「くっくっく……これがシスプリの総帥か。まったく手間をかけさせおって」 強烈なロサンゼルス訛りの英語でそう笑う敵司令官を、兄は渾身の力をこめて睨みつけた。この唾棄すべき人でなしを。 兄の単独で奇襲しても充分敵を殲滅できる、という見込みは間違っていなかった。反重力フィールドを使用したシスプリ号の装甲を現行の兵器で貫くのはほぼ不可能だ。 豊富に用意されたシスプリ号兵器で次々と敵兵器を破壊しつつ、局地地震発生装置の安置されている部屋へ突き進んでいたところ――目の前に、縛り上げられて泣き叫ぶ子供に銃を突きつけたこの男が現れたのだ。 「この子供を殺されたくなければ降りてこい」 そう言われた兄は、奥歯を噛み締めながらもシスプリ号から降りずにはいられなかったのだ。 「くくっ……しかし馬鹿な奴だ。アマチュアだな。見も知らぬ人質の命を助けるために自分の命を捨てるとは」 「…………」 「さて、お前をどうしてくれようか。愚かなシスプリの総帥の身代金を、シスプリのお嬢様方はいくら支払ってくれるかな? シスプリの解散、志須田財閥の解体、それに加えて我らが(ピー)国への恭順くらいは引き出せそうだな」 「…………」 そんなことさせるものか、と思いつつも、拘束され兵士に十重二十重に囲まれているこの状況ではそんなことを言っても説得力がなさすぎる。このままじゃまずい、なんとかして脱出しなくては、と思うもののそのなんとかする方法が思いつかない。 このままでは猛烈にまずい。そろそろ妹たちが目覚める頃だ。もしあいつらが、自分が囚われていることを知ったら――― 「し、司令官んんんん!」 一人の兵士がばたばたと走りこんできた。司令官が顔をしかめる。 「何事だ!」 「シ、シスプリが……シスプリが来ましたぁぁぁっ!」 「………なにぃぃ!?」 『お兄ちゃん(以下略)―――!!!』 外部スピーカーから大音響の叫び声を放ちながら、凄まじい速度で、立ち向かうもの全てを凄まじい早さで破壊しつつ、シスプリ号&エルダー・ブラザー号はこちらに接近してくる。 司令官は半狂乱になりつつ喚き散らした。 「馬鹿な! 総帥がここにいるというのになぜ攻めてくるのだ!? あいつらは兄命ではなかったのか!?」 兄ははー、とため息をついた。こいつはやっぱりあの妹たちの恐ろしさが微塵もわかっていない。 「確かにあいつらは俺が……その、大好きだし。俺のためならどんなことでもしてくれると思うさ」 言いながら少し照れたが、今はそんな場合ではないと冷たい視線で司令官を睨む。 「だけど、だからこそ。俺を人質にとっても無駄なんだ。なんとしても助けなくっちゃって想いが先にたって、周囲も思考も常識も見えなくなっちまうんだから」 「うう……馬鹿な……馬鹿な……!」 しばし唸っていた司令官は、兄を立ち上がらせると銃を突きつけた。 「来い!」 そう言って部下を引き連れ兄を引きずって、どんどん近づいてくるシスプリ号&エルダー・ブラザー号の前に立った。兄を前に突き出して、頭に銃を突きつける。 「お前ら、見ろ! お前の最愛の兄の命が惜しくば―――」 『お兄ちゃん!』 『お兄ちゃま!』 『あにぃ!』 『お兄様!』 『おにいたま!』 『兄上様!』 『にいさま!』 『アニキ!』 『兄くん……!』 『兄君さま!』 『兄チャマ!』 『兄や……!』 『なにをしてるのよそこの下郎中年―――――!!!』 そんな叫び声が聞こえたかと思うとどっごーん! と音がして、周囲にいた司令官&部下たちが吹っ飛んだ。 シスプリ号にもエルダー・ブラザー号にも標準装備されている、反重力砲による遠距離射撃――それがすべてを吹っ飛ばしたのだ。 当然、そんな強烈な射撃の余波をすぐそばにいた兄が受けないわけがなく――― 兄はくるくると宙を舞った。こりゃ下手すりゃ死ぬな、と頭のどこかで冷静に思いつつ受身を取ろうとするがなにせ体がくるくる回転しているのだから思うようにいかない。 と――その体がぽすん、と柔らかいものに包まれ止まった。これは…… 『お兄ちゃーん(以下略)! 大丈夫ー(語尾変化略)!?』 「………ああ」 凄まじい速さで飛んできた兄キャッチ用のクッション付きネット。これまでも何度かそのお世話になったことのある兄は、力なく笑んで手を振った。 きゃあきゃあとかしましい妹たちの声が聞こえる。見てみると某国基地が完膚なきまでに潰されているのが見えた。死傷者を極力出さないようにしようという兄の希望は潰えたわけだ。 とりあえず自分以外のことは気にしない妹たちに、世界ととりあえず基地にいる人々の命を救うため、兄は怒鳴った――― 「可憐花穂衛咲耶雛子鞠絵(息継ぎ)白雪鈴凛千影春歌四葉亞里亞っ!」 |