拍手ネタ決議『無限戦隊ヤオヨロジャー・3』
「はい、みんな集まったねー? それじゃー『今回の拍手小話どういう話にするか会議』始めるよー」 「へいへい」 「どういう話もなにも、決まっているだろう! 今回は僕が世界の誰より愛する子供たちを愛でる話だと……!」 「え、マジでそれに決定なわけ……?」 「ん〜………まぁ、基本そうなんだけどねぇ……」 「なんだい、なにか不満があるのかい?」 「不満っていうか……前回から今回までの間に、拍手小話に反応がなかったからねぇ。このまんまこの話を続けていいもんかどうか迷うところがあるっていうか……」 「(ムンクの叫びの顔)」 「またこの人は化体な顔を……」 「そんな……理不尽かつ非情かつ可能性が存在すること自体世界への冒涜な展開があっていいのか………!? ここまで引っ張っておいて僕たちの話だけスルーとか……! それはあまりに、あまりに無残すぎるだろう……僕は子供たちへの愛を表せる日を、その時だけを一日千秋の思いで待ち続けていたというのに……!」 「あー……別に引っ張ってたわけじゃないとか、スルーされるのはこの人たちの話だけじゃないとか、っていうかそもそも愛が重すぎるだろとかいう話はこの人にとってはどーでもいいことなんだろーな……」 「つーか、愛されてる子供たちの方が心配になるぜ。お前ら、この親父さんと毎日一緒にいて、平気か?」 「? 平気って?」 「いや、なんつーか、気疲れとかしねーかと思って」 「なんで? しないよ。ボクお父さん大好きだもん!」 「わたしも。お父さんがいつもわたしたちのことを大切に思ってくれるの、嬉しいです」 「うわぁ……いい子すぎる……」 「いやいい子というかこれはもはや父親が洗脳電波かなにかを放ってるとしか」 「失礼な! 僕が世界の誰より愛する子供たちに危害を加えるようなことをすると思うのかい!? うちの子たちが僕を好きでいてくれるのは、ひとえにうちの子たちが本当に誰よりこれ以上ないほどにいい子だから、そして僕が」 「あーはいはい言いたいことはわかったからとりあえず黙ろうか。……じゃー、逆らうのも面倒だし、今回はこの人に任せるってことにする?」 『異議なし〜』 「………っ! ふふ……ふふふふふ! ついに……ついにこの時がやってきたっ……!」 「? お父さん、なんか嬉しそうだね? どうしたの?」 「いや、お前は気にしなくていいと思うぜ。つーか、その方がたぶん幸せだ」 「そうなの? じゃあ気にしないねっ」 「……お前のそーいう性格って、マジいろんな意味で救いだよな……」 「で。具体的にはどういう風に話を展開させるわけ?」 「それはもちろん……」 「あ、ちょっと待って。前回僕がラストで前振りやったじゃん。それも絡ませてほしーなって思うんだけど」 「……ああ、そうか……そうだね。じゃあ、まずは……」 ………… ……… …… |
セデルリーヴ・グランバニアの朝はいつも、頬をむにむにと撫でられる感覚から始まる。 「朝だよ、セデル。起きなさい」 「むー……うー……」 セデルはしばらくその感覚に抵抗する。だって眠いしまぶたが重いし。でもその頬を撫でてくる感覚は、いつも優しくて暖かくて、自分の触られると弱いところを熟知しているので、どれだけ抵抗しても、結局はさして時間のかからないうちにセデルは陥落し、両の目を開けてしまうのだった。 「……お父さん、おはよう」 「おはよう、セデル」 いつも通りに目の前でこちらを見ていた、セデルの父アディムがにっこりと笑う。八百万間学園の理事長をはじめ、さまざまな役職を兼任しているアディムは、朝も仕事やらその準備やらで忙しいだろうに、毎朝欠かさず自分と妹のルビアを起こしてくれるのだ。いつも感じることだが、お父さんは本当に優しいな、と改めて思う。 今日はセデルが先に起こされる順番だったので、隣のベッドのルビアをアディムが起こしにかかっている間に、大きく口を開けてあくびをしながら洗面所に向かう。髪を洗い、寝癖を直して、制服に着替えて食堂に行き、朝食の準備をしているビアンカの手伝いをする。ビアンカはアディムの仕事の補佐をしているので、家政婦さんに家事をやってもらうことも多いのだが、朝ごはんは例外的にいつも自分で作ってくれていた。いつも家族みんなでご飯を食べれる時間は朝ごはんの時だけなので、ビアンカ自身の手で作った料理を供することにしてくれているのだ。 「お母さん、おはようっ! 今日のごはん、なに?」 「おはよう、セデル。今日はベーコンエッグサンドに野菜スープよ」 「やったぁ、大好きなやつ!」 といってもビアンカの作る料理でセデルの嫌いなメニューはないのだが、それでもセデルはうきうき気分で手伝いに入る。トーストを焼き、カップや皿を並べて、牛乳を用意し、と忙しく働いて、ルビアとアディムがやってきた頃にはトーストもベーコンも目玉焼きも野菜スープも、すべてほかほか湯気を立てながらテーブルの上にスタンバっていた。 朝の挨拶をして、四人揃って『いただきます』と声をかける。そして手早く大きめのトーストにベーコンと目玉焼きと野菜を挟み込み、それに特製ソースをかけてかぶりつきつつ、みんなでお喋りをした。 「セデル、ルビア。今日の予定はどうなってるかな?」 「えっとね、授業が終わったあとは課外活動だよ。ルビアもだよね?」 「うん……ちょっと調べておきたいことも、あるし」 「あらまぁ、あなたたち本当に毎日熱心ねぇ、その課外活動。あんまり遅くならないようにするのよ?」 「うんっ! 晩ごはんはちゃんとうちで食べるよ!」 「……うん。今日の給食、きっとあんまり食べられないし……」 「おや……ルビアがそこまで言うほど嫌いな給食というのは、なんなんだい?」 「あなた、また理事長の権限振りかざして給食のメニュー変えさせるつもりじゃないでしょうね?」 