亞に、また少し苦笑しながら答える。たぶんそうだろうと思っていたが、園亞には自分に特別な力があるということもあんまり自覚していないらしい。
「園亞はいろんな魔法が使えるだろう。そのおかげで俺はいつも助けられてるけど、園亞の使う魔法って真正面からの戦いにはあんまり向かないよな? 人間相手だったら相当強力だけど、妖怪相手だと、一時的に無力化するっていうならとにかく本気で戦うには不向きだろう?」
「……そうなの?」
「ええ、確かにね。そもそも使う用途がまったく違うもの。魔法の使い手――魔術師や魔女の本来の在り方は賢者としての姿。真理を追究し自身を高めいずれ世界の真実を勝ち得るため学ぶ、その過程としていくつもの呪文を学ぶというだけよ。妖術や妖力とはそもそも比べる方が間違っているわ。取得するために素質が絶対的に必要であるとはいえ、個々の呪文はあくまで純粋な技術≠ネのだから。学習した数多の事象のひとつとして駆使することで、様々な状況に対処する技術のひとつ。圧倒的な力で現実を改変することで、無理を押し通す妖怪の力とは区分からして違うのよ」
「そうなんだぁ……」
 のんきに会話する師弟に少々脱力しながらも、閃は説明を続ける。
「もちろんその辺りは報告書に書いてはいるんだけど、文章だけじゃたいていの人間には現実感を伝えられないからな。園亞の持つ力がどういうものなのか、なにに向いていてなにができてなにができないのか、みたいなことを会って伝えた方が、買い被りも過小評価もされずにすむし」
「なるほどぉ……閃くん、すごいね! 大人の人みたいに難しいこと考えて、わざわざ誘ってくれたんだ、ありがと!」
「っ、いや、これは、その……」
 園亞にいきなり満面の笑みで褒められ感謝され、閃はうろたえわたわたと慌てた。そこにツリンがいかにも楽しげな口調でつついてくる。
「まぁ、基本的にこの子は論理を積み重ねて結論を出す、ということが苦手なようだから、だいたいのところはどこやらの火神にアドバイスしてもらったのでしょうけれどね。他人の考えをさも自分が考えたかのように言うなんて、少々礼を失しているのではないかしら?」
「だっ、だってこれは」
「え、閃くん、そうなの?」
 首を傾げられて、閃はぐぬぬっ、と言葉に詰まる。というか閃としては、『自分が〜と思ったから』みたいな言葉も含め、園亞を説得することを第一に考えて勢いで覚えたことを半ば勢いで喋っていたので、細かいことをいちいち気にしている余裕などなかったのだ。もともと煌が考えてくれたことだというのは、最初からきちんと説明するつもりだった。
 だけどそんなことをいちいちくだくだ言い訳するのは男らしくないし、正義の味方らしくもない、と思えてしまって閃は顔を熱くして奥歯を噛み締めるしかなかったのだが、園亞はそんな閃をしばし見つめたあと、ぽんと手を叩いた。
「そっかー、閃くん、煌さんにこの話考えてもらったんだね? で、それを最初から言うつもりだったけど、ツリンに言われてからそれ言ったらなんか言い訳みたいだから黙っちゃったんだ」
「っ、え」
「え? 違った?」
「ち、ちが……わないけど、なんで」
 驚いて問うと、園亞はにこーっと心底嬉しそうに顔全体で笑ってくる。
「合ってた? 合ってた? えへへー、うれしっ」
「いや合ってるけど、なんでそんなことまでわかったんだ。ツリンだってそこまでは」
「そりゃーだって、私はいっつも閃くんと一緒にいるもん。もう四ヶ月近くにもなるんだよ? そのくらいわかるんだってば! えへへー」
 にっこにこと笑みを浮かべる園亞に、閃は一瞬言葉に詰まる。そこにツリンが冷えた声で言葉をかけてきた。
「言っておくけど、私はあなたのその屈託に気づかなかったわけじゃなくて、気づいてた上でそこをつついてあなたをいじめてあげようとしただけよ? そもそもあなたはわかりやすい性格をしているから、別に洞察力が高くなくてもそのくらいは普通わかりますからね」
「うぐっ……」
「もー、ツリンってば意地悪言わないのー。いいじゃない、わかりやすい閃くん、私好きだし」
「………………それは、ともかく」
「あら、ごまかす気? 男として最低ね、あなた」
「そうじゃないけどっ! そういう話はとにかくっ、園亞としては、どうなんだ? 俺の報告やら申告やらで向こうは園亞と会う気になったわけだけど、もちろん園亞がその気がないんなら、この話はなかったことにしてもらうけど」
「え、いいよー、行くよ私、一緒に」
 ごくあっさりとうなずく園亞に、少しばかり危機感を覚えながらも、一応最後の確認を取る。
「わかった。その時に、賞金稼ぎ協会にも正式に協力者として登録することになるけど、いいんだな?」
「うん、もちろんいいよー。だって私、閃くんと一緒にいたいし。正式な協力者っていうのじゃないから一緒に行けないとことかあったら、やだもんね」
 そうにこにこっと笑みを向けられて、閃はぼそぼそと「……じゃあ、明後日の夕方の四時に迎えに来るから。家の人には、俺の方から許可をもらっておく」と実務的な答えを返すことしかできなかった。ツリンははぁ、とこれ見よがしにため息をつき、煌はくっくと笑ったが、閃としてはうるせぇちくしょう他にどう答えろってんだ、という気分だったのだ。

「……えぇと、ここが、そこなの?」
『妖怪課』という名称を関係者以外のいるところでは絶対に口にしないように、と何度も言った甲斐あって、園亞も穏当な言い回しをしてくれているようだった。小さくうなずいて、答えを返す。
「ああ。ここが、目的地だ」
「そうなんだぁ………」
 ここまで送ってきてくれたいつもの移動用のセンチュリーが走り去っていくのを気にもせず、園亞はぽかーんと閃の示した建物を見上げる。まぁ、警視庁警備部所属、それも係ではなく課を名乗っているのだから、普通は霞が関のでかいビルを想像するだろうし、そうでなくともきっちりとしたお役所的な本拠を想像するだろう。
 だが実際には、目の前にあるのは渋谷の裏通りの古ぼけた感全開の雑居ビル。しかも妖怪課の所在地はここの地下一階二階。園亞はたぶんこんな場所には近寄ったこともないのではなかろうか(基本どこに行くにも車で送り迎えをするので)。
「俺たちの行く部署は、基本的には部外秘の部署で、そんな部署があることは公にされてないんだよ。親方の名前を使えないから、こういう……なんというか、うさんくさい場所で周囲の目をごまかしてるんだ。まぁ、近くに日本最大級のネットワークがあるっていうのもこの場所を選んだ一因ではあるんだろうけど」
「へえぇ……」
「じゃ、行くぞ。俺から離れないでくれよ」
「あ、うん」
 うなずく園亞を後ろに従え、閃はビルに入ってすぐに鎮座しているエレベーターに乗り、B1Fのボタンを押す。結界なりなんなり妖しの力で侵入者を選別出来たら便利ではあるのだが、残念ながらそんなことができる人材は妖怪課にはいない。
 B1Fに降りると、すぐ正面になにも書かれていない大きな扉がある密室に出る。そこに巧妙に隠されたカードリーダーに身分証明のため与えられたこの扉専用のカードを滑らせると、一見観音開きのように見えていた扉はすっと持ち上がり、しゅんっと軽快な音を立てて横に滑る。
「わっ……な、なんかとくしゅぶたいっぽい……」
「まぁ、部外秘の組織ではあるからな。エレベーターがB1Fにある間にカードを使わないと、開かないようになってるし」
「わぁ……な、なんかすごいひみつそしきって感じなんだけど……」
「だから、一応秘密組織なんだよ本当に」
 などと言いながら扉の奥へ進むと、扉はしゅっと閉じる。中は真っ暗だったが、閃は慌てずに数歩だけ歩を進め、ぶんっ、と何かの音源が入る音を聞いてから声を上げた。
「草薙です。四物園亞嬢も一緒です」
『おいおい、なんだよ草薙ぃ。てめぇ何気に仲よさそうじゃんその子とさぁ。てめぇまっさか未来の四物財閥の跡取りの座とか狙ってんじゃねぇだろうなぁ、だったらその時にはぜひわたくしめを秘書に!』
「木月さん。無駄話するんなら扉を開けてからにしてください」
『てっめ曲がりなりにも年上に対してだなぁ……イデッ。……へいへい、了解。今お開けしますよっと』
 木月の答えと共にぱっと天井に明かりがつき、目の前の扉がさっと開く。その先に広がっていたのは、山積みの資料、そしていくつものディスプレイに繋がったコンピュータに囲まれて、いかにも警察という感じに並べられた事務用机、そしてその前に立つ(主として中高年男性で構成された)いかにも刑事、と言い切るにはちょっと雰囲気の違う、地味な背広を身に着けた人々だった。
「ようこそ、草薙くん――そして、四物財閥のお嬢さん。妖怪課へ」
 そうにこにこと笑顔を向けてくるのは、もはや老年と言っていい年齢の、そしてそれこそ妖怪じみた雰囲気をまとったこの課の長、鰐淵仁。元は公安に勤めていたものの国家間交渉のトラブルで貧乏籤を退かされ、ずっと窓際にいたそうなのだが、その経験を活かしてか、各組織との交渉や非難追及をかわす手管などにはそれこそ妖怪じみた腕の冴えを見せる人だ。
「ふん、こりゃまた可愛らしいお嬢さんだな。こんな子を相手にするなんざ、すましてやがるがお前もまだまだケツの青いガキってことかねぇ」
 サングラスの奥でにやりと笑ってみせる、ちょい悪親父を絵に描いたような五十がらみの男性は、久我志郎。元は警視庁捜査四課に勤めていたそうで、その手の奴らをどう動かせばいいかを熟知している上、そちらに対するコネも強く、裏社会内での情報網は現役の四課にも劣らない。さらには人間と人間のトラブルをいかに収めるかも熟知している頼れる人なのだが、見た目通りに女好きで、もともと四課から飛ばされたのも女性とのトラブルが原因というほどなので、女がいる現場には連れて行かないのがここの不文律になっている。
「別にそういう意味で手を出してるわけじゃありませんから」
「ははは、まぁ若い子たちのそういう話に口を出すのは野暮でしょう。いちいち口出ししてたら嫌われますよ? 私も娘がいるんでわかるんですがねぇ」
 そう好々爺然とした顔で笑うのは笹川要次郎。この人はもともとは地方警察署で働いていた一警官だったのだが、個人的に民俗学、特に妖怪変化について研究していて、学会に市井の一研究家として論文を提出していたほどの人なので、妖怪≠ニいうものに対する知識を買われてスカウトされた、妖怪課の妖怪知識担当者だ。妖怪についての伝承知識については本当に幅が広く深い博学な人なのだが、妖怪≠ニいうものに対して過剰に思い入れがあるせいか、いざ妖怪と相対すると理性を吹っ飛ばす悪癖がある。なので園亞が妖怪であることは彼には知らせず、魔法使い≠ニいうものだと思わせてくれるよう鰐淵には頼んでおいた(基本この人は前線や情報戦には出番がないので、それでもとりあえずは問題ない、と(煌が)判断した)。
「まぁなんでもいいけどよぉ、うまいことやりゃあがったよなぁ、このガキャア。ちったぁ俺にもおこぼれを恵んでもらえねぇもんですかねぇ」
 にやにやと下品な笑みを浮かべてみせるのが、さっき入り口で閃に声をかけてきた木月修一。アラフォーの妖怪課の技術担当。もともとは警視庁のサイバー警察の一人だったのだが、借金取りとのトラブルを起こして首になり、妖怪課に拾われた曰く付きの人だ。ハッカーとしての技術のみならず、ハードソフト問わずコンピュータに関わることならなんでもできる、ここのセキュリティやネットからの情報収集も一手に引き受けている優秀な人材ではあるのだが、基本的にダメ人間というか、金に限らずトラブルを起こすことがしょっちゅうで、基本的に家に帰れずこのビルに住み着いて他の人々に生活の監視をされている。正直あんまり関わり合いになりたくない人ではあった。
