A person can learn all sorts of games by himself
「はいドロツー、ウノー」
「あたしもドローツー、ウノ!」
「え、えー? 私四枚も取るの? え、え……どろーふぉーじゃダメなんだっけ?」
「いや、ダメだから。そーいうルールだから。あんたほんっとにこーいうゲームルールとか覚えんの苦手だよねー、成績はそこまで悪くないのに」
「え、そっかな? えへへ、私だってそのくらいのことはできるんだよー」
「いや……園亞、別に褒められてるわけじゃないからな?」
「え、そっかな?」
「うん、褒めてないよマジで。はい、いーから四枚取って取って」
「うー……はぁい……えっと、じゃあこのあと私もカード出すんだよね? えっと、じゃあどろーふぉー」
「…………」
「っしゃ持ってる! 俺もドローフォー!」
「え、ちょ、ま……十二枚直撃!? いやいやアリなんそれ!?」
「すっごー、ある意味記録的だよねー、自慢していいよ時田ー。そんじゃあたしあーがりっと……」
「あ、ちなみに変える色黄色な」
「ぬぐっ……」
「あ、黄色ね、えーとじゃあこれ」
「…………」
「あ、りばーす、だっけ?」
「そー、だから四物の番」
「えーと、じゃあ、どろーふぉー」
「ちょっとーっ!?」
 いわゆる『子供らしい』『学生らしい』と称されるであろう、甲高い声の響く小さな(けれど周囲の人間には相当うるさいと感じられるだろう)喧噪。乗る人もほとんどいない電車だから閃も諦めてはいるが、もう少し人がいれば「騒ぐな」くらいのことは言っていただろう。
 だが、園亞と自分のクラスの、いつの間にやら『夏休みに一緒にキャンプに行く』ことが決まっていた連中たちは、そんなことなどどうでもいいとばかりににぎやかに喚き騒ぐ。キャンプといっても、誰でもキャンプできる低い山で二泊三日するだけなのだから(確認したが、管理している自治体がキャンプを禁止していない土地で、そういうところは法的にグレーゾーン扱いで、この程度の人数ならば(そして問題行動を起こさなければ)問題にはならないらしい)、全員徹頭徹尾遊びに行くつもりらしい。カードゲームの類も持ってきているし、日中の予定は基本的に泉で水遊び。雨が降ってそれもできなくなれば速やかに撤収する予定まで立てている。
 それ自体には別に文句はない。子供が夏休みに遊ぶのは当たり前のことなのだろうし、一応山の危険などについても調べてあるのだから(自分も相談役にされた。山間の生存術には詳しくないと言ったのだが)、子供が休みにやることの中ではむしろ真っ当な方だと思う。
 だが、園亞の護衛役である自分としては、どうにも対処に困ることに。
『…………』
「ふんっ!」
 クラスメイトたちにも認識できていないはずはない、隣の車両にずらりと並んだ、黒服のいかつい男たち。そして男たちに囲まれた、山に向かうにはあまりに不釣り合いな燕尾服姿の老人。そいつらが集団でじろじろとこちらを注視し、老人はぶつぶつと小言を漏らしながら、忌々しげに幾度も舌打ちしている。
 この、これまでの自分の生活の範疇にはない、園亞と一緒にいてもこれまでは関わってこなかった、『四物コンツェルンの御令嬢』という立場に関わる付随物――富豪の家にまつわるあれこれが、今回の短期野営に面倒を持ち込んできているのだった。

「お嬢さま! そのような……あまりに四物家の御令嬢にふさわしからぬお振舞いですぞっ!」
 口元から唾を飛ばしてそう喚いた燕尾服の老人に、閃は思わず眉をひそめた。この老人、もう七十は越えていると思うのだが、お嬢さまと園亞のことを呼んでおきながら、園亞に対してあまりに態度がでかい。
 四物家(といっても四物コンツェルンは現総帥である園亞の父がほぼ一代で築き上げたものだそうだから、血族的にはこの家を四物家と言っていいのかどうかわからないが)は練馬区に大きな屋敷を構えているのだが、当然ながらその屋敷の維持には人手が必要になるため、家の中にはそれ相応に使用人がいる。通いの人間もいるが、住み込みの人間も多い。屋敷の敷地内にそういった使用人が住まう社宅が建てられており、家の人間(といっても園亜とその両親の三人しかいないのだが)が呼べばすぐ飛んでこれるようになっている。
 そしてその使用人たちは残らず、園亞を可愛がると同時に、雇用主の一人として最大限に敬っている。それは園亞がいい雇用主だからというのもむろんあるだろうが、とてつもない財力とそれに伴う権力を有する四物コンツェルンの総帥と総帥夫人に、それこそ身命を賭して愛されている人間だから、というのもあるだろう。園亞の両親はその莫大な財力も権力も園亞を護るために得た、とまで豪語するような人たちなのだ、たとえ一ヶ月に一度くらいしかこの家に戻ってこなくとも、その機嫌を損ねるような真似をわざわざする人は普通いない。
 だが、この閃が初めて見るこの老人は、明らかに自分を園亞の上位者――というか、保護者や教育者としての立場を持つ人間と認識しているようだった。いわゆる『爺や』という立場の人間なのだろうか。それにしても現代に燕尾服とは、あまりにTPOをわきまえない格好だ(少なくとも現代日本では、執事のような立場の人間でも、現代社会で目立たないこと(主の邪魔にならないこと)を第一義として普通はどこに行くにも一般的なスーツを着用するのだと、閃はこの家に来て知った)。
 そして園亞は老人の明らかに上の立場からの物言いに、困ったような顔をしながらも文句を言おうとはしない。まぁ、園亞は基本的にどんな相手に対しても、まず文句を言うということはしない少女だが。
「うぅん……」
「お嬢さま。よろしいか。お嬢さまは四物家の総領娘、将来四物コンツェルンを背負って立つお方なのですぞ? そのご自覚をお持ちください! そこらの民草とはそもそもの御身分が違うのです! 庶民どもとむやみに交わることは、お嬢さまのご将来を損なうことにもなりかねませんぞ!」
「えぇ? そうかなぁ……?」
「お嬢さま! おわかりにならないのですか! お嬢さまが一般庶民とみだりに関われば、そ奴らを害することになるのです! 万一ことが起きた時にどうなさるおつもりですか! お嬢さまの御身と有象無象の民草の命とは、価値がまるで違うのですぞ!」
「え、でも……」
「お嬢さま!」
 ぎゃあぎゃあ喚く老人に、園亞は困った顔であまりきっぱりと、とは言えないながらも否定や疑問の言葉を返す。まぁこの老人の主張が、一貫して『四物コンツェルンの御令嬢が庶民と一緒にキャンプに行くなど言語道断』というものだったので、そりゃあ諾々とうなずく気にはなれなかろう。というか、そもそもなんでいまさらこんな文句をつけてきているのだろうこの老人は。園亞がクラスメイトたちとキャンプに行くことは、もう一ヶ月も前から予定されていたことなのだが。
「よいですかお嬢さま、おわかりか! お嬢さまは先ほど、電車で庶民どもと一緒に目的地へ向かう、などとおっしゃいましたな!」
「う、うん、みんなで一緒に」
「それが大きな過ちなのです! 電車、それも庶民どもと同じ席など四物家の御令嬢としてあまりに野放図な振る舞い! 万一ことがあった時に、自家用車ならば護衛たちでほぼ確実に御身を護れましょうが、電車では不可能です。少なくともきわめて難しい! 人込みの中での刃を防ぐことなど、護衛たちがついていても容易なことではないのですよ!」
「え、えー、でもー」
「…………」
 閃は眉を寄せてしばらく考える。確かに老人の言うことは間違ってはいない。電車で刺客が襲ってくる可能性を完全に排除するというのは難しいし、ことが起きた時にも厄介さは桁違いに高い。巻き添えが出る可能性も比べ物にならないし、そもそも電車を丸ごと乗っ取られた時の対処が車とは段違いに難しくなる。それは正しい理屈ではあるのだが。
「……失礼。あなたは、いつからこの家に雇われているのですか」
「え?」
「……お嬢さま。なんですかな、この小僧は」
 老人はあからさまに顔をしかめて園亞に言う。園亞は困った顔で首を傾げた。
「えっと、閃くん」
「お嬢さま、いつも申し上げておりますでしょう。言葉を発する時にはきちんと考えてなされませ、と。四物家の家格が疑われることにもなりかねないのですぞ」
「あ、はい……ごめんなさい」
「――状況を詳しく知りもしない、主に聞く前に他の使用人から聞き取ることもしない。そんな使用人が主に大きな口を叩くことの方が四物家の格を下げていますよ」
「なっ!?」
「そもそも、俺は四月からここにいますが、今まであなたの顔を見たこともない。話を聞いたことすらない。園亞が話を聞く姿勢を取っているのでそれに従ってますが、本来なら不審人物として無力化を優先してもいいレベルです。園亞の重要性を主張するなら、あなたが園亞にプレッシャーをかけるような口の利き方をしていることがそもそも許されないはずだ。少なくとも、園亞のご両親の御不興を買うことは間違いないんですからね」
 閃の言葉に、一瞬男は、口の端をにやり、と嘲り笑うようにひん曲げた。なんだ、と閃が眉を寄せるのを気にもせず、優越感をたっぷり込めた表情でせせら笑う。
「お嬢さま、四物家の総領娘たる者、使う者にも気を配らねばなりませんぞ。このような勘違いをした小僧をのさばらせては、お家の名を汚すことにもなりかねませんからなぁ」
「勘違い……?」
「お嬢さま。この小僧にお教えなさいませ。この爺が四物家で、どのような立場の者であるかを」
「あ、はい……えっとね、閃くん。この人……藤野さんはね。私のおじいちゃん……お父さんのお父さんがね、お目付け役にってよこしてくれた人なの」
「お目付け役? なんの?」
「え、なんのだろ? それは聞いてみたことないなー。今度会ったら聞いてみるね」
「お嬢さま! そのようなことは問題ではないのです! この小僧にきっちりと教え込みなされませ! 自らの分際というものを教えるのも、主のお役目ですぞ!」
「え、そうなの? うーん、でも、私別に閃くんの主ってわけじゃないし……」
「お嬢さま!」
「……園亞。つまり、この人は、どういう仕事をしてる人なんだ?」
 閃の問いに、藤野老人はふんぞり返り、園亞は首を傾げる。
「えーっと……どーいう仕事なのかなぁ? 私もちゃんとはわかってないんだけど……」
「っ……お嬢さまっ! 四物家のご令嬢たる者――」
「つまり、園亞から見て、はっきりこういう仕事だ、って言えることはやってないんだな?」
「えーっと、うん、そうかな……? ええと、やっていいこととか、やっちゃいけないこととかをいろいろ教えてはくれるけど……どういう仕事か、っていうと……」
「わかった。それなら、これ以上あなたに園亞の前で騒がせるわけにはいきません」
 藤野老人がぱかっ、と口を開ける。思ってもいないことを言われて仰天している顔――それが、すぐに憤怒の形相に変わった。閃のこれまでの人生でも何度も見た、自分が偉いと思っている人間が軽視している相手に軽視され怒り狂っている、という顔だ。
「貴様! 小童風情が、なにを偉そうに――」
「おっしゃる通り、俺は小童ですが、少なくとも園亞のご両親から園亞の日常的な護衛に関しては全責任を負うことを許されている。そして、今のあなたは、たとえ園亞自身が知っていたとしても、どういう身上の者かもはっきり言わないような不審者だ。園亞に近づけるわけにはいきません」
「な、な、なぁ―――っ!」
「お引き取りを。これ以上園亞に近づくようなら、強引に排除させてもらいます」
 そう言って藤野老人を睨み殺気を叩きつけると、素人なりに閃の気迫は感じ取ったらしい。怯えたように身を引いてから、口から唾を飛ばして喚きながら園亞の部屋を出て行く(藤野老人は園亞の部屋にいきなり押しかけてきて喚きたてたのだ。それも閃が不信感を抱いた理由の一つ)。
「おっ、お嬢さま。このことはお館さまにもご報告し、しかるべき裁可を下していただきますぞ! お覚悟なされませ!」
「……お館さま、って孝治さんのことか?」
「えっと、ううん。たぶんおじいちゃんのことだと思う。藤野さんは、おじいちゃんが家によこしてくれた人だから」
 眉を寄せるも、園亞に話を聞いていてはたぶん埒が明かない。家宰の人に訊ねるか少し迷うが、まだ壮年の働き盛りであり、普段しっかりとこの家の家事を取り仕切っている人が園亞の部屋にまで通してしまったということは、あの藤野老人は家宰の職責の範囲内では対処できない人間ではないかと考え、孝治――四物コンツェルン総帥である、園亞の父親、の秘書の一人(私事を処理する役職の人だ)に連絡を取った。