「ぎっくぅ! ……そんなことあるわけないじゃないかビアンカ、君は僕をなんだと思っているんだい?」 「ぎっくぅってなによ、ぎっくぅって!」 そんな風ににぎやかに会話を交わしているうちに、たいていルビアが時計の針に気づく。 「あ、お兄ちゃん、もうこんな時間」 「わ、ほんとだ。急がなきゃ!」 慌てて「ごちそうさま!」と叫び、部屋に戻ってランドセルを背負い、揃って玄関に向かう。 「セデル、ルビア、車を出そうか?」 「いいよー、家から学校ってけっこう近いし、走った方が早いもん。ね、ルビア」 「うん、そうなの。だから、そんなに心配しないでいいのよ、お父さん」 見送りに席を立ってきたアディムに、いつも通りに『行ってきます!』と声をかけ、「行ってらっしゃい」と微笑まれて家を出る。ルビアと足並みを合わせて学校まで走り(ルビアは実はけっこう足が速いので、さして苦でもないことだ)、学校に走り込んで席に着く。クラスメイトたちと挨拶やお喋りをしつつも、セデルの心は早くも放課後に飛んでいた。 課外活動――無限戦隊ヤオヨロジャーの、訓練及びミーティングに。 |
「でやぁっ!」 「っ!」 ヤオヨロアームを専用モードに変化させて、セデルとセオは激しく訓練場の一角で武器を打ち合わせていた。試合場と言われるこの一角は、武器が当たっても痛みを感じるだけで怪我をしないので、防護服でもあるスーツがなくとも武器を使った戦闘訓練をたやすく行えるのだった。 「おらァッ!」 「ふぅっ!」 隣の試合場では澳継と滝川が同様に刀と銃と拳を交わし合い、お互いを打ち倒そうとしている。ライはその向こうの訓練設備で、一人剣を振るっていた。 自分たち無限戦隊ヤオヨロジャーは、放課後には主にこうして一緒に訓練をしている。学園の地下に広がるヤオヨロジャーの秘密基地は総面積数平方キロメートル、学園の小・中・高の敷地とほぼ同じ面積を誇り、最先端の研究施設でもちょっとないような設備がいくつも作られているのだ。 その管理・補修は主にモンスターズ≠ニ呼ばれるアディムの部下たち(なぜか全員モンスターの着ぐるみ装着)がやっており、ヤオヨロスーツをはじめとしたヤオヨロジャーの装備の研究・開発もこの基地内で行っている。なんでも、ドーガスとの戦いの時も戦闘データを収集し、新しい装備の開発に役立てているらしい。 そして自分たちヤオヨロジャーのメンバー五人が集まるのは、司令室、ブリーフィングルームといった作戦会議室、それに更衣室やシャワールームといった厚生施設をのぞけば、主にこの訓練場なのだった。放課後は基本的に、誰が決めたのでもないが、全員訓練場に集まって激しい訓練を行っている。行けない時は連絡する、と(そういう規則があるわけでもないのに)決まっているくらい、それは自分たちの生活に密着した時間だった。 とりあえずの訓練を終えて、休憩を取って。用意されている飲み物を飲んで一息ついた頃、ふとライがこんなことを言い出した。 「そういえばさ、お前らって、どういう風にヤオヨロジャーにスカウトされたんだ?」 「へ?」 きょとんとするセデルたちに、ライは軽く頭を掻いて言葉を繋げる。 「いや、なんつーかさ。俺はぶっちゃけ、奨学金もらってる中で一番身体能力が高いからって、理事長にバイトみてーな感じでスカウトされたんだけどさ。学校で紹介してもらった場所でバイトしてるし、それと似たようなノリで。けど、お前ら別に金に困ってるわけでもねーだろ? なんでわざわざあんなカッコして恥ずかしー台詞言うのが義務付けられてる仕事やってんのかなって」 「はぁ!? なんだよライっ、お前あのスーツとか決めポーズとか嫌だったのかよっ!」 「や、嫌っつーほどでもねーけど……金もらってる仕事だし……まー正直なんでこんな振りまでやんなきゃなんねーのか意味わかんねーとは思ってるけど」 「バッカヤロー! 特撮ってのはなぁ……スーツと決めポーズがあってなんぼなんだよっ! わかりやすい振りとお約束、その制約の中で描かれるストーリーがいつの時代も子供たちを釘づけにするソウルフルな」 「あ、じゃあ滝川先輩は、スーツとか決めポーズとか好きなんだ」 セデルが口をはさむと、滝川は真剣な顔で大きくうなずいてみせた。 「あったりまえだろー!? セデル、お前は嫌いなのかよっ」 「え? なんで? ボクも好きだよ。だって、カッコいいもん!」 「っっっ……だよなーっ!」 「……もしかしてお前、自分で志願したのか?」 「はぁ? なに言ってんだよ、んなわけねーだろ? 正義のヒーローってなぁある日突然選ばれるもんなんだよ! 自分から正義のヒーローになるって決めてるってのもアリだけどな、それはやっぱり手本がいるとか明確な敵がいるとかそーいう非日常と一度は向き合ってねーと」 「じゃーどうやって選ばれたんだよ」 「……お前、自分で振った話なんだから少しはつきあえよな……。えーっとー、舞と速水に言われたんだよ。正義のヒーローにならないかって」 「あー、お前司令と博士とは元から知り合いなんだっけ」 「うん。だっから最初はめっちゃ驚いたぜー。えっお前らいつから正義の味方のサポート役に!? って。ま、それでも秒で『なる!』って即答したけどなっ」 「あー、だろーなー……セオ先輩は?」 「え? えと、俺は、理事長に、呼び出されて。ドーガスの情報と、俺たちに、なにを求めてるか、を書いた契約書を熟読して、決めました」 「ああ、契約書な。俺も読んだ。やったらややこしい文章ずらずら書いてあって読んでもいまいちよくわかんなかったけど。風祭先輩は?」 「……くだらねェこと思い出させんじゃねェよ」 低く、暗く、殺気すらこもった鋭い声。気の弱い人間なら震えだしそうなそんな声に、ライはあっさりうなずいてみせた。 「ああ、やっぱめんどくさいからよく読まないで適当にハンコ押したんだ」 「てめッ……なんでわかんだよッ!」 