「ですから、おこぼれをあげるような関係には少しもなってませんから。俺とあなたの関係も含めて」
「っのガキャア……」
「木月さん。子供相手にそういう言い方はよくないですよ! 子供が大人に混じって頑張ってるんですから、労わってあげるのが大人の役目でしょう!」
 そう言ってくれるのは川田雄彦。二十九歳で、妖怪課最年少で、今どき珍しいくらいの熱血刑事だ。高校卒業から警察学校へ行って警官になるというコースをたどり十年近く交番のおまわりさんをしていたのだが、所持していた拳銃が付喪神化したことで妖怪課に強制配置された人で、妖怪といざ対決する際には一人で前線で頑張っているのに立場は妖怪課で一番弱いという不遇な人だ。刑事としての能力というか、頭脳労働に関してはあんまり当てにならないせいなのだが、やや突っ走りやすい質ではあるものの誠実で優しい、お巡りさんとしては理想的な性格の持ち主だと個人的には思っている。
「……ありがとうございます、川田さん。その……紹介してもいいですか?」
「あ、うん、どうぞ!」
「園亞、この人が妖怪課課長の鰐淵さん。あちこちの組織の上の人との交渉が主な仕事だな。こっちの人が久我さん、人間に対しての情報収集やトラブル解決担当。こちらが笹川さんで、妖怪についての知識担当だ。で、こっちが木月さん。ネットでの情報収集とか、サイバー関係では頼りになるけど、基本的に人としてはあんまり褒められた性質してないから、できるだけ関わり合いにならないほうがいい」
「おいクソガキ、舐めたこと抜かしてんじゃねぇぞっ!」
「それで、この人が川田さん。例の、拳銃の付喪神を誕生させた人だ」
「へえぇ……あっ。あの、みなさん、始めまして! これからよろしくお願いしますっ!」
 元気な声と共に勢いよく頭を下げる園亞に、ある人は苦笑しある人は笑顔でうなずき、とそれぞれ差はあるものの、妖怪課の人々は好意的に挨拶を受け止めてくれたようだった。まぁ普通曲がりなりにも大人なのだから、元気で礼儀正しい子供に挨拶されて好印象を抱かない方が珍しいと思うが。
「で、みなさんにはもうご承知のことと思いますが、こちらが四物園亞、さん。俺の協力者として賞金稼ぎ協会に登録されてます」
「ふむふむ……お嬢さん、よろしく頼みますよ。なにか困ったことがあったらいつでも相談してください、年寄りな分少しは知恵も働きますんでねぇ」
 にぃ、と笑ってみせる鰐淵に、園亞は笑顔でうなずいた。
「はいっ、よろしくお願いしますっ!」
「……うひー、うちの妖怪じじいに笑いかけられて笑顔で返せるとか、さすが四物財閥のご令嬢、並みじゃねぇなぁ」
「木月さん! 失礼ですよ」
「あれ? えっと、確か川田さんが、拳銃のつくもがみ? っていう妖怪の、主っていうか、深い関係の人、なんですよね?」
「えっ! あ、はいその、そうですがっ!」
 なぜか顔を赤くして直立不動になる川田に、園亞は首を傾げる。
「えっと、じゃあそのつくもがみさんって、どこにいるんでしょう? なんか、ごあいさつしちゃいけない理由とかあるんですか?」
「えっ……いや、それはその……」
 少しばかり川田は混乱したように目を瞬かせたが、やがて笑顔になって首を振った。
「いや、そういうわけじゃ全然ないですよ。ただなんていうか、あいつは内気で……初対面の人が苦手で。現場でならまだまともに話ができると思うんで、すいませんが現場で改めてご挨拶させていただくわけにはいきませんかね。ただ……まぁそれでも、正面からきちんとご挨拶、っていうのはできないと思うんですが……」
「え? 私は別にいいけど……その人って挨拶だけでもそんなに大変なんだったら、生活するのもすごく大変ですよね? 大丈夫なんですか?」
「いや……まぁ、あいつは普段ずっと銃の姿でいるんで。人間の姿になるのは家にいる時くらいで……」
「え、銃の姿!? そういう妖怪さんもいるんですねー」
「まぁ、付喪神はたいてい自分の元になった器物に変身する能力は持ってるよ」
「へえぇ……あ、でもやっぱり妖怪さんと深い繋がりを持つ人は、いっつも妖怪さんと一緒にいるんですね。拳銃の形のまま家に持ち帰って、人間の格好になるくらいリラックスさせてあげてるんだもん、すごいなぁ」
「うぐっ……そ、れは、です、ね」
 川田は顔を真っ赤にして言葉に詰まる。その姿を他の妖怪課の面々はにやにやとそれを眺めた。きょとんとする園亞に、閃は小声で耳打ちする。
「その、藤乃さん……その拳銃の付喪神は、その……川田さんと、結婚してるんだよ」
「え! 妖怪と人間って、普通に結婚できるんだ!」
「いや、普通にというか、基本的に妖怪は人間社会では存在を認められてないわけだから、人間の戸籍を持ってればもともと結婚はできるんだけど。ただ普通の妖怪は人間として生まれてないから、偽造戸籍になるんだけど……川田さんたちの場合は、日本国家そのものがその結婚を認めてるから、どこからも文句のつけようがない形になってるんだ。本人……というか、藤乃さんが妖怪課に入る報酬としてそれを求めたから……」
「へぇ! うわぁ、なんかすっごいなぁ。そんなにその藤乃さんって人に惚れこまれてるんだ!」
「や……その、まぁ……」
「ふふ、付喪神という言葉の発祥は室町時代の付喪神絵巻によるものだが、その中では古道具から生まれた器物の妖怪たちはむしろ人間に恨みを持っていたし、妖怪伝承としては使い手に、あるいは使い手の恨みを晴らそうと他者に、つまりは人間に害を及ぼす例の方が多いのだがね。だが現代において愛を注がれた道具が愛を返してくれるというのは一般的な共通幻想ではあるし、普通に考えて優しくしてくれた相手にはたいていの生物は敵意よりも好意を抱きやすいだろう。これは動物報恩譚や異類婚姻譚に通ずる、というよりむしろそのものである話と言っていいだろうねぇ」
「まぁ、顔自体はそこそこっつーかそれなりに美人、ってくらいなんだがね。タケ坊……川田への慕いっぷりがなかなか尋常じゃねぇのさ。普通の男にとっちゃ地雷以外のなにもんでもねぇが、こういうよそ見をするのも悪いことみてぇに考える男にとっちゃ、まぁ相性のいい相手だぁな」
「へえぇぇ、すっごいなぁ………!」
「ううぅぅ……」
 川田を肴に盛り上がっているところに、閃は咳払いをして水を差した。知らされた作戦時間までは充分余裕を見てやってきたつもりではあるが、一応相手の素性は早めに知っておきたい。
「で、今回は、どこのどいつが相手なんですか?」
「……木月」
「あいよ」
 木月は自分の席に戻り(そこだけやたらサイバーな機材があれこれ積み上げられている席だ)、タタン、と軽くキーボードを叩く。とたん明かりが暗くなり、プロジェクターにぶんっ、といくつもの図面と人物写真、そして箇条書きにした人物情報が映し出される。それを見上げながら、久我がつらつらと述べた。
「〇対は堀井義信、七十九歳。出身は京都、七条河原町。職業無職。現在多摩のアパートに年金で一人暮らし――というのが人間の顔。妖怪としては、手の目……で、いいんだったか、笹川さん?」
「ああ、もちろん。皮を残して体から骨が抜き取られているという犯行の上、出身が七条河原町で年齢が七十九歳とくれば、これはもう自己紹介してくれているようなもんだ」
「……日本の古い妖怪なんですね」
「その通り。初出は石燕の画図百鬼夜行だね。諸国百物語の『ばけ物に骨をぬかれし人の事』という話をモデルにしたのではないかと言われている。岩手や新潟にはまた別の、盲人が悪党に殺されて、せめて悪党どもの顔を見たい、目が見えないのなら手に目があれば、という想いから化けて出たという手に目のある妖怪もいるのだが、今回はこちらではないだろう。まず違いとしては――」
「今回はいつもみてぇに、尋常じゃない形の被害がいくつも出た、ってことに加えてネットワークからのタレコミがある」
「ネットワークからの?」
「ああ、あんまり人間に友好的じゃない奴らからの、騒がれると面倒なんでさっさと解決してくれ、みてぇなメッセージでな。なんで最初からかなり確度は高いとみて捜査していった結果、こいつが出てきたわけだ。部屋にいるところを遠隔写真で捉えて、妖怪だってのは確定してる。で、あとはまぁ俺らの仕事としては、こいつのところに行ってこれこれの理由で逮捕する、となるんだが、その時に抵抗された場合の戦力としてあんたらを呼んだわけだ」
「………はい」
 それからもつらつらと久我の説明は続いたが、閃の耳にはその説明は半ば以上入っていなかった。閃としては戦力として呼ばれたということがわかっていれば、あとはさっさと現場に出たいという気持ちがある。閃としても直すべきだろうとは思っているのだが、閃には作戦をあれこれ考えるのが苦手で、とりあえず(相手に斬り込むなり護衛として相手を追い払うなりやることはその時々で違うにしろ)動いてから考える、という形でないといまいち思い通りに体が動かないのだ。
 なので、むしろできる限り神妙な顔をしながらできる限り作戦説明を聞き流しつつ、煌にそのまま伝える。これでなにか問題があれば煌が指摘してくれるだろうし、それに後から煌に気をつけておくべきこと、煌がそばにいない時の行動指針なんかを教えてもらった方がはるかに頭に入りやすいし、その上体も気持ちよく動いてくれる。なので物臭なやり方かなという気もしないではないのだが、今のところ問題は感じていなかった。
「……以上。なにか説明は?」
「ありません」
「あ、はい!」
 園亞が元気よく手を上げる。閃も、妖怪課の何人かも、驚いて園亞に視線を向けたが、鰐淵は表情をまるで変えず、笑顔のままで園亞に問いかける。
「なんでしょうか、お嬢さん?」
「えっと、その手の目って妖怪さんを、逮捕しに行くんですよね? 殺しに行くわけじゃないんですよね?」
「そうですね、その件については……久我くん、説明を」
「あー……なんつーかな、基本的に日本の法律では妖怪ってもんは裁けない。妖怪ってもんの存在自体が周知されてない、どころか一応極秘事項に当たるからだ。だから裁判もできないし、妖怪を捕えておけるような留置所も存在しない。だから俺たちの行動は基本的に、妖怪に逮捕宣告した際、抵抗する相手を殺害するという前提に立っている。現在の警察組織では人間の命を護るために動くことはできても、妖怪の命を尊重することはできない。まぁ、妖怪は死んでもいつか復活する分、人間よりも命を奪うことの重みが小さいっていうのもあるがな」
「そう、なんですか………」
「ただ、これこれの罪状でお前を逮捕する、と告げた時に、相手の妖怪が私が悪うございました、どうか命ばかりはお助けください、となった時に、一応引き渡すべき相手ってのは存在している。こちらとしてもむやみに妖怪の命を奪って、人間に敵対してない妖怪の評判が悪くなるのは避けてぇからな」
「え、そうなんですか! 誰なんですか、その引き渡す相手って?」
「日本最大級の、そして人間に対して好意的なネットワーク……妖怪のネットワークってのは知ってるな、お嬢ちゃん? のひとつだ。そこは資金力があるし、人材……っつぅか妖材っつぅか、そういうもんも豊富だから悪事を犯した妖怪を捕えておくこともできるし、そもそもが人間社会にまだなじみのない若い妖怪に対し教育を施すことを目的として発足したネットワークだから、悪事を犯した妖怪の再教育ってのはそれこそ専門分野になるからな。実際、そこに引き渡した妖怪が再犯者となったって話は今のところ耳に入ってない。それに向こうさんも、教育した妖怪が再び犯罪を犯した場合には、責任を持って処分すると言ってくれてるんでな。ま、国家組織に対処できるだけのノウハウがないんで、民間の専門組織に委託してるってわけだ」