『――なるほど、な。それは手間をかけたね、閃くん』
 さして時間も経たないうちに、孝治から直接電話がかかってきたので、閃が部屋の隅に行って詳しい状況を話したところ(園亜と閃は藤野老人が来る前から一緒に夏休みの宿題を片付けていたのだ。園亞の部屋はマンションの一室くらいの広さはあるので、隅で小声で話せば会話も聞こえない)、そんな言葉が返ってきた。
「いえ、手間というほどのことは。ただ、あの藤野という老人のことについては、俺はまだ誰からもうかがっていなかったので、確認を取らせていただくべきかと思いまして」
『そうだな、君の立場なら当然だろう。私としても、あの爺が性懲りもなく恥知らずにもまた屋敷に顔を見せるとは、正直思っていなかった』
「……と、いうと?」
『あの爺は、君が園亞と出会う少し前に、屋敷から叩き出された人間なのだよ。他ならぬ園亞にね』
「…………」
『叩き出されたというと語弊があるか。正確に言えば、園亞の拒否感に乗じてあの爺を叩き出した、ということになるな。もともとあの爺は身の程もわきまえず園亞にあれこれ偉そうに口出しをしてくる、それこそ存在を抹消してやりたくなるような愚物だったが、園亞はそんな爺にもいつものように、優しく寛容に誠実に向き合っていた。むしろ、あの爺が身の程知らずの愚か者だということを意識すらしていなかっただろうが、さすがに家に遊びに来た友人に傲慢な口を叩かれるのは、『やめてくれないか』と哀しげに頼み込まずにはいられぬほどの苦痛だったのだろうよ」
「…………」
 園亞らしい話だった。園亞は基本的に、他者の悪意に疎いし、それに対して怒りをはじめとした強い感情を抱くことも得意ではない。孝治たちに愛され護られてきた結果であり、ある意味人の心を和ませる美徳とも言えるだろうが、明確な敵対者に対しては対処が難しくなる特質であるのは間違いない。
『あのような下劣な愚物などに、園亞が下手に出る必要などまるでないにもかかわらず、いつものような優しさをもって懇願したというのに、だ。あの愚物は園亞の優しさに甘え、むしろ踏みにじり、汚物にも劣る老害の分際で園亞に説教などをしたのだよ。いかなる理由があろうとも、許されることではない。定岡に命じて、屋敷から叩き出させたのだよ』
 定岡というのはこの家の家宰の名前だが、そうするといくつか不可解なことがある。
「そもそも、あの人はどういう理由でこの屋敷に出入りするようになったんですか?」
『あの老害をよこしたのは、当然ながら私たちではない。私の父にあたる人物だ。……つまり、園亞の祖父ということになる輩なのだよ』
 思わず眉を寄せる。閃の記憶が正しければ、孝治の親や親族というのは、四物コンツェルンが四物グループだった頃に、孝治が権力を一手に握るべく追い散らされた人々だったはずだ。孝治の行為にも問題があるが、そもそもその人々がグループの経営状況を改善する意欲も能力もない上無駄金を使いたがるから、というのも理由ではあったはず。
「……どういう人なんですか、その人は?」
『気位だけは無駄に高い上、四物コンツェルンや私や園亞に自分が影響力を持っているなどと勘違いするような、身の程知らずな上に脳味噌のまるでない最低の痴れ者だ。私の親族連中は、ほとんどがそういう類の輩だね』
 しれっと侮蔑の言葉を吐いてみせてから、孝治の発する声にふいにひどく苦いものが混じる。
『ただ……我ながら慚愧の念に堪えないことではあるが。園亞が生まれてから三年、私は園亞に対し、無関心な態度を貫いていた』
「……はい」
 今からでは想像のつかない事実ではあるが、確かに孝治たちはそう言っていた。
『その頃に、あの痴れ者……私の父は、あの老害を送り込んで、園亞を懐柔し、教育し、自分たちに従う道具にしようと試みていたのだよ。つまり、園亞にとっては、私たちが両親としての振る舞い方を知るより前に、自分に優しく接してくれた爺やに当たるわけだ』
「……それは……」
 園亞が敵対感情を抱くということ自体難しい相手、と言っても過言ではないレベルになってしまう。
『心を入れ替えたのち、私たちは当然ながらあの爺を屋敷から追い出すことを試みた。だが、園亞は、どんな愚物に対しても、優しく誠実な態度を持って接する――というより、それ以外の接し方など考えたこともない子だ。あの爺がどれだけ不快な雑言を喚き散らそうとも、屋敷から追い出したり、出入り禁止にしたり、というような当然の対処を取ることさえ、どうしても悲しんでしまう。そうなると、我々としてもどう対処するか困るところがあってね……』
「なるほど……」
『私の父にあたる男に圧力をかけたり、あの爺の周囲に処置をしたり、手は尽くしたのだが。あの爺は果てしなく厚顔な上に頑固で、自分は園亞の祖父ということになる男に送り込まれたのだから、我々の家に出入りできて当然、とひたすらに思い込んでいてね。受けた命令を至上のものとして、しつこく園亞の周りにつきまとう。園亞自身にあの老害を拒絶する感情がない以上、園亞の周囲の人間としても爺を完全に排除することは難しい。屋敷から叩き出した時に相応に因果を含めたつもりだったが、それでもまだしつこく現れるとは……』
 孝治の声は心底忌々しげだ。愛する園亞に姦物が近寄るのを阻止できないというのは、確かにこの人にしてみればなにより不本意なことに違いない。
「……つまり、あのご老人が目の前に現れた時は、俺の判断で対処してかまわないんですね?」
『それはもちろんだ。ただ、あの老害は悪知恵だけは無駄に働くからね。君が真正面からあの爺を追い返したなら、おそらく君には対処の難しい……たとえば、君が園亞から離れられないことを利用してつかず離れずの距離で園亞に存在をアピールするとか、君と園亞が子供たちだけで行動している時に図々しく現れて保護者であると主張するとか、鬱陶しい手段を取ってくるはずだ。そうなると園亞本人に、あの爺に対する強い拒否感がない以上――園亞は、自分の感じた嫌悪や拒否感はすぐに忘れてしまう子だからね――あの爺を完全に排除することは難しくなる』
「…………」
 閃は端末を握り締めながら顔をしかめる。確かに、今現在間違いなく未成年である閃は、そういった手に対抗する手段に乏しい。実年齢数千年以上外見年齢二十代後半である煌は戸籍がないし、そもそもそんな鬱陶しい人間をなんとかしてくれとか言ったらまず間違いなく焼却処分にしようとするだろうし。
『ただ、私がそれ相応に因果を含めたにもかかわらずまた園亞の周りに現れたということは、あの爺が度外れて無神経だということもむろんあるだろうが、おそらくは私の父にあたる男から命を受けた可能性が高い。最近あの男は私、というか四物コンツェルンになんらかの影響力を持つべく、あれこれと無駄な手を打っていてね。それについての対処はすでに終盤戦に入っているので問題はないが……きちんと決着をつけるのは、十日後の、帰省の際になると思うんだ』
「ああ……それで帰省することになったんですか」
 予定として組み入れられてはいたものの、多忙な孝治と玲子が揃って孝治の生家へ帰省すると聞かされた時は、仕事片付けるの大変だろうな大丈夫なのかな、とちょっと心配になったりしたのだが、そういう目的があるなら話がわかる。
『まぁ、それだけというわけでもないがね……ともあれ、あの老害の動きを止めるために私が動けるのは、十日後になってしまう。それまでの間にあの爺は手を尽くして園亞の周りをつきまとうと思うが……できる限り、園亞から遠ざけてはくれないか。君ならば、園亞の心を傷つけずにあの爺を追い払うこともできるだろう。どうか、頼めないだろうか』
 四物コンツェルンの総帥としてはたいそう弱気、というか腰の低い態度で、孝治は電話の向こうから頼み込んでくる。それだけ気を使われてるんだろうな、と自分の未熟さ、というか子供さを悔しく思いながらも、閃はきっぱり言い放った。
「もちろんです。俺だって、園亞に嫌な奴が近づくのは嫌ですから」
『ありがとう。よろしく頼む』

 そういうわけで、今日までの数日間、閃はできる限り園亞と一緒に行動して、藤野を園亞の周囲から追い払ってきた。園亞に嫌な気持ちをさせていないかとちょっと心配ではあったものの、園亞としては一緒にいる閃が藤野を追い払いたいと思うなら反対する気にはならない様子で――というか、そのなんというか、閃ができるだけ園亞と二人っきりになりたがっているんじゃないかと考えている様子で、藤野が『お嬢さま!』とぎゃあぎゃあ騒ぐのに、照れ照れしながら『ごめんなさい、藤野さん。また後にしてくれないかなぁ?』と頼んだりするくらい閃の行為を受け入れてくれていた。
 そして園亞は『また後にして』と頼んだことをかなりの確率で忘れてしまうため、結果的にその、閃と園亞はこの数日間、なんというかその、二人っきり(煌とツリンをのぞいて)になること――ひいては藤野を遠ざけられることが、かなり多かった。
 なので今日の朝、キャンプに行くため二人で家を出た際もさほど心配してはいなかったのだが、藤野は集合場所に、いつもの燕尾服で黒服たちを引きつれて現れ、得意満面にこう主張してきたのだ。
「お嬢さまは四物家の総領娘なのですからな! 四物家に仕える爺としては、ろくな護衛もなしにお出かけなさることなど心配でなりませぬ。この爺、なんとしてもお嬢さまがお心変わりなさるまでついていかせていただきますぞ!」
「言ったはずです。俺は園亞の日常的な護衛に関しては――」
「ふん、小僧。それは『四物コンツェルン総帥』のご意思であろうが? わしは四物家のお館さまの命を受けここに参じておるのだ。この護衛たちもお館さまの意向に従い雇うておる者。つまり貴様の責任の及ぶ範囲ではない、ということよ」
「っ………」
「さ、お嬢さま。お屋敷にお帰りなされませ。野遊びなど、四物家ご令嬢のすることではございませぬぞ」
 得意満面にそう言い放つ藤野に、閃はぐっと奥歯を噛み締める。なんとか言い返して藤野を追い払ってやりたいのだが、閃はもともと弁が立つ方でもない。向こうが自分の責任で対処できる範囲にいる人間でないのが間違いでない以上、どうすれば藤野を追い払えるかという手段が思いつかない。
 園亞も困ったような、悲しそうな顔で自分と藤野を見比べている。どうすればいいのかわからない、という顔だ。くそったれ、園亞にそんな顔はさせたくなかったのに――と閃が拳を握り締めていると、集合場所で待っていたクラスメイトたちの中から、渉が進み出て笑顔で言ってきた。
「えーっと、じゃーおじいさんは、四物さんが心変わりするまでつきまとうっつーことなんですよね?」
「ぬ……貴様! 小童風情がなにを横から」
「じゃ、いっすよ、ついてきても。俺たちがキャンプ行く後ろから」
『………は?』
 閃はぽかんとして、うっかり藤野と声を揃えてしまったが、渉は笑顔で言い放つ。
「あ、でもできる限り俺らの目の届かないとこにいてくださいね。じゃねーとうっかり変質者と間違えて110番しちゃう可能性ありますし。なんせ俺人の顔覚えるのすっげー苦手だし、護衛さんたちみんなコワモテで顔まともに見れないもんでー」
「あー確かに、黒服だしなー、全員ごついしなー」
「一見ヤクザ!? とか思っちゃうよねー、ぱっと見で」
 他のクラスメイトたちも口々に渉に追従する。口をぱくぱくさせる藤野に、渉はとどめの一言を放った。
「俺たちの行く山電波普通に通じるレベルのとこですし、山ん中入っても顔見たらびっくりして警察に連絡しちゃうと思うんで、どーか気をつけてくださいねー。んじゃ、全員揃ったし出発しますかー!」

 電車に乗ってから、閃は渉はじめクラスメイトに深々と頭を下げて謝罪と礼を言ったのだが、渉たちは「気にすることないない」と笑って言った。
「こーいうの初めてじゃねーしさー。あのじーさん、ことあるごとに四物の周りうろついて、あれこれいちゃもんつけてくっから」
「園亞と長くつきあってたらそこそこ慣れちゃうっていうか。まー最初は口出ししたらヤバいかな〜とかも思ったんだけどさぁ、あのおじーちゃん参観日とかで学校に来た時に、園亞ひいきしろーみたいなこと喚いて親とかセンセーとかと喧嘩になって、警備員につまみ出されたりしたってこと聞いたから、まぁテキトーに相手しちゃっていいかな〜って」
「ぶっちゃけ話聞いててイラッとくるしね、あのじーちゃん。園亞の気持ちとか全然考えてないし。そーいう奴にあーだこーだ言われたら、フツーにウザいから凹ましてやろーとか追い払ってやろーとか思うじゃん」
 つまり、園亞の友人たちは、自分よりもはるかに園亞の周りの環境――四物財閥のご令嬢という立場に付随するいろいろなものに慣れていたということらしい。そう言うと、『いやーひとつ屋根の下で寝起きするお前ほどじゃねーよ』などとにやにや笑いながら言われ、口喧嘩(というにはあまりに閃がいいように遊ばれている感が大きかったが)になったりもしたのだが。
「いや、でもマジな話、園亞が全然おじょーさまっぽくない上に、学校でも学校の外で会った時でもお金持ち感? みたいの全然出してこないからこーいう態度でいられるってのはあるけどねー」
「あーそれあたしもあるわ。園亞って学校の行き帰りは車だけど月のお小遣いとかガチで五千円だし、部活の試合の時とかもこっそりSPの人とかついてきてるけど本人はフツーにそのことすっかり忘れてたりするし、敬遠する気失せるよね真面目に」
「めっちゃそそっかしいし物忘れひどいしねー。なんにでも首突っ込むけどやろうと思えば簡単にあしらえちゃうし。わりと真面目ちゃんなんだけどすんごい騙されやすいから誤魔化そうと思えばテキトーに誤魔化せるし。隙が多すぎて喧嘩する気になんないっつーか」
 園亞が席を外した際に、園亞以外の三人の女子はそんなことを言いながらくすくす笑ってみせた。もしかしてこいつらは園亞を馬鹿にしているのか、などと考えていると、女子たちは笑いながらばしばしと閃の肩や背中を叩いてくる。
「おっこんないでよー。別に園亞のこと馬鹿にしてんじゃないんだから」
「……別に」
「いやいやその顔はムカッときてる以外の何物でもないっしょ。ホント草薙くんって怪しい仕事してるわりにはわっかりやすいよねー」
「なっ」
「いいとこも悪いとこも知ってなきゃ、フツーに友達やる気になんかなんないでしょ。あの子がちょっと馬鹿なとこあんのは事実じゃん? そんでもなんのかんの言ってもいい子だから、その周りの鬱陶しいおまけとか無視して友達付き合いしてんでしょ?」
「それは……」
 反論できずに眉を寄せていると、女子たちは甲高い声で笑いながら口々に言う。
「草薙くんってアレだよねー、潔癖っつーか真面目っつーか……」
「世の中の人全部がちゃんと真面目に生きてないと気に入らない、みたいなとこあるよねー」
「べっ、別に俺は……」
「心配しないでってー、別にそれが悪いとか言ってんじゃないんだから。や、しょーじき言えばもーちょい頭柔らかくしないと生き辛そーだなー、とは思うけどさ」
「単に園亞とお似合いっつーか、割れ鍋に綴じ蓋的な? そーいう感じするなって思っただけでさー」
「なっ……!」
「たっだいまー! あれ、なんの話してたの? 閃くん顔真っ赤だけど……」
「なっ、ちがっ、俺はっ」
「あー、単にあんたらがお似合いだよねーみたいな話してただけ」
「えっ、そうっ? ほんとにっ? えへへー」
「あんた似たような話何回もしてんのに毎回律儀に照れるよねー」
「えへへ、だって私まだ全然閃くんに追いつけてないしさー。ちょっとでもお似合いっていうか、釣り合って見えてたら嬉しいもん」
「はいはいのろけのろけ」
「周りの空気が温暖化するから二人っきりの時にしてくださーい」
「えへへー」
 そんな風に盛り上がる女子の傍らで閃は羞恥と困惑で心臓をばくばく言わせながら必死に仏頂面をしていたが、渉と他二人の男子(曽我部と国吉という珍しい姓を持つ二人だ)にニヤニヤ笑いながら手招きをされ、絶対からかわれると予測しながらも、騒ぐ女子の隣で一人座っているのはさらにいたたまれないので、渋々そちらに近寄る。とたん、予想通りに男子どもはニヤニヤ笑いながらつんつんとこちらをつついてくる。
「言われちゃったなー、モテ男くんよー」
「幸せもんだよなーマジでー。動画とか上げたら爆発しろの嵐だぜぜってー」
「こんだけいちゃついてんのに他の女からも熱視線浴びてっとかさー。許されざるよマジで」
「べっ、別にいちゃついてない。第一他の女からの熱視線って、なんだよそれ」
「いや、気づいてねぇの? 閃と四物が出来上がりかけカップルだってのは学年内でも有名だってのにさー、俺が噂流したから」
「おい渉今お前なんて言った」
「それでもいろんなタイプの女子から何度もちらっちら見られてんだろ、お前」
「やっぱ顔がいいっつーのでけぇよなー。部活はなんもやってねぇけど、スポーツ万能、それもちっとやべーくらいにできるってのは有名だし、勉強もそこそこできるっつーか英語ガチで喋れるってーのとかポイント高いし」
「おい待て、それよりもまず渉がさっき言ったことを」
「如月もなー、ファンクラブとか言ってっけどやっぱ草薙のことが好きだっつーのがちょいちょいぽろぽろ出てきてっし」
「蔦組の八幡もちらっちら熱視線送ってきてっしなー。他の女子にもお前が体育ですげーとことか見せるたびにちらちら見てくる奴多いし」
「っ……だから、そういうのは、別に俺がどうこうしたせいじゃなくて」
「いやいや心配すんなよ、どう転んだってお前が四物以外の女子に興味示したりしないってのはわかりきってるし、そーいう子たちも基本見守る姿勢に入ってんよ」
「けどそれはそれで許されねぇ気するけどな。本命の女子がいつつ他の女子にモテてしかも本命との仲を邪魔されねぇとか、どんだけ前世に徳積んでんだよ」
「だからそういう話じゃないって言ってるだろーっ!」
 そんな風にうっかり閃も騒いでしまったりしながらも、自分たちを乗せた列車は山間部目指しどんどん進んでいっていた。――隣の車両から、黒服の男たちと燕尾服の老人が、ずっと視線を投げかけてはいたけれども。