「いや、そりゃ普通わかるだろ。駄目だろ風祭先輩、ハンコ押す時はよく考えねぇと。将来詐欺に遭うぜ?」 「うるせェッ! 俺はッ……俺だってなッ……くそッ!」 顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった風祭に肩をすくめつつ、ライは次にセデルの方を向いて訊ねてくる。 「セデルは?」 「え? ボク?」 「ああ、どういう風にヤオヨロジャーに誘われたのかなって」 「えっと、お父さんに『セデル、ルビア。こんな課外活動があるんだけどやってみないかい?』って」 「ルビアちゃんも一緒にかよ! っつか小学生相手にあの人……」 「まぁ、あの人のこったから、ルビアだけ誘わないのは可哀想だとか思ったんだろうけどな……しっかし、あの親バカっぷりでよく曲がりなりにも命の危険のあるヤオヨロジャーにセデルたち誘ったよな」 「え、そう? お父さん、僕たちがやりたいって思ったことならいつだってちゃんとやらせてくれるよ?」 「まぁ、お前らの前ではそういうとこしか見せてねーだろうけどな……ん、セオ先輩?」 「え」 「どした? なんか考え込んでたみてーだけど」 ライに訊ねられ、考え込むようにうつむいていたセオは、慌ててぶんぶんと手を振った。 「いえ、あの、なんでもないです。大丈夫です」 「そっか?」 「はい、本当に。……ただの、妄想みたいな話なので」 セデルは後半はよく聞こえなかったが、セオが大丈夫だというのだから大丈夫なのだろう、と笑顔になって、またひょいとヤオヨロアームを振って専用モードに変化させつつ言った。 「じゃあ、そろそろ休憩も終わりにしようよ! 次は風祭先輩とやってみたい!」 「……ヘッ。俺を稽古相手に指名するたァいい度胸じゃねェか」 「じゃ、今度は俺が……そーだな、最初は滝川とでいいか、セオ先輩?」 「あ、はい……ごめんなさい……」 「なんでそこで謝んだよ」 「まぁそれがセオ先輩のキャラってやつだろ。へへっ、似たような戦法の奴と戦うなんてめったにねーからな、思いっきりやるぜ!」 「それはこっちの台詞だっての」 そして、また訓練が始まる。こういった、いわば乱取り稽古は、身体の負担も考えて時間の限界が決められていたが、対人戦というのはやはり否が応でも盛り上がってしまう。 自分たちの放課後は、たいていはこんな風にして過ぎていくのだった。 |
「ねぇ、君……セデルリーヴ・グランバニアくん、だよね?」 給食を食べ終えたあとの昼休み。今日は雨なので外で遊ぶこともできず、ぽっかり空いてしまった時間をどう使おうかと初等部校舎をセデルがうろうろしていると、ふいに後から声をかけられた。知らない声だったが、セデルはまったく警戒せずに、すぐに振り向いて問い返す。 「うん、そうだよ? 君は?」 「僕、エイトっていうんだ。今度この学校に転入してくることになったんだけど……君、初等部の生徒会長なんだよね?」 「うん」 「先生にね、僕の保護者が先生と話してる間、君に学校を案内してもらったらどうか、って言われたんだ。もちろん、君がよかったら、なんだけど……」 「うん、いいよっ!」 にっこり笑って即答したセデルに、エイトもにこっと笑って頭を下げる。 「ありがとう。セデルリーヴくんって優しいんだね」 「セデルでいいよ、みんなそう呼ぶもん。エイトくんは……あ、エイトくんって呼んでいいんだよね?」 「うん、もちろん。じゃあセデル、とりあえず昼休みの間だけ、よろしくね!」 「うんっ! じゃあまずはー、えっと、そうだなー、講堂かな! あそこはねー、学校行事とか、あと合唱コンクールの時とか使うんだよ!」 などと話しつつ、セデルは初等部校舎を隅から隅まで案内して回った。初等部生徒会長のセデルはこうした仕事は初めてではない。新しく来た友達にちゃんとこの学校のことを伝えられたらいいな、この学校を好きになってもらえたらいいな、と思いながらほとんど駆け回るくらいの勢いであちらこちら案内して回ったのだが、エイトはその勢いに一歩も引かず楽しげに自分のあとをついて回ってきた。 のみならず、駆け回りながらいろいろとうまいタイミングで「ねぇねぇ、あそこのあれはどういう時に使うの?」やら「ここ使う時って生徒はどんなことしてるの?」やら解説したくなる心をくすぐる言葉をかけてくれるので、セデルもついはりきって事細かに説明してしまった。それに「へぇ〜」「すごいね」「それでそれで?」とテンポのいい合いの手を入れてくれるので、ますます気合が入ってしまう。 普段ならそんなところまで案内しないような、自分のお気に入りの場所まで案内しても、エイトは興味深げに「ほんとだ、いい感じのところだね」などとうなずいてくれるので、セデルはエイトのことがますます気に入ってしまった。 「ねぇねぇエイトくん、エイトくんって何組になるの? ちゃんと転校してきたら遊びに行くよ!」 「え? どうなんだろう……まだそこのところは詳しく聞いてないんだよね」 「え? 何組に転入するかって最初に決まることじゃないの? 先生からも最初に教わらなかった?」 「うーん……僕、先生の話って基本的に聞き流すくせがついちゃってるから。あとで聞けばいいやと思って聞いてなかったかも」 「あー、エイトくん、それダメだよ! 先生はボクたちに知らないことを教えてくれる人なんだから、けいいをもってあいたいしないと! そうしないとちゃんとものを教えてくれないかもしれないじゃない! 話を聞き流すのは、この人は無駄なことしか話さないってちゃんとわかって、その無駄な話を嫌だけど聞かなきゃならないって決まってる時だけだよ!」 「ふぅん……つまり、基本的には話は聞いてあげないといけないんだね? 無駄なことしか話さない人でも」 「うーん、聞いてあげないといけないっていうか、無駄なことでも話したい、聞いてもらいたいって人のこと、ちゃんと相手してあげられるならしてあげた方がよくない?」 