拍手ネタ決議『無限戦隊ヤオヨロジャー・2』
「はーい、みんな集まったかなー? それじゃ『今回の拍手小話どういう話にするか会議』始めるよー」 「はーい」 「……つかよ、なんでまた会議なんだよ。戦隊ものに感想もらったんだろ? だったらそれ継続ってことでいいんじゃねーの?」 「うん、確かに感想はもらったんだけどね。ちょっとだけではあるけれど、ありがたくも好意的な感想をいただけたんだけど。かといってほいほいネタが湧いてくるわけでもないでしょ? 管理人、前回先のこととかほとんど考えないで書き散らしちゃったから」 「はぁ……つまり、今回の拍手小話の、話のネタを考えないとならない、ってわけか」 「そゆこと♪ はいはい、みんな、どんどん意見出してってねー。早く帰りたければー」 「うーん……前回のラストで、ヤオヨロジャーの敵……ドーガスっつったっけ、そいつらがなんかネタっぽいこと言ってたよな?」 「つか、ヤオヨロジャーとかドーガスとかって名前けっこうアレだよな。響きだけでもアレだってメッセージとか来てたし」 「チェイッ!(ごすっ)」 「ぐはっ! ……ってぇなっ、なにしやがるっ」 「会議中なんだから建設的なことを言おうね。でないと議事進行の妨げになるでしょ? ……で、前回のラストの件、だったよね」 「うん。プロフェッサー・エイティエイトが作戦立てて、サードジェネラルが実行するって話になってただろ? それを書けばいーんじゃねーの?」 「うんまぁそれはそうなんだけどね。具体的にそれをどう書くか、ってところをみんなで考えよう、ってことなわけで」 「うーん、そっかー。難しいなー……」 「……えーとさ、この無限戦隊ヤオヨロジャーって。全部で何回なわけ?」 「一応二ヶ月に一回で一年、計六回を予定してるそうだけど? ……とか言いながら今の段階でもう一ヶ月遅れてるけど」 「うげ、そんなかよ、半クールっていっくらなんでも……まーいーや、とにかくさ、だったら隊員各キャラの話を一回ずつ入れねーとだろ」 「隊員各キャラって?」 「だからさ、ヤオヨロレッドとかブルーとかイエローとか。そういう一人一人の設定を掘り下げて、話の中で描いてくことで、視聴者はどんどんとキャラに思い入れを持つんだよ!」 「……そういうもんなの?」 「そういうもんだ!」 「……っていうと、残り五回キャラ回を入れていくと、全部枠が埋まっちゃう気がするんだけど」 「あ、俺――じゃない、レッドはキャラ回無理に入れなくていいよ。隊全員で戦う派手な話の時は、やっぱレッドがメインになると思うしさ。なんたって主役だし!」 「いつからお前が主役になったんだよ」 「え、戦隊もののレッドっつったら主役って決まってんじゃん!」 「はい、まぁ物語のポジション争いはともかく。今回は隊員の一人を選んで掘り下げていく回、ということで。それじゃ誰にするかってことだけど」 「あ、の……いい、です、か?」 「はいどうぞ、発言カモン」 「えと……キャラ回って、いうのは、すごくいい案だと、思うんですけど。ドーガスの、ヤオヨロジャーを倒すための作戦が行われてる、っていうのも、きちんと考えておくべきところだと思う、んです」 「ふんふん、それで?」 「えと、前回の、話の展開だと、ぱっと見、隊の弱点だと思われるところがありましたから。そこと、作戦と、サードジェネラルの教え子、ってところを絡めて……」 ………… ……… …… |
「ふっ! はっ……ふっ!」 ヤオヨロブルーこと風祭澳継の朝は早い。家が古武術の道場である彼は、まだ陽が昇りきらない頃に起き出し、朝の鍛錬を始めるのだ。 「ほ、と、ふ、っと。よっ」 その鍛錬の相手になる率が一番高いのが、緋勇龍斗。現在のところ、風祭家に居候をしている、風祭家の伝える武術と対になる武術を伝承する家のご令息だ。 「らっ、はっ! でやぁっ!」 「ふ、と……はっ!」 脳天を狙ってしかけた後ろ回し蹴りは、足が届く前に軸足を払われて倒された。そこに即座に追い打ちをかけられ、急所に拳を突きつけられる。 「はい、俺の勝ち」 「………くそッ」 屈辱に震える澳継に、龍斗はしれっとした顔で肩なんぞすくめていやがる。 「お前、最近技が荒れてるぞ」 「…………」 「お前の性格上、怒りを力に変えるってのはありだと思うけどな。いっくらなんだってこうも四六時中全力で不機嫌なんじゃ、技にだって乱れが出る。なにがそんなに面白くないのかは知らないけど、そろそろその原因を取り除こうとしてみたらどうだ?」 「………うっるせぇッ!」 澳継は龍斗を突き飛ばし跳ね起きて、ずかずかと母屋へと向かった。わかっている、そのくらいのことわかってはいるのだ。 ただ、その原因というのがどうにもしようがない代物なだけで。 風呂場で汗を流し、学校へと向かう。まだ授業には少し早かったが、学校にも鍛錬する場所はないではない。 とっとと教室に鞄を置いて、その数少ない鍛錬する場所である旧校舎裏に向かう。ここはほとんど人が来ないし、それなりに激しく動いても音が響かない。校舎内では穴場なのだ。 澳継はそこではまるで人と会ったことがなかったので、まったく無警戒にずかずかと曲がり角を曲がる――と同時に、ちょうど真正面からそこにいた人間と視線が合い、驚きに一瞬目をみはった。 だが、当然ながらその程度で臆するような性格はしていない。そこにいた二人――赤毛の教師風と、ちょうど目の合った中等部くらいの茶髪(背の高さが同じくらいだったのだ、腹の立つことに)に、ぎろりとガンをつけて歩み寄った。 「おい、なんだよてめェら。ここは俺が使ってた場所なんだよ」 「なんだよ、別にお前専用の場所ってわけじゃないだろ」 反論してくる茶髪に、ぎっと殺気を込めた一睨みをくれてやる。 「先に使ってたのは俺だ。後からのこのこやってきて俺の邪魔すんじゃねェよ」 「邪魔なんてしてないだろ。あんたが勝手に喧嘩売ってるだけじゃないか。そもそも少なくとも今日は先に使ってたのは俺たちだろ」 「んッだとてめェ……上等だ、どっちにここ使う権利があるか、腕で決めるか!?」 「おう、やってやろうじゃ――」 「ほら、二人とも、落ち着いて」 ぽすぽす、と高いところから頭を叩かれて、ぎっと殺意を込めて相手を睨む。