「いったぁ……ねー、足痛くなってきたぁ、ちょっと休まないー?」
「……いや、ニ十分くらい前にも休んだだろ。そんなに何度も休んでたら日暮れ前にキャンプ予定地にたどりつけないぞ」
「な、なぁ、この分かれ道さ、標札とか全然出てねぇけど……え、なにこれ、どっち行ったらいいわけ?」
「普通に地図を見ればいいじゃないか。……え、地図を持ってきてないって、お前な……」
「いっせーの、せっ……ってあれ、できねぇ! なぁ草薙、テント張るのってこんな感じでいいんだよな!? なんか間違ってる!?」
「間違ってない。ポールはちゃんと繋がってるんだから、あとは力の入れ方とタイミングだ。ポールを折らないことだけ注意して、力を入れ過ぎないように何度もやってみろ」
「ねぇねぇ草薙くーんっ! これ、ペグだっけ? ってどうやったら地面に刺さるの? なんか地面硬くてぜんっぜん入らないんだけど!?」
「普通の地面なんだから上から石で何度も叩けば刺さる。ペグを曲げないように、できるだけ垂直に、綱をぴんと張るように心掛けながらやってくれ」
「……なーなー閃! 火がつかねーんだけど! ちゃんと新聞紙焚きつけにして細い枝ばっか使ってんのに!」
「そりゃ初めてやるんだから当たり前だ。あとこの薪はちょっと太いぞ。太い薪は長時間火を点すわけじゃないならそこまでたくさんはいらない、細い小枝をもっと集めて、あとは風圧で火を消さないようにしながらとにかく空気を送り込むことだ」
「え? あれっ? え、えっとえっと、なんだっけ、カレーに塩ってどのくらい入れるんだっけ? んんっと……味見しながらちょっとずつ入れてけばいいよね、よしっ!」
「ちょっと待て園亞カレーに塩は入れなくていいどうやってもリカバーの利かないレベルで調味料を大量に入れるなぁぁ!」
 当然と言えば当然なのだが、野外活動の素人である園亞含む同級生たちは、やることなすことスムーズにはいかなかった。目的の場所にたどりつくまでも地図で確認して閃が考えていた予定時間の数倍はかかったし、着いたら着いたで水場の確保にしろテント張りにしろ夕飯の調理にしろ、なかなかまともには進まない。閃が自分一人で済ませた方がおそらくはるかに時間はかからなかっただろうというレベルだ。
 もちろん自分たちで成し遂げなければ意味がないことはよくわかっていたので、閃は監督役に収まって全員に求められた時に親切すぎないアドバイスをするにとどまっていたのだが。これまで自分をずっと見守りながら、どんな分野でもぎりぎりまで手を出さないでいてくれた煌がどれほどありがたい存在だったか、改めて実感した。
 それでもなんとかやっとこすっとこ日が暮れ周囲が見渡す限り真っ暗になる前に(閃は一応人里離れた場所で妖怪と相対することもあったので慣れてはいるが、同級生の中には(林間学校の類も基本的に屋内だったそうで)自分の周囲が真の暗闇に覆われるということ自体に驚き、内心で不安がっているらしき者もいた)、テントを張り終え食事も作り終え、竈の残り火とヘッドライトを助けにわいわい騒ぎながら飯盒で炊いた飯とカレーにありつくことができたが。
「おおすげぇ! カレー普通にうまいじゃん四物の声とか聞いてたら爆死案件かと思ってたけど!」
「まぁ……幸い本当にまずい事態になる前に全部止めに入れたからな……」
「わっはっは、閃おつかれー。いやでも本当に普通にうまいぜ、自分たちで作ったからとか野外だからとかいうレベルじゃねーだろこれ」
「カレーと飯盒で炊いた飯だからな……どっちも計量ちゃんとして作れば火加減そこまで細かく調整しなくてもなんとかなるし」
「うんっ、はぐっ、でもこれっ、はぐっ、本当においしいよっ閃くんっ! はぐっ、もぐっ」
「……まぁ、あとは大量に作ったせいっていうのも、あるかもな……」
「草薙くんの持ってきた荷物の半分以上食料だもんねぇ。すっごいでかい荷物背負ってきたのにもびっくりしたけど、その食材の量にもびっくりしたわ。園亞ー、あんたマジ愛されてんねー」
「はぐっ? はぐっ、う、うふへへー、はぐっ、もぐっ」
「照れながらも飯食う手は止めないとか、マジ四物だわー」
 まぁ、園亞は妖怪として有する特性のひとつに、『食事を普通の人間の数倍摂取しなければ活動を維持できない』というものがあるらしいので、数日間都市部を離れるとなるとそれくらいの食料は持ってこないわけにいかなかったのだ。今日中に食べてしまう以外の食材は季節のせいもあり保存がきく食材にしなければならなかったので、実際に料理として口に上るものを食材換算すると量的にはさらに増えるだろう。
「はーっ、食った食った! あー、このまま寝てぇわー、テントん中入っていい?」
「いいわけないだろ、洗いものしておかないと明日から料理に使える鍋も食器もなくなるぞ」
「くっそ、ツレと遊びに来た時くらい後始末とかそーいうこと忘れさせてくれよー」
「自分一人ならそれも自己責任だろうが、何人も一緒に来てるんだからな。自分の分担を他人に押しつけずに自分でやるのは当然だ」
「あ、それに歯磨きもしないとだよ! 毎日磨かないと虫歯菌ってすぐ増殖するんだよね!」
「いやまぁそうだけど、それここで言う? なんか違わない?」
「あんたってやっぱ根本的に『良い子』だよねぇ」
「え? えへへ、そっかな」
「いやマジ照れすんなし。まぁ別にけなして言ったわけじゃないからいーけどさ」
 そんなこんなでやるべきことをすべて終え、男女がそれぞれのテントに引き上げた時には、全員かなり口数が少なくなっていた。閃も(明日もどうせやることがいっぱい出てくるのだろうし)さっさと休もうと、寝袋の中に入って目を閉じる。
「おい閃よぉ、なにいきなり寝に入る態勢になってんだ。なんで男女別のテントにしたと思ってんだ、おぉ?」
「……なにする気か知らないけど、お前もかなり疲れてるだろ。さっさと寝ないと明日に……」
「思春期男子がひとつところで夜を迎えるとなりゃ! 猥談のひとつでもかまさねぇと世間一般の法則的に失礼ってもんだろ!」
「は……はぁっ!!?」
 思わず叫んでしまってから口を押さえた閃に、渉はにやにやしながらすり寄ってくる。曽我部と国吉も顔を近づけ、にやつきながら小声で言ってきた。
「つかよー、俺草薙のそっちの体験とか何気にマジで気になってんだよな」
「はぁっ!?」
「いやだってよ、ボディガードすんのって、四物が初めてじゃねーんだろ? だったら以前にさ、そーいうアレ的な? 護衛対象とアレな関係になったとかありそじゃね? ボディガードっつー仕事でそういう展開って鉄板だし?」
「なっ……なに、馬鹿なっ」
「いや俺は何気に四物が初仕事だと思うね。ボディガードは。転校してきた時の物慣れなさっぷりからして。……ただそれより前にいろいろ俺たちパンピーには想像できなさそーな仕事してそーだし、その間にいろいろエロエロな体験しちゃってる可能性はなきにしもあらずかっつー気もするけど〜?」
「なっ、なっ……! なに、なに言ってっ……」
「おっ、言い淀んだぜ。これ何気にマジで経験してる可能性アリ?」
「いやないに決まってるだろそんなの! 俺をいくつだと思ってるんだっ、そもそもそういうことは軽々しくやっていいことじゃ……」
「え〜、本当にござるかぁ〜? 依頼人のおばさまとかお姉さまに誘われてベッドにインとか、マジでねーの?」
「あるわけないだろ……! そもそも仕事の対象とそういう関係を結ぶなんてあっちゃならないことでっ」
「えー、じゃあ草薙まだ童貞? そっちの経験全然なし?」
「どっ……! そっ、そっ、そういうことをっ、当たり前みたいにっ言うなっ……!」
「ぷはっ、そっかそっかオッケーよかった安心したぜー。まー閃って童貞臭かなりあったけど、プロ感はあったし、仕事中に俺らでは味わえねー体験とかマジでしてそうだったし、いろいろエロエロな経験とか積んじゃってたりとかー、おばはんとかモブおじとかに食われたりしてねぇかなーと内心けっこーガチで心配してたからさー」
「そんなわけ……!」
 言いかけて、一瞬閃は言い淀んだ。そんな経験はしていない。そういう、渉たちが期待しているような、いやらしい経験というのは本当にまったく経験していないが、喰われる≠ニいう経験ならば、自分は幾度も煌に与えられているのも確かなのだ。
 そしてそんな一瞬の戸惑いに、この友人どもが食いついてこないわけはなく。
「お……今、すっげーなんかありそーな反応したぜ。かなりガチ感あった」
「え、なに、マジでエロい体験してんの? 聞かせろ聞かせろ、男同士なんだから言ったっていいだろ」
「ちっ、なっ、ちが、ちっ」
「いやわかりやすすぎんだろ。心配すんな女どもには秘密にすっからさー」
「だからっ、そういう話じゃなくっ」
「じゃーどういう話よ?」
「ぐっ……」
 さすがに煌のことをこんなところで話題に出すわけにはいかない。言葉に詰まる閃を、男子たちはしつこくまとわりついて弄ってくる。
「ほーれやっぱ女に言えねぇよーな経験してんじゃーん」
「だから! そういうことじゃなく!」
「あ、もしかしてアレか? 思い出したくない話的な? トラウマになってエロいことできなくなっちまった的な暗い過去が?」
「そっ……そういう、わけ、では……」
「微妙に言い淀んだっつーことは当たらずとも遠からじ、的なアレ? うぉーそうか、大変だなー閃、心配すんなよ四物だったらいつまでもお前が役に立つようになるまで待っててくれるさ。っつかうかつに手ぇ出したらマジで首とかアレとか落とされかねない相手ではあるし」
「だから! そういう! 話ではないと!」
「え、じゃあなに、草薙って夢精派?」
「………はっ?」
「違ぇの? じゃーオカズとかどうしてんの? 四物の家に住み込みなんだから迂闊に形のあるもん残せねーだろ」
「はっ、え、な……?」
「え、お前オカズ物品派? フツーにネットで拾った方が楽じゃね? タダだし」
「や、ネットだとブラクラ踏んだ時とか怖ぇじゃん。あとネットだと画像でも動画でも端切ればっかで落ち着かない」
「あー、ひとまとまりになってる方がどこで終わらせるかってのは見当つけやすいよなー」
「っ………っ………?」
「でぇ? 閃。お前のオカズはなんだって?」
「………………!」
 寝袋に入ったまま、どすんばたんと暴れ、女子のテントには届かない程度の声で喚いて騒いで怒鳴って。からかわれて弄られて、息を荒げながら、その日閃は眠りに落ちた。こんな奇妙な経験は、たぶん一生のうちに最初で最後だろうと、そんなことを思ったまま。

 そして、しばしの時間をおいてむっくり起き上がった。
 同じテントの男子たちは、全員もう眠りに落ちている。それを確認したのち、できる限り気配を殺しながら、閃はテントを出た。
 園亞の寝ているテントを確認する。閃が察せる限りでは、そちらのテントも全員眠りに落ちているように見えた。
 好都合だ。できるならば、園亞に気づかれる前に事を終えてしまいたかった。
 足音を殺しながら、できる限り早足で、視認がしにくいよう物陰から物陰に隠れながら、閃は山道を進む。月明かりがあるとはいえ、一寸先は闇とまではいかないものの、少し離れればまともに視認ができなくなるほどには暗い道のりだったが、居場所についてはまだ明るい時に何度も確かめている。向こうの考えていることが閃の予想の範疇から出ないならば、おそらくそこからそう遠くへは行かないはずだ。
 予想通り、自分たちがテントを張った木陰の広場から、森の奥へとしばし進んだ場所に、彼らはいた。閃が最後に確認した時にたむろしていた場所からは少し離れた位置。当然ながら自分たちのいた場所からは、人がいたという痕跡はできる限り消しているようだった。
「……早くせんかっ。まったく、高い金を払っているというのに、仕事が遅い連中だ」
「いや、待ってくださいよ。俺たちはそりゃまぁ、『この手の仕事』を含む何でも屋じゃあありますが、一応雇われたのは基本的にゃあ護衛としてなんですから。火付けをしろ、それも山火事になるくらいの規模でって言われても、そうそうできるわきゃないでしょう」
「そもそも、万一俺たちにまで調査の手が回ったら、俺たち全員後ろに手が回ること間違いなしなんですから、慎重にやらないわけにゃいかんでしょうが」
「ふん、それだけの仕事に相応な分の金は積んでいるだろうが」
「そりゃまぁ、そうですが……言っときますが、事情が知れればあなたも、その雇い主さんも、全員監獄行きは間違いなしなんですぜ。早く終えるに越したこたぁないでしょうが、そんなに焦ったっていいこたないでしょうが」
「ふん、知れるはずはあるまい。これはお館さまがわしの報告を受けてよりのちに考えつかれたこと。コンツェルンの総帥であろうと知りようはない。そして無事火事を起こすことができたならば、子煩悩な総帥は真実の追求よりも、その権力と経済力を存分に振るってお嬢さまを醜聞から隠し抜くことを重視するはず。こちらまで捜査の手は及ぶまいよ」
「まぁ、それが本当ならいいんですがねぇ……」
「それに、総帥は今仕事で東京を離れられん。四物コンツェルンにとっては一大事となる仕事なのだから、他に手を回すことは難しくなるに違いない。わしらにまで手を及ばせることはできまいよ」
 そう得々と言ってのけ、自身の優位性を確信した顔でにやりと笑ってみせる藤野老人の姿を、BHFの暗視機能付き動画撮影機能を使って(インターネット閲覧に特化しているとはいえ、現代の情報端末としてそのくらいの機能はBHFにもある。証拠の撮影に便利だし)撮影し終えたのち、閃は静かに、そして素早く腰に差していた刀の鞘を抜き(本身は布を巻いて反対側の腰に差している)、LEDランタンで仕事をしている男たちに向かい駆け出した。
 できる限り音を立てないようにはしていたが、それでもここまで近づけば当然気づかれる。仰天し「なんだっ!」「てめぇ……!」などと喚きながらも懐に(おそらく銃を抜くために)手を伸ばした男たちめがけ、鞘を振るった。男たちはおそらく、素人ではないが戦闘のプロフェッショナルというわけではないのだろう。銃を抜くまでにかかった一瞬の時間の間に、閃は二人の男の脳天を打つことができた。
 普通ならここは峰打ちにするところなのだろうが、峰打ちというのは斬る瞬間に刃を返して相手に『斬られた』と錯覚させ意識を失わせる技術。そして閃はその技を子供時代に習っておらず、そののち誰かに師事したことがあるわけでもないので当然今も使えない。それに日本刀はそもそも打撃に向かない得物だ。なので、できれば生かして捕えたい対人戦が予想される場合、閃は普段刀を収めている鞘を使うことが多かった。そういう注文をした鞘なので、木刀程度の硬さはあるし、少し扱いにくくはあるが刀と似たような感覚で振り回せる。そして、ある程度の手加減をしながら脳に打ち込み、意識を刈り取る技については閃にもそれなりに覚えがある。
 残りは三人。それぞれが喚きながら銃を構え引き金に指をかける。だが狙いをつけられる前に、閃は走った。敵の眼前に立っている状態から、瞬時に後ろへと回り込む。なにか特別な技術を使ったわけでもなく、単に走っただけなのだが、期待通りに相手の連中は一瞬こちらの姿を見失って自失する。
 即座に木刀を振るい、また二人の男を打ちのめす。最後の一人は奇声を上げて銃を撃ってきたが、撃たれる覚悟もしていた閃にも(銃のタイプ的によほど当たり所が悪くなければ一発では死なないだろうと踏んでのことだ)、倒れた四人の男にも、弾丸は当たらずに闇に消える。
 当然ながら、閃は次発を撃たせはしなかった。木刀の一撃で脳を揺らし、男を地面に這いつくばらせる。この三ヶ月での技の上達で、相手の脳に正確に一撃を打ち込むくらいのことならば当たり前のようにできるようになった。人間がどれほどの強さで脳を揺らせば気絶するかは、やる方もやられる方も何度も経験しているのでとうに熟知している。
 かかった時間は四秒強。被害なく敵を殲滅できたことも加味して、一応の及第点か、と閃は自身の戦果に裁定を下す。最後の男の銃の一撃が外れたのは運以外の何物でもないので、満足しているわけでは当然ないが。
 それからゆっくりと、残った老人の方へと振り向く。藤野老人は、呆然と口を開け目を見開き、状況がまるで理解できないという顔で喘いでいた。閃は肩をすくめ、そちらにすたすたと歩み寄る。この老人に自分を理解してほしいとは思わない。
「く、く、来るな化け物、わしを誰だと思っている、畏れ多くも四物家のお館さまよりご下命を受けた――」
 そんなどうでもいいことを必死の形相で呻く老人の襟をつかみ、柔術の絞め技を使って落とす。木刀を使うよりもこちらの方が安全なのは間違いないし、相手は老人だ。この老人に今死なれると閃も、おそらくは孝治たちも困ることになるだろうから。
 そうやって森林内に油をまいていた不審者たちを全員無力化したのち、閃はBHFから孝治の秘書の一人へと連絡した。
「――すいません。回収してほしい人間ができたんですが」

