エピローグ
「お兄様、この水着どう? お兄様に喜んでいただけるように選んだの……フフv どう、ドキドキする?」
「お兄ちゃん、可憐と一緒に泳ぎましょ? 可憐お兄ちゃんと一緒に泳げるように頑張って練習したの!」
「あにぃ、ジェットスキーやろうよっ! ここ波が静かだからやりやすいよっ!」
「おにいたま、おにいたま、ヒナと一緒に砂のお城作ろっ! すっごく、すっごくおっきぃのー!」
「あーはいはい、わかったわかった、順番にな……」
 ことが終わり。兄妹たちはエジプト海辺の別荘に来ていた。
 局地地震発生装置もあの砲撃で消滅しただろうし(実は妹たちが回収してしまっているのだが)、あのあと(主に兄が)必死の救出作業の結果死人は出ずに住んだ。事件が無事解決してラッキーラッキー、さぁ帰ろうと兄は言ったのだが。
 妹たちに恨みがましい目で見られた。
「お兄ちゃま……花穂たち、すごくすごく心配したんだよ?」
「兄君さま……私たちを置いていってしまいながら、それはひどいと思います……」
「にいさま、今回は少しくらい姫たちに謝ってくれてもいいと思いますの」
「……兄や、亞里亞たちの、お願い、聞いて……? くすん」
 そしてわかったわかったどうすればいいんだと全面降伏した兄に、妹たちはこう言ったのだ。
『私たちが満足するまで一緒に遊んで!』
 ……というわけで兄はここ一週間、十二人の妹に囲まれながら、一日中遊んで勝手に用意してくれる超高級料理を食べて超高級な部屋の超高級なベッドで眠るという、ブルジョワ生活を送っているわけである。
 根が庶民の上苦学生の兄としては、とっとと帰ってバイトに精を出したい。せっかくの稼ぎ時なのに金が稼げなければ生活費が尽きる。
 しかしそれを妹たちに言っても「それなら私たちがお金出すわよ!」と言われるのがオチなので、仕方なく落ち着かないなぁこんなとこにいていいのかなここに来てから使った金で何ヶ月生活できるかな、とか考えながら妹たちと一緒に遊んでいるわけなのだ。
 正直こっそり抜け出して日本に帰ろうかと思う時もないではない。だが兄は一人で飛行機に乗る金などないし、それに―――
「兄上様、わたくし、ご一緒に読んでいただきたいご本があるのです……読んで、いただけませんか?」
「アニキ! さっき完成したアタシの新作発明、自律飛行ユニット『とびとびくん』の実験台になってよ! これ着けてくれるだけでいいの!」
「兄チャマ、四葉兄チャマをもうスッゴクスッゴクチェキしちゃったデスよ? 見てデス、こーんなとこまでチェキしちゃったデス!」
「兄くん……少し疲れているようだね。マンドラゴラの根をすり潰して作った薬だ、飲むといい。……少なくとも死にはしないはずだよ」
 妹たちがあんまり嬉しそうな顔をしているから。幸せで幸せでしょうがないって顔をしているから。
 世界で一番愛してるこの妹たちのために、あともうちょっと、そばにいてやりたいな、と思う兄だった。

 などと殊勝なことを思っていられたのも少しの間で、二週間経っても一向に満足する様子のない妹たちを兄は怒ったりなだめたりすかしたり、と必死の説得を行うことになるのだが、それはまぁいつものことである。

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