相手の赤毛は、睨まれてもただ苦笑するだけですませて、穏やかな声を投げかけてきた。 「風祭……澳継くん、だよね」 「……なんで俺の名前知ってんだよ」 「俺はこの学校の教師だからね。君ぐらい有名なら顔と名前くらいは知ってるよ。……で、俺はレックス。こっちは俺の家庭教師時代からの教え子で、ナップ・マルティーニ」 「……よろしく」 仏頂面で頭を下げてくるナップに、澳継はむっと顔をしかめつつも、小さく会釈を返した。向こうが礼儀を守って頭を下げてきているのに、無視するというのはなんだか負けたようで面白くない。 「君、ここで古武術の修練をしよう、って思ってたんだよね?」 「……それがてめェになんか関係あんのかよ」 「関係、というか。よかったら、ナップと一戦交えてもらえないかな、と思って」 「な……」 「え!?」 驚く自分たちに、レックスは穏やかな笑顔を浮かべながら、普通の教師ならばありえないことを口にした。 「俺たちはここで、戦術――主に剣術の訓練をしてたんだけど、ナップもずいぶん成長したからね。そろそろ練習相手がほしかったんだ。君も剣術相手はそう経験がないだろうし、どちらにとっても面白い訓練になるんじゃないかと思うんだけど?」 「…………」 「…………」 澳継はナップを見た。ナップも澳継を見返す。しばし互いに相手を探るように視線を絡め合わせ、やがてどちらともなくにやっと笑った。 「やってやろうじゃねェか」 「上等じゃん」 闘士の本能のようなものが、腕前のほど、性格、戦いに際しての心構えのようなものも含め、『こいつは自分と同類だ』と判断したからだ。 |
「っ。……っ。………っ」 ヤオヨログリーンことセオ・レイリンバートルの朝は早い。なにせ共に暮らす人間全員が戦闘訓練を日課としており、全員帰ってくる時間がまちまちなので、自然訓練時間は朝に集中することになるからだ。 「ふっ……く! と!」 セオの振るう竹刀を(セオは父親が軍人で軍隊式格闘術やらナイフの使い方やらを叩き込まれてはいるのだが、一番得意なのは剣術だった)、八百万間学園体育教師で、現在自分の保護責任者であるラグディオ・ミルトスが巧みに盾で受け止める。ラグは昔紛争地域で傭兵をやっていたそうなのだが、ろくに武器もない時には手近にあるものを盾として使っていたそうで、それを利用した格闘術を編み出していたのだ。教え込まれたその技術は、ヤオヨロジャーの活動の際も役立っていた。 「っのっ……こなくそっ、どらぁっ!」 「でぇいっ、とりゃっ、ええーいっ!」 「フォルデ、右脇がら空きだ。レウ、右足踏み込みすぎ、左脇が隙だらけ、剣の振るい方が甘い」 隣では学園での先輩であるフォルデと、後輩であるレウが、世界史担当教諭であるロンにあしらわれている。ロンはほんの幼い頃から中国拳法を叩き込まれた達人なのだそうで、基本喧嘩殺法のフォルデとまだ初等部の生徒であるレウはまだまだ相手にならない。 自分たちがこんな風に戦闘訓練を行うようになったのは、一緒に暮らし始めてさして時間も経っていない頃だった。血が繋がっているわけでも、なにかの組織に属しているわけでもない、しいて言うなら成り行きで一緒に暮らすことになった自分たち。それが共に生きるために、家族になるために、なにかを一緒にしよう、と始めたこと。それぞれがそれなりに興味を持て、それなりに自負のある分野の技術の訓練。それが戦闘訓練だったのだ。 時間が経ち、レウが加わっても、その日課は変わらなかった。これがあまり普通にあることではない、というのは承知している――が、そのおかげで、自分たちは必ず毎日同じ時間を共に過ごすことができていた。朝同じ時間に目覚め、同じ時間に訓練をし、一緒に朝食を取る。本来なら生まれないはずだった家族の時間が、持てるようになっていたのだ。 「よし、今日はこれで終わり! ありがとうございました!」 『ありがとうございましたぁっ!』 ラグとロンにかなり全力で叩きのめされ(『そろそろ手加減する余裕がなくなってきた』ということなのだそうで嬉しいのだが)、ふらふらになりながらもそれぞれシャワーを浴びて身支度を整える。一人一人浴びていたら間に合わないので、何人か一緒に浴びることが多かった。朝食当番が最初にさっと浴び、残りはお喋りしたりじゃれ合ったりしながら(自分はなかなかそれにも参加できていないのだが、なんだかんだで時々巻き込んでくれる)汗を流す。 今日の朝食当番は自分だった。最初にさっと軽く汗を流し、昨晩タイマーセットしておいた炊飯器でご飯が炊きあがるのに合わせて、わかめと油揚げの味噌汁、しらすとほうれん草の炒り卵、昨日の残りの豚コマとキャベツをナスと一緒に炒めたものなどをさっと作り、漬物、ちりめんじゃこ、明太子などを合わせて出す。 『いただきます!』 それぞれ手を合わせて礼をするや、勇んで料理に箸を伸ばす。戦闘訓練で腹が減っているのだろう、正直自分も少し空いていた。 「んーっ、うっめーっ! やっぱセオにーちゃんの料理ってうっめーなー!」 「てめぇは自分が作らなくてもいいんならなんでもうめぇんだろーが。ちったぁ自分でもマシな料理が作れるよう修業しやがれ」 「う……だ、だってさーっ、自分で作ってみても絶対みんなみてーにうまく作れねーんだもん! だったら他のみんなに任せたほーがさーっ」 「何度も言うが、料理の腕も戦闘技術と同じ、基礎を学んだ上での反復訓練で決まる。要は、真面目に練習しろ、ということだな」 「う、うーっ」 「はは……まぁ、どんなものであれ、練習をどれだけ熱心にやれるかっていうのは結局は本人のやる気次第だからなぁ。実際に作ってくれる人がいる状況じゃ、あんまり練習に身が入らないのもわかるよ」 「だろだろっ!? さっすがラグ兄、わかってるーっ!」 「ほほう。ならばここはひとつ、一週間連続で料理当番なんてことをさせてみるのも手だな。涙を呑んで」 「えーっ! なんでだよーっ、そんなのずるじゃんっ! ぜんぜん涙呑んでないっ」 「バカヤロ、てめぇの作るメシを一週間食い続けなけりゃなんねぇんだぞ、涙も出るだろうがよ」 にぎやかな言葉が飛び交う食卓で、セオはあまり口を開かず、ほとんど聞き役に徹していた。