「まぁ、そうかもしれないけど。そういう風に教わったの?」 「え? ううん、自分でこうなんじゃないかなぁって考えたんだけど。あ、えっと、嫌だけど聞かなきゃいけない時には聞き流しなさい、っていうのは教わったんだけど」 「へぇ……誰に?」 「お父さん」 「お父さん? 仲いいんだ」 「うん!」 満面の笑顔で答えると、エイトはちょっと笑った。 「そんなに嬉しそうに仲がいいって言えるんだ。どんなお父さんなのか、ちょっと気になるな」 「ボクのお父さん? すっごく優しいよ! そんでカッコよくて、頭いいんだ! 強くって、間違ったこと絶対そのまんまにしとかなくって、どんな時でもボクたちの話ちゃんと聞いてくれて」 大好きなお父さんの話ができるのが嬉しくて、にこにこ笑みながら言うと、エイトはくすっと笑って訊ねてくる。 「そんな優しい人が、嫌な話は聞き流せ、って言ったんだ?」 「え、うん……えーっと、言ったことは言ったんだけど、なんていうか……」 「なんていうか?」 セデルはぽりぽりと頭を掻いて、姿勢を正して説明を始めた。これは、ちゃんとした姿勢で話さなくちゃならないことの気がしたのだ。 「えっとね、お父さんはね、ボクたちのこと、すっごく心配してくれるんだ」 「セデルたちのこと、好きなんだ」 「うん。だからね、他の人のことも大切だけど、その人たちとボクたち、どっちかを選べって言われたらボクたちを取るって。っていうか、そうしなきゃいけないんだって。どんな人間も、まず自分のことを考えて、自分の好きな人たちのことを考えて、それからその周りのよく知らない人たちを考えて……って、そうしていかないと、えっと……世の中がちゃんと回らないんだって」 「どうして?」 「えっと……みんながまず自分のことを考えないと、誰からも世界で一番大切にされてない人が出てきちゃうからだって。一番が自分じゃない人がいたら。そうしたら、その人が可哀想だし、その周りの人も困っちゃうって。その人のこと好きな人は悲しいし、嫌いな人はちゃんと喧嘩できないからって。だから、まず自分のことを一番に考えなさいって。それから、自分が好きな人たちを助けて、そんなでもない人たちはついでとか、放っておくの嫌だからとか、そういう気持ちで助けなさいって」 エイトは感心したように大きくうなずいた。 「そっかー。なるほどねー、いいこと言うよ、セデルのお父さん」 「えへへ、そうでしょ?」 「うん。よっぽどセデルのことが心配だったんだね。そりゃあこんなにお人よしの息子がいたら、そのくらい念押ししないと気がすまないよね」 「え」 エイトの言っていることがよくわからず、一瞬きょとん、とする――や、目の前にすい、と一輪の花が差し出された。 「? なに、こ」 「ごめんね。せめて、よい夢を」 「なに――」 最後まで言い終えることはできなかった。差し出された花からぽんっ、と紫色の煙が立ち上り、セデルは一瞬で眠りに落ちていた。 |
『セデルが誘拐されたぁっ!?』 司令室に呼び出されるや告げられた驚くべき事態に、声を揃えてしまったヤオヨロジャーの面々に対し、ヤオヨロジャー司令である速水は重々しくうなずいた。 「ああ。学園理事長のアドレスに向けて動画ファイルを添付したメールが十分前に送信されている。内容は一文だけ、『セデルリーヴ・グランバニアの命が惜しければ、無限戦隊ヤオヨロジャーの基地を一般生徒に解放しろ』。動画ファイルには椅子に座らされ、縛られ、眠っているセデルの様子が五分間撮影されたものが映っている」 「や……ヤオヨロジャーの基地を一般生徒に解放だとぉっ!? って……それって……えーと」 「……なんかまずいことでもあんのか?」 意味がよく理解できないらしい滝川と、そもそもそれがまずいことなのかどうかもわかっていない澳継に、速水ははあぁ、と深く息をつく。 「なッ、てめェ人のこと呼び出しといてなに偉そうに――」 「ヤオヨロジャーの機密部分が白日の下にさらされると同時に、隠密性がゼロになる。具体的に言うと、こっちの持ってるヤオヨロスーツとかの技術とかが流出する上、君たち隊員の素性も公開されることになる」 『はぁっ!?』 「んッだよそりゃあッ、こんなしょうもねェ部隊に入ってるなんぞなんで知られなきゃなんねェんだよッ!」 「ダメだろそりゃあ! 正義の味方が一般人に正体明かすのはラストエピソードに入ってからって決まってんじゃねぇかっ!」 「……それ以前に君たちの正体がドーガスに知られた場合、君たちは四六時中ドーガスに命をつけ狙われる羽目になるし、それどころか君たちの周囲の人たちもそれに巻き込まれる羽目になるからね。普通に考えてゲロヤバだからね、そういう常識的なことも少しは考えようね」 「……理事長は、なんて?」 「は? そりゃもう荒れ狂って『誘拐犯殺す!』とか八つ当たりまくったり『セデル、無事でいてくれ、セデル……!』とか一心不乱に祈ったりしてるよ。知ってるでしょみんな、あの人がどんだけ親バカかって」 『ああ〜……』 全員揃って、深くうなずく。理事長と会った回数というのは全員それほど多くはないが、それでも理事長の親バカさ加減はきっちり思い知らされていたのだ。 「……でも、セデルくんが誘拐されたのに、犯人の言う通りに基地を介抱しようとはしない、んですね」 「うん、まぁね。ヤオヨロジャーのことを考えてっていうよりは、セデルくんの安全を考えてってことみたいだったけど。いつまでに解放しろ、とかも書かれてないし、また連絡も来るだろうから、いきなり相手の要求を受け入れるのは危険が大きいから。