「へ、へえぇ……あの、ほんとのこと言っちゃうとよくわかんないんですけど、でも逮捕できた時にはちゃんとその人の面倒みてくれる人たちがいる、ってことでいいんです、よね?」
「……まぁ、それで間違いはねぇな。それがどうした、お嬢ちゃん?」
「あ、はいっ」
 園亞は笑顔になって、元気よく妖怪課の人々に言い放った。
「あの、私の魔法で、その人を逮捕されてもいいかもって気分にできないかって思うんです!」

「……魔法使い、か。正直、なんとも判断が難しい存在だねぇ」
 妖怪課の専用車(一応警察、それも警備部直下のかなり重要な秘密組織ではあるので、そのくらいのものはある。あれこれ高価な捜査用や鑑識用の機材が乗っているワゴン車だ)の席のひとつにゆったりと腰かけながら、笹川がひとりごちる。久我はそれを聞き咎めて口を挟んだ。
「笹川さんならよく知ってるもんだと思ったんですがね。妖怪も魔法使いも、怪しげって意味では似たようなもんでしょう」
「まぁ、もちろん一通りの知識はあるさ。世界各国に魔法と呼ばれる民間伝承は間違いなく存在するし、十九世紀末にはあちらこちらの隠秘学を習合させ、大真面目に魔術を研究していた隠秘学結社があったことも間違いのない事実だ。ただ、実際に目に見える効果のある魔法を使える人間がいる、というのは……正直、そういう能力を持つ妖怪だ、と定義したほうがはるかにわかりやすいよ」
「ふうん、妙な力を持つ妖怪ならよくて人間なら駄目ってことですか?」
「駄目とかそういうことじゃなくてね。私もこの仕事を得て、妖怪ネットワークの構成員と話す機会も何度かあったし、それこそ信じられないような経歴を持つ賞金稼ぎの人々とも何度も言葉を交わしたから、人間の中にも実際に、霊視や妖怪使いといった、通常あり得ない、現世から外れた場所にある能力を持つ人がいることは知っている。ただ、それはみな、少なくとも私がこれまで知った相手の場合はみな、その人間自身の資質なんだ。妖怪の血を引いている先祖返りだったり、妖怪を生み出す世界法則によって形質を歪められたりしたことから得た、その人間のね。翻ってあのお嬢さん――四物園亞さんの場合は、正直計り知れないものがある」
「ほう?」
「あの力は技術≠ナある、と草薙くんのパートナーからも断言された、と言っていただろう?」
「ええ、まぁ、そう言ってましたね」
「園亞さん自身の感覚でもそうである、と言っていた。彼女の使える超常の技は、あくまで『魔法を使うことができる素質』という下敷きの上に築かれた、素質があるならば誰にでも使える技術であると。それが本当ならば、素質があるなら誰にでもその魔法という技術を扱えるのであるならば――世界各国に伝わる魔法≠ニいう伝承すべてが、彼女の技術によって塗り替えられるということになってしまう」
「……ん? よくわからんが、要するになにが言いたいんですか?」
「『本当に効果がある魔法』なんてものがあるならば、世界各国の魔法と呼ばれる伝承全てが、誤りだと定義づけられてしまうということさ。妖怪は基本的に伝承から、山ほどの人間の感情や思念から生まれるものであるからこそ、伝承との間に優劣関係は存在しない。どちらが元祖であるかなんて話だって、それこそ卵が先か鶏が先かというレベルになるからね」
「はぁ」
「だが、『本当に効果のある魔法』となると……魔法使い≠ニいう妖怪ではなく、純粋に技術として存在する魔法があるとなると、その魔法技術、ないしそれと同質の代物以外のあらゆる魔法に関する伝承は『誤りである』と明確に結論付けられてしまう。実際に使用できる技術とできない伝承じゃ、どう考えても使用できる技術の勝ちだ。つまり彼女の持っている魔法≠ニいう技術は、この世界の魔法に関する伝承≠ニいうものを根こそぎ消滅させてしまう、それこそ核爆弾のような威力と無益な殺戮をもたらす力を有しているんだよ」
「はぁ……」
「正直、私個人の見解としては、彼女にその技術を封印してもらいたい。……さらに正直な本音を言わせてもらうと、彼女の存在自体消滅させてしまいたいほどだ」
 一瞬ではあるが、笹川のものとは思えないほど険しい表情を浮かべながらそう言われ、久我は驚きつつも、鋭い目つきで笹川を睨みつける。
「笹川先生がそんなことを言うとは思ってませんでしたな」
「私は先生なんて言われるほどの身分じゃないよ。いつも言ってるだろうに。……心配しなくてもこんなことはあのお嬢さんにも、草薙くんにも言わないし、表面にも出さないよ。そのくらいの腹芸ができるくらいの年は取ってる」
「そう願いたいですな。そして万が一にも実際に実行しないようにしてほしいもんです」
「いや、冗談を言わないでくれよ久我くん。私がそんなことをできるほど若くないのは知ってるだろうに」
「……ま、それは知ってますがね」
 口の端を吊り上げて表情を緩めて見せながら、久我は内心かなり笹川のことを危ぶんでいた。妖怪課は(できる限り一般にも警察組織内にも認知されない組織である必要があるため)、警察内のはみ出し者を集めた吹き溜まりだ。警察倫理よりも自分の目的を優先する連中が(自分も含めて)揃っている。そしてこの笹川先生にとって、至上目的は妖怪の研究=\―いや正確に言えば、妖怪伝承と実在する妖怪の研究≠ネのだ。
 この爺さんは基本的に、この世にいる妖怪をすべて研究対象だと思っている節がある。久我にはその姿勢はどうにも危ういというか、妖怪を人間扱い――というのも妙だが、自分と同程度には価値のある生命であるとみなしていない、理性を持ち会話できる対象を実験動物として扱っている気がしていた。
 まぁ久我としてもそれに文句をつけられるほどご立派な倫理観念を持っているわけではないが、それでもこの仕事に就いている以上妖怪と無駄に仲違いするのは致命的だ。おまけに四物財閥のご令嬢なんぞを相手に死ぬの殺すのなんて話になった日には、自分まで巻き添えで首が飛ぶ、どころか絞まる(物理的に)なんてことにもなりかねない。もう一度しっかり釘を刺しておくべきか、と逡巡し――ている時に、ふいに声が聞こえた。
『そう心配することはないわ。彼の思考は研究者としてはごく一般的なものだから。本当に手出しをするほど血迷ってはいないし、そもそも彼にとっては魔法に関する伝承≠ネんて比較的どうでもいい研究対象ですからね』
「っ!?」
 慌ててばばっと周囲を見回す。今の声は、確かに自分の心の中に直接聞こえた。
 これは、そう。知っている。妖怪が人の心に直接語りかける時に使う術だ。特色のない声、単調な響き。だが今回のものは、はっきり自分とは異質な声だとわかった。その声は、特徴もなにもない声なのにもかかわらず、明らかに女性のものだと感じられたのだ。
 笹川も一瞬遅れて慌てたように周囲を見回す。彼にも同じ声が聞こえたのだろうと見当はついた。だが、周囲に人影は見えない。この妖怪課専用車の窓は一応、中から外は見えるが外から中は見えない特殊仕様の防弾ガラスになっているのだから、外から中をのぞけはしない。だが妖怪が絡むとなるとその前提はあっさり覆る。自分たちの理屈では対処できない相手だ、と久我は車の前座席部分(機材集積部分とは壁で分かたれ、音も視線も行き来できないようになっている)の草薙(というより煌)に連絡しようと電話を取り上げ――
『連絡はしないでいいわ。少なくとも私は、今のところあなたたちの敵じゃない。今のところはね』
 そう再び頭の中に響いた声と、ひょいとどこからともなく空いている座席の上に飛び乗った小さな黒猫の姿に動きを止めた。
「………あんたは、ツリン、か」
 四物園亞嬢の師匠である妖怪か否かを問うたその言葉に、黒猫はにゃあん、と鳴き声を上げる。本当にそうであるという確信は持たせない、このやり口はいかにも妖怪らしい。だが自分たちが車に乗る時には(一応中を確認したが)こんな猫はいなかった。つまり少なくとも、この猫が超常の力によってここにいるということは間違いないわけだ。
「俺たちに、なにか用でも? 一応俺たちはこれから捕り物なんで、できるだけ手短に終えていただけるとありがたいんだがね」
『用というほどのものじゃないわ。一応の顔見せと――あと少しばかりの警告、かしらね』
「警告、ね」
『ええ。閃はともかく、園亞を自分たちのいいように使えるとは思わないでね、と念を押しておきたかったの。あの子は今のところ、私の大切なご主人様ですからね』
「へぇ……あの子の方が主人なのか。俺はてっきりあんたのことを、園亞嬢の師匠だと考えてたんだがね」
『そうね、呪文を教えるという点に関しては。ただ、私は妖怪としての性質がそもそも『主人に仕えるもの』なのよね。そして私の主人は魔術師でなければならない。しかも、私の主人となったからには、世界一の魔術師というくらいでなければ面白くない。だから、私はこれまでずっと、何人も、何体もの魔術師に仕え、そのすべてを強力な魔術師に育て上げてきたわ』
「ふぅん……今のご主人様はどうなんだい?」
 にゃあお、と黒猫が鳴き声を上げる。猫の表情を読む特技なんて持ち合わせてはいないが、その声の響きには少なくとも不快の感情が含まれている感じはしなかった。とりあえず園亞嬢を悪く言うようなことは厳禁だな、と内心考えている久我の前で、黒猫は再びにゃあお、と鳴き声を上げる――や、また頭の中に声が響く。
『さて、それじゃ先程の話に戻りましょうか。笹川要次郎さん? 園亞に魔法の伝承≠ェ駆逐されてしまうことはありえない、と教えてあげたことに、納得がいっていないようね?』
 なにを言っているんだと一瞬ぽかんとしたが、笹川が渋い顔でうなずいたのに一人納得する。つまり、相手はさっき、自分と笹川にそれぞれ違うことを告げていたわけだ。
「それはどういう理屈の上に成り立っているのか、ぜひ教えてもらいたいものだね。伝承という形のない、けれど何千何万という人々が語り継ぎ積み上げてきた生活の年輪は、どれだけ美しくかけがえのないものであろうとも、『実用的な技術』という目に見えるものを前にしては、どうしたって軽視され無視され、しまいには忘れられてしまう。それは歴史が証明していることだろう?」
『そうね。でも、園亞の魔法を『実用的な技術』として扱うことは、人間的な価値観からすると難しいのよ』
「? というと?」
『まず、園亞の――そして私の知る魔法というものは、素質に大きく左右されるの。素質がなければそもそもどれだけ研鑽しようとも、マッチに火をつける程度の呪文すら使えないのよ。これは精神論で片付く話ではなく、純粋に体質的な問題だからどんな大魔術師だろうとどうにもしようがないのよね。まぁ素質を他人に伝播させるという力を持つ者もいないではないけれど、私の知る限りその類の力はすべてとても不安定な代物で、永続的に素質を芽生えさせられるなんて輩は四千年以上世界を巡っている私でも見たことがないわ』
「む……」
『そして、素質があったとしても、よほど高い素質を持ってでもいなければ強力な魔法は扱えない。さらにそれに加え、高い知性の持ち合わせがなければ高度な技術として完成させることはできない。魔法がある程度一般的な社会――たとえば魔術師たちの集う異界のような場所においてすら、たいていの魔術師にできることは長々呪文を唱えながら、一般人にすら効果がないことのある魔法を一か八かで放つ程度だわ。たいていの人間はそんなものを見たところで、手品師の方がまだマシなことをすると思うでしょうよ』