けれど、その食卓が楽しくなかったわけでは、まったくない。 むしろ、泣けるほどに嬉しかった。心底ありがたかった。親に見放された自分が、価値のない自分が、誰かと食卓を囲むことができるのが。 (――護りたい) こっそり、ぎゅっと拳を握りしめる。この食卓を、自分たち家族を、そして同じように食卓を囲んでいるだろう数えきれないほどの家族たちを、護りたいと思った。自分の力の及ぶ限り、死力の尽くせる限り、自分のできるありったけで。 そして、中でも一番わかりやすい方法でそれらを護れる手段を、今の自分は手にしていたのだ。 ――その責務を充分に果たせているかというと、首を振らざるを得ないのだが。 朝食を終えてから学園に行く時間は、それぞればらばらだ。職員と生徒というだけでも学園に着いていなければならない時間は違うし、それぞれ学園でしなくてはならないことも違うので、自然とそうなる。 その中でも、セオはかなりに早く家を出る方だった。別に部活や委員会があるというわけではないのだが(セオは文芸部、委員会は図書委員。どちらも朝練には縁がない)、セオには日課があり、それを果たすためには早く行かざるを得ないのだ。 学園の正門を通り、守衛さんに挨拶をして、教室に向か――わずに、新校舎の後ろ側にある旧校舎に向かう。旧校舎は、来年には取り壊される予定の校舎ということで、機材も人もどんどん中から運び出されているが、立ち入り禁止というわけではない。人は少ないが。 そして、セオはその人が少ない中でもまず人の来ない、端っこの小さな教室へと入っていった。 ここには鍵がかけられていない。以前はここをたまり場にしていた人たちがいたのだが、自分がたまたまここを訪れていた時に、喫煙したのを注意したら(あと殴りかかってきたのを傷つけない程度に制圧したら)寄りつかなくなった。そのおかげというわけでもないだろうが、人のまるで来ないこの場所を、自分は存分に使うことができている。 窓際の席に座り、ノートを広げる。筆箱からボールペンを取り出す。すぅ、と軽く深呼吸をして、ペンをノートに触れさせる―― といういつもの手順を行おうとした瞬間、響いた気合の声にセオは目を瞬かせた。窓から校舎裏を見下ろし、また目を瞬かせる。 そこにいたのは、二人の男子生徒と一人の男性教諭だった。教諭はレックス、初等部の五年に担任を持っていたはずだ。男子生徒のうち一人はナップ・マルティーニ、マルティーニ財閥の令息で、大学生だったレックスに家庭教師になってもらっていたという話を聞いたことがある。そして、もう一人は―― 「……風祭、さん」 呟いてしまってから、慌てて口を押さえた。あの人は、きっと自分になど名前を呼ばれたくないだろうと思ったのだ。 |
「なんか、風祭先輩、機嫌いいっすねー」 たまたま食堂で一緒になった滝川にそんなことを言われ、澳継はきゅっと眉を寄せた。 「はァ? なに言ってんだ。なんで俺が機嫌よくなんなきゃなんねェんだよ」 「や、それは知らないっすけど……なんか、嬉しそうだったじゃないっすか。だから、なんかあったのかなー、って」 「なんもねェよ、勝手に人の顔色うかがってんじゃねェ!」 「わ、はいはい、わかりましたって! あ、それと……」 「なんだよ」 滝川は、顔を近づけて、小さな声で囁く。 「放課後、六時半。いつものところに集合、ってメッセージ来ましたから」 「……そうかよ」 澳継はチッ、と舌打ちをして、天ぷらそばの残りをかっ込んだ。ライをはじめとした八百万間学園の食堂の料理人たちの腕はいつもながらに見事なものだったが、それでも澳継の心を浮き立たせはしない。 滝川がこんなことを言うということは、つまりヤオヨロジャー出動の時が来た、ということなのだろう。それが澳継としては、憂鬱で憂鬱でしょうがなかったのだ。 放課後。自分はこれまでこういう時、時間が来るまで校舎内をうろうろして時間を潰していたのだが、今回は幸いそういうことを考えずにすんだ。朝、旧校舎裏で鉢合わせたあいつと、放課後も約束をしていたからだ。 約束に遅れるというのは好きではないが約束を心待ちにしていたと勘違いされても面白くない。約束ぴったりに着くように時間を調節して旧校舎裏に行くと、約束した通り今朝のあいつ――ナップはそこに大きな模造刀を持って立っていた。 「おう」 軽く声をかけると、ナップもこちらの方を向いて、「よう」と笑顔になる。軽くうなずいてから、ここにいない奴のことについて訊ねた。 「あのレックスとかいう奴は?」 「先生は仕事。初等部の先生だって、放課後はいろいろやることあるんだよ」 「そりゃそうだな。……じゃ、やるか?」 「おう」 お互いにやり、と笑みを交わし合い、構えを取る。今朝と同じように、数歩の間を置いて対峙する。お互いの呼吸が伝わってくる間合いで、相手の目を睨み、互いの攻撃の、防御の気配を感じ取る。全霊をもって隙をうかがい、一瞬でも隙ができれば即座に打ち込む――! 「はッ!!」 「りゃあっ!!」 しばし幾度も拳と剣を交え、何本かは取られたが打ち合いの大半で勝利を収めて、澳継は荒い息をつきながらもにやっと笑った。 「どうだよ、やっぱ、俺の勝ち、だったなっ」 「ちっ……くしょーっ、また、負けたかぁっ」 ナップも荒い息をつきながら悔しげに地面を叩く。その悔しげな姿に、澳継は荒い息を抑えてふふんと勝ち誇ってみせた。自分は物心ついた頃から武術の訓練をしているのだ、筋は悪くないのは認めるが、中等部の生徒相手に負けるわけがない。 「くっそぉ……悔しいな、ちくしょう……先生にあんなに一生懸命教えてもらったのに……」 うつむいて本当に悔しそうに呟くナップに、澳継は眉を寄せて訊ねた。 「先生って……朝の、レックスとかいう奴かよ?」 「レックスとかいう奴≠カゃないっ! レックス先生だよっ」 「うるっせェな、どっちでもいいだろそんなもん……やけに懐いてやがんだな。教員と生徒なんて普通、そんなに深く仲良くなるもんじゃねえだろ」 「そんなことない。仲良くなれない奴もいるけど、先生はほんとのほんとにいい先生だもん。