「おはよぉ〜……」
「ああ、おはよう」
「えぇ……なに、閃お前なんでそんな爽やかなの? 俺まだ疲れ抜けてねーんだけど……」
「お前が普段からあまり体を使ってないだけじゃないか? 俺は山歩きも野宿も慣れる程度には回数を重ねてるからな」
「うぅ〜……」
 テントから出るや、そんな風に呻きながら水場に向かおうとした渉は、ふと足を止めて閃に真顔を向けた。
「っ……なんだ、急に」
「あのさー、閃。お前あの四物につきまとってたじーさん、どうにかした?」
「っ――」
「あー、そっかそっかなるほどなるほど。わかったわかった。じゃ、そーいうことで」
「おい待てなにがわかったんだ当たり前みたいな顔でなにを納得してるんだ」
「え? いや別に。ただ閃の顔からして、なんかトラブルあったんだなーってことと、そんでそれを俺らが寝てる間に解決したんだなーってことと、できれば俺らにそれを知られたくないんだなーってのがわかったからフツーに閃の不審な振る舞いスルーすることにしただけだけど?」
「っ………」
 しれっとした顔でそう言ってのけられ、閃は思わず絶句する。いつものことと言えばいつものことだが、なんでそこまであっさりと心の内を読まれるのか。自分が感情を悟られやすい人間だというのは自覚しているつもりだが、こうも当たり前のように心中で考えていることを読まれまくるというのはあまりに問題がありすぎる。
「だ、っからな。俺は、別に、そういう」
「いや別にいーじゃんスルーするっつってんだから。他の連中にも知らせとくし。つかそんなに考えてっこととか読まれんの嫌なの? 顔からいっつもだだ洩れてんのに」
「いや、だからっ、俺は」
「あー……なんで表情だけでそこまで詳しく読み取られるのかわかんなくて気味が悪い、みたいな? 別に特別なことしてるわけじゃねーって、単にお前がテント張る時からずーっとちらっちら森の方気にしてっから、そっちにじーさんいるのかなーとか予測したり、なんかお前が俺らの見てないとこでやけにおっもい顔してっからなんか決意的なことしたんかなーとか考えたりしただけだって。そんでお前の反応見て察したっつーか、予測した的な? まぁ別に外してもいいかくらいの気持ちで言ってんだから別に大したこっちゃねーって。まぁお前が人並外れてわかりやすいってのは否定しねーけど」
「ぐっ……」
 なんとも言葉を返せず歯噛みしながら押し黙る閃に、渉はくっくと笑う。――確かに自分の不審な振る舞いを流してくれるのがありがたいのは間違いないというのが、なんというか、釈然としなくもあり、自分の未熟さに頭を抱えたくもあり、なんとも言いようのない気分だった。
 山歩きの途中で自分たちの前から姿を消した藤野老人が、自分たちからある程度離れた森の中に隠れたのを感じ取り、閃は訝しく思った。渉たちに言い負かされたまま、自分たちから少し離れてなにをするでもなくついてくる、という時点でなにを考えているのかと不審に思ったものだったが、これはあまりにあからさますぎて深読みする人もいそうなくらい怪しい。
 というかそもそも藤野老人がなんで園亞につきまとうのかということからして閃は今一つ理解できなかったので、閃は席を外すごとに藤野老人たちのいる場所へ忍び寄り彼らの会話に耳をそばだてることにした。結果、彼らが森へ放火し、その責任を園亞におっ被せるつもりらしいと知った。
 思わず即座に叩きのめそうと体が動きかけたが、現代日本は法治国家、裁判は証拠裁判主義。自分がこんな話を聞いたと証言するだけではどうにもならないという苦い経験を、閃は一再ならず味わわされている。人間が行う犯罪を裁くためには、その犯罪を行う証拠を得ておく方が効率的に決まっているのだ。その学び得た経験に基づき、理性で衝動を抑え込み、聞き取った情報から男たちのだいたいの行動開始時刻を推定し、気づいていないふりをして園亜たちと一緒にキャンプのあれやこれやに興じた。……『興じている(ふりをする)』というほどの余裕が持てず、次から次へと湧いて出てくる問題の数々に、対処するのに必死になってしまったが、そのおかげで藤野老人たちにもこちらの動きを怪しまれずにすんだ。
 そして園亞たちが眠っている間に方をつけ、孝治の部下たちに対処をお願いしたわけだが、向こうにも相当驚かれた。藤野老人たちがそこまで馬鹿なことをするとは思っていなかったのだろう――孝治本人がどうかは知らないが。
 孝治の部下たち――会社の『トラブル処理』を担当する人々が、藤野老人たちを『個人的に』尋問し、聞き出したところによると、藤野老人――そしてその雇い主である四物家の前当主とその取り巻きたちは、彼らが四物コンツェルンに対し影響力を獲得するべく行った暗躍のことごとくを孝治に潰され、かなり焦っていたらしい。なので打てる手ならばなんでも打つという腹積もりで手段を模索した結果、『園亞に対し決定的な影響力を保持することで孝治たちを抑え込み服従させる』という手を考え出したのだそうだ。
 彼らはこれまでも似たような計画を立て、あれこれ猪口才な手を打ってはいたのだそうだ。藤野老人がそもそもそういう思考の下に遣わされた人間であるのだろうし。だが、実の両親――四物コンツェルンの総帥夫妻が実の娘を心底可愛がり、その意志と心身を護ろうと手を尽くしているというところに、横から口出しをして影響力を強めるというのは、いかに血の繋がった祖父たちとはいえ難しい。事実、これまでの彼らのその類の作戦はすべて失敗している。
 なので、今回彼らは、思いきった、そして無茶にもほどがある手に出た。園亞に弱みを作り、それを握ることで園亞に決定的な影響力を持とうと考えたのだ。
 藤野老人が園亞につきまとってきたのは、その弱みとなるものの手がかりを探してのことだったらしい。だが、閃の妨害で老人は園亞に近づくこともまともにできなかったし、調べられた範囲では園亞につけこめるような弱みも見つからなかった。そこで血迷って、野外へ出向いた――四物コンツェルンの監視下から離れた(と当人たちは思い込んでいた)機会に、『山火事を起こした』という大規模な犯罪(過失であろうとも弱み≠ノなるのは確かだ)を園亞が起こした、という体をつくろうとしたわけだ。――半ば以上、勢いと思いつきで。
 なにせ自分たちがキャンプに行くのは一ヶ月も前から予定されていたのだ、藤野老人がその話を知ったのですら数日前になる。そして彼らが犯行を思いついたのが昨日。泥縄としか言いようがない。そもそもまともに考える頭があれば、そんな無茶な作戦のために山火事を起こすなどという重犯罪を犯すなどという無謀な真似はしでかさなかっただろうが。
 ともあれ、犯行を冒そうとしていた連中は捕らえた。引き渡しも済んだ。あとは孝治たちが彼らをうまく役立て、四物家前当主たちをきっちり追い込んでくれることを祈るのみだ。
「んぅー……ふぅ。あ、閃くん、おはよぉっ!」
「……あぁ、園亞。おはよう」
「えへへ。今日もいっぱい楽しもうねっ!」
「あぁ。そうだな」
「はいはいお二人さん、点描飛ばすのはいーけど、背景に人間がいるってことも忘れないでくださいねー」
「っ! べっ別に忘れてないっ!」
「あわっ、うんっ別に忘れてないよっ! ただ朝起きてテントから出てすぐ閃くんがいたから、嬉しいなーって気持ちが他のことよりずどーんって前に出てきちゃっただけで!」
「っ……」
「いやそれ忘れてるのとほぼ同義だから。っていうか園亞、あんた毎朝草薙くんと家で会ってんでしょうが。それでも懲りずにイチャるとか、どんだけラブコメ脳なんよ。まさか毎朝こんなラブコメ臭撒き散らしてんの?」
「え? うーん、どうだろ……閃くんと会えて嬉しいなーっていうのは、そんなに変わらないかな?」
「だそうですよ、閃さん」
「そういう顔で、そういうことを、俺に、言うな」
「いやこれこっちとしては冷やかしてやるくらいにやりようなくね?」

「つっめたーっ! 水めっちゃ冷た!」
「まだ夏真っ盛りってわけじゃないもんねぇ、ちょっと早かったかなぁ」
「や、もーちょい陽が差してくればすぐ暑くなってくるって。昨日もそうだったじゃん」
「それもそっかぁ。……ていうかさー、あんたらこっち見る目やらしー」
「え、いやぁ、別に、なぁ」
「そーそー、フツーフツー」
「そぉー? ま、別にいいけどぉー」
「そーそー別にいいじゃんいいじゃん、とりあえず水かけっこでもして遊ぼうぜ!」
「えー、なんかやらしいこと考えてない?」
「考えてねぇってマジで!」
 にぎやかな笑い声を立てながら、少年少女は水辺でじゃれ合う。……正直、お互いに水着一枚(それも女子たちは学校で見たものよりはるかに露出度が高い)という格好で男女がふざけあうなど、まだ成年にも達していない分際でやっていいこととは思えないのだが、男女どちらもそんなことはまるで気にした様子もなく楽しげだ。
 考えてみれば、『子供だけでキャンプをする』ということを両親に許してもらえているのだからやましいことをするつもりはないにしろ、数人の男女で両親のいない場所で数日を過ごす、などという真似をしようというのだから、少なくともお互いに嫌悪感を感じているわけはない。普通に考えれば、むしろお互いに仲良くなりたいと思っているからここにやってきたはずだ。つまり、このキャンプは、ある意味その、なんというか、あえて言い表すならば、デート、とかその類の行為に該当するのではないだろうか。
 両親の信頼を裏切る気がないのなら、閃が口出しできることではないが。なんというか、どう言うべきかわからないがその、つまりなんというか……そばにいるだけで、気恥ずかしい。
「えへへー。閃くん、あのね」
「………うん」
 それに加えて、何にも増して、園亞が水着で自分に近づいてくるというのが死ぬほど恥ずかしい。
「あのね、閃くん。えっとね」
「うん」
 そもそも園亞の水着は(他の女子にも同じことが言えるが)あまりに布地が少なすぎる。胸と局部だけを薄い布地で覆っているだけだなんて、いくら他に見ている人がいなかろうがはしたなすぎはしないだろうか。胸元や腰回りに華やかなレース飾りはついているが、だからといって慎みという観点から言えばなんの足しにもなるまい。
「……えへへー。あのね、閃くん」
「うん」
 それだというのに、なぜ園亞はさっきから照れくさそうに笑いながらも、はしたない水着姿のままじわじわとこちらに近づいてくるのだろう。はっきり言って見ているこちらが恥ずかしい。いや見ているというのは言葉の綾でさっきから自分はできる限り園亞や女子たちに視線を向けないように礼儀正しく目を逸らしているのだが――
「ねっ、この水着、似合う?」
「ふぇっ!?」
 突然逸らした視線の先に飛び込むようにして、園亞が裸身(いやもちろん水着を身に着けてはいるが)を閃に晒してきた。閃は仰天し動転しなんで突然そんなことをと訝しみ仮にも若い(まだ少女という方がふさわしいだろう)女性がそんなことをしていいと思っているのかと内心で一瞬のうちに万語を費やし説教したが、口に出しては「あ……う……」などと、顔を熱くしたまま口角をぱくぱくと力なく動かして情けなく呻くことしかできない。
 それだというのに、園亞はそんな返答からいったいなにを読み取ったのか、「そっか!」と心底嬉し気に満面の笑みを浮かべ、うふふっと楽しげな笑い声まで漏らしながらくるりと回転してみせる。さらにはその素肌をさらしまくった格好でぐいぐいと閃の手を引き、泉へと先導すらしてみせた。
「ねっ、閃くん、一緒に遊ぼ? 他のみんなも一緒に。せっかく浮き輪とかビニールボートとかいろいろ持ってきたんだし」
「っ、な、ぁっ」
 だからその恰好でいつもの調子で動いちゃだめだ! 今にも裂けてしまいそうなくらい布地が少なくて薄いのに! それからその格好で人の手をぐいぐい引っ張るのもよくない、素肌に俺の手が触れそうになるじゃないか、もちろん俺はやましいことなんて断じて絶対死んでもしないけど、それでも男にそういう触れ方をするのはよくないだろ、わかってるのか!?
 ……と内心すさまじい勢いで説教していても、口に出しては呻き声を漏らすぐらいしかできない。こういう態度はよくないってわかってはいるけど、こんな格好してる園亞を真正面から見据えるのとかはたぶんさらによくないはずだ!
 そんなところに一足先に水際でじゃれ合っている男子と女子は、気楽なことこの上ない声をかけてくる。
「うっわー、草薙くんヘッタレー」
「いっがーい、園亞の着てんのとかわりと大人しめなのにあっさり脳天に血ぃ昇っちゃうんだ、案外チョロッ」
「まーまーしょーがねーよ、閃がピュアボーイでシャイボーイなのは四物との関係のこじらせっぷりとかでもうわかってたことじゃん?」
「あれだけ意識してっとはたで見てても本命感あって気ぃ使わなくていいってことにしとこうぜ。それよりもっ、おらっ」
「きゃっ! いっきなり、もーっ、冷たいじゃん!」
「もうっ、ほらっ、お返しっ」
「ぶはっ、冷てっ」
「ほら、閃くんっ、こっちこっち。みんなと遊ぼうよっ」
「っ………、………、………、っ………」
 だからそういう風に当たり前みたいに女の子が肌を出して男とじゃれ合うのはよくないと! と心の中でどれだけ説教しても、葛藤の結果口に出せていないのなら当然園亞たちには伝わらない。結果、閃はその日一日中、園亞に引っ張られるままに、まともに園亞の方を見れないまま水遊びをすることになったのだった。