わざわざヤオヨロジャーのことを持ち出したってことは、営利誘拐の類じゃないんだろうから、相手の要求をほいほい受け容れたらセデルくんの身が危ない、ってね」 「ヤオヨロジャーの活動のことを考えて、じゃないんだな……まぁそうだろうとは思ってたけど」 「つーか、あの人なんでわざわざセデルをヤオヨロジャーに入れたんだ? 危ないことになるのわかってたんだろうに。セデル、あの人の方からセデルとルビアちゃんを誘った、っつってたぜ?」 「ま、そこらへんはいろいろあるんだけどね……あの人はあの人なりに、単に親バカなだけじゃない、ちゃんとした親になろうとしてるのは確かだよ」 『……本当に?』 「ホントに。……今舞がルビアちゃん助手に、動画ファイル解析してメールの送り主を突き止めてってやってるところだから、じきに事態が動くとは思うけど……」 「あいにくだが、そう簡単にはいかないようだぞ」 ヤオヨロジャー内では博士≠ニ呼ばれている舞がずかずかと司令室に入ってくる。そのあとにひどく憔悴した風情のルビアがついてくるのにヤオヨロジャーの面々はそれぞれに気遣わしげな視線を投げかけたが、舞はそれをまるっと無視してずけずけと告げた。 「動画ファイルを一通り解析してみたが、撮影機材にとりたてて特記すべきものはない。市販のデジカメで撮影したファイルを、携帯端末から送信している。むろん、その送り主を全力で突き止めようとはしてみたが、どうやらこいつは携帯端末をメールを送るためだけに使い捨てにしたようで、メールを送ってきた場所はわかるが、送った端末はすでに存在していない……というか、破壊されているのだろうな」 「よくそんなことまでわかんな……」 「へへっ、舞は天才だかんな、特にコンピューターのことにかけちゃ。……えっとつまり、相手の情報がわからない、ってこと?」 「ああ。動画ファイルも徹底的に解析してみたが、肉眼で見て取れる以上の情報は手に入らなかった。音声データは音声そのものが、撮影者の呼吸音すら存在しないし、画像データも手がかりになるようなものはまるでない。せいぜいがセデルの体に傷がついた様子がなかった、つまり抵抗する気がなかったかその余裕がなかったかということぐらいでな」 「余裕って……あいつまだ小学生だけどけっこうやるぜ?」 「どんな人間でも不意を打たれればもろい。人間の身体というのは脳に少し衝撃を与えられただけで意識を失うようにできているのだからな。ともかく、この犯人は、完全防音の密室に、手がかりになるような情報を全力で排除してセデルを閉じこめ、デジカメを設置し撮影し、あらかじめ準備しておいた使い捨ての端末を使って理事長にメールを送った。それだけ用意周到な奴が、端末の始末をはじめとした手がかりを簡単に見つけられる場所に残すとは思えない。今私に言えるのは、口惜しいがその程度のことだ。事実、初等部にいたはずのセデルの目撃証言は昼休みから途切れているのだからな」 『………………』 その場に、しん、と沈黙が下りた。 「……ん……」 セデルは重い頭を振りながら、ゆっくりと目を開けた。なんだか体の節々が痛い。というか、あちこちの皮膚も痛い。なにか硬いものに擦れてでもいるような―― 「おっはよー」 突然聞こえた明るい声にそちらを向き、目を見開く。目の前に、セデルの見たこともない顔があった。 それはピエロだった。白粉をべったり塗りつけた真っ白い顔に、どぎつい色で描かれた目、鼻、唇。下の顔がどうなってるかなんてさっぱりわからない。そんな顔が、とりあえず見た目には笑顔に見える顔が、すぐ目の前でにこにこと言う。 「この姿でははじめまして。僕はパッパー・ビーっていうんだ」 「……そうなの? はじめまして……」 まだ目覚めきっていない頭を下げようとして、気づく。体が動かない。セデルの体は、ぐるぐるに縛られた上で、椅子に結わえつけられているのだ。 「え……え!? これ……なに!?」 「ごっめんねー、セデルくん。僕、君を誘拐させてもらっちゃったんだ」 「え……なんで?」 きょとんとして問うと、パッパー・ビーと名乗った相手は、くすりと笑って指を立ててみせた。 「まず、君がすっごくお人よしのいい子だから」 「ええ? ボク、そんなにいい子?」 「もっちろん、世界でも有数なんじゃってくらいにね。そして次には、君がアディム理事長の息子さんだから」 「えぇ? だからってなんで誘拐する」 「最後に、君が無限戦隊ヤオヨロジャーの一人、ヤオヨロイエローだから」 「え――」 セデルがぽかんとすると、大きく描かれたパッパー・ビーの唇がにぃ、と吊り上る。 「僕は実はドーガスの幹部なんだよ。そして変装して君のことをさらった。君に学校案内をしてもらった、エイトって転校生――あれ、僕なんだよねー」 「ええっ!? だって……体の大きさがぜんぜん……」 「そこらへんはドーガスの秘密技術で。僕としてはさ、基本的にアディム理事長を動かしたかったわけ。ヤオヨロジャーのスポンサーは――ヤオヨロジャーを動かしてるのはあの人でしょ? だからあの人がもうヤオヨロジャーやーめた、って言ったらヤオヨロジャーは動けない」 「お父さんはそんなこと言わないよ!」 「普段なら言わないだろうね。でも、可愛い可愛い、世界の誰より愛しまくってる我が子の命と引き換えだったら?」 「…………!」 セデルは愕然として、パッパー・ビーを見つめた。パッパー・ビーはあくまで笑顔の化粧のまま、こちらをじっと見つめている。 しばしじっとその目を見つめて、おそるおそるセデルは問うた。 「なんで……そんなこと、するの?」 「ん? んー、そうだねぇ。うちの大将がヤオヨロジャーを負かすことをとりあえずの目的にしてるからかな?」 「そうじゃ、なくて。……なんで、パッパー・ビーさんは、誘拐とか、するの?」 「うーん、そーだねー。それが有効だと思ったから、かな」 「……ゆうこうだって思ったら、悪いことでも……するの?」 なんだかひどく悲しい気持ちになりながら問うと、パッパー・ビーは頭をぽりぽりと掻く。