大学生の頃から家庭教師とかしてもらってたし……六年の時担任持ってもらったし……今は初等部と中等部に分かれたからって、個人的に戦技とか、いろんなこと教えてもらってるし。ただの教師じゃなくて……なんていうか、人生の師、ってやつなんだよ」 「……ふーん……」 人生の師、という言葉を聞いてちらりと脳裏に浮かんだ顔を、澳継はぶんぶんと手を振って打ち消した。冗談じゃねェ、あんな奴人生の師でも友達でも知り合いでもなんでもねェんだ。 そんな澳継をなにをやってるんだろうという目で見つめてから、ナップはまたうつむいてぽつぽつと言う。 「だから……あんたに負けたの、先生に教えてもらったことが、無駄になっちまったみたいで、悔しくて……」 「……はッ、馬鹿なこと抜かしてんじゃねェよ。どんなに一生懸命になろうがな、強さなんて一朝一夕に身に着くもんじゃねえんだ。それなりの強さが身に着いたところで、それより強い相手にぶつかったらあっさり負ける。強い弱いなんてのは結局のとこ、そう……そうた……」 「相対的?」 「そッ、それだッ! そーたいてきなもんなんだから、勝っても負けても、おごらずいじけず鍛錬を積み重ねなきゃなんねえんだよ。強さが必要になる時のためにな」 「へぇ……あんた、いいこと言うじゃん。誰かにそういう風に教わったのか?」 「そッ、そんなんじゃねえよッ! ……まぁそりゃ教わったっちゃ教わったかもしんねェけどなッ、あれはなんつーか、たまたまあいつがいいとこ見せようとしてだなァッ……」 「そんなに意地張んなくてもいいのに。その人のこと、好きなんだろ?」 「好きじゃねェッ! 微塵も少しもまったく好きじゃねェ、ッつーか大っ嫌いだッ! この世で一番誰よりもぶっ殺してやりてえくらいっつーか絶対ぶっ殺す地獄送り確定の本気で死ぬ気で大っ嫌いな」 「わ、わかった、わかったって。……ったく、素直じゃねぇなぁ。そんなんだからあんた、可哀想な人とか言われんだぜ?」 「なんだとッ!? 誰が言ったってんだ、んなことッ」 「え? 先生……っていうか、先生は確か、セオ……なんとかって人が言ってたって言ってたけど」 「……なんだと?」 「え、だから」 「セオ・レイリンバートルがそう言ったってのか」 「え、うん……確かそんな名前だった。……ってうわ、これじゃ陰口の上に告げ口になっちゃうじゃん! わーやだやだっ、あーもうもう一本やろうぜっ」 「悪ィな。俺はちっと用事ができた」 「え? 用事って……」 言葉に応えず、澳継は足早にその場を立ち去る。――セオは、この時間ならいつも図書室にいるはずだ。 |
「……こんにちは。セオ・レイリンバートルくん……だよね?」 声をかけられて、セオはびくっとしたが、答えないなどできるはずがないので、慌てて声をかけてきた人の方を向き、深々と頭を下げた。 「はい、そう、です……こん、にちは。レックス、先生……で、よろしかった、でしょうか……?」 「え? 俺の名前、知ってたのかい?」 本気で驚いた顔になる赤毛の初等部教諭に、セオはこくん、とうなずいた。 「レックス先生は……生徒に親身になってくれる、いい先生だと、評判を、お聞きして……」 「え……そ、そうかい? そんなに大したものじゃないけれど……いや、照れるな……」 照れくさそうに頭を掻いてレックスは笑うが、すぐに真剣な顔になってセオの方を向いてきた。 「申し訳ないけれど、少し話したいことがあるんだけども……少し、時間、いいかな?」 「はい」 「じゃあ……少し、奥へ行こうか。あまり人に聞かせていい話でもない、と思うから」 「……はい」 セオはうなずいて、レックスのあとについて図書室の奥へと進んだ。図書室といっても、ここは小・中・高・大、全学部に向けての図書がおいてある総合図書室(というか、校舎本館と繋がっているので図書室と呼ばれているが、規模はむしろ図書館)なので、敷地は広い。セオはここに勉強をしに来たのだが、本を読みに来たり涼みに来たりする人間も何人もいる。奥の書庫にまで行かないと、内緒話には向かない場所だ。 人気のない奥の書庫までやってきて、レックスはセオに向き直り、声を潜めて訊ねてきた。 「君……風祭澳継、という子を知ってるかい?」 「え……? あ、えと、はい」 「たまたま耳にしたことなんだけれども……君が、その子にいじめられている、というのは本当かい?」 セオはびくん! と震えて、大慌てで首をぶんぶんと振った。 「そんなこと、ないです! あれは俺が悪い、んですっ! 俺がいっつも、駄目で、弱くて、うじうじしてるから、風祭さんを、苛つかせちゃってるだけで……!」 「苛ついたからって、人をいじめていいってものじゃないと思うよ。いじめられる方にも問題があるとかいう人がいるけれど、いじめっていうのはそもそもその行為自体が許されないものなんだ。どんな理由があったからって、人一人を自分勝手に傷つけて、いいようにするなんて、許されることじゃない」 「そうじゃ、ないです……! あれは、俺が、風祭さんを嫌な、気分に、させちゃってるせいで……責められなきゃ、ならないのは、俺の方で……!」 「そうかな? 君の親しい人の大半は、君をいじめたりはしていないだろう? それはつまり、問題があるのは彼の方だ、ということじゃないのかな?」 ぶんぶんっ、とセオは勢いよく首を振った。 「違う、んです……! 本当に俺が、悪いんです、だってあの人は、本当に優しい、いい人でっ……!」 「おい。なんだよ、そりゃ」 低い声が響く。はっとして振り向くと、そこに立っていたのは風祭だった。書庫の入り口、自分より頭一つ近く下から、ぎっ、と苛烈な視線を自分にぶつけてくる。 「舐めてんじゃねェぞ、てめェ……誰が優しいだ? ふざけんな。俺はな、人に媚売られんのが大っ嫌いなんだよッ!」 「ご、めんな、さ……」 「そんでそれと同じくらいなッ、てめェみてえなうじうじした野郎も嫌ェなんだッ! いっつもいっつもうじうじおどおどしやがって、鬱陶しいんだよッ! ちっとはまともに頭働かせて喋りやがれ、このボケ野郎がッ!」 「ごめん、なさい……ごめんなさい、ごめんなさ、いっ………」 セオは泣きそうな想いで、頭を擦りつけるほどの勢いで下げ、風祭に謝った。