「………馬鹿か、俺は………」
 焚火を前に、閃はどっぷり落ち込んで頭を抱え込む。一日中言うべきことも言えずにまともに人の顔を見ることもできずに流されて終わってしまったというのは(いかにそれ相応の理由があるとはいえ)、曲がりなりにも正義のヒーローを志す閃としては、忸怩たることこの上ないものがあったのだ。
 遊び疲れたのか、他の面々は早々にテントの中で眠りについている。閃は一人、焚火と向き合いながら明日の朝食の準備をしていた。今日用意した(他の面々もそれなりに協力してはくれたが最終的には閃の手が必要になったので)三度の食事で、園亞が満足できる分の食事を一から(しかも野外で)用意するのは素人には相当大変だということがよくわかったので、明日は早々に帰る予定であることでもあるし今日のうちに準備できるところは準備しておこうと思ったのだ。
 ……それだけが理由というわけでは、ないが。
 再度男女のテントの中の気配を確認する。どちらのテントも、中の人間は全員眠りについているように思えた。数度深呼吸をして覚悟を決め、素早くズボンとパンツをずり下ろし呼ばわる。
「煌」
 ぎゅぬるぉぅっ、と閃の尻から、熱く、毅く、大きなものが噴き出してくる。体の中で渦を巻き、血を沸き立たせ、肉体を心ごと燃え尽きさせるのではないかと思うほどの、苛烈で熱い疼きが心身を支配する。
 一瞬のはずなのに永劫のように感じてしまうその熱気が過ぎ行きたのち、いつものように閃の眼前には、全身炎でできた巨人が現れて、閃の方を見てにぃ、と笑った。
「ようやくの呼び出しか。一日中俺を封じ込めた分の埋め合わせ、きっちりしてくれる覚悟を決めたわけだ」
「……別に一日中中にいなくたっていいって、俺は言っただろ。山火事とか起こされても困るけど、他に被害を出さないんだったら別にそばにいても離れてもいいって……」
「ふざけんな阿呆。お前がガキどもとわちゃわちゃ乳繰り合ってんの一日中見てろってか、んなこと俺にできるわきゃねぇだろうが。ことによっちゃ俺ぁガキどものうち何人かぐらいは焼き殺すぞ」
「乳繰り合うとか言うな! 言葉として間違ってるだろそれ!」
 声をひそめる様子もないのに、不思議と閃にしか届かない響きの声に(これまでに何度もそういう声を聞いたことがあるのだ)、閃は囁き声で(だがその声量の範疇内でできる限り怒鳴りつけるような勢いで)言葉を返す。だが、煌はまったく気に留めた様子もなく、ふんと鼻を鳴らして笑った。
「ま、とにかくだ。細かいことはどうでもいいから――喰わせろ。腹が減って腹が減ってしょうがねぇんだよ」
「わ、わかってるよ……」
 返す言葉にどうしても力が入らなくなってしまうのは、情けないと承知していながらももはや半ば以上あきらめている。こういう時¢Mはいつも、自分が煌に捕食される、圧倒的なまでの弱者だと心の底から実感してしまうのだ。
 ぺろり、と煌が舌なめずりして、その燃え上がる大きな手で閃の腰を引き寄せる。火傷するほどの熱さが服を通り越して肌を焼くが、傷になりはしないのはわかっていた。煌の炎は、焼くものと焼かないものを区別できる。どれほどの熱を感じようとも、煌の熱が自分を焼いたことは一度もない。
 にやり、と悪漢のごとき笑みを浮かべ、燃え上がる顔が近づいてくる。閃は息を呑み、それからゆっくりと目を閉じた。これからしばらく、自分は煌の相棒でも同じ場所に立つことを目指す存在でもなく、生贄で、食料で――ただの、餌食になる。

 ぺろり、と穿たれた傷を舐められると、まるで抉れた肉など存在しなかったかのように、むしろ生まれたてのようにつやつやとした肌が顔を出す。煌の治癒の妖術はそれだけ強力なのだ。
 ひたすらに荒い息をつきながら、それでもまだ神経に残る与えられた苦痛に耐えている閃に、煌はいつものようにくっくと笑って頭を撫でた。
「ごちそうさん。今日もいい味だったぞ」
「……別に、肉や、血が、うまいのは、俺の手柄じゃ、ないだろ……」
「そうでもねぇだろ。いつも言ってんだろーが、健康状態やら感情やらで肉の味は変わるって。今日はお前が自分で作った飯ばっか食ってたからな、食事としちゃあ上質とは言えねぇが、体に合った味わいに仕上がってるし……それにだ」
 にやにやしながらついっ、とまだ血の残る肌を撫でられて、血玉を掬われ、口に運ばれる。楽しげにれろりと血を舐めて、いかにも快さげに目を細める煌を、閃は眺めることしかできない。
「今日のお前の血肉は隅々まで、盛りのついた雄の臭気がたっぷり匂ってる。盛った雄の臭気ってなぁ嗅げたもんじゃないくらい臭ぇことの方が多いが、お前の場合はいつもの味わいに普段とは違う深みが出て、いい味を出してくるのさ」
「…………」
 無言で息を整えながら、体に残る力を振り絞って煌を睨む。煌はくくっと機嫌よく笑って肩をすくめた。まぁ、機嫌がよくなってくれただけマシか、と気を抜くと朦朧となりそうな意識を支えつつ閃は思う。
 正直、このキャンプが企画された頃から、閃にとっては『煌をどうするか』というのが最大の難点だったのだ。普段はいつもよりどころ≠フ中に入ってもらっているとはいえ、ほぼ四六時中他人と、気を抜けない存在と一緒にいる――外に出られないというのは、煌にとってストレスの溜まることこの上ない環境のはず。そもそも煌にとって人間は、憎悪の対象ではないが好感の持てる相手でもないのだ。基本的に我慢ということをしたがらない煌を、自分とクラスメイトたちが遊ぶために我慢してよりどころにほぼ一日中閉じこもらせるというのは、あまりにひどい扱いではないかと、当初はなんとか園亞を説得するなりなんなりしてこの話を断れないかと悩んでいたくらいで。
 だが護衛対象に護衛があれこれ行動を指示するというのは筋が違うし、と苦悶していたところに、煌の方から言ってきたのだ。『悩んでねぇで行きたいなら行ってこい』と。
『いや、別に行きたいわけじゃ……単に園亞が行きたがってるのを邪魔するのは、護衛としてどうなんだと思ってただけで』
『へぇ? そうか。俺ぁてっきり嫌なことでも思い出したのかと思ってたぜ』
『嫌な……?』
『お前はキャンプに嫌な思い出を持ってるもんとばっかり俺は思ってたからな』
 そこまで言われて、ようやく気がついた。そう、確かに自分には、キャンプに対して嫌な思い出と呼ぶべきものがある。
 ――自分の両親が殺されたのは、自分が煌と一緒にキャンプに行っていた時なのだから。
『………そんなこと、正直思い出しもしなかったよ』
『そうか』
 平然とした顔で肩をすくめる煌に、少しも苛立ちが湧かなかったと言ったら嘘になる。両親のことは、閃にとって、決して忘れることのない存在だからこそ、普段から積極的に思い出したいものではないというのは煌もよく知っているはずだからだ。
 けれど、それよりも、煌が両親のことを思い出して自分を気遣ってくれたことに、ありがたみというか、安堵するものを感じていた。あの頃、煌は自分の両親と仲が悪かったというわけではないが、没交渉とまではいかないものの、まともに交流を持とうとすることがなかったからだ。
 閃がことあるごとに妖怪に襲われる子供だということも、それらから煌という妖怪が閃を護ってくれることも、両親は知っていた。知りながら、苦心惨憺しつつも自分を正しく育てようと頑張ってくれていた。子供の頃から古流剣術を厳しく仕込んでくれたのも、その一環だったのだろう。
 もう五年も前、おまけにまだ頭の働かせ方も記憶の留め方も知らない子供だった頃の話だ。断片的な感覚や感情は色鮮やかに思い出せても、父や母の顔や、どういうものが好きで普段どんな話をしていたかというような細々としたことは、記憶の彼方へとかすれていってしまっている。
 それでも、煌は覚えてくれている。閃が忘れたことも、持ち続けたいと思いながら失ってしまったものも。
 その視点が口に出して言うのは気恥ずかしいながらもありがたく、自分の嫌な思い出を上書きさせてやろうという気遣いがこそばゆいながらも嬉しくないわけでもなく、まぁ煌がそう言ってくれるのなら無下にするのも悪いかという気分でキャンプにやってきたのだが、煌にとってはそれはそれ、これはこれのようだった。昨日狼藉者に対処すべくテントを離れた時に、藤野老人ともども連中を引き取ってもらったあと、煌に食事をしてもらうため呼び出したのだが、その際閃は気絶して朝まで目覚めないくらいの勢いで貪られた。
 正直あまり思い出したくないくらいにひどい貪られっぷりだった。たとえ後で傷も残らないほど癒されたとしても、神経に刻まれた痛みや衝撃が消えるわけではない。喰われるというのはたとえ死ななかったとしても、心身をひどく消耗させるものなのだ。
 だから喰われてもまだ意識を保てている時点で、煌としてはそれなりに機嫌が直っているとみていい。それならいいか、と息をついて、ぐったりと煌の腕にもたれかかりながら目を閉じた。
 ――と。
「あなたたちの変態的な関係に文句をつけるつもりはないけれど、時と場所くらいはわきまえてほしいものね。あなたたちが行為に耽っているその横では園亞とその友達が寝ているのよ? 園亞に現場を押さえられたらどう言い訳するつもりなの?」
「っ!?」
「……っだクソ猫。なんの用だ、コラ」
 閃は反射的に跳ね起きて刀を抜き、煌も警戒心もあらわに声を発する。だが、煌の力で適正に保たれている炎の灯りに照らされた声の主を見て、閃はゆっくり息を吐いて気を鎮め、問うた。
「ツリン。……声をかけるなら、気配を消すのはやめてくれ」
「猫の系譜に連なる妖怪に言う台詞かしら、それ? あなたはいつもながら、妖怪というものを知っているわりにその知識を正しく用いることが下手ね」
 そう猫の姿のまま笑って尻尾を振るツリンに、再度息をつく。ツリンならば自分たちの居場所などどうとでも調べられただろうが(煌に対抗し得るほどの力を持つ妖怪だそうだし、そもそも孝治周りの情報を引っ張ってくれば済む話なのだ)、猫らしくいかにもどんなことも面倒くさがりそうな彼女がここまで来たのだから、相応の理由があることだろうに。
「……わざわざこんなところまで俺を馬鹿にしに来たわけじゃないだろう。なんの用だ」
「それよりも、あなたはあなたたちの関係に対する私の見解に意見するところはなにもないのかしら? それならそれでかまわないけれど、なにもはばかるところがないというのなら、私が園亞に私が見たことを事細かに説明してもいい、ということでいいのよね?」
「やめろ!」
「あら。あなたに私の行動に注文をつける権利があると? それよりも、そもそもあなたが私の見解をどう思ったかなにも言わないというのに、やめろだなんだと注文をつけるのは、あまりに虫がよすぎはしないかしら?」
「ぬぐっ……」
 それを言われると反論のしようがない。勢いで反射的に拒否してしまったし、煌に喰われているところを見られたくないのも確かだが、自分たちはそもそもなにもやましいことをしてはいないのだ。煌に必要な栄養補給をしているだけで、その行為についてもおかしなことをしているわけではない。普通に人が肉を食うように、閃が煌に喰われているだけだ。
 だがそれでも、自分が喰われているところを他の人に見られるのは嫌だ。断じて嫌だ。だがやましいことをしているわけではまったくないのにやめろと文句をつけるのもおかしいし、そもそもそんな権利があるかと言われると否と言わざるを得ないわけで。
 ぬぬぬと暴走しそうな頭で必死に苦悩していると、煌が鬱陶しげに唸った。
「おい、なんの用かって聞いてんだろうがクソ猫が。喧嘩売ってんだったらいつでも買ってやるがな、どうせてめぇは園亞の横で喧嘩するつもりねぇ上に、俺が手ぇ出そうとした時の対抗策も準備してんだろうが。俺の生贄兼食料兼相棒にこれ以上かまうってんなら、俺の本気をてめぇの小賢しい策で止められるか試すことになるぜ」
「ふふ。あなたは本当に、頭自体はそう悪くないくせに、普段はそれを活かそうという気がまるでないのよね」
「あ゛あ?」
「では、用件を言いましょうか。――園亞と一緒に、東京に戻ってほしいの」
「……なにがあった」
「妖怪たち――白蛇≠フ襲撃を受けそうになっているのよ。孝治たちがね」
「――――」
 一瞬、体からざぁっと血の気が引くのが分かった。
 だが、唇を思いきり噛んで閃はそれに耐える。拳を全力で握り締め、力を込めて体に熱を燃やす。心身の力を振り絞って、ツリンに渾身の意思を込めた視線を叩きつける。
「詳しいことを、話してくれ」
 ツリンはまたくすりと笑い声を立てて、尻尾を振った。