「いや、しかし……園亞嬢は違うのだろう?」
『ええ、園亞は違う。彼女は真の魔術師になりうると私が断言できる、数少ない存在よ。あなた方は言いにくいでしょうから言っておいてあげると、知性ではなく、それこそ異常なまでに強力な魔法の素質に支えられた、ね。あれほどの素質を持ち、かつそれに支配されていないというのは私たち――魔法をよく知る者たちの目から見ても異常だわ。たぶんだけれど、園亞の血筋には強力な魔術師の血がいくつも入っているのでしょうね。その中にはほぼ間違いなく妖怪も含まれているはず。というより、人妖問わずで、世界中の魔術師や巫女のような、神秘を知る者の中でも伝説的と呼ばれる者の血はほとんど入っていると言っていいレベルなんじゃないかしら?』
「そんなことまでわかるのかい、あんた」
『ええ、きちんと調べたわけではなく、半ば以上は勘でしかないけれどね――私の勘は、そうそう外れはしないのよ。あの子は魔法と呼ばれる存在の、それこそ有史以前から受け継がれた血脈の精華と言っていいと思うわ』
「そりゃまた、たいそうな話だな……」
 口を挟みながらも、久我は内心危ぶんでいた。この猫、笹川には園亞嬢が妖怪だということを知らせないように、という閃の要請を知らないわけはないだろうに、平然ときわどいレベルの話を放り投げてくる。笹川が暴走してもどうとでもできると考えているからこそなのかもしれないが、あまりに無頓着に過ぎるのでは――
『彼が暴走したとしても園亞の害になることをする可能性はないと、私は知っているからよ』
「!」
 内心の考えに答えを返されて愕然とする久我をよそに、心の声は並行して笹川との学術的な話を進める。久我は思わず背筋をぞくりとさせた。この女、あくまで自分の勘だが、たぶんとんでもなくやばい相手だ。
『それに加えて、魔法というものは、よくマナや神気、霊気、呪力というように呼ばれる、『神秘なるものの気配』がなければ発動し得ないものなの。どれだけ強力な素質を持ち、数多の呪文を扱える魔術師であろうとね。奥の手はないではないけれど、とても実用的なものとは言えないわ。そしてその『神秘なるものの気配』は、人家のひしめく人界に近いほど――言うなれば都会の中であればあるほど薄くなる』
「そうなのかね? いやしかし報告の中には、住宅街の中で彼女が魔法を使ったというものもあったが」
『住宅街といってもそこまで大都会というわけではなかったからね。周辺に豊かな自然があれば、ある程度の要素は得られるわ。でも、自然のほとんどない都会の中となると、園亞といえどもどう頑張っても魔法は使えなくなる。もちろん園亞にもそのことは入念に釘を刺しておいたけれど、これまでは園亞の行動範囲があまり都会と重なることはなかったし、あまりぴんときてはいない様子だったわね』
「へぇ、都内に住む中学生が都会に縁がないってのもおかしな話だな。俺のガキの頃でも、都心近辺の中坊はしょっちゅう渋谷だの新宿だのに遊びに行ってたがね」
 できる限り動揺を声に出さないようにしながら強がってそう言ってみるが、心の声はそんな強がりにかまいもせずごくあっさりと答えを返す。
『園亞の境遇を考えてみなさい。四物財閥の令嬢で、両親に掌中の珠のごとく可愛がられているのよ。どこに行くにも護衛がついてくるし、基本的に移動は専用車になるわ。人のいいあの子が、ただ遊びに行くためだけに周りの迷惑を省みず気軽にその輪から抜け出せるわけがないでしょう? ……まぁ基本的に粗忽な子ではあるから、そこらへんに気を配ることをきれいに忘れて勢いのままに抜け出してしまうってこともないではなかったのだけれど、それでもあの子自身の嗜好として、あまり都心のような場所は好みではないのよ』
「さいで……」
『けれど、これからは違うわ』
 黒猫がすい、と視線を動かした。軽く自分たちの上を撫でるように見られる、それだけで全身の肌が泡立った。
『あの子は大都会の中にでも、人で溢れた雑踏にも、当然のように出かけていくことになるでしょう。閃がそこに行くと言うのならね。自分が護られることで生き延びていられる存在なのだということをあっさりと忘れて、どんな危険な場所にでも当たり前のように」
「あんたとしては面白くないことに……か?」
 全力で平静を装いながら挑発してみるも(猫相手にいいようにされてたまるか、というくらいの気概は久我にもある)、黒猫はあっさりとかぶりを振った(猫が顔を洗う時のような仕草で)。
『いいえ。私の好みとしては一人でひたすらに魔術を研鑽していくというのが望ましくはあるのだけれど、園亞はもう閃から離れる気はないでしょうし、閃に同行することで得た経験によって園亞の魔術師としての能力がぐんぐん伸びているのも確かだわ。なので、私にとってもベストではないにしろベターとは言える状況ではあるのよ』
「ふ、うん……」
『それでももちろん――彼女が危険に遭遇することを、よしとできるわけではまったくないわ』
 ゆるゆると黒猫が尻尾を振る。それを見て一瞬頭がくらり、としたのを、慌てて顔を叩き正気付かせる。妖術だのなんだのをかけられでもしたのか、と思ったが笹川は平然とした顔で勢い込んで黒猫に詰め寄っているので、雰囲気だけで暗示にかけられたのだと思うとますますぞっとした。
「つまり、彼女の危険になりうるものは排除する、と?」
『園亞の成長に望ましくないものはできる限り園亞の視界に入る前に取り除いておきたいの。私にとっても最高の主になりうる相手ですもの、できる限り正しく成長してほしいのよ。そして、人間、特に公的機関に属する人間とのトラブルなんて、あの子にとっては成長の妨げ以外の何物でもない。偉い人≠無条件で信用できないような、小才子じみた態度なんてあの子には毒にしかならないわ。あの子の才能の一端が、周囲に護られて育ってきたがゆえの一途さ、純真さにあるのは間違いないことですもの』
「いやしかしだね、相手を人として見るならばそのようなやり方は――」
『あなたがそれを言うのかしら、笹川要次郎? あの子を研究対象としてしか見ていない、あなたが?』
 ざぁっ、と全身から音を立てて血の気が引いた。相手はただの猫にしか見えず、こちらを脅かしたわけでも怪しげな術を使ってきたわけでもないのに、これでも海千山千と呼ばれるに値するだけの経験を積んできた自分を、気配だけで『殺される』と怯えさせたのだ。
 笹川もその気配を感じ取ったのか明らかに顔色が変わったが、そこに心の声は穏やかな調子をにじませて続けた。
『誤解しないでね? それが悪いと言っているのではないわ。研究者なら世にひしめく森羅万象すべてが研究対象なのは当たり前のことですもの。私としてはむしろあなたが今の状況を十二分に活用して面白い研究を仕上げてくれるのを楽しみにすらしているのよ? ただ、口出しをするなら分をわきまえてほしい、と言っているだけ』
「あ、ああ………」
『先程の話に戻るけれど。魔法という技術はどこまでいっても、個人のものでしかないのよ。それはもちろん受け継がれた伝統的な技術というものは存在するけれど、それでも家内制手工業のレベルを出ることはない。魔法によって道具を作るには、現代文明と比すればありえないほどの手間と時間がかかるしね。さらに言えば、その受け継がれた伝統的な技術や知識が正しいとは限らない。単純にその魔術師には合わないっていう可能性もあるのよ。私が有し、園亞に与えている技術知識は、園亞のために私が調整した特別製のもので、他の誰にとっても役に立つものではない。そして先程も言った通り、魔法というものは使うために現代ではまず見られないほどの素質を要し、かつ場所、特に人間社会の中心たる都市部では使えなくなることも多い。さらに付け加えると、現代においてはほとんどの場所では術を十全に使うには神秘なるものの気配が薄く、並大抵の素質では発動させることすら難しい。これでは現代社会における技術の用を成さないのじゃないかしら?』
「そ、れは……そうかもしれんが」
『これから先も魔法の素質を持つ者は、世界でも数え上げられる程度しか生まれないことでしょう。それでは技術の保全すらまともにできないわ。どうあっても、失われていく技術なのよ、魔法というのは――私のような存在がいなければ、ね」
 心の声とともに、すぅっと黒猫が自分たちを眺めまわす。猫のなんということもない静かな顔――それなのに、自分たちの背筋は自然に凍る。圧倒的な強者を目の前にした時の恐怖に、体が固まる。
『だから私にとっても、園亞は二度と得ることができないほどの主候補なの。それを害されるようなことは絶対にされたくないわ。そしてもちろん、他人にいいように使われることも。閃のように園亞の心がそちらに向いていて、園亞にとっても得るものがあるのなら邪魔することはできないけれど……その尻馬に乗って、園亞をいいように扱うような輩がいたならば、私はそいつにそれなりの制裁を加えるでしょう――これまで陰からあの子を護ってきたように、ね』
『………………』
『あなた方もたぶん、これから何度も園亞に会うことでしょうから、お願いできないかしら。あの子がいいように使われることのないように、できるだけ目配りしてあげてほしいの。もちろん私も全力を尽くすけれど、人間組織に対してはあなた方の方が顔が利くでしょう?』
「……できる、ものなら、そうしてさしあげたいところ、ですがね。俺たちはしがない宮仕えなんで、上司から命令が来れば断るのはなかなか難しく……」
『ああ、その点については心配ないわ。あなた方の直属の上司の、鰐淵仁とはもうきちんと話をつけているから。園亞を利用するような人間が出ないように、全力を尽くしてくれるそうよ? 彼は組織とその中の人間をどう動かすかについては長けているようだから、組織的な行動についてはさほど心配はしていないの。あなた方に目を光らせてほしいのは、個人の暴走ね。園亞の視界に入る前に、そういった輩には退場してほしいの』
『………………』
『きちんと分をわきまえて、お仕事に励んでちょうだいね? 善良な一般市民、それも日本経済の一翼を担う四物財閥の令嬢に、有形無形の圧力を加えるような輩を排除するのは警察の仕事の一環としてはごく当たり前の部類ですものね? 少なくとも、あなた方があの子と一緒にいる時くらいは――だって、あの子があなたたちに会う機会なんて、あなたたちの方からあの子たちを頼る時くらいしかないですもの。そのくらいはしてくれないと、一般市民が国家警察に協力する甲斐もないというものじゃない? そうでしょう?』
『………………』
『それじゃあ、ね。もう会うことがないことを祈っているわ――どちらにとっても、そんな機会は不幸なものでしかないでしょうから』
 そう心に声が響いたのち、黒猫はにゃおんと鳴いて、ぴょんと飛び込むようにして機材の陰に隠れた。反射的に(これらの高価な機材は妖怪課ではそうほいほい補充はできない)慌てて、「おい!」と怒鳴って機材の影をのぞき込む――その時には、もう黒猫は影も形もなくなっていた。
 はあっ、と深く息をつき、自分の席の背もたれに身を預ける。正直、とっとと帰って酒をかっ喰らって寝床に潜り込みたいくらいには疲労していた。笹川も同じ気持ちのようで、深々とため息をついてうつむく。
「……園亞嬢の、魔法の師匠だっつう猫の妖怪の話は聞いちゃあいたが」
「まさかああもはっきり脅しをかけてくるとはね……」