セデルは泣きたくなって、しゅんとうつむいてしまった。だって、パッパー・ビーは、エイトは、自分に、ありがとうって言ったのに。誘拐する時にさえ、ごめんねと謝ってくれたのに。 それなのに、ドーガスだなんて。今までセデルは、ドーガスはみんな、悪い奴らなんだと思っていた。悪いことしかしない奴らなんだと思っていた。実際今は誘拐されている。 でも、あの時は、学校を案内した時は。エイトも、確かに、本当に。楽しそうって言ってもいいくらいに、優しく笑ってくれたのに。 「……君って、本当にいい子だよねぇ」 しみじみと言われ、セデルは顔を上げた。 「え……そ、そう?」 「うん。だからさ……」 がっ、と顎をつかまれた。ぐい、と持ち上げられ、口を開かされる。 「すっごく、ひどいことしたくなるなー、僕」 「ぐ、んぐ……!」 「真っ白な雪景色ってさ、そのままそっとしておきたいって人もいるけど、ぐちゃぐちゃになるくらいその上を駆けまわりたいって人もいるよね? 僕はどっちかっていうとそっちみたいでさ。君の心がぐちゃぐちゃになるくらいのことして、それでも君はそんなにいい子でいられるのか試したいっていうかさー」 口の中に指を突っ込まれ、舌をつかまれた。引き抜かれる、と反射的に思って、思わず悲鳴を上げる。 「お、う、ふぁ……!」 お父さん、助けて……! ――と回らない舌で反射的に声を上げた、と思うや、セデルはかすかに、遠くで誰かが声を上げるのを聞いた。 『………っ!』 え、と思わず目を見開く。この声は。よく知っている、生まれた時から知っているこの声は。 その声はどんどん近づいてくる。自分たちの方へとやってくる。自分の声へ応えて、自分の方へまっすぐに―― どっごがおぉぉん! という音を立てて、背後の壁がぶち割れた。コンクリートの相当でかい破片が吹っ飛び、がどごんがどごんと音を立てて転がる。 不自由な格好で振り向いて、セデルは思わず目を見開いた。そこに立っていたのは、いつも通りのスーツ姿で、黒髪の、自分のよくしっている頼もしい姿―― 「お父さんっ!?」 |
アディムははぁはぁと荒い息をつきながら、セデルを見つめる――そして、その表情が固まった。 「セデル――――っ!!!!」 セデルですら目で追えない速さでアディムはセデルに向け突っ込んできた。セデルの口に指を突っ込んでいたパッパー・ビーはさっと身を退き、アディムは閃光のような早さで腕を振るう――と、セデルを縛っていた縄がぷつぷつっと切れる。 え、と驚いていると、アディムがすい、とセデルに背を向け、静かな口調で告げた。 「セデル、大丈夫かい。怪我はないかい」 「う、うん……」 「じゃあ、少し下がっていてくれるかい」 「え、なんで?」 「……セデルを傷つけた奴に、ちょっとお仕置きをしなくちゃならないから」 「え……」 セデルは目をぱちくりとさせた。お仕置きって、自分はそんな大したことをされてはいないのに。第一、相手はドーガスの幹部なのに、ヤオヨロスーツもつけてないお父さんが―― と言いかけて、途中で言葉を止めた。アディムの背中から、セデルも思わず一歩下がってしまうほどの強烈な覇気が感じられたからだ。 「アディム理事長か。ここをどうやって嗅ぎつけわけ? っていうか、どうやって生身でコンクリの壁割ったの?」 パッパー・ビーは油断なくこちらと間合いを取りながら、すぅ、と体勢を低くしつつ言う。それに対しアディムは、けんもほろろを形にしたような声音で答えた。 「それが、君になにか関係があるのかい? これからお仕置き≠ウれる君に」 聞いたことのなかった声音に、セデルは思わずびくっとするが、パッパー・ビーは少なくとも表面上は動じはしなかった。 「なるほどね……やっぱりそうなんだ。聞いてるよ、アディム理事長。あなたはうちの大将のご同類≠セって」 「…………」 「もしかして、ヤオヨロジャーを作ったのもそのせいじゃない? あんたのありあまる力を、少しでも社会に還元するために。そして疎外されないようにするために。可愛い可愛い子供たちをヤオヨロジャーに勧誘したのは、自分の力を使って少しでも安全な環境を作り出すためと、自分の力を恐れられないように――」 パッパー・ビーが全部言い終わるまでに、アディムはどずんっ、と地面を蹴った。目にも止まらぬ速さでパッパー・ビーへと迫り、拳を打ちつける。 だがパッパー・ビーもさるもので、どこからともなく取り出したブーメランをいくつも放ち、後方へと飛び退りながらアディムの首を狙う。部屋はそれなりの広さがあるが、ブーメランを投げるには狭すぎるだろうに、そんなことなど感じさせない疾風のような動きだった。その上ブーメランには鋭い刃がつけられており、当たれば怪我をするどころか首を落とされかねない代物だ。 だが、アディムの動きはそんなものなど完無視だった。瞬時に間合いを詰め、ずんっと足を踏み出し、どごっ、とパッパー・ビーの腹に拳を叩き込む。 「ぐっ……!」 「……まさか、こんな一撃ですむと思っているわけじゃないだろうね?」 今なんかぼぎって音がしたような、というかあれは骨が折れる音だったような、とおろおろしているセデルの前で、パッパー・ビーはげほっ、と血を吐きながらも笑ってみせた。 「やっぱり……あなたはうちの大将のご同類≠セよ」 「…………」 「それが普通の人の姿をして、人のふりをして、楽しいの? そんなスーツ姿で、窮屈だと思ったりしないの? 子供を作って、可愛がって、それが自分の本当にしたいことなの?」 「……そんなことは、どうでもいい」 アディムはまた一歩、ずんっと音を立てて踏み出す。 「そんなことはまったくもってどうでもいいことだ。今の僕にとって重要なことは、ただひとつ」 「へぇ?」 「うちの可愛い可愛い可愛いセデルをさらった落とし前は、しっかりつけてもらう―――!」 ぎゅんっ、と空気を唸らせながら拳が迫る――それをパッパー・ビーは大きく跳び退ってかわそうとするが、そうして間合いを離すことすら許さずアディムはさらに閃光より速い一歩を踏み出す―― と、どんがらがっしゃーん! という音を立てて、誰かが部屋の中に入ってきた。セデルは思わず目を見開く。アディムほどではないが、聞き慣れた足音、感じ慣れた気配。それらはいっさんに部屋の中に突入し、自分へと駆け寄ってくる―― 「セデルっ! 無事かっ!」 「ッたく、あっさりさらわれてんじゃねーよッ、このタコ助!」 「あ、あのっ、大丈夫、ですか……?」 「……おし、無事みたいだな。ほっとしたぜ」 セデルは思わず目を見開き、スーツはスーツでもヤオヨロスーツに身を包んだ四人を見つめ、叫んだ。 「みんな!」 |