 いつもよりもさらにすさまじい速さで、眼下の景色が背後へすっ飛んでいく。夜景がきれいだなんだと言っていられる余裕は、当然ながらまるでなかった。
 キャンプの場所である奥多摩から、孝治が今日宿泊している東京国際空港近くの別邸までの直線距離はざっと八十q。煌が全力で飛べばかかる時間は二分弱よりまだ短い。
 本来なら人間がそんな速度で防護もなしに空を飛べば死にかねないところだが、煌の妖力で空気抵抗の類ははるかに軽減され、風の中を走っているのと同程度の圧力しか感じない。降り立ったその瞬間から問題なく戦闘態勢に入れるだろう。
 それを理解しながらも、閃は飛行中必死に、『早く、もっと速く』と願っていた。ツリンの話が確かならば、孝治たちの命を助けるだけならばまだある程度の余裕はあると知ってはいる――だが、園亞の父親が命を狙われているという時に、のんびり気分で遊覧飛行などできるわけがない。
 ツリンが言うには、『本来なら、孝治たちは白蛇≠フトップと平和的な会見を行うはずだった』そうだ。だがそれがかなわない、向こうは四物コンツェルンをなんとしてでも潰し、園亞の身柄を手に入れようとするだろう事情が判明した、と。
『そもそも、白蛇≠ェなぜ園亞をつけ狙っていると思う? 誘拐して身代金をせしめるため? 四物コンツェルンを敵に回しておいて、得られる利得がはした金をせしめる程度だなんて、あまりにリスキーじゃない? 誘拐っていうのはただでさえ、今日日割に合わない犯罪だっていうのに』
『白蛇≠ェ園亞を狙っているのは、もっと別の理由なのよ。園亞自身を導因とする理由――園亞の妖怪としての力を我が物にせんとする、妖怪たちの欲望という理由がね』
『そもそも、白蛇≠ニいうのは賞金稼ぎ界隈では『ザ・ビーストの下部組織』という認識をされているけれど、もともとは中国は広州、八仙の一人たる何仙姑の流れをくむ道教系の妖怪ネットワークなの。道教は園亞の扱う魔法とイコールではないけれど、原理的には近しいものも存在する。そして、白蛇≠ヘね、何仙姑が仙人になった際のもっとも有名なエピソード、『雲母の粉を食して昇仙する』という逸話に大きく影響された妖怪を祖としているの。――つまりはね、彼女たちは、『特別なものを食して特別な力を得る』という、古来より洋の東西を問わず語り継がれてきた、妖術と魔法の混在した儀式を受け継いできている者たちなのよ』
『言いたいことはわかるわね? 白蛇≠ェ求めているのは、四物コンツェルンの総帥の娘ではない。四物園亞という規格外の魔法の素質を有する妖怪の少女なのよ。彼女たちは園亞の体を儀式を経て自分たちの体内に摂り入れることで、その強大な魔法の素質を我が物にせんと企んでいる。あなたをこれまで襲ってきた妖怪たちと同じようなことを、彼女たちはしようとしているわけよ』
『ただ、彼女たちは幾多の変遷を経て、現在は一応ザ・ビーストの傘下に入っている。そして、ザ・ビーストは現在のところ、四物コンツェルンと事を構える気はないらしいの。これはあなたの方が詳しいかしらね? 日本経済の柱のひとつたる四物コンツェルンと真っ向から敵対するのは、経済的にも政治的にも彼らの計画≠進める高いリスクにしかなりえないですものね』
『だからザ・ビーストは彼女たちの行動に待ったを入れた。だけど、白蛇≠フ中にはザ・ビーストに対する反感が渦巻いていたの。白蛇≠ヘ本来かなり長い歴史を持つネットワークだから、中華思想も相まって、西洋のたかだか二千年の歴史しか持たない宗教由来の妖怪どもにでかい顔をされるなど、みたいなことを考える連中がかなりの数いたのね。そもそも神仙思想そのものの歴史ですら長さで言うならさして変わらないというのに、馬鹿馬鹿しい限りだけど』
『もちろん、頭を理性的に働かせれば誰でもわかることだけれど、組織の規模からして、どうしたってザ・ビーストとまともにやりあうわけにはいかない。けれど彼らに対する反感は根強いし、なにより彼女たちにとって、『特別な力ある者を食らう』というのは我が身の力を増す儀式であると同時に、半ば妖怪的なアイデンティティにすらなってしまっている。どうしたって我慢できるわけがない』
『だから彼女たちはひそやかに、けれど手を尽くして、園亞を我が物にせんとし始めた。園亞の通う学校に、支配した人間や妖怪の諜報員を送り込んだり、園亞を直接誘拐させたり――それらすべてを、いつでも切り捨てられる、チンピラ程度の連中にしたり、ね。あなたたちは気づかなかったでしょうけど、これまであなたたちが倒してきた白蛇≠フ構成員には、すべて術がかけられていたのよ。捕らえられ、素性を明確にされようとしたならば発動する、その妖怪の弱点を衝いて滅ぼす術がね。妖術と魔法の混在した術を扱える、長い歴史と魔法技術の継承の実績を持つネットワークにしかできない業だわ』
『だから、これまでどれだけ白蛇≠フ構成員を薙ぎ払おうとも、それは白蛇≠ニいう組織の根幹を揺るがすものにはなりえなかった。でも、孝治たちは当然ながら、それを是とはしなかった。妖怪ならぬ彼らにできる方法で――人間社会の財力と権力を使う方法で、彼らを滅ぼそうとしたのよ』
『白森貿易会社は知っているわね? 白蛇≠フフロント企業よ。彼らの勢力圏は主として東アジア、特に中国と日本。だからそのどちらでも通用する名前をつけている――まぁそれはともかく、人間社会で使うための顔を持っている以上、人間社会の法規によって拘束されるのは当然のこと。だから孝治たちは四物コンツェルンの財力を使い、無理やり彼らのトップを商談に引きずり出した。フロント企業のトップが組織のトップであることは普通ならありえないけれど、白蛇≠フトップは名前だけとはいえ企業のトップに自身を置いていたの。そして、一貿易会社の形態をとっている以上、四物コンツェルンの総帥がその全力を振るってトップを引きずり出そうとすれば、引きずり出せないわけはない。商談に持ち込めば後は自身の得意分野だ、と孝治は考えたのでしょうね』
『私もそれは承知していた。だけど――不穏な情報が手に入ったの』
『私もそれまで知らなかったのだけれど、白蛇≠ヘ広州に隠れ里を持っていたらしいのね。けれど、それは彼女たちの祖となる妖怪が滅したのちに、失われた。消え去ったのではなく、出入りする方法がなくなってしまったのよ。その隠れ里は、何仙姑の分け身のひとつたる祖である妖怪の、尋常ならざる魔法の素質に基づく術によって出入り口の開閉を行っていたから。そして、その妖怪が滅びから復活した際には、力ある妖怪にはしばしば起こることであるように、その妖怪は在り様を変えてその素質の幾分かを失ってしまっていた』
『――どういうことかわかるわね。彼女たちは、なによりも自分たちの身に高い魔法の素質を取り戻すことを熱望している。それがあれば隠れ里に閉じこもり、ザ・ビーストの追求も避けられる。人間社会の拘束からも逃れられる。彼女たちが園亞を手に入れる障害を排除するのをためらう理由は何一つない』
『事実、白蛇≠フ構成員たちの大規模な動きをつかむことができたわ。けれど、孝治たち人間の力でそれに対処することはできない。妖怪が後先考えずに人を殺そうとするならば、ただの人に対抗できる手段は無に等しいわ。あなたも知っているでしょう? そして、私だけでもどうにもならない。私は自分がそれなりに強い妖怪だと知っているけれど、あくまで私の本質は賢者、戦闘は本職じゃないの。相手の数は多く、そして誰も彼もが雑魚妖怪というわけでもない。つまり、そこの旧き火神に力を振るってもらわなければならないの。そして、草薙閃、あなたにもね。火神はあなたがいなければ、その力を発揮することができないのだから。そしてあなた自身の力も、園亞の呪文による援護があれば、決して無視できる存在ではなくなる』
『ええ、もちろん園亞も一緒に行ってもらうわ。自分の存在が理由で自分の父親に訪れた危機を、園亞が座視できると思って? そして園亞の呪文がどれだけの効果を発揮するか、あなた自身よく知っているでしょう。あなた自身の安全と能力を爆発的に高めるのみならず、火神や私にとってすら、園亞の支援は大きいわ。的確に行動すれば、安全を保持しつつ他者への被害も格段に減らすことができるはず』
『さて――反対意見はあるかしら?』
 反対意見など、言うはずもなかった。こんなに長々話していて大丈夫なのかとは訊ねたが、ふふんと笑って『私がその程度の安全マージンを考慮していないとでも? あなたたちが反応にどれだけ時間をかけて、どれだけ悩むかも読みきった上で安全のための余裕は持たせてあるわよ』と言いきられた以上、文句を言う気もない。
 ツリンに園亞をこっそり起こして外まで連れ出してもらってから、ツリンを園亞が懐に抱え込んだ状態で、煌が両腕に閃と園亞を抱え込む。その状態で、ツリンに道案内をされながら、夜空をここまでかっ飛んできた。
 高高度から一気に自由落下よりも速く地表に降り立つ。その寸前に、園亞には運ばれながら援護呪文をかけてもらっていた。この周辺には微弱ながらマナが存在することは、ツリンがとうに調べている。
 空港から車でも十分もかからないであろう距離にそびえ立つ四物家別邸を背後に、赫く輝く炎の巨人の腕から、閃と園亞は地面に下ろされる。とたん、周囲の空間から人の生活音が一切消え失せた。かつてと同じ、異空間に問答無用で他者を取り込む、ツリンの人払いの妖術だ。
白蛇≠フ妖怪たちは妖怪としての姿を現した上で人払いの異界を造りその中に隠れている、というのは既に聞いていた。ツリンの妖術で、その異界は浸食され、上書きされてツリンの異界の中に取り込まれる。
 それに気づいたのだろう、数十体はいるのではないかと思うほどの数の異形――妖怪が仰天したようにこちらを振り向くが、その時には自分たちを隠すように前に立つ異形、旧き火神である煌が満面の笑みを浮かべながら動いていた。
「かぁっ!」
 裂帛の気合を込めた叫び声と同時に、眩しく輝く爆炎が煌の眼前から放たれ、吹き荒れる。扇形に広がるその炎は、周囲には被害を出さない――ようにできるはずなのに周囲の建築物や芝生なども巻き込んで、眼前の空間とそこに在る者たちを焼き尽くす。
 そして、焼け残った敵めがけ瞬時に間合いを詰め、自身の炎で燃え上がる鉤爪を目にも止まらぬ速さで幾度も振り下ろす。一瞬の間に敵の妖怪は四分五裂に至り、声を出すこともできないまま塵と化した。
 やっぱり煌は強い、と閃は内心舌を巻く。最近は閃だけでなんとか対処できる相手しか出てこなかったので見る機会がなかったが、やはり煌は他の妖怪と比べても段違いに強いのだ。種々の妖力妖術も強力だが、接近戦、特に肉弾戦における強さも煌は他の妖怪たちとは明らかに隔絶している。
 だが閃もぼうっと見ている気はない。それに煌から一定の距離以上離れると、煌のほとんどの妖力妖術は一気に弱体化、あるいは使用不能となってしまうのだ。
 煌の陰に隠れるような形になりながらも駆け進み、煌に気を取られてこちらに気づかなかった敵が、はっと閃に向き直って身構えた瞬間を狙って刀を眼窩へと突き刺す。園亞の呪文によって今の閃の時間の流れは加速されている、今ならば閃は敵と間合いを詰めながら加速された分の時間で全力の攻撃を放つことが可能だ。瞬時のうちに三連撃を叩き込まれ、煌の妖術の巻き添えを食って気息奄々としていた妖怪は瞬時に塵に還る。
白蛇≠フ妖怪たちも当然ながら襲われる一方ではない。ある者は煌に、またある者は一瞬のうちに煌の陰に隠れた閃に爪や武器を振るって襲いかかり、あるいは炎を、冷気を、疾風を土石を光線を破壊音波を、こぞって撃ち放ってくる。だが、園亞の呪文によって強固な不可視の盾を授けられた今の自分たちにとっては、その程度の攻撃をかわすのはさして難しいことではなかった。飛び跳ね、時には宙を時には地を転がり、大きく飛び下って、あるいはその巨体を軽く身じろぎさせるだけで、敵の攻撃妖術を次々避けかいくぐる。
 そして、自分たちが回避に専念することで生まれた一瞬の隙は、月の光がきらめいて潰していく。闇の中、もののあるなしも定かでない場所できらりとなにかが光った、かと思うや聞いたこともないような響きの呪文がどこからともなく響き、瞬時にまばゆくも冷たい、それこそ月の光のような光が渦を巻いて、溜まっていた妖怪たちを呑み込む。
 その光は刹那の間に消え去り、後には熱とも雷とも違う、一般的なエネルギーに基づく破壊によらず、滅び≠ニいう概念を直接押しつけられたかのように身に着けたものごとぼろぼろになった妖怪たちだけが残された。その妖怪たちのうち幾体かはその滅び≠ノ耐えきれず塵に還り、最初から存在しなかったかのように消え去る。
 ――これがかつてバステト女神の従者たる神族として生まれながら、『在るべき力、太陽による力にあらず』として放逐された原因、魔術知識の図書館として生まれ出でた妖怪たるツリンが有する、月の光による滅びの力、なのだろう。
 そしてその残った妖怪たちを、また煌の炎が薙ぎ払う。圧倒的な火力≠ノよって生あるものが次々と無に還る。破壊の化身たる炎の神として、歓喜をもって煌は荒れ狂っているのだ。普段自分が押さえつけている鬱憤を晴らすかのように。
 煌という妖怪は、本来ならばそれが自然な姿、それが本性なのだと改めて思い知らされ、心臓がぎゅっと締めつけられるのを感じる。――だが、刀を振るう手は休めない。
 今の自分の仕事は一体でも多くの犯罪者である妖怪を倒すこと。そして戦いが終わるまで生き延びることだ。
「くぅふっ、ふははっ、わははははははっ!!!」
 あらゆるものを焼き尽くす炎が奔り、あらゆるものを斬り裂く炎爪が振るわれる。その圧倒的な暴威と巧みな戦術に基づく機動の、邪魔にならないように万が一でも殺されないように、そして少しでも戦力として役に立つように、と決意しながら閃は走り、刀を振るう。――今の自分には、それを成せるような魔法の呪文がかけられているのだから。