 妖怪課はこれまで、妖怪に目をつけられるということがなかった。単純に戦力として見た場合たいていの妖怪には脅威ではないし、国家権力と関わり合いになるというのをたいていの妖怪は好まないらしいからだろう。それに渋谷にある、日本最大級の人間に友好的な妖怪ネットワークも抑止力になってくれていると思う。少なくとも、妖怪課がこれまでどこでなにをしようとも、逮捕する相手でもない妖怪がちょっかいをかけてくるということはなかった。
 だが、協力者として招聘した相手の関係者が凄んでくるとは。向こうはやろうと思えば自分たちを簡単に殺せる。しかもこちらは(国家警察だというのに)、いろんな意味で相手を敵には回せない。正直、閃に協力を要請したことを心底後悔した。
 だが久我の刑事としての勘は、なんとはなしに違和感を覚えていた。あの猫がこちらに、真正面から脅しをかけてくるというのは、少し奇妙な気がする。
 これまであの猫は、閃たちにまるで気づかれることなく密かにその手助けをしていたという。これも暗躍の一環と言えば言えるが、なんとなく話していて感じ取った性格的に、そういう足がつくような真似をしそうなタイプには思えなかったのだ。
 少なくとも、あの猫は、自分たちがこのことを閃たちに話す可能性を考えないほど馬鹿だとは思えない。つまり、逆に言えば話しても問題ないと思っていることになる。話すこと、すなわち事情を詳しく打ち明けることが、あの猫の、ひいては園亞嬢の利益になりうると考えて――
 そこまで考えて、久我は状況を理解し、小さく舌打ちした。
「……笹川先生。このこと、絶対に草薙たちには話さないでくださいよ」
「頼まれたって話さないさ。あんな相手とこれ以上関わり合いにはなりたくないからね」
 ぶるぶると首を振る笹川に、わずかに安堵する。もしなんとしても密告してやる、なんてことを言いだしたら面倒だった。
 おそらく、あの猫は、自分たちが園亞嬢と敵対する可能性を潰しに来たのだ。学者肌の笹川が、園亞嬢に対する隔意を万が一にも害意に変えることのないよう、恐れ入るように威圧的に接することで。
 後で確認を取るつもりだが、おそらくは鰐淵も園亞嬢と敵対する可能性を見出されたのではないだろうか。彼の性格からして、園亞嬢を政治的に利用しようと企んだのかもしれない。そういった園亞嬢に害する可能性を、自分に恐れ入って捨て去るならばよし。園亞嬢たちに情報を漏らせば、彼女たちに対する害意を悟られ(少なくとも煌は悟り、詳しく教えるだろう)、警戒心を抱かせ距離を置かれることになるので、それはそれでよし。そうでなくとも警告を発し、万一実害が出るような真似をすれば、断罪する際の名分にはなる。
 はぁ、と再び小さく息をつく。閃とはそれなりに長い付き合いではあるが――あの小僧も、過激な保護者のいる女を相手にしたもんだ。

「いや、だからね、四物さん。それはやっぱりできないよ。警察官として、まだ未成年である君を、犯罪者の矢面に立たせることは絶対できない」
「でもでもっ、私がちゃんとやれば、相手の妖怪さんを死なせないで、素直に逮捕される気持ちにできるんですからっ、やれるだけやった方が絶対いいと思うんですっ」
「君のその気持ちは大切なものだと思うよ、それは本当に。でもそれでもだ、俺たちの仕事は、未成年に任せていいものじゃ絶対にない。その力があるとかいうこととは別問題として、どうしたって人の、俺たちの場合は妖怪のだけど、暗い部分と向き合うことになる。まだ若い君たちは、そんな問題と間近に接するには早すぎる。考えなくていいってことじゃないけど、向き合って解決するのは大人に任せるべきだ。作戦に関わらせること自体、本当はすべきじゃないのに……」
「でもっ! 川田さんだってこれまで、逮捕の時閃くんに手伝ってもらってたんですよねっ?」
「っ、それを言われると辛いけど、でもあくまで協力を頼んだのは草薙くんのパートナーの煌さんだ。煌さんが力を発揮するのに必要だから、やむを得ず草薙くんを巻き込んでしまっているけど、それでもできる限り草薙くんの安全は確保しているつもりだよ。だけど今回は、四物さんの力が絶対に必要っていう事件でもない。命はもちろんどんな相手のものでも大切だとは思うけど、犯罪者の命を守るために、一般市民、それも未成年である君を危険にさらすなんてことは断じてしちゃいけないと俺は思う」
「でもでもっ! 私ができることなんてちょっとだけど、それでもなんとかちょっとの間自分の身守ることくらいはできるって思うしっ」
「いやいや四物さんだからね」
「でもでもだけど」
 運転席と助手席の間でえんえん交わされる、ぐるぐる同じところをループしている議論に、閃は何度目かになるため息を噛み殺した。この二人、出発してからずっとこんな議論を繰り返しているのだ。
 園亞が言い出した作戦というのは、相手の感情を操作する呪文を使って、逮捕する相手――おそらくは手の目に、逮捕されることを受け容れる気持ちにさせるというものだった。そうすれば逮捕するしないで喧嘩にもならないし、殺すの殺されるのという話にもならない。罪を犯した妖怪は無事面倒を見てくれる妖怪たちのところへ収監される。八方丸く収まるだろう、とにっこにこしながら告げたのだ。
 作戦立案も担当している(自分たちが来るまでにきっちり作戦を立てていたのだろう)鰐淵は、そんなことができるならやってみてくれてもいい、と言った。作戦をちょいちょいと修正し、どう動くかを自分たちに教え込み(何度教えてもいまいち呑み込めていない感じの園亞のために、全員の端末に作戦データを送った上で閃にきちんと園亞の面倒を見るように、と釘を刺し)、妖怪課の専用車で自分たちを送り出したのだ。
 基本的に作戦行動時は、鰐淵と木月は妖怪課本部で送られてくる情報を処理し、久我と笹川は専用車の中から支援を行う。そして正面から妖怪と対峙するのが川田(だけ)の仕事で、閃はいつも川田と一緒に前線で行動していた。
 だがその際、よくよく思い出してみれば川田は常に閃の安全をきちんと確保した上で行動していた気がする(これまでは戦力としては煌くらいでないとダメ、というスタンスだったので自分は足手まといだと煌が不意打ちできて相手からの死角になる場所で待機していたのだ)。つまり川田は立派な警察官なので、民間人、それも子供を捕り物に引っ張り出すというのは基本ありえないのだろう。
 閃の場合は戦力として期待されているのが煌で、自前の戦力では被害が拡大するだけの可能性が高いから外注しないわけにはいかない、と納得させられてきたのだろうが。戦力として扱うべきかどうかも明らかでない少女を引っ張り出すわけにはいかない、と川田がやっきになるのもわかる。閃にもそういう感情がまだないわけではないし。
 ただ、実際問題、園亞がいるといないとでは、生存確率が大きく違ってくるのもまた確かなのだ。
 この作戦がうまくいくかどうかはまた別問題だが、と肩をすくめつつ、閃は二人の会話に別の話題を振った。園亞の実力をまだ確認していない以上二人の話が噛み合うのは難しいのだから、えんえんこの話をしているよりも、少しは建設的な方向に話を進めた方がいい。
「そういえば、川田さん。藤乃さんの紹介、いつ頃にするんですか?」
「えっ」
 川田が体をびくんと震わせて、視線を逸らす。運転してる最中なのにその反応はやめてほしい。
「ふ、藤乃を紹介って、別に、そんな急ぐことでも、ないだろう?」
「いや、作戦開始時までにはきちんと顔合わせしておけって言ってたじゃないですか。藤乃さん、人の身体で動く時によく知らない人が周りにいたら明らかに動き鈍りますし、お互いに自己紹介くらいはしておかないと」
「い、いや、今俺運転してるし、到着してからでいいんじゃないかな?」
「それはそうなんですけど……」
「あ! 私藤乃さんとご挨拶したいですー! 早めに紹介してもらえるならそっちの方がいいかな? どういう感じで結婚することになったのか、まだちゃんと聞いてないですし!」
「いやあの、結婚とかそういう、なんていうんだろう、その男女の事情? みたいなものはね、あんまり堂々と言うものじゃないっていうかね」
「え? でも、川田さんと藤乃さんって、好き合って結婚したんですよね?」
「ぐっ………ま、まぁ、そう、だけど」
「私、すっごい聞きたいですー! 絶対駄目だってことなら、諦めますけど……でも、せっかく新婚さんなんだから、のろけ話とか話したくないですか? 妖怪さんの事情込みでのろけ話できる人、あんまりいないでしょ?」
「だから、その、のろけ話とか、そういう話じゃ……」
 こちらから思いきり視線を逸らしながら、耳まで真っ赤にしつつしぶとく抵抗する川田に、閃は小さくため息をついて突っ込みを入れた。
「川田さん。いくら照れたからって、運転中に思いきり助手席から視線逸らそうとするのやめてください」
「うぐっ……」
「実際問題、現場に着いたら即行動に移れる方がいいのは確かでしょう。ここには他の妖怪課の人たちの目もありませんし。少なくとも園亞は思いきりお二人に好意的ですし、藤乃さんもそこまで緊張しないと思いますけど?」
「うぐぐっ……」
 しばし唸ったのち、川田ははぁっとため息をつき、信号待ちの時間を利用して、胸のホルスターから拳銃を抜き取り、ダッシュボード上部に備え付けてある拳銃立て(当然ながら藤乃のために設計され取りつけてあるものだ)に設置した。
「……藤乃。この子たちはこう言ってるけど、どうする? 話したいんだったら話していいぞ」
『………………』
 しばしの沈黙。それからこそっと、わずかに震えた小さな声が、空気を揺らして耳に届いた。
『……のろけ話、聞きたいって、本当………?』
「え、この声が藤乃さん?」
 驚いて大声を出した園亞に、小さな声は『ひぅっ……』とびくついて黙り込む。園亞は慌てて拳銃に向かい、ぺこぺこ頭を下げながら語りかけた。
「はいっ、ぜひのろけ話聞きたいですっ! お二人の馴れ初めとかっ、どうしてお互いを結婚してもいいってくらいに好きになったのかとかっ。私すっごい興味ありますから!」
『……本当の、本当に……?』
「はいっ!」
『じゃあ……なんで、雄彦に、色目使うの』
 声のトーンが唐突に暗くなった。低く、掠れた、それこそ幽霊が怨ずるような声音で告げた言葉に、園亞は当然ながら「え?」ときょとんとし、川田は慌てきって拳銃立ての藤乃へ身を乗り出して制した(だから運転中にそういうのはやめてくれと)。
「こ、こらっ藤乃っ! 勘違いするなよっ、四物さんはまだ中学生なんだぞ? 俺みたいなおじさんにそんな、誘惑なんてするわけないだろっ!?」
『……でも、さっきから、この子、雄彦にばっかり話しかけてる』
「いやそれは単にこれからの作戦について話し合ってるだけでっ」
『もう、鰐淵さんが、こういう作戦でいくって決めたんでしょ? それをわざわざまた蒸し返して……二人だけで話したいから、そういうことしてるんじゃないの』
「いやいやっ、だから本当にそんなわけないから! 俺みたいなおじさんに中学生が」
『雄彦はおじさんじゃないし、最近の中学生は発育もよくて大人にしか見えないとか木月さん言ってたし』
「木月さんの言葉は信用しちゃ駄目だって言ったろ!? とにかく本当にそういうんじゃないから!」
『………………』
 しばしの沈黙ののち、ぐすっ、とすすり泣くような声が拳銃から聞こえてくる。川田はわたわたと手を上下させて(だから運転中だと)、ぺこぺこと藤乃に頭を下げた。
「ごめん! 俺が悪かった! お前の気持ちを考えなさすぎた! これからはこんなことがないようにするから、その、泣かないでくれ!」