「おう、無限戦隊ヤオヨロジャー、ただいま参上だぜ! ……っつか、お前をさらった奴は、どこだ?」 「え、えーと、それは……」 言いかけるより早く、どがっごぉん、という音を立てて壁が割れた。アディムの拳を受けたパッパー・ビーが、部屋の壁を突き破って吹っ飛んだのだ。 「げ! あれ……理事長!?」 「ッつか、なんで生身であんなことができんだよッ!」 「……あの人、マジで人間か?」 「え、えーと……」 セデルは慌てつつも、とりあえず仲間への説明より先にアディムを止めなければ、と駆け出しかける。が、その腕をセオがつかんだ。 「セデル、くん。危険な場所に行く時は、とりあえず、スーツを……はい、君のブレスレット」 「あ、ありがとう! よく見つけられたね?」 「ルビアちゃんが、セデルくんはいつも、ブレスレットを鞄に入れっぱなしにしておくって……」 「ったくよー、いっつも嵌めてろよなブレスレットくらい。そのせいで発信機でも居場所がわかんなかったんだぜ」 「そ、そうなんだ、ごめんなさい……発信機なんてついてたんだ、これ」 セデルは急いでブレスレットを身に着け、ポーズを取り、大きな声で叫んだ。 「インフィニティ・チェーンジっ!」 「待ていっ!」 「誰だっ!」 もはや人のいない廃倉庫の立ち並ぶ中、争う二人に、屋根の上から声がかけられた。その声をかけた五人の人影は、屋根の上でびしっとポーズを取って、大きな声で叫ぶ。 「バンダナの赤は闘志の証! 無限に燃えるぜ正義の炎――ヤオヨロレッド!」 ババーン! 「………手甲の青は闘気の徴、無限の敵にも容赦はしない、ヤオヨロブルー……!」 ビシューン! 「しっぽの黄色は希望の光! 無限の絶望も照らしてみせる――ヤオヨロイエロー!」 ズバーン! 「サークレットの緑は慈愛の象! 無限の恩情で痛みを癒す――ヤオヨログリーン!」 キラーン! 「……瞳の銀色は仁義の印! 無限の友を背負いて護る――ヤオヨロシルバー!」 シャリーン! 『無限戦隊ヤオヨロジャー、五人揃ってただいま参上!』 ドッゴォォン! 背後で名乗り上げの際に出てくる花火が爆発する――が、階下の二人はそれを無視して争いあっていた。 「ちょ、ちょっとちょっと、ちょっと待てっ! せっかく正義のヒーローが名乗り上げてんのにそれ無視するとかどーいうことだよ!?」 「こっちとしては反応したいんだけどね……この人が見境なく攻撃してくるせいでねっ!」 言いながらパッパー・ビーは跳び退りつつブーメランをいくつも放つが、 アディムはそれより速く間合いのうちに飛び込んで攻撃をしかける。その速さははっきり言って人間業ではない。 その表情には殺気が満ち、というかむしろ鬼気とでも言いたくなるようなものが満ちていて、セデル――イエローは思わず、泣きそうな声で叫んでしまった。 「お父さんっ!」 「…………セデル?」 動きが止まった。それに少しだけほっとして、それでもたまらなくて叫び続けてしまう。 「お父さんっ、なんでそんなことするのっ!?」 「……セデル……いや、あの、だってこれは」 「ボク、なんにもされてないよっ! そりゃ、誘拐はされたけどっ、骨が砕けるくらい殴るようなことは、絶対されてないっ!」 「いや、その、だからその」 「だから……お父さん、そんなのやめてよ。いつものお父さんに、戻ってよ。そんな……」 泣きたくなるのを必死に堪えた声で、それでも必死に前を見て、言う。 「そんな悲しそうな顔、しないでよ………」 「……セデル」 アディムの動きが止まり、ひどく切なげな顔でこちらを見る――そこに、背後からパッパー・ビーの放つブーメランが襲いかかった。 「お父さっ……!」 がきがきぃんっ! 「……親子の語らいを無視して攻撃しかけてんじゃねーよ、空気読めねぇ奴だな」 「つーか、親子とかそういうの関係なく、人が話してんのに攻撃しかけてくるとかなに考えてんだ」 銃形態のヤオヨロアームでブーメランを撃ち落としたレッドとシルバーがふんっ、と胸を張ってみせる。イエローは思わず二人に抱きついてしまった。 「滝川先輩っ、ライ先輩っ、ありがとうっ!」 「ちょ、おま、抱きつくなって! 危ねぇぞっ」 「大したことしてねーんだから、んなひっつくなって!」 「……やーれやれ、参ったなぁ。ガチンコに持ち込めば、どうにかなると思ってたんだけど」 ピエロ姿のパッパー・ビーは、ひょいと跳んだ、かと思うと倉庫の上にまで飛び上がり、相変わらずのピエロ姿でにんまりと笑う。 「想像以上の化け物だね、アディム理事長は。うちの大将とご同類なだけのことはある」 「なっ……」 「……てめェ、なに抜かしこいてんだ?」 「お父さんは、化け物なんかじゃないよっ」 「そう? 今のを見てもそう思うわけ? ……なら、調べてみるといい。このアディム理事長が、なぜヤオヨロジャーを作ったかをね」 「え――」 「さて、置き土産でもしておこっかな。出てこい、クックール!」 「クッククー!」 銀色の毛を生やした鳥型の怪人が、パッパー・ビーの影の中から姿を現した。