 一分もかからないうちに、孝治たちに襲いかからんとした白蛇≠フ妖怪たちの殲滅は完了した。少なくとも白蛇≠フ実働部隊のほとんどは殲滅できたはず、とツリンもきっぱり確言したのだ。残りの連中のほとんどは白蛇≠ニいう組織にさして思い入れのない有象無象か、逆に組織の中核となる連中ぐらいだが、それらに対してはもうしかるべき処理は終えている、とも。
「ほんとに? ツリン、ほんとに大丈夫?」
「あら、師匠を疑う気かしら、私の幼いご主人さまは?」
「そ、そーいうわけじゃないけど、やっぱり心配なのは心配なんだもん。キャンプに戻る前に、お父さんたちの様子ぐらいは見ていきたいなぁ」
「……そうね、私もそうすべきだと思うわ。私は後始末があるから一緒には行けないけれど……家に戻ってくるまでの園亞の護衛くらいは、任せてしまってもかまわないわよね?」
 そう言っていつもの猫の姿で(戦闘中はずっと姿を消していたので、妖怪としての姿はいまだ判然としない)くすくす笑ってみせるツリンに、「当たり前だ」と仏頂面で告げる。正直、ツリンがどれだけ目に見えないところで園亞を護っているのか閃はしかとわかっているわけではないのだが、護衛である以上不可知の事象からも護衛対象を護るぐらいのことはやらないわけにはいかない。
 そういうわけで、流れ弾をうっかり食らってしまった時の負傷を癒した(つまりそれ以外の怪我はしなかった)園亞と閃(と久しぶりに思う存分暴れて満足しよりどころの中に隠れた煌)は、ツリンの人払いの異界から抜け出て、孝治たちがいるという東京国際空港近くの別邸を訪ね、両親との面会を求めたのだが――
「驚いたな。まさか、ツリンがそんな手に出るとは思わなかったよ」
「まったくね。どういうつもりでそんなことをしてのけたのか、聞き出す必要があるわね」
 と、心底驚いた、という顔で出迎えられた。時刻で言うならまだ日付も変わっていない頃なのだから、孝治と玲子がどちらも起きているのは別に驚くべきことでもなかっただろうが、どちらも服装も化粧もきちんと整えた、どこに出ても恥ずかしくないような格好で自分たちを迎えた(ほとんど待たされなかったのだから着替え等はしていないはずだ)のには少し驚いた。
「え、そんな手って、どんな手?」
「いや……我々がツリンときっちり契約関係を結んだわけではないのだから、裏切るという言葉は不当だろうがね」
「もともとの予定と違うのは間違いないことですもの。――私たちはね、もともと、白蛇≠フ妖怪たちに襲撃を行わせてから、それを捕らえて白蛇≠フトップを引きずり出すつもりでいたのよ」
「―――は!?」
 仰天して思わず叫び声を上げてから、慌てて口を閉じる。だがそれでも表情から驚愕を打ち消すことはできなかった。
 なんでそうなる、というかなんでそんなことができると考えたんだ? というかツリンと組んでそういう予定を立ててたってことは、ツリンはもともと自分で白蛇≠フ妖怪たちを捕らえるつもりでいたのか? などとぐるぐる回る頭を必死にしゃんとさせながら、ありったけの疑問を視線に込めて孝治たちを見つめる。園亞も驚きを隠せずに、大きく目を瞬かせながら孝治たちに問うた。
「え、えっと……それって、どういうこと?」
「相手の数より数層倍するだけの妖怪たちを雇って、襲撃に備えていたのよ」
「向こうがどんな妖力妖術を使ってきても、対処できるだけの種々の妖力妖術を兼ね備えた妖怪たちを揃えてね」
「えぇ!?」
 園亞が驚きの声を上げ、閃もまた仰天して疑問を視線に込めまくりながら孝治たちに叩きつける。妖怪たちを雇うってどこで、種々の妖力妖術ってどこで調べたんだ、というかそもそも、孝治たちは妖怪について、どうしてそこまで詳しく知ってるんだ?
 そんな閃の疑問に、孝治たちは苦笑を交わしてから、あっさりと答えてくれた。
「閃くん。自分の娘が妖怪だと知っておきながら、妖怪というものがどういうものか、人間とどう違うのか、どれだけのことができどれだけのことができないのか――そういうことをきちんと調べ上げないほど、我々が怠惰な親だと思うかね?」
「ツリンに――園亞の飼っていた子猫にそんなことを聞かされた時は本当に驚いたけれど。それが事実であるらしいと見極めがついた以上、親としてできる限りの調査をしておくのは、ごく当たり前のことでしょう?」
「そ、れは、そうですけど」
「妖怪社会というのも一枚岩ではない。人間社会の力――財力や権力の通用する相手というのも数で言うなら僅少になるが、確かに存在する。そして、我々ができる限りの私財を投じて調査と対策に乗り出した結果、我々はある程度の数の妖怪を護衛として、あるいは相談役として雇い入れることに成功したのさ」
「それだけの数でどんな相手に対しても十全に対処できるわけではありませんが。先祖返りした妖怪が立ち上げた妖怪同士の就労支援と人材派遣を目的とした組織である水澤グループをはじめ、いくつもの妖怪ネットワークにコネクションを得ることはできました。BHA――賞金稼ぎ協会に対しても、寄付金などで資金を回すことで、情報的にも権力的にも、深く根を張ることができました」
「賞金稼ぎ協会にも!?」
「もちろんだとも。BHAは国連直下のNGO、NGOの主たる収入源は寄付金だ。『妖怪に対処できる存在』を動かせるだけのコネクションを得るため、BHAに多額の資金援助を行っている機関はうちだけではないよ」
「…………」
 唖然とするしかない閃に、孝治と玲子は落ち着いた表情を崩さずに続ける。
「今回我々は、白蛇≠ェその総力をもって我々二人を襲撃するという情報をつかんだ。園亞を手に入れるために四物コンツェルンの頭を潰そうとしている、とね。だが園亞の身柄の安全が確保できている以上、こちらも戦力を集中してそいつらに対処できる。手足を叩き潰して、頭を引きずり出すにはいい機会だ、と結論付けた」
「もちろん私たちはこういった、荒事の専門家ではないから、その目論見の成功率がどれほどか確信できるわけではないわ。でもこういう時のために、人間社会の権力と財力、それを使って雇った妖怪や協力者たちに、白蛇≠フ戦力や情報収集能力、経済規模やコネクションについてはできる限り調べ上げてもらっていたの。その情報を基に人妖取り混ぜた荒事に関する私たちのブレーンに判断してもらった結果、『問題なし』と結論付けられた」
「そこで我々はそれを前提に、白蛇≠フトップを引きずり出すための手をいくつも打っておいた。相手の個人情報は調べられるだけ調べたからね、手段を選ばなければ引きずり出す方法はそれなりにある」
「そして、相手に契約や約束を強制的に守らせる方法もね」
「…………」
 閃としては、もはや言葉もない状態だった。四物コンツェルンの総帥夫妻がとんでもない金持ちだということは理解していたが、それが妖怪への対処にここまで大きな力を発揮するとは思ってもいなかったのだ。
 それは現代の妖怪は人間社会に溶け込んでいることの方が多いし、人間社会で生活をしている以上金は必要になるし、人間に妖怪としての能力を売ることに対する拒否感よりも自分の向いていることを仕事にして大金を稼ぐことの方を重んじる妖怪も、探せば数は少ないにしろいることはいるだろうとは思うが。それを大規模に、大量の資金を投入して行うことが、そこまでの効果を生み出すことになろうとは。
 孝治たちは言葉を濁しているが、白蛇≠フトップへの対処法というのは、非人道的な手段というレベルにとどまらず、妖力妖術のみならず、妖怪としての存在する根本の力まで駆使して妖怪としての存在を封じる段階のものも含んでいるのだろう。そこまでのことを妖怪にさせるというのは、その妖怪の個人的な想い≠ノよるものでないのなら、どれだけの利得を積み上げればいいのか見当もつかない。
 その上BHAにも多額の金を積んでいるということは、閃があれこれ試みた園亞に対する悪巧みを霧散させようという作戦は無意味というか、まったく必要がないくらい対処されていたわけで。おそらくは各国政府にも、妖怪たちのネットワークにも話をつけてあるだろうことは容易に想像できる。閃にはどうあがいたって不可能なくらい、四方八方穏便かつこちらが有利になるようにことを収めているのだろう――
 つまりなんというか……金持ちって、すごい。
「え、じゃあ今もお父さんたちがお願いした妖怪さんたち、近くにいるの?」
「ああ、園亞。今日ここで私たちの周りを固めてくれているのは、全員妖怪たちだよ」
「さっきあなたたちをここまで招き入れた方たちも、今この部屋で姿を見えないようにしながら私たちの警護をしてくれている方たちもね。みなさん信用のできる方たちだから、心配はいらないわ」
「…………」
「おや、不満……というよりは、不思議そうだな、閃くん。なぜよく知りもしない相手をそこまで信用できるのか、と思っているのかね? 雇った妖怪たちがいつ暗殺者になるかもしれないというのに気楽すぎはしないか、と」
「そ、こまでは、思ってませんけど」
「ふふ。それについての答えは単純だ。私は一時的にでも、自分の近くに雇い入れる相手には、人間であろうが妖怪であろうが、必ず直接会って話をすることにしている」
「え……そ、れだけで?」
「ああ。自慢ではないが、私は人を見る目はある方だと思っているのだよ。会って話をする気があるのならば、相手が妖怪であろうとも変わりはない。――死に体だった四物グループを、世界屈指の財閥と呼ばれるまでに成長させたのは、誰だと思っているのかね?」
 に、と穏やかに、だが苛烈なまでの自信でもって微笑む孝治に、閃はぐっと気圧された。もちろん肉体的な強さで言うなら孝治は煌はもちろん閃にすらまるで及ばないだろうが、なんというか――金持ちというのは、実力でもってその金を稼いだ相手ならば、怖いものなのだ、と生まれて初めて実感したのだ。
「……でも、ならなんでツリンはわざわざ俺たちに……雇い入れた妖怪の方々に相手を捕まえてもらわないと、困ることだってあるでしょうに」
「ふむ、そうだな……」
「うーん……私たちに、戦わせたかったんじゃない?」
「いや、だからなんでそうしたかったのかってことを言ってるわけで」
「うん、だからさ、私たちに戦わせたかったんじゃないかなって」
「……どういう意味?」
 困惑に眉を寄せながら園亞に問うと、園亞はきょとんと首を傾げながら答えた。
「え、だって、ツリンって、私たちにっていうか、主に私と閃くんにだけど、妖怪さんと戦わせたがってるじゃない」
「……そうなのか?」
「え、違うの? 私たちが妖怪さんと戦う時、いろいろフォローしてくれてるみたいだから、そうなんじゃないかなって思ったんだけど」
「それ、は……っていうか、そんなにあれこれフォローしてくれてるのか?」
「え、うん。私たちに気づかれないようにこっそりやってるみたいだけど、一緒にいたらどうしたってちょこっとずつでも伝わってきちゃうよね。閃くんの前に姿を現す前から、私たちのことずっと見守っててくれたのとか、危ない時にこっそりフォローしてくれたのとか」
「それは……一応、聞いてはいるけど」
「うん、でね、ツリンが私たちのこといろいろ助けてくれるのに、危ないとこ行くの止めないのは、信用してくれてるからっていうのはもちろんだけど、一番は私たちに経験積ませたいからっていうのだと思うんだ」
「経験?」
「うん。ツリンは私に立派な魔術師、っていうのかな? になってほしいみたいだから。なんていうの、実践? の経験を積んで、いろいろレベルアップするのも大事だって思ってるんじゃないかな?」
「それは……」
 否定はできない。能力技術を磨くには実戦が一番、というか実際に技と力を用い戦ってみなければわからないことというのは山ほどある。
 つまり、あれか? ツリンは園亞に実戦経験を積ませるために嘘をついて……いや、嘘はついていないのか。彼女は今回基本的には本当のことしか話していないと思う……こちらを騙すつもりでいたのは間違いないだろうが。ともかく自分たちをいいように操って動かしたのは、園亞に実戦経験を積ませてより成長させるため、ということになるのか。師匠が弟子に与える試練としては真っ当と言えなくもないが……
『……おい、煌。お前、ツリンが俺たちを騙してたの、気づいてただろ』
『ふん。なぜそう思う?』
『お前がいくら相手が同格の妖怪だからって、そう簡単に騙されるとは思えない。自分も騙される形になるのを承知で、ツリンの策に乗ったんじゃないのか? ……そっちの方が、思う存分暴れる機会があるから』
 閃が心中で問うた言葉に、煌はくくく、と喉の奥で笑った。
『ま、否定はしねぇよ。あのクソ猫の思い通りになるのは業腹ではあるが、お前が弱ぇ妖怪なら一人でなんとかなることが多くなってきちまったから、最近暴れる機会が減ってたからな』
『……まぁ、別にそれが駄目とは言わないけど』
 というか、普段から煌が暴れる機会を奪っている身としては、少しでも煌がストレス解消できたのならよかった、と思ってしまえるくらいだ。白蛇≠フ妖怪たちは元から倒すべき相手だったんだから、遠慮する必要はないだろうし。雇われた妖怪たちの仕事を奪ってしまったのは申し訳ないと思うが、そこらへんの文句はツリンに言ってもらうしかない。
 そういえば、ツリンの妖術と思われる力で倒れた妖怪たちの中には、消滅せずに気絶しただけ、という妖怪たちがそれなりの数存在した。おそらくツリンのあの妖術は、攻撃の際に『命を奪わない』という増強がつけられるものなのだろう。
 そういう残された妖怪たちから情報を引き出し、あるいは交渉の窓口として、白蛇≠フトップを引きずり出すつもりなのだろうが、もしかするとツリンが残ったのは、雇われた妖怪たちにその手伝いをさせるためなのかもしれない。雇った目的からしてその類の術の心得がある妖怪はいるだろうし、普通に考えて一人よりは複数でやった方が効率がいいだろうから。
 しかし、そうなると、ツリンがさっき言っていた『組織の中核となる連中に対するしかるべき処理はもう終えている』というのは、まるっきり嘘っぱちだということになるわけだが。こちらとしても改めて質すべきか、質すならどう質すのか、悩ましいところで――
「さて、園亞。せっかく会いに来てくれたんだ、こんな時間に悪いとは思うが、一緒にお茶を飲むくらいのことはさせてくれないかね? 入眠しやすいように調合したお茶を用意させているから」
「それに、あなたは人より食事が多めに必要になってしまう体でしょう? キャンプで十分な量の食事を摂るのは大変なんじゃないかと心配していたのよ。軽くなにかお腹に入れて、少しでも不足した栄養と空腹感が満ち足りるよう取り計らわせてくれないかしら?」
「あ、うんっ! お父さんとお母さんと一緒にお茶できるの、嬉しいっ!」
「ふふ、私たちも嬉しいわ。それではあなた、私たちは先に行っているわね」
「ああ、準備を頼む。私と閃くんは後処理の打ち合わせがあるのでね」
「え……」
 突然の言葉に驚きはしたものの、なにか話があるということなら拒む理由はない。笑顔で手を振って玲子と一緒に応接室を出て行く園亞を見送ってから、閃は孝治に向き直った。
「打ち合わせ、というのは?」
「ああ。君に知っておいてもらわねばならないことがあってね」
 ソファに軽く身を沈め、淡々とした調子で孝治は言った。
「単刀直入に言おう。私の父――藤野を使ってあれこれ策謀を巡らせていた園亞の祖父にあたる男は、白蛇≠ニ繋がっている」
「……は!?」
「むしろ、私の父と繋がりがあるからこそこれまで白蛇≠ノ対して思いきった手が取れなかったのだと言ってもいい。園亞を傷つけず、四物コンツェルンにダメージを与えないようにしながら、あの男やそれに繋がる親戚連中を効果的に処理≠キる方法を模索してはいたのだが、ね。どうしても園亞の情の深さが桎梏になってしまう。だからといって園亞のそういった誰にでも優しくできるというかけがえのない心を貶めるわけにもいかない。それを理解していたからこそ、私の父は厚かましく我々の眼前にのさばり、白蛇≠ヘ私の父と繋がりを得たのだろう。それが我々に対する無敵の切り札になると思い込んでね」
「…………」
「だが、当然ながら、我々はいつまでも園亞の害となるやつばらを野放しにしておくつもりはない。機は熟したし、しかるべき人材も得られた。――そして今夜、白蛇≠フ実働部隊を壊滅させることができた。君たちのおかげでね」
「いや、それは……」
「もちろん、君がいなくともなんとかなるように我々は手を尽くしてはいる。だが、君たちが園亞と共に在り、園亞を護ってくれていることが、我々の大きな助けとなっているのは事実だ」
「…………」
「我々は十日後、決着をつける。園亞の害にしかならない愚かな親戚連中と、園亞をつけ狙う妖怪たちの頭目とね。君にも一緒に来てもらうことはもう言ってあるが、改めて頼もう。――どうか、一緒に来て、園亞を護ってほしい」
 そう言って深々と頭を下げる孝治に、一瞬気圧される。孝治が人間的な意味で怪物≠ニ呼ばれてもおかしくないほどの力を有していることを知って、これまで感じなかった威圧感を感じたのは確かだ。
 だが、すぐにぐっと顔を上げ、問いかける。
「孝治さん。俺は、あなた方がなにをしようとしているのか知りません。どんな方法で園亞を護ろうとしているのか。だから――いやだからというか、園亞を護ろうとする意志が確かなものでも、それでも俺は、その方法に反発することがあるかもしれません。俺は、正義のヒーロー――人の世界とは異なる条理で動く、人を護る者を目指しているからです」
「…………」
「だから、俺がお約束できることはひとつしかありません。なにがあっても、全力で園亞を護る――これだけです。それでも、いいんですか? あなた方は」
 閃なりに心からの危惧と真剣さを持って問うた言葉だったが、孝治は顔を上げ、なぜかにっこりと微笑んだ。真意の掴めない、交渉のプロらしい笑顔だったが、たぶん心からの感情の籠った笑顔なんじゃないか、と閃には思えた。
「もちろんだよ。それこそが我々が君に望むことなんだ」
「……それなら、俺はもちろん、一緒に行きます。行って、園亞を護ります。それが今の俺の仕事で――したいことなんですから」
 その言葉に、孝治は笑みを深くしてうなずいてみせる。
「そうか。――ありがとう」