申し訳ない。本当に、申し訳ない。自分はどうしていつもこうなのだろう。他の人を苛つかせてしまうのだろう。自分はどうしてこんなにも駄目なのだろう。情けなくて申し訳なくて、ひたすら頭を下げるしかできなくなる。 「ッ……いい加減にしやがれ、この野郎……!」 ずかずかと歩み寄り、自分の胸倉をつかみ上げる。間近から睨んでくるその強い瞳に向け、セオは必死に頭を下げた。 「ごめんなさい……本当に、ごめ、んなさ、い……」 「謝りゃいいとか思ってんじゃねェぞ、てめェッ……!」 ぐっと風祭が握り拳を作る。殴られるのだろうか。それも当然だ。自分のように情けない、みっともない、周りを苛つかせてばかりの駄目な人間は殴られて当然だ。風祭にそんなことをさせてしまうのもすべて自分のせいだ――申し訳ない。本当に申し訳ない。この申し訳なさを自分は情けないことに、必死に謝ることでしか表せない。 「ごめん、なさい……っ」 「てめェ……ッ!」 握り拳が大きく振り上げられる――それを、大きな掌がつかんで止めた。 「ッ!? なにしやがるッ!」 「これでも教師だからね。目の前で暴力沙汰を起こすのを、黙って見ているわけにはいかないんだよ」 静かな声で告げるレックスに、風祭はあからさまに顔をしかめ、「チッ!」と舌打ちしてこちらに背を向け、書庫を出ていく。レックスは「大丈夫かい?」と気遣いの言葉をかけてくれたが、セオはそれにも「ごめんなさい……」と頭を下げるしかできなかった。 自分は本当に、どうして、こうも、なにもできることがないのだろう。人に不快な思いを味わわせてばかりで。嫌な気分にさせてばかりで。――誰にも、なにも返せないままで。 セオは泣きそうな気分で、深く、深くうつむいた。 |
「……というわけで、街外れの電波塔にドーガスが出現する情報を得たから、哨戒に出てほしいんだ。いいね」 「はーいっ!」 「は……い」 「……や、それはいーんだけどよ」 「なに? ライくん、なにか質問?」 「質問、っつーか。……なんか、風祭先輩とセオ先輩の間の空気、最悪なんだけど」 ライの指摘に、ただでさえ重かった空気がぎしり、と軋んだ気がした。風祭はそっぽを向き、セオはうつむいていて、お互い視線は合っていないのに、二人の間にはっきり感じ取れるほどの不穏な空気が渦巻いている。 それでも風祭はそっぽをむいたまま口をつぐんでいたが、作戦行動の説明をしていた速水に「ライくんはこう言ってるけど、どうなの、風祭くん?」と水を向けられると、ぎっ、と殺意のこもった視線を投げかけ低く呟いた。 「なんで、そんなくだんねえことやんなきゃなんねえんだよ」 その気迫には滝川も一瞬気圧されてしまったが、速水はあくまでしれっと言ってのける。 「くだらないことって?」 「ドーガスだがなんだか知らねえけどよ、どいつもこいつもしょーもねえことしかしねえボケどもだろうがよ。なんでそんな奴らわざわざ、あんな馬鹿みてェなカッコして倒さなきゃなんねえんだよ」 「君も契約には同意したはずだけど? ドーガスは八百万間市の市民、場合によってはそれよりももっと広い範囲に害をもたらす可能性のある存在だ。その活動を抑止するのは意義のあることだし、君もいい実戦の機会だ、って言ってたよね? ヤオヨロスーツも顔や声を隠して個人を特定できないようにするのみならず、戦闘能力と安全性を飛躍的に高めてる、っていうのもとっくに説明したことじゃない?」 「…………」 「それでも君が契約を破棄したいっていうなら別に止めないけど。それならそれで違約金相当の労働やらなにやらしてもらいたいし、それに少なくとも今回は一緒に活動してもらわなきゃ困る。ヤオヨロジャーの装備は五人揃って初めて最大の効果を発揮するように作られている、君が欠けたら他のメンバーの危険が飛躍的に増すんだ。それとも君は、他の面々の命を危険にさらしてでも、今すぐヤオヨロジャー辞めたいわけ?」 「…………」 チッ、とあからさまに舌打ちをして、風祭はまたそっぽを向く。それにあえて声をかけようともせず、速水は告げた。 「他に質問は? ……ないね? よし! ヤオヨロジャー、出動!」 電波塔の前まで全員身を隠しながらやってくる。その間も、風祭とセオの間の空気は最悪のまま変わろうとしなかった。風祭はセオを無視しているのにあからさまに敵意をぶつけてきているし、セオはそれに対し泣きそうになりながらうつむき、ちらりと風祭の様子をうかがってはまたうつむくということを繰り返している。そしてそのたびに風祭の敵意が増し、セオはそのたびにびくんと震える。 そんな悪循環を眺めつつ、滝川はこっそりライとセデルに相談した。 「なぁ、あの二人、どうしたらいいと思う? このままじゃチームワークにも支障が出るぜ」 「んー……まぁ、あの二人の間にはまともなチームワークとかなかったから、いいっちゃーいいんだけどな……」 「でもやっぱり、仲間なのに仲悪いとか、よくないよ。なんとかして仲直りさせなくっちゃ」 「んー……そりゃそうなんだけど、あの二人の場合、なんか理由があって仲悪いってよりは性格的な相性の問題っぽいからなぁ……」 などと小声で話しつつ、警戒を怠らずに電波塔へと近づく――と、男の声を聞きつけて、滝川たちは揃って身を伏せた。草陰に身を隠しながら、電波塔の様子をうかがう。 「さぁ、電波怪人ゼーノンよ、電波塔からの電波を受信せよ! そして体の中で循環させ、さらに強力な電波と化して放つのだ! 街中の市民を洗脳させられるほどにな!」 「了解オーライアイノウユー、僕の心はデスメイカー! 電波ゆんゆん振るチャージ、突撃敢行サイトシーイング!」 「……プロフェッサー・エイティエイト!」 滝川は思わず声を漏らす。電波塔の下で怪人と一緒に立っていたのは、仮面をかぶりマントをつけた黒ずくめの男――ドーガスの幹部、プロフェッサー・エイティエイトだった。こいつの立てた非道な作戦をみんなで阻止したのは、一度や二度ではない。 その周囲を戦闘員たちが囲んでいるが、さらに今回は、一人怪しげな雰囲気の男(たぶん)が立っていた。全身を鎧兜で包み、顔はまるでわからない。