『……っ、前も、おんなじこと、言ったぁっ……』
「おっ、俺は頭が悪いから同じミス何回もしちゃうけど、その、おっ、お前のことは本当に愛してるんだっ! これからもお前を傷つけちゃうかもしれないけど、頼む、一緒にいさせてくれっ!」
『………ぅ〜〜〜っ』
「ふ、ふじ……」
『ぎゅうってして……』
「え? あっ、うんっ!」
 言って川田は拳銃立てから藤乃を胸のホルスターに戻す。そして車を道脇に路上駐車させると、ぎゅうっと自分の胸を抱きしめるようにした。これがこの夫婦の普段のハグの仕方なのだ。
『雄彦……私のこと、好き?』
「あ、ああっ!」
『ほんとに、ほんとに愛してる?』
「う、うん……愛してる」
『ぐすっ……うん……私もぉっ……』
 ぽかーんとその様子を見守る園亞に、閃は深々と息をつき説明した。
「……驚いたと思うけど、こういう状況、この二人といるとわりと普通なんだ」
「え……」
「藤乃さんは内気だって川田さん言ってただろ? それも間違いじゃないんだけど、それ以上に藤乃さんってとんでもなくやきもち焼きなんだよ。川田さんと他の女の人が話してるだけで、こんなふうに拗ねて嫉妬して大変で。……先に言わなかったのは悪かったけど、正直藤乃さんは、園亞と川田さんが挨拶しただけでも嫉妬するだろうから、作戦行動の前にとっとと爆発させておかないと、肝心な時に暴発しかねないんだよ、藤乃さんの場合」
「へぇ〜………」
『ま、ぶっちゃけクソうぜぇ上にクソ面倒くせぇ女以外の何物でもねぇんだけどな。川田の場合、それまでに全然女に免疫がなかったんで、あーいう地雷女っぷりもそういうもんだと……っつーか、むしろ愛されてるみたいな気分になってわりと満更でもねぇ気分らしいんだよな。家で二人っきりの時はあの拳銃女、あれこれ甲斐甲斐しく面倒見るらしいし。まーぶっちゃけいつ破局してもおかしくねぇが、男と女の間のことに他人が口出してもどうにもなんねぇし、放っとくのが一番マシじゃねぇか?』
「はぁ………」
 ぽかんと口を開けたままの園亞に、まぁ驚くのも当たり前だよな、と苦笑している――と、園亞はなぜか目をきらきらと輝かせて、まだこちらを気にもせずハグしている二人を見つめ、大きくうなずいてみせた。
「すっごいね……!」
「は?」
「川田さんと藤乃さんって、すっごく愛し合ってるんだねぇ……! いいなぁ……!」
「え」
「ちゃんとハグする時は片手間じゃなくて車止めてからするとか、泣いたら必死に頭下げてくれるとか、本当にすっごく愛し合ってなきゃできないよー! すっごい仲良し夫婦なんだねぇ、いいなぁ〜………!」
『マジでこいつら見てその感想なのかお前』
「うんっ、だって本当にこんなに愛し合ってる夫婦見るの私初めてだし! お父さんとお母さんはちゃんとお互いのこと大切にし合ってはいるけど、どっちも仕事がすごく忙しいしこういう風にいちゃいちゃすることってないんだよー。こんな愛し合ってる新婚さんって、なんかすごい憧れるよね!」
『…………』
 閃と煌は揃って無言になり、目をきらきらさせている園亞から微妙に視線を逸らした。男女の違いなのか、園亞という個人の嗜好によるものかは知らないが、少なくともいくら憧れられても、閃は断じて園亞とあんな会話を交わす関係にはなりたくない。いやもちろん閃と園亞が結婚する予定なんて一ミリもないんだけど。

「……所定の位置にて、作戦時刻を確認。作戦行動、開始します」
『了解。くれぐれも作戦に基づかない行動は慎むように、以上』
「………了解」
 逮捕対象となる妖怪のいるアパートから、数百メートルほど離れた場所で車から降り、十メートル強離れた路地で車と連絡を取って(通信機の組み込まれた対閃光機能付き暗視ゴーグルを装備しているのだ)最後の確認をする川田の後ろに、自分たちは控えていた。すでにアパートに対象がいることは専用車の特殊望遠カメラでわかっている。
 本来妖怪は機械には反応しないが、鏡やレンズなどを組み合わせた機械的処理を伴わないものについてはその能力の範囲外になることを利用して、遠距離から対象を(妖怪であるかないかまで含め)特定するカメラが妖怪課専用車には装備されているのだ(透視ができるわけではないので、対象が部屋の中に閉じこもっている場合はいくつもの機材を組み合わせた上で隙を見せるまで待機しなくてはならないのだが)。対象である妖怪手の目は、部屋の中で一人酒を喰らっているらしい。
 川田は園亞(と、閃)を前線に出すことにいまだ納得がいっていないようだったが、機嫌の直った藤乃といちゃつきながら運転している間に目的地に着いてしまい、久我たちに作戦は決定したんだからぐだぐだ言ってないでとっととやれ、と叱られてしまったのだ。納得がいかないながらも上司の命令には基本的に逆らえない、そういう意味でも川田は警察官らしい人だった。まぁこの場合逆らっても誰の得にもならないからそっちの方がありがたいのだが。
 予定時間通りの専用車との作戦前の最後の連絡を取り、自分たちに向け視線を走らせ、こちらがうなずいたのを確認すると同時に川田はほとんど走っているのに近い速足でアパートに向かい歩き出した。自分たちもその後に続く。園亞も普段バスケ部で練習しているだけあり、さほど遅れずについてきてくれた。
 対象の部屋の前に立つや、待機時からすでに抜いていた日本警察の制服警官用リボルバー(自分は拳銃には詳しくないので、細かい型式までは知らない)――藤乃を構える。この辺のアパートは夜に働いている人々が多いのでもともとアパートにいる人は少ないのだが、あらかじめ大家さんや周囲の家の人々には連絡を取り、家を空けてもらっているため、それを目撃するような人はいない。対象の妖怪がほとんど近所づきあいをしていないと調査した上でのことだが、こういう時に国家権力を使える組織は強い。
 まぁ普通の警察がこんなことをすれば大問題だろうが、川田は容赦なく藤乃から弾を部屋の扉に打ち込み、扉を吹っ飛ばした。普通の拳銃ならこんな威力は出せないだろうが、『パートナーに拳銃として使用してもらっている時だけ普通の拳銃ではありえない威力の弾丸が放てる』というのが妖銃――妖怪としての藤乃の力なのだ。単純な威力だけならそれこそ対戦車ライフルにも匹敵するらしいその弾丸は、威力に比してあまりに静かに炸裂し(妖怪としての力、妖術なのだから当然ではある)、ばぁんと音を立てて扉を部屋の中に向け倒す。
 中にいた老爺は、酒瓶を手にしたまま仰天した顔でこちらを振り向く。そこに川田は短く、鋭く、言葉を叩きつけた。
「堀井義信。妖怪手の目。迫田治行はじめ五人の殺人容疑により逮捕する」
「なっ……!」
 一瞬老爺は仰天した顔になったが、すぐに憤怒の形相になって「かぁっ!」と喚くと同時に妖怪へと変身した。禿げ上がった頭に歪んだ顔、そして顔の代わりに掌に目玉のついた姿に変わる。
 ――そこに、川田は容赦なく弾丸を撃ち込んだ。
「えっ……」
 園亞が目を瞬かせる間もなく、手の目の身体に弾丸が食い込み、血を撒き散らす。「ぐぎゃっ!」と悲鳴を上げながらもこちらに掌を向けるが、そこからなにか妖術が発動するよりも早く、閃の刀が二度奔った。
 両の掌に浮かんだ瞳に、深々と刀が突き刺さる。幸いこの手の目の目には防護膜の類は張られていなかった。「ぎゃあぁっ!」と両目から血を噴出させながら絶叫しつつも、手の目は諦めずに閃に両手でつかみかかる。
 閃はそれを身のこなしだけでかわした。刀で受けなかったのは手の目の基となった怪談からも、単純な戦う者としての勘からも、『触れられるのはまずい』と思ったからだが、あっさりかわすことができたのは園亞の護りの呪文のおかげだろう。これは閃と園亞自身のみならず、川田と藤乃にもかけられており、さらに閃には短時間だけ身体に流れる時間の速さを倍にするという強力な呪文もかけられていた。一瞬で二挙動動く時間の余裕を与えるその呪文は、人間の枠を超えた速さを刀にもたらす。
 そして川田も当然素早く動いていた。閃と手の目の間に入るようにして移動しながら藤乃の引き金を引き、弾丸を叩き込む。閃も刀を一瞬で幾度も閃かせる。手の目は荒れ狂って今度は川田につかみかかったが、護りの呪文のおかげで川田は素早く身をかわす。
 そして、三度目の弾丸が撃ち込まれた時、手の目は「ぎゃょぇぇぇっ!」と絶叫しながら、消滅した。
「え……」
 ぽかんとしている園亞をよそに、川田は小さく息をついて装備した無線マイクに向け告げる。
「目標、消滅しました。作戦行動終了。こちらの被害はほぼ皆無です」
『よし、よくやった。巻き添えは?』
「破壊することを予定していた部屋の扉以外はありません」
『よし。じゃあ車までとっとと戻ってこい。撤収する』
「了解」
 答えてふ、と息をつき、園亞に向けて言葉をかける。
「四物さん。とりあえず、車まで戻ろう。ここにはすぐに扉やなんかを修繕したりするための人たちがやってくるから……その人たちと顔を合わせるのは、まずいんだ」
「…………」
「俺たちがやったことについても……車の中で、詳しく話させてもらうから」
「………はい」
 やや力なくうなずいた園亞に、閃は聞こえないように小さくため息をついた。最初からその予定だったとはいえ――人の心を傷つけるのは、楽しいことではない。

「君の提案を、鰐淵さんたちがあっさり聞いたのには……君が作戦行動を的確に取ることができないだろう、って考えたせいもあるんだ」
 専用車を運転して妖怪課へと戻る道の途中で、川田は落とした声でそんな風に切り出した。「えっと……」とあからさまに意味がわかっていなさそうな顔で小首を傾げる園亞に苦笑し、言い直す。
「つまりね、四物さんは、たとえ魔法使いでも一般人で、たとえこれまで草薙くんと幾度か実戦を経験しているとはいえ、あらかじめ立てた作戦に基づいて秒刻みで行動する、っていうのには慣れていないだろう、って俺たちは考えたんだよ」
「え? それは……はい。そうだと思います、けど……」
「俺たち妖怪課が〇対の逮捕――実際のところは殲滅に踏み切る際には、完全に相手が妖怪であるということを特定し、複数の証言から裏を取って、相手が罰されるべき犯罪を犯した妖怪である、と確証を得た上で動く。つまり、相手は基本的に、一秒でも余裕を与えれば俺たちを殺せる相手だ、っていう認識の上で作戦を立てて動くんだよ」
「え………」
「妖怪課で前線に立てる人間は、今のところ俺しかいない。そして俺と藤乃には、今のところ一秒で妖怪を殲滅できるような力はない。だから俺に攻撃が与えられても護ってくれる、人間外の耐久力を持つ相手を外注することが多いんだ。草薙くんのところの、煌さんのようにね。あの人は攻撃力が高すぎて戦えば巻き添えを出す可能性が高いけど、草薙くんに頼まれれば壁役としても働いてくれるみたいだから。これまで何度も助けられたよ――まさか今回みたいに、出てきてはいるけどなんにもしない、っていうケースがあるとは思わなかったけどね」
 苦笑してちらりと視線を向ける川田に、閃は真正面から視線をぶつけ返してきっぱり言う。
「相手の能力次第では俺が壁役をやるっていうことは、事前にお伝えしておきましたよね」
「まぁ、ね。煌さんをきちんと呼び出しておいてくれれば、ってこっちは答えたらしいけど。まさか、あそこまで見事に妖怪と渡り合えるようになってるとは思わなかったからなぁ……どうやって身に着けたんだい、あんな腕前。正直、振るってる刀が見えないくらいの速さだったよ」
「……まぁ、いろいろ、ありまして」
