認めたくないものだな、馬鹿さ故の過ちというものを
「オラオラオラオラッ! 引っ込んでねぇと怪我するぜぃっ!」
「ウラウラドララァッ、邪魔すんじゃないわよこのヘタレ×××ども!」
「…………ふっ(蹴り。相手倒れる)」
「……みんな、少し落ち着こうよ……相手はテロリストだっていうのに……」
「うむうむ、みんなオラの教育の甲斐あって優秀ですな。それに引き換え風間くんは……やれやれ」
「僕は普通なだけだぁぁっ!! 第一お前がいつ僕らを教育した!」
 しんのすけたち五人こと春日部防衛隊の面々は、襲いくるテロリストたちを次々と倒しつつ、コンピュータールームへ向かっていた。テロリストたちの数を減らして手薄になったコンピュータールームを襲撃し、セキュリティを解除しようという作戦である。
 最初の頃は全員(しんのすけとボーちゃん以外は)びくびくしながら戦っていたというのに、三グループ辺りからすっかり慣れて、気配の察知、効果的な不意打ち、容赦ない攻撃ができるようになっている。――風間くんをのぞいて。
 敵のトランシーバーを次々入手しているのでどんなに周波数を変えても相手の通信が盗み聞きできるという有利さ、ボーちゃんの強力な攻撃に、調子に乗ったまさおくんとぶち切れたネネちゃんの容赦のなさが加わって、現在のところしんのすけたちは破竹の連勝を遂げている。
 ……風間くんはまだその現実が受け入れられず、うんうん唸っていたが。
「もー、風間くんってばいい加減頭切り替えなさいよ。サクサクテロリストを全員ぶっ倒す以外にあたしたちに生き残る道はないんだから」
「だって……おかしいじゃないか、僕たちは普通の高校生だよ? なのにそれがなんでこんなにあっさりテロリストたちに勝てちゃうんだよ、どう考えてもおかしいよ。なにかの罠なんじゃ……」
「いーじゃない、勝ててるんだから」
「いやだけどさぁ!?」
「……敵は、素人の、集まりかも」
『は?』
 ボーちゃんの突然の発言に、全員目をぱちくりさせる。
「……敵のテロリストは、少なくともこれまでのは全員、戦闘技術を持っているとは思えない動きしかしてこなかった。プロなら、こちらに各個撃破されるようなやり方はしない。周波数ももっと頻繁に変えるはず」
「えっと……つまり?」
「……相手はただ偶然銃を調達できた素人の集まりっていう可能性が、一番高い」
『…………』
「なーんだ、だったらもー勝ったも同然じゃない! よーし、あたしの邪魔をする奴ら全員ぶっ倒してやろうじゃないの! そしてあたしは勇気ある少女としてお茶の間のアイドルに……v」
「ふっ……しょうがねぇな、このまさお様の相手にゃあ不足だが、降りかかる火の粉は払わにゃなるめぇ。全員蜂の巣にしてやるぜぃっ」
「な……なんだっ、全員素人なのかっ。それだったら僕でもなんとかなるよなっ。は、ははははっ」
 弱い者にはどこまでも強くなれる平均的日本人の三人は、一気にテンションが上がった。棍棒として使用している銃を振り回し、奇声を上げる。
 そんな中、しんのすけはこっそりボーちゃんに歩み寄り耳打ちした。
「ボーちゃんボーちゃん、オラ思うんだけど。実は敵って全員素人じゃなかったりするよね?」
「………あ゛ー」
「ほうほう、それをわかっていながら士気を上げるためにああ言ったわけですか。お主もなかなか悪よのう」
「………あ゛ー」
「んもう、そんなに拗ねないの。オラはちゃーんとボーちゃんのことわかってあげるから」

 トランシーバーで敵の動きを読み、周囲の状況を冷静に判断しつつ敵が銃を使う前に接近して不意打ち。
 そのパターンで二十人近い敵を倒しつつ、意気揚々と春日部防衛隊はコンピュータールームへと近づいてきていた。
「ゆあーしゃっくどんどんこどうはやくなるー♪」
「……あんまり、騒ぐと、向こうに先に、見つけられる」
「ふっ……おいらに任せときな、どんな奴が出てこようとこの銃で一撃ちにしてやるぜ」
「撃ちって、僕たち一回も銃撃ってないじゃないか……」
「奥様ちょっとまさおさん調子に乗ってるんじゃなくて? いやぁねぇ普段強気になれない人って」
「まぁまぁ奥様まさおさんも頑張っているんですしそうおっしゃらずに……って乗せるな!」
「やれやれ。自分でやっといてオラに文句つけるなんて風間くんって相変わらずタカビーだなぁ」
「う……」
「静かに」
 ボーちゃんが一歩前に出て手を上げた。全員ばっと口に手を当てる。
「……風間くん、あそこ? コンピュータールーム」
「……うん、そうだ。……見張りがいるね」
「ふっ、任せときな。この早撃ちのまさおさまが一撃で仕留めてやるぜ」
「バカじゃないの、ここから銃投げたって届かないんだからどう考えたって向こうが銃を撃つ方が早いじゃない」
「えぇっ!? じゃあどうすればいいの〜!? 銃撃たれたら殺されちゃうよぉ!」
「まぁまぁ、ここはオラに任せておきなさい」
「……しんのすけ、どうする気だ?」
「うむ。やはりここはお色気作戦ですな」
「……ふざけるなーっ!!!」
「しっ!」
 ボーちゃんが制する。見張りが声を聞きつけたらしく、銃を持って立ち上がった。
「あーあ、風間くんのせいだー。だからオラが言ったのに」
「も、元はと言えばしんのすけのせいだろっ!」
 見張りは二人。銃を持っている。ここはこちらの射程距離に入るまで待つしかない。
 見張りがじわじわと五mの位置にまで近づいた時――ボーちゃんが動いた。
「!」
 だっと地面を蹴り、宙に舞う。見張りは慌てて銃を乱射するが、ボーちゃんはそれよりも早く向かいの壁を蹴っていた。
 三角跳びの要領で空を舞い、相手が銃を撃つ軌道より上から頭を蹴る。空中の二連撃に、見張りはたちまち倒れた。
「わーいボーちゃんやっぱりすごーい! 映画みたい!」
「ホント……ボーちゃんだったら本当にK1格闘家になれちゃうんじゃないか?」
「いやいやここはやはりアクション映画のスターに」
 全員の賛辞の声の中、ボーちゃんはゆっくりと立ち上がった――
 と思った瞬間、その胸にナイフが突き刺さった。
「ボーちゃんっ!?」
 まさおくんが絶叫して駆け寄る。しんのすけとネネちゃんもそれに続く。
 風間くんは呆然として動けなかった。コンピュータールームからゆっくりと姿を現した、ナイフを投げた主――どこからどう見てもプロ≠ネ男に圧倒されていたからだ。

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