体型は均整がとれているように見えるが、肌の露出がまるでないので鎧の中がどうなっているのかはわからない。 「ドーガスの新しい幹部かな……とにかくみんな、変身だっ!」 『おうっ!』 「……は、」 「……インフィニティ・チェンジ」 「は!?」 唐突に一人変身して駆け出す風祭に滝川は一瞬呆然とした。まだ名乗り上げもやってねーのにーっ、と伸ばした手を止めて、いやいやそんな場合じゃない、と慌てて叫ぶ。 「みんな続くぞ! インフィニティ・チェーンジっ!」 「え、えと、インフィニティ・チェーンジっ!」 「……インフィニティ・チェンジっ」 「え、あ、っ……インフィニティ・チェンジっ!」 それぞれスーツを装着し、一人怒涛のようにドーガスの戦闘員を薙ぎ倒しまくっているブルーに駆け寄り、同じように戦闘員を倒しながら叫ぶ。 「おい! 一人で暴走してんなよ! 一人で行ったらなんか罠仕掛けてあった時とかに……」 「やかましいッ! こんな奴ら俺一人でどうとでもなんだよッ!」 「っ、ってお前なぁっ!」 「……はっはっは! 正義の味方であるヤオヨロジャーともあろうものが、仲間割れとはな!」 笑い声を上げたのは、怪人の横に立つプロフェッサー・エイティエイトだった。レッドはぎっ、と奥歯を噛みしめてプロフェッサーを睨む。 「エイティエイトっ……」 「我が作りし電波怪人ゼーノンの前でそのように仲間割れとは、愚かにもほどがある……やれ! サードジェネラル!」 サードジェネラル? と聞いたことのない名前に戦闘員を倒しつつ様子をうかがうと、怪しげな鎧兜の男(たぶん)がうなずき、剣を抜いて掲げた。その剣は蒼く輝き、怪人へと光を降り注がせ、怪人の呻き声をさらに大きく響かせる。 「ブレインウォッシャーおっしゃー洗頭! 洗脳効能聴能電波ァァァ!!」 「なっ……!?」 ゆよよよよよん! と周囲の空間を、電波とも音波ともつかない奇妙な波動がつき抜ける。レッドたちは防御の姿勢を取ってしばしそれに耐えた――が、それが静まった、と思うや響いただんっ! と地面を蹴る音に、音の方を見て仰天した。 「ちょ……ブルーっ!?」 「ブルーさんっ、グリーンさんは敵じゃないよっ!」 「うるせぇっ!」 ブルーがヤオヨロアームをガントレットモードにしてグリーンを襲っている。それも全力フルパワーの殺る気満々モードだ。慌てて止めようとしたが、ブルーの勢いに跳ね飛ばされて果たせない――そこに、プロフェッサーの哄笑が響いた。 「はっはっは! 見たか、ヤオヨロジャー! 電波怪人ゼーノンは電波を吸収することで、人間を洗脳する電波を発することができる! それに我らドーガスの幹部、サードジェネラルが力を加えることでたとえヤオヨロスーツを着ていようとも関係なく、敵意を増幅させ殺意にまで高める電波を放てるのだ!」 「なっ……!」 「つまり、それだけブルーはグリーンを憎んでいた、ということになるなぁ……仲間同士で憎みあい、争いあうとは正義の味方が聞いて呆れる! この電波塔から全世界に電波を発信し、世界中を大混乱に陥れてくれるわ!」 「ぐぬぬっ……!」 「……みなさん、あの怪人と幹部たちの方をお願いします」 ブルーの攻撃をヤオヨロシールドで受け止めながら、グリーンが静かな声で告げる。 「えぇ!? って、セ……グリーンはどうするのっ!?」 「俺は、ブルーをどうにかします」 「ったって、一人でそんな……」 「……お願いします」 ブルーの攻撃を受け止めつつも、終始乱れのないグリーンの瞳。それを確認し、レッドはうなずいた。 「わかった。俺らは怪人と、サードジェネラルの相手をする」 「えぇっ、た……レッド、ほんとに……」 「なにしようとしてんのか知らねーけど、しくじんなよっ!」 叫んでレッドは戦闘員の群れの中に突っ込んでいく。イエローとシルバーもためらいつつもそれに続いた。 それをよそにブルーは「うぉらァッ!」と次々攻撃を繰り出し、グリーンは決意を宿した瞳でそれをひとつひとつ受け止めていく。サードジェネラルと激しく剣戟を繰り広げる、仲間たちの様子を目の端に捉えながら。 |
ガッガッドガッ、ズガガッガッ、ドゴガッ! ときおり次々湧き出る戦闘員に攻撃されつつも、グリーンはブルーの攻撃を後退しながらひとつひとつ丁寧に受け止めていった。グリーンの専用モード、ヤオヨロシールドは防御力ならヤオヨロジャー一。たとえブルーの攻撃といえど、防御に専念すれば受け止められないことはない。 戦闘員の攻撃はあえて無視する。ヤオヨロスーツの防御力は戦闘員レベルなら攻撃をほとんど防ぐ。そんなものにまで神経を回していては、とてもブルーの攻撃を防御できないのだ。 ドヒョウッ! ブルーの攻撃が、グリーンごと戦闘員たちを焼き払う。さすがにブルーの攻撃は強烈で、シールドで受け止めてもそれを突き抜けてダメージを与えてくる。ヤオヨロスーツの防御力を越えているのだろう、その攻撃は肌を焼き、体を痛めつけたが、グリーンにしてみればそんなことはどうでもいいことだった。 ブルーが洗脳されてしまったのは、間違いなく自分のせいなのだから。 「ごめんなさい……」 ブルーの攻撃を防ぎながら、頭を下げて謝意を示す。こんなことをしても、ブルーにはまったく意味のないことだとわかっていても。 「本当に、本当にごめんなさい……俺の、せいで。ブルーに、こんな、嫌な思いばかり、させてしまって……」 「ッ……てめェこの期に及んでうじうじ泣いてんじゃねェよッ!」 叫んでブルーはさらに強力な技を繰り出してくる。ブルーの技は広範囲に効くものが多い、グリーンと同時に周囲の戦闘員たちもまとめて薙ぎ払っていく。 「俺はてめェのそういうとこが気に喰わねェんだッ。いっつもいっつもうじうじうじうじ、鬱陶しいったらありゃしねえんだよッ! てめェだってそれなりに強えくせに、弱い奴の振りしてなにが楽しいってんだッ。馬鹿にすんじゃねえッ、自分の方が俺より強ェとでも言うつもりかよッ!」 ドガガガッ! 嵐のような攻撃がグリーンのシールドに叩きつけられる。グリーンはまたも瞳に涙が浮かびそうになるのを必死に抑えた。自分などに泣く資格はない。