と思うや、パッパー・ビーは自分の影の中へと姿を消していく。 「あっ、待ちやがれこらっ」 「悪いけど、待たないよ。こっちを追いかけたいんなら、まずはこいつを倒してからにしないと、街に被害が出るよ?」 「くっ……くそったれ、一気に決めるぞ!」 「うんっ!」 イエローはヤオヨロヘヴンソードを抜き、クックールに斬りかかる。クックールは口から真空波を吐いてくるが、それを素早くかわして体をぶった斬った。 「クックー!?」 「ごめん、だけど――こんなところで止まってられないんだ!」 そうだ、自分は強くならなくちゃいけない。もう二度とお父さんに心配をかけないように。誰にも害されないように。 お父さんにあんな悲しそうな顔を、にどとさせないために。 全員で攻撃して、クックールをあっという間に追い詰め、ヤオヨロキャノンからインフィニット・シュートを放つ。巨大化したクックールに、ヤオヨロエクイップを召喚し、合体させてヤオヨロギガントの姿になり立ち向かう。 「ギガントソードっ! インフィニティ・エナジーフルバースト! ギガントソード・エクシードモード!」 叫びながら操縦桿を動かし、クックールにとどめの一撃を放つ―― 『インフィニティ・ギガント・スラーッシュ!!』 ずばぁっ、と斬り裂かれたクックールは、呻き声を上げたかと思うと眩しくなるほどの火花を放ちながら爆発する。それを見つめながら、セデルは誓っていた。 「……もう二度と、負けないぞ」 「だから決め台詞はレッドの役目だってのにー!」 |
「えっと、つまり……ルビアがボクのこと、見つけてくれたの?」 「えと、あの……うん……」 「お礼言っとけよー、セデル。理事長のメルアドにメッセージが来たってことは、ヤオヨロジャーの秘密がどこかから漏れたってことだって考えて。どこから漏れたかとかを、それまでに進めてた調査を材料に推理して。そこからたどっていって、聞き込みもして、あそこにお前がいるって気づいたの、全部ルビアちゃんの功績なんだから」 「そうだったんだ……ありがとね、ルビア。すっごい助かっちゃった!」 「う、うんっ!」 司令室、いつものブリーフィングの時間。セデルの言葉にこくこくうなずくルビアを微笑ましげな笑みで眺めつつ、滝川が首を傾げる。 「けどさー、なんで理事長は俺らがあそこにたどり着く前にもういたんだろーな? しかもドーガスの幹部とガチで殴り合ってたしさー」 「親の勘、だってさ。殴り合えてたのは……子供をさらわれた親だったらそのくらいして当然だ、とか言ってたけど」 「……はー。むちゃくちゃだなー、あの理事長。っつーかさ、生身でドーガスの幹部と渡り合えるとか、もー理事長一人でいいんじゃね? ってノリじゃん」 「……そんなこと、ないよ」 「へ?」 セデルはあの時のことを思い出し、小さくうつむいた。だって、あの時、アディムは。 怒りに満ちて、それを力で相手にぶつけながらも、確かにひどく、悲しそうだったのだから。 ……一方その頃。 「なるほど、な……アディム理事長が、そう動いたか」 「うん。あちらさん、理性働いてるようで、実はちゃんとした理性とかあんまりないみたい。子供に攻撃されただけであっさり揺らいじゃう、みたいな」 いつものようにワイングラスを揺らすスリーシックスの前で、パッパー・ビーは肩をすくめて言う。その体には包帯が巻きつけられ、薬が塗ってあったが、それ以前に血を吐くほどの怪我がほとんど影響していないように見えた。 「向こうがそう来るとなると……こちらもそれに対応して動いた方がよいのでは? いっそヤオヨロジャーは無視し、理事長本人に」 「ばっかねぇ。それじゃ楽しくないじゃないの。あたしたち――ボスがなんのために、ドーガスなんて組織を作ったと思ってるの?」 「な……」 「さて、順番から言うなら、次はあたしの番ね」 すい、とスリーシックスのグラスに注いでいたワインを置き、レディ・ツヴァイはサードジェネラルとプロフェッサー・エイティエイトの脇を通り抜ける。 「む……偉そうなことを言っているがな、勝算はあるのか」 「さぁ? だけど――」 楽しげに笑いながら、手につかんだ写真をぴんと弾く。 「この子たちと遊べるのは、そう悪くないわね」 ヤオヨロジャーの素顔を移した何枚もの写真。その一番上には、銀髪の、整った顔立ちの少年が、食堂で懸命に働いている姿が映っていた。 |
「……ふむ。まぁ、こんなところかな。本当ならもっともっともっと、最初から最後まで怒涛の勢いで僕の愛を炸裂させるつもりだったんだが」 「『炸裂させるつもりだったんだが』じゃねーよっ! なんだよこの展開、前回までと全然違う設定が生えてきてんじゃん! これじゃーレッドが主役じゃなくなっちまうだろー!」 「主役の座はどうでもいいんだよ。どうでもいいからもっともっと子供たちへの愛を表したい! 今回ほどとは言わないが、愛を表すため少しでも出番を」 「なに抜かしこいてんだこの若作りおっさん……!」 「さっきはごめんねー。本当はあんなこと思ってないんだけど、台本に書いてあったからさー」 「うんっ! もちろんわかってるよっ、だってなんかいろいろ言われたけど、目が優しかったもん!」 「そっかー。君、ホントにいい子だねー」 「え、そう? えへへ」 「のほほんと話してんじゃねーよっ! ちくしょー、次からの展開どーしよー……」 「……っていうか、むしろこれをいつまで続けるかを考えるべきなんじゃねーのか? もう年度の残り時間、三分の一だぜ?」 「むぐっ……いや、なんとかする! なんとかして話全部入れる! 少なくとも次回のお前の話と最終話はちゃんとやる!」 「あんまでかい口叩かない方がいいと思うけどなー。まぁ、とりあえず、次回の話は……反対意見が出なければ予定通りに、ってことで。お疲れさまでしたー」 『お疲れ様でしたー』 |