 すぅ、すぅ、と小さな寝息がいくつも重なって聞こえる中、閃はそれなりに集中して周囲に注意を払っていた。同級生たちが揃って電車の座席で眠り込んでしまった以上、この一行の責任者は自分ということになる。万が一にも同級生たちが寝ぼけや寝相や寝言で他の乗客に迷惑をかけるようなことがないように、とひそかに気合を入れていたのだ。
 まぁ、この列車には他の乗客などほとんどいないのだが。園亞のボディガードの仕事を請ける前は、基本的に都心で活動していたし、主たる移動手段は電車だった。その記憶と引き比べるに、奥多摩からとはいえ同じ東京都内を走る電車なのに、ここまで人が少なくなるものなのか、と意外の感がある。
 ――ボディガードの仕事ももう終わりなのだから、これからは記憶ではなく直近の経験と引き比べることになるのだろうが。
 唐突に湧き上がるそんな雑念に、思わず顔をしかめる。昨日孝治と話をしてから、幾度もそんな想いが湧き上がってきてしまうのだ。
 馬鹿馬鹿しい。いまさらそんなことを蒸し返す必要などどこにもない。自分はボディガードとして雇われたから、園亞のために戦力として必要とされたからここにいられるのだ。大富豪の家のお嬢さまで、本来なら命の危険など存在しえないよう、安全この上ない場所で平穏無事に生きていられる少女と、自分に関わりが生まれること自体、本来ならありえないのだから。
 ――たとえ、その少女が『正義のヒロインになる』なんてことを笑顔で言ってくれるような女の子であっても。
 ごん、と軽く握り拳で自分の頭を叩く。本当に、なにをいまさらうろたえているのだ、自分は。最初からわかっていたことだ。承知していたことだ、覚悟していたことだ。それでいい、それがいいと自分自身で決めた道の行く末だ。なぜいまさら狼狽することがある。落ち着きを失う必要も、意義も微塵もない。
 ――けれど、園亞はたぶん、自分がいなくなれば悲しむだろう。
 はぁっ、と深々息をついて、ごんごん、と後頭部で窓に頭突きする。わかっている。そんなこととっくのとうに知っている。自分の中に、そんな終わりを冗談じゃないと、園亞をまた泣かせてたまるかと、全力で忌避する自分がいるのも知っている。
 だけどだからって、どうすればいいというのだ。自分がここにいられるのは、園亞のボディガードという仕事を請けたからに他ならない。四物家の屋敷に、学校に、園亞の隣に居場所が確保されていたのは、その仕事の担当者として、『園亞の両親』が、『四物コンツェルン総帥夫妻』が、人間社会のルールに則って、園亞の周囲の社会に働きかけたからでしかないのだ。
 その仕事が終われば、自分の身分は一介の賞金稼ぎに戻る。それも、悪の妖怪に年がら年中狙われてしまう体質の。園亞の安全を考えるならば、側にいられては困る輩以外の何者でもない。
 それなのに、なぜ自分はこんな風に、この場所にしがみついているのだろう。未練たっぷりに、いや未練という言葉すら当てはまらない、ここにいるのが当然であるかのような気分で終焉を待っているのだろう。もうすぐ園亞との時間が終わることは、客観的に見ればごく当たり前の真実だろうに――
『まだヤってねぇからじゃねぇのぉ?』
『煌黙ってろ』
 よりどころの上をつねっても痛いのは自分だけだということを承知で、服の上から力いっぱいつねり上げる。強烈な痛みが神経を走るが、当然ながら煌はくっくっくと楽しげな笑い声をこぼすのみだ。
 閃は、再度ため息をつく。本当に、なんで自分はこんなにも自信たっぷりに確信しているのだろう。頭ではなく、心でもたぶんなく、体から勝手に。園亞と一緒にいられる時間が残りわずかだなんてことは、どう考えても避け得ない事実であるはずなのに。

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キャラクター・データ
草薙閃(くさなぎせん)
CP総計:252+105(未使用CP14)
体:15 敏:18 知:14 生:14(60+125+45+45=275CP)
基本移動力:8+1.625 基本致傷力:1D+1/2D+1 よけ/受け/止め:9/17/- 防護点:なし
特徴:カリスマ1LV(5CP)、我慢強い(10CP)、戦闘即応(15CP)、容貌/美しい(15CP)、意志の強さ2LV(8CP)、直情(−10CP)、誓い/悪い妖怪をすべて倒す(−15CP)、名誉重視/ヒーローの名誉(−15CP)、不幸(−10CP)、性格傾向/負けず嫌い(−2CP)、方向音痴(−3CP)、ワカリやすい(−5CP)
癖:普段は仏頂面だけど実は泣き虫で怖がり、実は友達がほしい、貸しも借りも必ず返す、口癖「俺は悪を倒すヒーロー(予定)なんだぞっ!」、実は暗いところが怖い(−5CP)
技能:刀25(48CP)、空手、柔道18(4CPずつ8CP)、準備/刀18(0.5CP)、ランニング13(2CP)、投げ、脱出16(1CPずつ2CP)、忍び17(1CP)、登攀16(0.5CP)、自転車、水泳17(0.5CPずつ1CP)、軽業18(4CP)、コンピュータ操作、学業14(1CPずつ3CP)、戦術13(2CP)、追跡、調査13(1CPずつ2CP)、探索、応急処置13(0.5CPずつ1CP)、生存/都市、英語、鍵開け、家事12(0.5CPずつ2CP)
妖力:百夜妖玉(特殊な背景25CP、命+意識回復+1ターン1点の再生+超タフネス+疲れ知らず(他人に影響+40%、自分には効果がない−40%、人間には無効−20%、肉体ないし体液を摂取させなければ効果がない−20%、オフにできない−10%、丸ごと食うことで永久にその力を自分のものにできる(命のみ丸ごと食べないと効果がない)±0%、合計−50%)88CP、フェロモン(性別問わず+100%、人間には無効−20%、オフにできない−30%、意思判定に失敗すると相手はこちらを食おうとしてくる−50%、合計±0%)25CP、敵/悪の妖怪すべて/たいてい(国家レベル/ほぼいつもと同等とみなす)−120CP。合計18CP)

旧き火神・真なる迦具土・煌(こう)
CP総計:3010(未使用CP1)
体:410(人間時50) 敏:24 知:20 生:20/410(追加体力、追加HPはパートナーと離れると無効−20%。250+275+175+175+156=1031)
基本移動力:11+2.125 基本致傷力:42D/44D(人間時5D+2/8D−1) よけ/受け/止め:13/18/- 防護点:20(パートナーと離れると無効−20%。64CP)
人間に対する態度:獲物(−15CP) 基本セット:通常(100CP)
特徴:パートナー(200CPの人間、45CP)、美声(10CP)、カリスマ3LV(15CP)、好色(−15CP)、気まぐれ(−5CP)、直情(−10CP)、トリックスター(−15CP)、好奇心1LV(−5CP)、誓い/パートナーを自分の全てをかけて守り通す(−5CP)、お祭り好き(−5CP)、放火魔(−5CP)、誓い/友人は見捨てない(−5CP)
癖:パートナーをからかう、なんのかんの言いつつパートナーの言うことは聞く、派手好き、喧嘩は基本的に大好きだが面倒くさい喧嘩は嫌い、パートナーから力をもらう際にセクハラする(−5CP)
技能:空手25(8CP)、ランニング17(0.5CP)、性的魅力30(0.5CP)、飛行22(0.5CP)、軽業、歌唱、手品、すり、投げ21(0.5CPずつ2.5CP)、外交20(1CP)、英語、中国語、仏語、アラビア語、露語、地域知識/日本・富士山近辺、探索、礼儀作法、調理19(0.5CPずつ5CP)、戦術20(4CP)、動植物知識19(2CP)、言いくるめ、調査、鍵開け、尋問、追跡、家事、読唇術、生存/森林、犯罪学18(0.5CPずつ4.5CP)、毒物、歴史、嘘発見、医師、催眠術、診断、鑑識17(0.5CPずつ4.5CP)、手術、呼吸法16(0.5CPずつ1CP)
外見の印象:畏怖すべき美(20CP) 変身:人間変身(瞬間+20%、パートナーと離れると無効−20%、合計±0%。15CP)
妖力:炎の体20LV(120CP)、無敵/熱(他人に影響+40%、140CP)、衣装(TPOに応じて変えられる、10CP)、超反射神経(パートナーと離れると無効−20%、48CP)、攻撃回数増加1LV(妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、合計−50%。25CP)、加速(妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、疲労5点−25%、合計−75%。25CP)、鉤爪3LV(非実体にも影響+20%、妖怪時のみ−30%、合計−10%。36CP)、飛行(妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、合計−50%。20CP)、高速飛行5LV(瞬間停止可能+30%、妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、合計−20%。80CP)、高速適応5LV(妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、合計−50%。13CP)、無言の会話(妖力を持たない相手にも伝えられる+100%、人間にも伝えられる+100%、よりどころの中からでも使える+100%、パートナーのみ心の中で会話できる+25%、パートナーと離れると無効−20%、合計+305%。21CP)、闇視(パートナーと離れると無効−20%、20CP)、オーラ視覚3LV(35CP)、飲食不要(パートナーの精気が代替物、10CP)、睡眠不要(パートナーと離れると無効−20%、16CP)、巨大化34LV(妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると無効−20%、疲労五点−25%、合計−75%。85CP)、無生物会話(30CP)、影潜み1LV(パートナーと離れると無効−20%、8CP)、清潔(パートナーから離れると無効−20%、4CP)、庇う(パートナーのみ-75%、5CP)
妖術:閃煌烈火50-24(エネルギー=熱属性、瞬間+20%、扇形3LV+30%、気絶攻撃+10%、目標選択+80%、妖怪時のみ−30%、パートナーと離れると使用不能−20%、手加減無用−10%、合計+80%。540+8CP)、闇造り1-18(瞬間+20%、範囲拡大16LV+320%、持続時間延長12LV+360%、合計+700%。16+2CP)、炎中和50-24(瞬間+20%、パートナーと離れると使用不能−20%、合計±0%。100+8CP)、炎変形20-24(瞬間+20%、パートナーと離れると使用不能−20%、合計±0%。60+8CP)、治癒20-20(病気治療できる+10%、毒浄化できる+40%、瞬間+20%、パートナーから離れると使用不能−20%、合計+50%。90+8CP)、閃光10-18(本人には無効+20%、瞬間+20%、パートナーから離れると使用不能−20%、合計+20%。48+2CP)、幻光1-18(瞬間+20%、範囲拡大16LV+320%、持続時間延長12LV+360%、合計700%。8+2CP)、火消しの風1-18(瞬間+20%、範囲拡大16LV+320%、持続時間延長12LV+360%、合計700%。16+2CP)、感情知覚10-18(パートナーから離れると使用不能−20%。16+2CP)、思考探知10-18(パートナーから離れると使用不能−20%。32+2CP)、記憶操作10-18(パートナーから離れると使用不能−20%。40+2CP)
弱点:よりどころ/閃の尻の痣(別の価値観を持つ生き物、一週間に一回触れねばならない、その中に姿を隠せるが痣が隠されると出られない。−30CP)
人間の顔:容貌/人外の美形(35CP)

四物園亞(よもつそのあ)
CP総計:647(未使用CP13点)
体:11 敏:13 知:10(呪文使用時のみ23) 生:12/62(10+30+200+20+25=265CP)
基本移動力:6.25+1.25 基本致傷力:1D−1/1D+1 よけ/受け/止め:6/-/- 防護点:5(バリア型−5%、−8で狙える胸元の痣の部分には防護点がない−10%、合計−15%。17CP)
人間に対する態度:善良(−30CP) 基本セット:機械に対して透明でない(80CP)
特徴:意志の強さ1LV(4CP)、カリスマ1LV(5CP)、後援者/両親の会社(きわめて強力な組織(国際的大企業四物コンツェルン)/まれ、13CP。敵/某闇会社/まれ、−10CPと足手まとい/25CPのお目付け役/知人関係/まれ、−3CPとで相殺)、朴訥(−10CP)、正直(−5CP)、好奇心(−10CP)、そそっかしい(−15CP)、健忘症(−15CP)、誠実(−10CP)
癖:自分は普通だと思っている天然、口癖「え、えっとえっと、なんだっけ?」、口癖「私だってそのくらいできるんだから」、胃袋が異空間に繋がっているとしか思えないほど食う、超ドジっ子属性(−5CP)
技能:バスケットボール13(2CP)、学業10(1CP)、軽業11(1CP)、投げ10(0.5CP)、水泳12(0.5CP)、ランニング10(1CP)
呪文:間抜け、眩惑、誘眠、体力賦与、生命力賦与、体力回復、小治癒、盾、韋駄天、集団誘眠、念動、浮揚、瞬間回避、水探知、水浄化、水作成、水破壊、脱水、他者移動、霜、冷凍、凍傷、鉱物探知、方向探知、毒見、腐敗、殺菌、療治、解毒、覚醒、追跡、敵感知、感情感知、嘘発見、読心、生命感知、他者知覚、思考転送、画牢、恐怖、勇気、忠実、魅了、感情操作、忘却、偽記憶、光、持続光31(1CPずつ45CP)、大治癒、倍速、飛行、高速飛行、瞬間移動、瞬間解毒、接合、瞬間接合、再生、瞬間再生、精神探査、精神感応、不眠、完全忘却、奴隷30(1CPずつ12CP)
外見の印象:人間そっくり(20CP) 変身:なし
妖力:魔法の素質10LV(180CP)、追加疲労点30LV(90CP)
妖術:なし
弱点:行為衝動/悪い妖怪に襲われている人間がいたらその人間を全力で助けずにはいられない(−15CP)、腹ぺこ2LV(−15CP)、依存/マナ(一ヶ月ごと。−5CP)
人間の顔:普通の中学三年生、容貌/魅力的(5CP)、身元/正規の戸籍(15CP)、財産/貧乏(15CP)、我が家/古い屋敷(15CP)