プロフェッサー・エイティエイトの言葉が正しいのならば、ブルーのこの言葉は間違いなくブルーの本心の一端なのだから、自分がすべて受け止めなければならないのだ。 「ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……」 「てめェッ、いい加減にッ……」 「本当に……駄目な人間で、ごめんなさい……」 「……んだとォ?」 次々繰り出される攻撃の勢いが少し弱まったような気がした。だがだからといって自分が許されるわけではない。グリーンは戦いの中でできるぎりぎりまで頭を下げて懸命に謝意を表した。 「俺は、本当に、駄目な人間、だから。いつも駄目なこと、ばかりしでかして、みなさんを苛つかせてしまう、ような人間、だから」 「駄目だから、しょうがないから許してくださいとでもほざくのかよッ、ふざけんじゃねェッ!」 「許してなんて、そんな偉そうなこと、言えないです。言う資格なんて、微塵も、ありません。だから、せめて、行動で、償いたいん、です」 「……あァ?」 一瞬攻撃の手を止めてこちらを睨みつけるブルーに、グリーンは視線を合わせ、できる限りの謝意を込めた視線を返す。 「俺は、本当に、いつもいつもみなさんに、迷惑をかけ続けている人間、だから。せめて、少しでも、みなさんの役に立つことを、したいんです。少しでも、みなさんがしてくれたことを、返せるようにって。俺なんかじゃ、足手まといになるってことはわかってるんですけど、それでも、せめて、少しでも……」 「………ッ!」 バイザー越しにブルーの瞳がぎらり、と光るのが見えた。 「…………っ!」 グリーンは周囲の様子をスーツの機能を駆使して探り、その位置≠ノ陣取った。ブルーはだんっ、と地面を蹴り、圧倒的なエネルギーをガントレットから爆発させる。 「この……ッ、クソボケタコがッ!」 どぉんっ! と氣≠ニ呼ばれるエネルギーの奔流が、すべてを打ち砕いて突進する。ブルーの最終奥義、秘拳・五龍殺。グリーンはそれをもろに受けて、スーツすらぼろぼろにしつつ大きく吹っ飛んだ。 ブルーはそれにもかまわずずかずかとグリーンに歩み寄って胸倉をつかむ。 「てめェ、いい加減にしねェと本気でぶっ殺すぞ。いっつもいっつも全力で働いてやがるくせになに抜かしてやがんだ! やることやってるくせにいっつもいっつもうじうじうじうじ、やることやってんだから胸張って――」 「ぎゃあぁっ!」 「へっ?」 ブルーがぽかん、とした顔になって(見えているのは目だけだが)悲鳴の聞こえた方を向く。そこでは電波怪人ゼーノンが、ブルーの最大奥義の直撃を受けて倒れようとしていた。 「馬鹿なっ……いつの間に、ゼーノンを攻撃できる間合いへ!?」 「……見落とされていた、だけです。気づかれないように、戦ってはいましたけど、俺たちは、動きながら、間合いを詰めていました」 グリーンがそう静かに告げると、エイティエイトも、なぜか仲間たちも絶句する。 「サードジェネラルという、強敵と、ヤオヨロジャーたちの戦いの方に、あなた方の神経がいっていることは、わかりましたから。だから、その間にゼーノンを倒せるよう、ブルーの攻撃の間合いに捉えられるよう、動いていたんです。強力な洗脳電波を出せるほどの怪人ということは、そちらの方に能力を取られて、肉体的な耐久力は低いのじゃないかって、思って」 「まさか……それでは、最初から!?」 「えと、はい。ブルーも、そういうつもり、だったんですよね? 洗脳、されてても、体がそういう風に、動いてましたし」 「……ッべっつにッ……そんなんじゃねェよ! ただ俺はお前を一回ぶっ殺してやりたかっただけだッ!」 「……はい、了解、です。でもそれでも、怪人が倒れたのは、事実です」 「へっへっへ、形勢逆転、ってやつだな。どうする? エイティエイト、サードジェネラル!」 「……チッ! ここは退くぞ、ジェネラル!」 「…………」 無言でうなずくジェネラルと共に、プロフェッサー・エイティエイトはぱちんと指を鳴らし、影の中に消えていく。そして同時に電波怪人ゼーノンが見る間に大きくなりだした。 「暴走かっ!」 『電波電纜電子ちゃん! 電気波動でフルゲッタウェイ!』 「ちっ……こうなったらっ」 「ヤオヨロギガントの召喚なんだろ。とっととやんぞ」 「そ、そうだけどっ……ブルー、お前もうちょい様式美重んじろよ! 前回までギガント召喚の時かけ声出すのも嫌がってたくせにっ」 「……うるっせェな! いいからとっととやるぞ! 来いっ、ヤオヨロレッグ!」 「ずりぃぞ先に一人だけっ……あーもう、カモン、ヤオヨロウイングっ!」 「こいっ、ヤオヨロアーマー!」 「召喚、ヤオヨロガーメント!」 「え、えと……ヤオヨロヘルム、来て、くださいっ……!」 自分たちのかけ声とともに、ヤオヨロエクイップたちが召喚され、ブレスレットが反応してそれぞれの操縦席に転送される。ヤオヨロジャーの面々は、全員即座に操縦レバーをぐいっと押し込んだ。 「合っ………体っ!」 キュウルルル、カシーン! カシーンカシーン! 毎度おなじみの行為だ、合体手順に遅滞はない。あっという間にヤオヨロジャー専用巨大ロボット、ヤオヨロギガントが誕生する。 『電飾伝統デンデンムシ! ビリッとナミッとメガヘルツ・ウェーブ!』 「……チッ、鬱陶しい奴だぜ。とっとと決めるぞ」 「だからそれ俺の台詞! 巨大ロボ内で決め台詞吐くのはレッドの仕事なんだって!」 喚くレッドを無視して、ブルーはじろっとグリーンを見た。グリーンは反射的にびくっと震えるが、ブルーはぶっきらぼうにぼそっと告げた。 「……剣はお前の方が慣れてんだろ。細かい操作は任せた。俺は氣を注ぎ込む」 「え、は、はいっ……」 「外すんじゃねェぞ。こんな奴相手にヘマしたら殺すからな!」 「はいっ!」 「……よし……いくぞ! ギガントソード! インフィニティ・エナジーフルバースト! ギガントソード、エクシードモードっ!!」 ギガントソードを召喚し、ブルーは一気に操縦桿を押し込んでギガントソードにエネルギーを流し込む。ギガントソードが輝き、激しく震えだす。グリーンは仲間たちと視線を合わせ、機を合わせつつ素早く操縦桿を操って一気に動かした。 『インフィニット・ギガント・スラーッシュっ!!』 ズッ、バァーッ!! 『う……あ、あぁぁーっ!』 どごぉぉん、と火花を散らしながら爆発する敵怪人に背を向け、ブルーはふんと鼻を鳴らした。 「ヘッ、雑魚がッ!」 「……だから決め台詞俺の仕事ー!」 |