 言葉を濁す閃に川田はまた苦笑し、閃と川田の間の席に座っている園亞に視線を向け直した。
「ともあれ、相手は妖怪だ。今回は相手が大規模破壊をもたらすような力を持っている可能性はごく低い、って予測が立てられていたから市街地での逮捕に踏み切ったけど、本当ならそれこそ大規模な巻き添えを警戒して十重二十重に対策を打った上で、相手がまともに対応するより早く殲滅しなければ、こちらにも大きな被害が出てしまいかねない。俺は藤乃の妖力である程度護られているからまだしも、それ以外に人間を動員すれば、それこそ流れ弾一発、どころか余波を食らっただけで死にかねない。だから俺たち妖怪課は、基本的に一秒でも早く妖怪を仕留める前提で作戦を立てる。今回は相手の能力上逮捕前の口上を言えたけど、場合によってはそれさえ省略せざるをえない場合もあるんだ。友好的な妖怪との関係を保つためにも、あまりそういった相手の人権をあからさまに無視するようなやり方はしたくないんだけどね」
「…………」
「それで、四物さん。君が提案したのは、相手の妖怪の感情を誘導する呪文を使って、逮捕することを受け容れさせる、っていうものだったよね?」
「はい……」
「君には、たぶん、俺が約束を破って突然攻撃したように思えているんだと思う。でも、君にも俺たちがこういう風に動くってことはすでに伝えてあるんだよ」
「え……えっ!? そっ、それ本当ですかっ!? い、いつっ!?」
「作戦の説明をした時に。鰐淵さんは、君の提案を受け入れて、逮捕の口上を述べた後の作戦行動に、『協力者の特殊行動により即座に対象が逮捕を受け容れる態勢になった場合、そのまま逮捕に移る』っていう一文を書き加えた。この、即座にっていうところがポイントなんだ。俺が口上を述べた後に、あの妖怪は反抗する姿勢を見せただろう?」
「えっ……でも、だって……」
「ああ、四物さんにしてみれば、作戦に定められていない行動はしてはいけない、って俺たちに何度も念を押されたんだから、使う時になったら俺たちが指示してくれると思うのが普通だろうね。そうでなくたって、秒刻みで相手の反応する前に行動する、なんて技術は一般人は持っていないし、持つ必要もないものだ。普通の人間は戦わなくちゃならない時には、どうしたってある程度うろたえるし、行動にも無駄が生じる」
 何度もうなずいてから、川田は小さくため息をつき、園亞に一瞬悲しげな視線を向ける。
「でも、賞金稼ぎの協力者として登録する人間は――『特殊状況に対応しうる成人』として扱われるんだよ。作戦に疑問があるのなら自分からはっきり意見を述べ、疑問点を解消した上で、秒刻みで相手が反応する前に、指示される前に動くことができるのが当たり前、っていう風に扱われるんだ。それができないのに、作戦が気に入らない結果に終わったと文句を言っても、誰も認めてはくれないんだ」
「え……あの………」
「だから、俺は何度も言っただろう。未成年である君たちは、こんな作戦に関わるべきじゃない、って」
「あ………」
 目と口を開く園亞に、川田は深々とため息をつき、わずかに咎めるような視線を閃に向けた。こんな普通の女の子をこんな世界に関わらせたことに対して、改めて叱責したい気持ちなのだろう。実際、園亞の普通の女の子≠チぷりは、この手の仕事のプロからすれば、保護対象で作戦から遠ざけるべき相手以外の何者でもないのだから当然だ。
 だが、閃としても、伊達や酔狂でこんなところに園亞を連れてきたわけではないのだ。園亞の言う、正義のヒロイン化というかなんというか……ともかくこういう仕事に関わろうという意欲を、少しでも削ぐことができるなら、自分たち以外にもフォロー役のいる妖怪課への協力は、悪くないんじゃないかと思った。だから園亞を誘ったのだ。妖怪課の協力要請を受けてそう思った、勢いのままに。
 ――園亞がそんな現実を目の前にして、どれだけ傷つくか、苦しむかということを、まるで考えないまま。
 園亞はうつむいて、黙り込んでいる。閃も何度か声をかけようと口を開くも、なにを言えばいいのかわからないまま同じ数だけ閉じた。
 だって自分がいまさら何を言えるというのだろう。自分で勝手に相手の進む道をこうあるべきだと思い決めて、勢いのままに相手のことをきちんと考えもせず誘って、そして思惑通りに相手が落ち込んでいるのを見て彼女がどれだけ傷ついたかを思い知ってうろたえている自分なんかが。
 そんな感情は身勝手この上ないし、考えなしにもほどがある。自分でそれが正しいと思ってやっておきながら実際の反応を見て後悔するなんて、子供かと言いたくなる。本当に、園亞が正義のヒロインなんて無茶で必要ない馬鹿な夢を諦めてくれるように、なんて偉そうなことを考えておきながら、傷ついた顔を見て、こんな風に勝手に、泣きたくなる、とか―――
「うんっ! そうだよねっ!」
「ふぇっ!?」
 突然大きくうなずいて声を上げる園亞に、閃は思わず奇声を上げてしまった。園亞がきょとんとした顔でこちらを向いて首を傾げる。
「え、なに閃くん。どしたの?」
「な、にって。園亞の、方こそ……」
「え、あ! ああ、ごめんごめん、気合入れ直しただけ!」
「気合………?」
「うん。きっとさ、閃くんは、私に、なんていうかえーと、現実を……思い知らせる? みたいなつもりもあって、私のことこの仕事っていうか、依頼? に誘ったんだよね?」
「っ」
「きっと、川田さんとか、他の妖怪課のみなさんも、そうですよね? プロ意識とか、そういうの全然なくって、現場? を知らない私に、現実の洗礼、みたいなのを受けさせてあげようって思ってくれたんでしょ?」
「っ、それは、確かに、君がどうしてもついてくるというんなら、そういうことをしようみたいに考えもしたけど。ただ俺たちはあくまで」
「ありがとうございましたっ!」
『………え?』
 川田と揃ってきょとんとする閃に、園亞はにこにこっ、と笑顔を向けてくる。
「うん、そうだよねー、私全然未熟者だし、やっぱそういう現実を思い知らされるみたいなの、一回やっとかないとだめだよね。実はさ、これまで閃くんと一緒に戦ったりして、私も少しは役立ててるかな、みたいに調子に乗ってたんだけど」
「っ、それは」
 役立っているか否かなら園亞は恐ろしく役に立っている。園亞の使う護りや強化の呪文で、自分たちが格段に有利に戦えているのは間違いない。川田が今回少しも怪我をせずに仕事を終えられたのは間違いなく園亞の呪文があったからだ――ということを思わず勢い込んで言いかけた自分に気づいているのかいないのか、園亞は笑顔で続けた。
「やっぱり全然お手伝いレベルだったんだなー、って今回のことでよくわかった。ありがとう、閃くん! 川田さんも!」
「え……あ……」
「い、いやそれは、君にお礼を言われるようなことじゃ……」
「うん、私、もっともっと頑張らないとね! 今度こういうことがあったら、もっとてきぱき動いて、ちゃんと助けられる人助けれるように!」
『………は?』
 ぽかんと口を開けてしまった自分たちに、なぜか園亞は優しい笑顔になって、ぽんぽんと(順番に)肩を叩いてきた。
「閃くんも、きっとこういう風に、悔しいなって思うこと何度もあったんだよね。しかも、閃くんは一人で、いや煌さんはいるけどあんまりこういう話に口出してくれなさそうだから、それ乗り越えてきたんだよね……すっごい偉いと思うよ。川田さんも、藤乃さんはいるけど、他の人たちどっちかっていうと叱る方が得意っぽいから、自分で乗り越えてきたんですよね。お疲れ様ですっ」
「え………」
「いっ、いやそういうことがないとは言わないけど! 俺は別にその、君のような優しい理由で――」
「私は、こんなにいっぱい気遣ってくれる人いるんだから、もっと頑張らないとね! 正義のヒロイン目指して、一歩ずつ!」
 満面の笑みできっぱり言われ、閃は絶句して口をぱくぱくと開け閉めした。いやなんでそんな満面の笑みで、っていうかさっきまで落ち込んでたはずなのにもうそんなに前向きに、なんというポジティブさ、いや本当に根本はとことん普通の女の子なのにどうしてこんなに強いんだ、といろんな言葉が頭の中をぐるぐるする――
 が、結局最後には、小さく息をついて、うなずいた。
「……少なくとも、一緒にいられるうちは、俺は君のこと全力で護るから、のんびりでいいよ……やるにしても」
 気持ちを端的に言うならば、『負けた』の一言だっただろう。
 自分の勝手な深く園亞の気持ちを考えてもいない企みで傷つけられたのに、そのすべてを前向きに捉えて頑張ると笑ってみせる彼女。自分がすごくちっぽけな人間で、みっともなくて、少しみじめな気分ですらあった。彼女になんとか償いをしたいという気持ちもあったし、自分で前向きに立ち上がれる彼女になにができるのかと自嘲する気持ちもあった。
 けれど、結局、自分にできるのは、戦うことと、護ることくらいしかない。だからせめてそれだけは、それこそ身命を賭してやってみせる。それが自分の仕事で、園亞に対するせめてもの償いで、お返しで――
 などと考えていた閃の視線の先で、園亞がぼっと顔を赤くした。
「え」
「あっあのっ、えとっ、閃くんそれってそれってそのっ、あの……『君は、俺が絶対護る』っていう、やつ………?」
「え……それはまぁ、そういう意味ではあるけど……」
「ひょぁあ!」
 閃の答えに、唐突に奇声を上げてダッシュボードに突っ伏す。え、いったい何が、とうろたえる閃に、園亞はか細い声で言ってきた。
「あ、の、閃くん……そーいう、そーいうことはその、あの、できれば他の人がいないところで、あとこっちの覚悟ができてる時に言ってほしい、んだけどなー……不意打ちされると、ほんとに、心臓壊れそうになっちゃうから……」
「え……え? あ、園亞具合悪いのか? 大丈夫か?」
「注目してほしくないとこ注目してるー……っていうか、だ、だめかなぁ、二人の時だけにしてほしい、っていうの……」
「? 別に、駄目じゃないけど……でも、俺と園亞が二人っきりっていう状況ってかなり限定されると思うぞ。基本的に煌はいつも俺と一緒にいるし、家ではお手伝いさんたちがたいてい近くにいるし、外では基本護衛の人たちが監視してるし、それにツリンだっていつ現れるか――」
「もーっ、そういうことが言いたいわけじゃないんだってばぁ! 閃くんの意地悪……」
「えっ……あ、なんか、俺失礼なこと言ったか? ごめん、嫌なこと言ったんだったら教えてくれ」
「嫌なこととかそーいう話じゃないよぉ……閃くん、わざと言ってるでしょぉ……」
「そ、そんなわけないだろ! 気づかなかったのは悪いと思ってるけど、俺は俺なりに園亞のことを大切に」
「だからそーいうこと他の人がいる時に言わないでほしいって言ってるのにー!」
「え、えぇ?」
 ダッシュボードに突っ伏しながら自分の発言にどしどし駄目出しする園亞に、閃は困惑しきって助けを求めるべく川田に視線を向けたが、川田はすいっとあからさまにこちらから視線を逸らした。口元には苦笑が浮かび、肩がわずかに震えていたので、自分のこの状況を面白がられているのだろうか。
『ま、自分たちのしょーもねぇいちゃつきっぷりをはたから見る立場になったら、そりゃ苦笑のひとつもこぼれるわな……っつーかよ、助けほしがるなら先に俺にねだるところだろうよ。助けてくださいどうすればいいかわからないんです、って正直に言ってみろ』
(お前に言うのは嫌だ)
『なんでだよ』
(絶対面白がって変なこと言うだろ! それに助けてもらうのに絶対その代金として食事要求するし!)