「なるほど、電波怪人か……そんな奴を放っておいたら、とんでもないことになっただろうね。みんな、お疲れさま」 「おうっ」 「はーいっ」 ヤオヨロジャーの秘密基地。そこでヤオヨロジャー司令の速水がいつも通りに今回の事件を総括し、ヤオヨロジャーたちにねぎらいの言葉をかけるが、風祭は一人そっぽを向いていた。それを目に留め、速水がにっこり笑って言う。 「今回で、澳継くんもツンデレらしいやり方でセオくんを認めてくれたわけだし。これでヤオヨロジャーのチームワークは一気に向上だね!」 「……ッだそりゃあッ! そんなんじゃねェよッ、俺はただなァッ」 「うん。ただ?」 「……っどうでもいいだろうがそんなこたァッ! てめェらにゃ関係ねェッ!」 「うー、風祭先輩、やっぱりまだ僕らと仲良くしてくれる気ないのかなぁ……なんか、寂しいな、それって……」 「心配することはないよセデルくん、あれは単純に照れくさくてツンツンしてるだけだから。本当はセオくんが気弱でウジウジしていてもやることはやる男だっていうのをきっちり認識して、セオくんをちゃんと一緒に戦う仲間だって認めて内心すっきりしてるから。ツンデレだから表面には表さないけどね」 「そうなんだ? よかった!」 「………ッ勝手なことばっか抜かしてんじゃねェッ、てめェら――――ッ!!!」 「わ! 基地内で暴れるなよ、風祭先輩!」 「ごごごごごっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいーっ」 基地内で大騒ぎを繰り広げるヤオヨロジャーたちをにこにこと眺めつつ、速水は今回得た情報をまとめた書類を眺めた。 「……ルビアちゃん、この書類は僕と舞だけにしか見せてないね?」 「はい……あまり広めるべきじゃないんじゃないか、って思って」 「さすがルビアちゃん、賢明だね。とりあえず……この書類は、廃棄、と」 シュレッダーに書類を放り込んで、速水は小さく呟く。 「敵が僕たちの人間関係を把握している可能性――すなわち、ヤオヨロジャーの正体という最高機密が漏洩してる可能性なんて、知ってる人間は少ない方がいい」 ……一方その頃。 「……失態だな。サードジェネラル、エイティエイト」 「は……」 「申し訳ありません……」 スリーシックスは玉座から動かぬまま、右手のワイングラスを揺らした。それ以上責める言葉は発されなかったが、叱責を受けている二人は面罵されたかのように身を小さくする。 「怪人の耐久度を削りすぎたわねぇ。必殺技とはいえ、ヤオヨロジャー一人の攻撃で落とされるんじゃ実戦では使えないでしょう。世界中に電波を届けるためにはそのくらいでないと無理だったのはわかるけどねぇ」 スリーシックスのグラスに赤い液体を注ぎつつ、レディ・ツヴァイがため息とともにその豊満な肉体を揺らす。 「ま、しょーがないんじゃない? 怪人が肉体的に弱いから、わざわざ幹部やってるサードジェネラルくんが出てったわけだし。まぁ、作戦も、実行方法も、完璧とは言い難かったけどさ」 パッパー・ビーがチーズをかじりながら言うと、サードジェネラルはますます小さくなり、プロフェッサー・エイティエイトは悔しげに「く……」と呻く。それを気にした様子も見せず、パッパー・ビーはチーズを全部食べ終えると手を上げた。 「次は僕が行くよ」 「ほう。なにか考えがあるのか?」 「うん」 「ほう……お前のような子供じみた奴が立てた作戦が、どれだけの効果を発揮するか楽しみだな」 「ま、子供じみてるからわかることっていうのもあるからねー。ヤオヨロジャーの屋台骨を揺るがすくらいのことはやってみせるよ」 「ふむ。よかろう、お前に任せよう」 「りょーかいっ」 「……くく。次も楽しみにしているぞ、ヤオヨロジャー。お前たちがどれだけ、我に抵抗してくれるか、な……」 スリーシックスは喉の奥で笑い、黒檀の瞳でどこまでも続くように見える暗い天井を見上げた。 |
「えと、こんな感じ、なんですけど。いかが、だったでしょうか……」 「うん、いろいろ感想はあるけど、個人的にはセオくんがどんだけ自分を下に見てるかっていうのが気になるかな! 結局この話の中だと、セオくん成長してないしね! うじうじしてるのとか全然否定してないしね!」 「ちょ、速水、お前なっ」 「え、はい……それは、もちろん。俺は、いつもうじうじしていて、他の人から見れば本当に鬱陶しい存在だと思いますし……」 「え……」 「うん、当然のような卑屈発言ありがとう。他のところはどうかな? 前回はお約束戦闘とか文章でやると寒いって感想があったけど」 「うーん、今回はお約束あんまやんなかったからな……俺的にはちょっと物足りねーっつーか……」 「それでもちょっと不自然なところはあったけどね。普通の戦闘っぽい感じにはなってたんじゃないかとは思う。ただ、普通の戦闘をやるならわざわざ戦隊ものをやる意義があるのか、っていう考え方もあるんだけどね」 「ふむ、難しいところだな……」 「……というか。そうじゃないだろう! これはそれ以前の問題だろう!」 「というと?」 「僕が設定上は存在しているのに、今回も登場できなかったってことが問題なんだよ! 僕だって可愛い我が子と久々にいちゃいちゃらぶらぶしているところを全世界に発信したいのにー!」 「……それってなんか変態的な嗜好のような……いやいやそうじゃないだろう考え方が穢れてるぞ俺……」 「んー、まーいいけど。そんじゃ、次回は彼メインの話を予定しとこうか。でも暫定的なもので、来訪者の方々のメッセージ次第で変わりうる、ってことで」 『了解〜』 「なんでそうなる! ここまでやっといて僕ら関係の話放置とかあまりにも無残すぎるだろう!?」 「はいはい、それはあなたに限ったことじゃないってことで。じゃ、今回もお疲れ様でしたー」 『お疲れさまでしたー』 |