『ふん、そこのところはちゃんとわかってるわけか。ま、俺と一緒にいる時間の方が圧倒的に長いわけだから当然っちゃ当然だな』
(なんだよ突然……なんの自慢?)
『ふん』
 楽しげなにやにや笑いを投げかけてくる煌に憤懣の感情を投げ返しながら、閃は園亞を見た。園亞はひたすらダッシュボードに顔をうずめ、断固として顔を上げようとしない。どうしたもんかと様子をうかがっていると、ふと園亞の耳が真っ赤になっていることに気づき、もしかしてすごく恥ずかしがってるのか、と理解する。
 とたん、なんで恥ずかしがっているのかはさっぱりわからないのに、閃もすさまじく恥ずかしくなってきた。顔の赤みを見られないように、ふいと窓の外に視線を向ける。
 ――理由も理屈もすっ飛ばして、感情が共有できてしまっているのが、なんというか、ものすごく照れくさいことに思えてしまったのだ。

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キャラクター・データ
草薙閃(くさなぎせん)
CP総計:250+90(未使用CP21)
体:14 敏:18 知:14 生:14(45+125+45+45=260CP)
基本移動力:8+1.625 基本致傷力:1D/2D よけ/受け/止め:9/17/- 防護点:なし
特徴:カリスマ1LV(5CP)、我慢強い(10CP)、戦闘即応(15CP)、容貌/美しい(15CP)、意志の強さ2LV(8CP)、直情(−10CP)、誓い/悪い妖怪をすべて倒す(−15CP)、名誉重視/ヒーローの名誉(−15CP)、不幸(−10CP)、性格傾向/負けず嫌い(−2CP)、方向音痴(−3CP)、ワカリやすい(−5CP)
癖:普段は仏頂面だけど実は泣き虫で怖がり、実は友達がほしい、貸しも借りも必ず返す、口癖「俺は悪を倒すヒーロー(予定)なんだぞっ!」、実は暗いところが怖い(−5CP)
技能:刀25(48CP)、空手18(4CP)、準備/刀18(0.5CP)、柔道17(2CP)、ランニング13(2CP)、投げ、脱出16(1CPずつ2CP)、忍び17(1CP)、登攀16(0.5CP)、自転車、水泳17(0.5CPずつ1CP)、軽業18(4CP)、コンピュータ操作、学業14(1CPずつ3CP)、戦術13(2CP)、追跡、調査13(1CPずつ2CP)、探索、応急処置13(0.5CPずつ1CP)、生存/都市、英語、鍵開け、家事12(0.5CPずつ2CP)
妖力:百夜妖玉(特殊な背景25CP、命+意識回復+1ターン1点の再生+超タフネス+疲れ知らず(他人に影響+40%、自分には効果がない−40%、人間には無効−20%、肉体ないし体液を摂取させなければ効果がない−20%、オフにできない−10%、丸ごと食うことで永久にその力を自分のものにできる(命のみ丸ごと食べないと効果がない)±0%、合計−50%)88CP、フェロモン(性別問わず+100%、人間には無効−20%、オフにできない−30%、意思判定に失敗すると相手はこちらを食おうとしてくる−50%、合計±0%)25CP、敵/悪の妖怪すべて/たいてい(国家レベル/ほぼいつもと同等とみなす)−120CP。合計18CP)

旧き火神・真なる迦具土・煌(こう)
CP総計:3009(未使用CP1)
体:410(人間時50) 敏:24 知:20 生:20/410(追加体力、追加HPはパートナーと離れると無効−20%。250+275+175+175+156=1031)
基本移動力:11+2.125 基本致傷力:42D/44D(人間時5D+2/8D−1) よけ/受け/止め:13/18/- 防護点:20(パートナーと離れると無効−20%。64CP)
人間に対する態度:獲物(−15CP) 基本セット:通常(100CP)
特徴:パートナー(200CPの人間、45CP)、美声(10CP)、カリスマ3LV(15CP)、好色(−15CP)、気まぐれ(−5CP)、直情(−10CP)、トリックスター(−15CP)、好奇心1LV(−5CP)、誓い/パートナーを自分の全てをかけて守り通す(−5CP)、お祭り好き(−5CP)、放火魔(−5CP)、誓い/友人は見捨てない(−5CP)
癖:パートナーをからかう、なんのかんの言いつつパートナーの言うことは聞く、派手好き、喧嘩は基本的に大好きだが面倒くさい喧嘩は嫌い、パートナーから力をもらう際にセクハラする(−5CP)
技能:空手25(8CP)、ランニング17(0.5CP)、性的魅力30(0.5CP)、飛行22(0.5CP)、軽業、歌唱、手品、すり、投げ21(0.5CPずつ2.5CP)、外交20(1CP)、英語、中国語、仏語、アラビア語、露語、地域知識/日本・富士山近辺、探索、礼儀作法、調理19(0.5CPずつ5CP)、戦術20(4CP)、動植物知識18(1CP)、言いくるめ、調査、鍵開け、尋問、追跡、家事、読唇術、生存/森林、犯罪学18(0.5CPずつ4.5CP)、毒物、歴史、嘘発見、医師、催眠術、診断、鑑識17(0.5CPずつ4.5CP)、手術、呼吸法16(0.5CPずつ1CP)
外見の印象:畏怖すべき美(20CP) 変身:人間変身(瞬間+20%、パートナーと離れると無効−20%、合計±0%。15CP)
妖力:炎の体20LV(120CP)、無敵/熱(他人に影響+40%、140CP)、衣装(TPOに応じて変えられる、10CP)、超反射神経(パートナーと離れると無効−20%、48CP)、攻撃回数増加1LV(妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、合計−50%。25CP)、加速(妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、疲労5点−25%、合計−75%。25CP)、鉤爪3LV(非実体にも影響+20%、妖怪時のみ−30%、合計−10%。36CP)、飛行(妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、合計−50%。20CP)、高速飛行5LV(瞬間停止可能+30%、妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、合計−20%。80CP)、高速適応5LV(妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、合計−50%。13CP)、無言の会話(妖力を持たない相手にも伝えられる+100%、人間にも伝えられる+100%、よりどころの中からでも使える+100%、パートナーのみ心の中で会話できる+25%、パートナーと離れると無効−20%、合計+305%。21CP)、闇視(パートナーと離れると無効−20%、20CP)、オーラ視覚3LV(35CP)、飲食不要(パートナーの精気が代替物、10CP)、睡眠不要(パートナーと離れると無効−20%、16CP)、巨大化34LV(妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、疲労五点−25%、合計−75%。85CP)、無生物会話(30CP)、影潜み1LV(パートナーと離れると無効−20%、8CP)、清潔(パートナーから離れると無効−20%、4CP)、庇う(パートナーのみ-75%、5CP)
妖術:閃煌烈火50-24(エネルギー=熱属性、瞬間+20%、扇形3LV+30%、気絶攻撃+10%、目標選択+80%、妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると使用不能−20%、手加減無用−10%、合計+80%。540+8CP)、闇造り1-18(瞬間+20%、範囲拡大16LV+320%、持続時間延長12LV+360%、合計+700%。16+2CP)、炎中和50-24(瞬間+20%、パートナーと離れると使用不能−20%、合計±0%。100+8CP)、炎変形20-24(瞬間+20%、パートナーと離れると使用不能−20%、合計±0%。60+8CP)、治癒20-20(病気治療できる+10%、毒浄化できる+40%、瞬間+20%、パートナーから離れると使用不能−20%、合計+50%。90+8CP)、閃光10-18(本人には無効+20%、瞬間+20%、パートナーから離れると使用不能−20%、合計+20%。48+2CP)、幻光1-18(瞬間+20%、範囲拡大16LV+320%、持続時間延長12LV+360%、合計700%。8+2CP)、火消しの風1-18(瞬間+20%、範囲拡大16LV+320%、持続時間延長12LV+360%、合計700%。16+2CP)、感情知覚10-18(パートナーから離れると使用不能−20%。16+2CP)、思考探知10-18(パートナーから離れると使用不能−20%。32+2CP)、記憶操作10-18(パートナーから離れると使用不能−20%。40+2CP)
弱点:よりどころ/閃の尻の痣(別の価値観を持つ生き物、一週間に一回触れねばならない、その中に姿を隠せるが痣が隠されると出られない。−30CP)
人間の顔:容貌/人外の美形(35CP)

四物園亞(よもつそのあ)
CP総計:641(未使用CP13点)
体:11 敏:13 知:10(呪文使用時のみ23) 生:12/62(10+30+200+20+25=265CP)
基本移動力:6.25+1.25 基本致傷力:1D−1/1D+1 よけ/受け/止め:6/-/- 防護点:5(バリア型−5%、−8で狙える胸元の痣の部分には防護点がない−10%、合計−15%。17CP)
人間に対する態度:善良(−30CP) 基本セット:機械に対して透明でない(80CP)
特徴:意志の強さ1LV(4CP)、カリスマ1LV(5CP)、後援者/両親の会社(きわめて強力な組織(国際的大企業四物コンツェルン)/まれ、13CP。敵/某闇会社/まれ、−10CPと足手まとい/25CPのお目付け役/知人関係/まれ、−3CPとで相殺)、朴訥(−10CP)、正直(−5CP)、好奇心(−10CP)、そそっかしい(−15CP)、健忘症(−15CP)、誠実(−10CP)
癖:自分は普通だと思っている天然、口癖「え、えっとえっと、なんだっけ?」、口癖「私だってそのくらいできるんだから」、胃袋が異空間に繋がっているとしか思えないほど食う、超ドジっ子属性(−5CP)
技能:バスケットボール13(2CP)、学業10(1CP)、軽業11(1CP)、投げ10(0.5CP)、水泳12(0.5CP)、ランニング10(1CP)
呪文:間抜け、眩惑、誘眠、体力賦与、生命力賦与、体力回復、小治癒、盾、韋駄天、集団誘眠、念動、浮揚、瞬間回避、水探知、水浄化、水作成、水破壊、脱水、他者移動、霜、冷凍、凍傷、鉱物探知、方向探知、毒見、腐敗、殺菌、療治、解毒、覚醒、追跡、敵感知、感情感知、嘘発見、読心、生命感知、他者知覚、思考転送、画牢、恐怖、勇気、忠実、魅了、感情操作31(1CPずつ41CP)、大治癒、倍速、飛行、高速飛行、瞬間移動、瞬間解毒、接合、瞬間接合、再生、瞬間再生、精神探査、精神感応、不眠30(1CPずつ10CP)
外見の印象:人間そっくり(20CP) 変身:なし
妖力:魔法の素質10LV(180CP)、追加疲労点30LV(90CP)
妖術:なし
弱点:行為衝動/悪い妖怪に襲われている人間がいたらその人間を全力で助けずにはいられない(−15CP)、腹ぺこ2LV(−15CP)、依存/マナ(一ヶ月ごと。−5CP)
人間の顔:普通の中学三年生、容貌/魅力的(5CP)、身元/正規の戸籍(15CP)、財産/貧乏(15CP)、我が家/古い屋敷(15CP)